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一晩寝たら海に誘われた件 #2

 プルルルル、プルルルル…


 と、亮平の携帯電話が鳴る。時間は朝の六時。亮平は二日連続電話の音で目を覚ました。


 手探りでスマートフォンを探す。スマートフォンを手にすると、通話ボタンを押した。


 「も…もひ、会原でふ」


 なんとか出た声は完全に寝ぼけていた。


 「あ、もしもし亮平くん、おはよー!」


 対して電話の主は元気いっぱいだ。その元気は何処から来るのだろうか。


 亮平はその言葉にすぐに目が覚めた。二日連続電話の着信音に叩き起こされて、少し苛立っていた。


 「おい、若葉、今何時だと思ってるんだ?今すぐに俺の和デートin水族館を返せ」


 「夢の中でデートしてるの?しかも水族館なんだ」


 「別に俺がどんな夢見たっていいだろ」


 「じゃあ、和ちゃんとか誘って何処か出掛けようよ」


 「何処かに出掛ける?確かに賛成ではあるけど、昨日海行ってみんな疲れてるんじゃないか?」


 「亮平くん、昨日海行ったの?」


 「行ったじゃないか。その疲れは、寝て消えてしまったかもしれないけど、行った記憶はあるぞ」


 「えっと、昨日私部活だったんだけど」


 「そうそう、若葉は部活で、、、はい?」


 「それに、今から海行こうって誘おうとしたところなんだけど」


 「はい!?」


 若葉はテニス部に所属している。つまり今日はたまたま部活が休みで皆で海に行こうと誘っているわけである。しかし、亮平はがっつり昨日海に行った記憶が残っている。


 亮平の頭は既に混乱していた。だから、こう聞くのが精一杯だった。

 

 「ちょっと待て、じゃあ、今日は何月何日だ?」


 「なにいきなり慌てちゃって。7月21日でしょ」


 「ッ!」


 なんと前日の日付を言われたではないか!すぐに亮平はデジタル時計を見る。表示はこう書いてあった。


7月21日6時07分


 「悪い、なんか変なこと言っちゃって」


 と、亮平は事態がわからないまま若葉に謝罪した。


 「大丈夫大丈夫。きっと寝ぼけてたんだよ。正夢ってあるじゃん?たぶんそれじゃないの」


 と、若葉は明るく返す。許してくれたようだ。


 「だとしたらこれからお前が言うことを予想してみようか?」


 「どうぞ~(*´∀`)♪」


 「『じゃあ、8時に高校の近くの駅前に集合ね!』だろ?」

 すると若葉は驚いた様子で、


 「すごい、やっぱり正夢ってあるんだぁ」


 亮平はもしかして昨日のは正夢ではないかと思わせしまう流れに困惑した。亮平の見ていた夢には、確かに海と水族館でのデートだった。それ以外にもレム睡眠の時に海に行ったという夢を見てしまったのかもしれない。


 亮平は正夢を見てしまった、そう結論付けた。そして、そうであって欲しいとも思った。


 「そんなところでさ、ちょっくらお願いがあるんだけど」


 「ん、どした?」


 「まこを海につれていきたいんだけどさ、もし岡島にこれから電話かけるときにさ伝言を伝えてほしい『小さい水着があったら持ってきてくれ』って」


 「まこちゃん水着持ってなかったんだ…」


 「若葉がいきなり言ってきたから準備が出来なかったんだけどな」


 「そ、それは…ごめん」


 と、今度は若葉が謝罪した。


 「いやいや、俺もこういうことを想定してなかったからな、一応伝言を頼むぞ!」


 「オッケー!じゃね!」


 と、最後は無理矢理にでもテンションをあげた若葉は電話を切った。おそらく次々に電話を掛けているんだろうなと亮平は思った。


 すぐにまこのところに行くと凄まじいほどの大声で叫んだ。


 「海に行きたい奴は起きろー!」


 するとまこは跳ね起きると、


 「行きたい!おはよう!お兄ちゃん!」


 とこれまた近所に響きそうな大声を叫んだ。


 「よし、起きたな。海にいくから急いで準備していくぞ!」


 「押忍!」


 と、二人は朝なのにテンション百パーセントの元気な声で叫んだ。実際、まこの水着はなかった。



 亮平とまこが高校の駅前に着いたのは8時少し前だった。既に亮平に電話を掛けてきた若葉こと向日葵若葉(ひまわりわかば)と和こと野中和(のなかなごみ)、そして岡島(おかじま)正志(ただし)沖根(おきね)(まもる)もいる。


 若葉が白のワンピースを着ていて既にサンダルも履いていて白色のキャペリンを被っているところや和が水色のTシャツに白色のショートパンツを履いているところも亮平が海に行った記憶と同じだった。


 「ヤッホー!亮平くん!」「ヤッホー!亮くん!」


 と和が挨拶する。一語一句一回目と変わらない、そんな挨拶だった。亮平は本当に正夢を見てしまったのかと完全に思うようになっていた。


 「おはよう、若葉、和、あと岡島と沖根も」「おはようございます!」


 「うっす、亮」「おはよう、あいあいにまこちゃん」


 と、正志と守が笑顔で挨拶を返した。正志は相変わらず燃えるようなオーラを解き放っており、守は微笑を浮かべている。


 「やっと来たよ~。まあ、時間通りなんだけどね」


 「みんな、海に行くのが楽しみなんだな」


 「そりゃそうでしょ。まあ、一番楽しみにしてるのは、誘ってくれた若葉ちゃんだけどね」


 「いやいや~、そんなことは、あるかもしれないけど!」


 亮平は海に行った記憶があるのですごく海に行きたいわけではないのだが、和や若葉達と出掛けれることに楽しさを感じていた。


 「私も海に行きたい気持ちは負けませんよ!」


 そう言うのはまこだ。確かに、まこの目は輝いていて、早く海に入りたいという念が伝わってきた。


 「へぇ~。それはまたどうして?」


 「そりゃ10年ぶり海に行くんだもの。ようやく青色の海を見ることができるのよ。ここまでの辛抱は誰にも負けないわ!」


 「やっぱり、幼女の口から『10年ぶり』とか聞くと混乱するわ!」


 みんながそのツッコミに笑った。通行人が何事かと亮平達の方に目が向いた。


 ひとしきり笑ったあと、コホンと若葉が咳払いした。そして、みんなの笑いが大体落ち着いてきた。亮平達に注目の視線が集まることもなくなった。


 若葉が一歩前に出た。まばゆい笑顔を見せた。


 「今日はみんな急だけど来てくれてありがとう!それじゃあ行こー!」


 「「「「「「オー!」」」」」」


 と、全員が元気に声をあげた。そしてまた周りの視線を集めることになった。



 それから一回目同様駅に向かい、青色のラインが通った車両に乗った。電車は住宅街を高速で通過している。


 若葉と和、まこは青色の椅子に座り、亮平と正志、守は立ったまま吊革に掴まっている。


 「ねえねえ、お兄ちゃん」


 「なんだ?」


 「私今日10年ぶりに電車乗ったよ」


 「そ、そうか」


 いかんせん亮平は昨日に海に行った記憶があるのでこの言葉にはとても違和感を覚える。本当に正夢だったのだろうか。亮平はこれ以上考えるのをやめた。


 「そういえばなんだけどさ。鉄道ってすごいよね」


 「沖根も暇なのか?」


 「まあ、確かに暇なんだけどね。でも、実際そうじゃない?人類にとって鉄道は発展の一筋だと思うんだよ」


 「まあ、移動は便利になったよな」


 隣で若葉があくびをかく。よほど楽しみにしていたのだろうか。目尻に涙が一筋流れた。


 電車は鉄橋を渡った。海が近づいていた。



 一回の乗り換えを経て、海の最寄り駅に着いた。一回、海岸沿いを並走したときには、「「おー!海だ!」」と、若葉と和が、「ねぇ!お兄ちゃん!海が見えるよ!」と海に興奮したまこがキラキラの笑顔でそう言った。亮平も、


 「そうだな!電車からの海はやっぱりすげーな」


 と、まこのようにはしゃぎながら言った。


 再び住宅街に入ること数分、一時間の電車の旅が終了した。そして、海の方に向かって歩いた。


 若葉と和はまだ車窓からの景色に興奮しているらしく二人で和気あいあいに話していた、ここまでの一連の流れもまた一回目となにも変わっていなかった。


 数分後、亮平達は海水浴場に到着した。向こうに見える離島をバックに海がきれいに輝いている。海水浴場は人で溢れており、海で泳いだり、砂遊びしていたりしていた。


 「お兄ちゃん、見てみて!!!海だよ!海!」


 まこの目は今日一番の輝きを見せていて、おおはしゃぎしている。はて、あのときはまこはここまではしゃいでいただろうか。いや、亮平自身そこまでのことは思い出せなかった。


 「海だな」


 「早く遊ぼうよ~!!」


 まこは早く海で遊びたいらしい。10年ぶりの海を心の底から楽しんでいるのだ。


 「じゃあ、早速更衣室で水着に着替えようぜ」


 「じゃあ、海の家の入り口のところで待ち合わせでいい?」


 「了解」


 「覗くんじゃないわよ」


 「覗かねーよ」


 お決まりのツッコミを言い放って、亮平と正志は男子更衣室へと足を向けた。



 男子更衣室で水着に着替えた亮平と正志は海の家で女性組を待っていた。


 「サンキューな、妹さんの水着借りちゃって」


 「良いってことよ。困ったときはお互い様だろ」


 「岡島。お前良い奴だな」


 「よせよ、照れるじゃねーか」


 本当に正志は照れた。可愛い奴だなと思った。



 数分ぐらい待っただろうか。ようやく向こうの方から若葉の声が聞こえた。


 「お待たせー!」


 「お待たせられました~」


 と、亮平は四人の女子の水着姿を見た瞬間、半ばみとれた。亮平の記憶と全く同じ水着ではあるものの、この水着姿は何回見てもみとれるものである。


 「なにじろじろ見てんだよ、男子たち」


 「いやー、、一度に四人の水着姿を見れるのは我々男子にとってご褒美以外考えられないからな、なっ?岡島?」


 「???(?_?)」


 「亮平くん」


 「はい」


 「変態」


 俺の記憶と展開違すぎ!と亮平は内心焦ったが、前回の教訓に基づいてこう続けた。


 「こ、これはだな、全員水着似合ってます、ていう意味だよ」


 すると女子四人は面食らったような顔を一瞬し、若葉、和、守は顔が紅く染まった。まこはというと、


 「でしょ、でしょ!お兄ちゃんは見る目がありますなぁ」


 と、どや顔で言っていた。


 「若葉ちゃん、あの時水着一緒に買いに行ってくれてありがと」


 「良いってことよ。にしても気を付けなさいよ~。海辺にはよくナンパ野郎が現れるんだから。和ちゃんや守ちゃんは水着似合ってて、可愛いんだからさ」


 「それを言うのなら若葉ちゃんだってそうだよ。若葉ちゃんだって可愛いよ!」


 「いやいや、和ちゃんや守ちゃんの水着姿には何人かの男を惹き付ける力があるんだから」


 「それは若葉ちゃんもでしょ」


 「安心しろ。ナンパ野郎は俺と岡島がなんとかしてやる。だからお互いの可愛さを誉め合う選手権は止めたまえ。まこが早く海で遊びたがってる」


 「はーやーくー、海行こうよー」


 「ごめんごめん。話に集中しちゃって」


 「それに、みんな可愛いよ。そして、似合ってる。さっきも言ったろ」


 「そ、そうか~」


 また女子達は照れる。そして、また互いを誉め合っている。とてもじゃないが収拾がつかない。だから、


 「じゃあいっちょ海いきますか!」


 と、亮平が大声を上げた。みんなは亮平の声に便乗して、


 「「「「「「オー!!!」」」」」」


 と、全員が大声で叫んだところで彼らの青春を刻む二回目の海が幕を開けたのであった。余談だが周りの人々の視線が大声を上げた亮平達に釘付けになっていたことは言うまでもない。



 海で水をかけあったり、足がギリギリつかないところまで泳いでみたり、守は浮き輪に乗って、浮かんでいた。


 「そういえば、守ちゃんって、さっきから浮き輪で浮かんでいるけどさ、泳げるの?」


 「泳げるよ」


 「なぁーんだ。浮かんでるだけか」


 「泳げなくて、一緒に練習するみたいなイベントはたぶんこのメンバーじゃ起きないんじゃないかな」


 「べ、別に期待してないし」


 ふて腐れた若葉の可愛さを独り占めできた。微笑を浮かべ、「かわいいな」と若葉に聞こえないくらいの小声で呟いた。そして、すぐに和の声が聞こえた。

 


 「さあ、召し上がれ!」


 浜辺に敷かれたレジャーシートの上にはバスケットが置いてあり、そこにはタマゴサンドやハムサンドなど様々なサンドウィッチが入っていた。


 亮平、和、正志はタマゴサンドを、まこ、若葉、守はハムサンドを食べた。


 「「うまっ!」」「美味しいねぇ」「う、うまっ!」「お、美味しいです、若葉さん」


 亮平達の舌鼓を打てたことに若葉は照れた表情を見せた。そして、笑顔でみんなの方を見た。


 「みんな、ありがとね!さあ、どんどん食べちゃって!!!」



 「ビーチバレーをする人この指とーまれ!」


 「ほい!」「「「はーい!」」」「やるやる~」


 砂浜にバレーボールの線を引く。借りてきたビーチバレーの簡易道具を設置すれば、そこはもうビーチバレーボール場である。


 チーム分けの結果、亮平、和、まこチーム(以下『亮平チーム』)と、若葉、正志、守チーム(以下『若葉チーム』)に分かれた。つまり、亮平の記憶と全く同じだ。


 サーブじゃんけんでは、亮平はグー、若葉はパーと、出す手は違えど亮平はまた負けた。


 「よっしゃ、始めるぜ!リア充チームに鉄槌を下してやるぜ!喰らえ!若葉スペシャルサーーーブ!」


 若葉は砂浜をジャンプして、サーブを打った。誰もが思うきれいなフォーム。回転がかかり、高速でそのボールが亮平達の方へ放たれた。そして、見事ボールはコートギリギリに着陸した。ボールは明後日の方向に飛ぶことはなかった。


 「よっしゃあ!先制したぜ!」


 「くっ、だが、まだ一点だ。逆転するぞー!」


 「「お~!」」


 しかし、『若葉スペシャルサーーーーブ』が炸裂し、一気に点数は広がってしまう。気付けば、7-25で若葉チームが勝っていた。


 「くっそー、強すぎなんだよ…」


 「ふっふ~。今日は気分が良いなぁ」


 「でも、私は楽しかったよ」


 「お兄ちゃん、凄かったよ!」


 「和。まこ。俺も楽しかったよ~!」


 三人の仲はよりいっそう深まった。若葉そっちのけで話に盛り上がった。


 「ったく、私のことは無視かよ」


 「若葉ちゃん、お疲れ。今、岡島君がみんなの分のかき氷買ってきてるから、一緒に食べよ」


 「う、うん」


 そして、若葉は亮平達の方をまた見る。その目には寂しさの色が浮かんでいた。



 かき氷を食べて、また海に入った。亮平が浮き輪を独占しようとして、若葉に奪われて、和と守はその様子を見て笑っていた。正志が乱入し、最終的には浮き輪の争奪戦へと発展した。結果は若葉の圧勝だった。


 そして気付けば夕方になっていた。


 「そろそろ帰る準備しようか」


 「そうだな!さすがに俺は疲れたわ」「俺も俺も」「私ももうくたくたかな」


 その後すぐに全員が更衣室で着替え、和が荷物をまとめると海水浴場をあとにした。若葉がどことなく寂しげな表情を見せた。亮平はその表情に気づいたが別に気に咎めなかった。



 その後電車に乗って亮平とまこは帰宅した。若葉達とは乗り換えで別れた。


 自宅の最寄り駅までの電車の中で、亮平とまこは海の話で盛り上がっていた。


 「どうだったか?まこ。海は楽しかったろ?」


 「うん、めちゃ楽しかったよ!」


 「そうか、じゃ、またいつかまた行こうな」


 「うん!」


 まこは笑顔を見せながら大きく頷いた。


 そろそろ、亮平の最寄り駅だ。亮平とまこは降りる準備をした。幸い電車は空いていて降りやすい。


 亮平とまこの会話は家の玄関に入るまで、ずっと海での思い出話をした。水着や海ではしゃいだことやビーチバレーと、次々に話題が飛び交った。


 よほど疲れていたのだろう。家に帰り、夕食とお風呂を済ませたすぐ後に、まこはソファーで寝落ちしてしまっていた。亮平はお姫様抱っこでまこを部屋まで運び、布団の上に横たわらせた。まこの寝顔は笑顔が浮かんでいた。


 そして、亮平も食器と水着を洗って、洗濯物を干したら、すぐにベッドの上に倒れこみ、そのまま寝入ってしまった。



 そんなこんなで二回目の7月21日が幕を閉じた。

次回予告

若葉「ども、第六章次回予告担当の向日葵若葉と!」


和 「野中和だよー」


若葉「今回は海編だぁ!」


和 「そうだねぇー、夏といえば海だもんね~。私はとても楽しかったなぁ。車窓からの海はすごくきれいだった」


若葉「確かに海きれいだったよねぇ~。海がキラキラしてて特に車窓から見える景色は絶景!」


和 「海トークは一旦ここまでにしておいて、そろそろ次回予告いいかな?」


若葉「どうせ皆様も次回が何かお察しでしょ」


和 「そんなこと言わないの。次回『一晩寝たら海に誘われた件 その3』お楽しみに!」


若葉「#3なんだけど」

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