一晩寝る前に靴箱にラブレターが入っていた件 後編
「おまたせ、会原君」
後ろから声を掛けられた。そっちから来たか。しかも視線を一切感じなかった。気配も感じなかった。だから、すこし驚いてしまった。
俺は、ゆっくり体を声の主に向け、言う。
「そんなに待ってはないさ、野中和」
野中和。同じクラスの女子であり、学年模試本学校生徒ランキング一位の成績優秀者。背丈は大体150㎝くらいか。風が少し吹いていて、灰色がかったショートヘアーが少しなびいている。そういえば、若葉との決闘の宣戦布告の際に唯一本を読んでいた女子だったな。あまり、クラスでは目立たない、というか、昼休みの時間にも一人で弁当食べてたり、本を読んでいた人だ。だから、少し意外だった。
一歩一歩、和が近づいてくる。ほんのりと不気味な笑みを浮かべながら。
「へえ~、意外って顔をしているねぇ~。まあ、そりゃそうだよね。普通思わないもん。クラスで静かにしてそうなやつが、まさかこんな手紙送りつけるなんて、ね」
「で、こんな『果たし状』を送り付けておいて、なんの勝負をするつもりだ」
「勝負?ああ、勝負ね。いやいや、勝負って何を言ってるんですか?」
「何って、うわっ!」
遂にお互いの体がくっつきそうになる瞬間、急に胸倉を掴まれた。急な出来事で驚いたが、まさか、本当に喧嘩タイマンなのか?
「いやいや、勝負って言っても会原君は勝負に敗北してるじゃん」
「は?」
意地悪そうにニンマリと笑顔を浮かべ、けれど目だけ藍色の炎を揺らしながら、ほんのりと顔を赤らめて言う。
「だって、今から、会原亮平は私に告白されるのだから」
急に突き放される。衝撃で俺は尻餅を打った。しかし、頭はすでに混乱してきた。ほとんど話したことない少女から急に声をかけられたと思うと胸ぐらを掴まれ、挙句には告白すると言い出したのだから、この意味不明な一連を理解するには到底不可能だった。
「あはは〜、こんだけ驚いちゃって〜。しかも、顔を赤くしてるなんて、かわいい、ウケるw」
俺は、既に顔を赤くしていたらしい。しかし、俺は目の前にいる、いつも無口そうにしている少女の新しい一面に意識釘付けだった。
「まー、仕方ないか〜。朝からラブレター貰って、放課後までウズウズしながら待っててくれたんだもんね。私的には若葉ちゃんに見つかって、ラブレターの一件がクラス中に知れ渡り、挙げ句に会原君がラブレターを果たし状と言い張るのは想定外だったな。私その時自我を抑えるために小説読んでたんだけど、これでもギリギリ耐えたんだぜ」
「……………」
「さて、面白い反応も見れたことだし、本題に入ろうか」
「……本題?」
かろうじて声を絞り出すようにして発する。これが、俺に唯一できることだった。
「そう。本題」
一瞬だけ和は目を瞑る。そして、腹を括ったのか大きく目を開けて、言った。
「私は会原亮平君のことが好きです」
「……………」
告白されるのはわかっていた。なんだったら今日の朝、ラブレターを受け取った瞬間からわかっていたはずだった。はずだったのに、吐きそうになるほど緊張した。
「私はこの一ヶ月の間に、貴方のことが好きになってしまった。そう、いつも貴方のことで頭がいっぱいだよ。もちろん、今もね」
「……………」
「好きかもしれないと思った日から、貴方のことを色々調べてた。もしかしたら、そうではないかもしれない、あるいは、好きでも付き合うのはよくない相手なのかもしれない、と」
「……………」
「ですが、はっきり言わせて。私は、貴方と、会原亮平君と付き合いたいのだと!」
意地悪な笑みは次第に消え、真剣な顔で、けれどより顔を赤くして、まるでこの学校にいる全員に伝わるくらいの大きな想いを声にのせた。お互いにお互いの心拍数が聞こえるくらいドキドキしていた。
ゆっくりと、俺は立ち上がる。上にあった和の目線が下になる。急に、上目遣いの和を目を見てしまい、ドキドキが止まらない。俺は、声を捻り出すように、答える。
「………そうか、そうなのか。うん、とっても嬉しい」
「ああでも、ほとんど話したことのない人から急に告白されて頭混乱してるよね?だからさ、返事は来週までに聞かせてよ」
「…いや、その必要はない」
「…えっ?」
確かに、頭は完全に真っ白だ。状況を整理するのに数日間は要するだろう。
しかし、どうだろう。目の前には、上目遣いのかわいい少女の姿が映っている。そして、また余裕の笑みを浮かべた顔、まるで勝負に勝てることをわかっているような、シュミレーション通りに何もかも進んでいるのを感じる。
そんな少女から告白されて、今返事をしないのは、今後絶対に後悔する、そう思った。
「俺も、野中和のことが好きだ!今、惚れた!今更、やっぱり無理ですなんで言わせないぜ」
「ふにゃ…!こ、これは予想外。そうくるとは思わなかったな。てっきりこのままだんまりを決めるのかと思ったけど、やっぱり会原君は会原君だな」
少し動揺して見せる和。告白した瞬間以上に顔が赤くなり、可愛い反応を見せた。これ以上赤くなることはあるのだろうかと疑うくらい赤い。
そして、俺も告白して、心臓吐きそう…。
「わ、私のことが好きだと、言ったな?その言葉に、嘘はないね?」
そしてまた、真剣な目になり、眼光がキラリと光る。表情がコロコロ変わるのもまたかわいいと思う。
だが、俺は一瞬唾を飲む。この言葉次第で、全てが決まる。ただ、俺に迷いなどなかった。
「嘘なんてつくものか。好きにさせた責任は取ってもらうぞ」
和はまた一度目を瞑り、そして開く。そこには、幸福という名の星々がキラキラと輝いていた。
「望むところだ」
こうして、俺会原亮平と野中和は無事付き合うことが決まった。決まったのだが、
「じゃあ、恋人同士になったことだし、帰ろ!」
「ああ、ただその前にやることがあるんだけど、いいかな?」
「あー、うん。いいよ、私も付き合うよ」
「オッケー」
今俺たちがいるのは校舎裏。校舎裏とはいっても、本校舎と学校の塀、植物が並んでいる。そのひとつ、数メートル先にあるツツジと校舎の柱部分めがけて、叫んだ。
「そこに隠れてる奴ら、全員出てこい!」
「ちぇ、バレてたのかよっ!」
あはは〜と笑いながらツツジの裏から出てきたのは、今回ラブレター騒動を起こした張本人こと向日葵若葉である。緑色の草と若葉の緑髪が同化して見えづらくなっていた。そして、
「ヒュー、ヒュー、初々しいカップルの誕生だぜ!」
部活動をサボってきたのだろう、校舎の柱の後ろから木村が出てきた。早速煽ってくるところが大変腹立たしい。
「うるさい。ていうか、最初からいたのか?」
「あったりまえだろ。てか、かっこよかったぜ亮平。「責任とれよ」だってさー、あはは〜、ってイタッ!」
あまりに煽られたので、エルボーをかました。「なにすんだよー!」と怒鳴られたが無視。
「ていうかー、私的には物静かな和ちゃんが送り主とは思わなかったよー。誰かなって考えてたんだけど、まさか和ちゃんだったとは。それに、あんなに明るい性格だったんだね、ビックリだよー」
「まあ、あんまり人と話すのは得意ではないけどねー。だけど、ツツジからの視線もあって緊張しちゃったよ」
「ありゃ、和ちゃんにもバレちゃってたかー」
あはは〜、と元気に笑う。さすがクラスの人気者。盛り上げるのは十八番のようだ。
そして、緑の髪を靡かせながら俺の方を見て、意地悪そうな笑みを浮かべた。
「それで、会原君」
「なんだ?」
「約束は守ってね」
「ああ、もちろん守ってやる」
俺は、今日の朝ジュース一本をかけて勝負をした。そして、和に告白されることにより文字通り敗北した。だが、
「そうそう、会原君は若葉ちゃんに『フレンタ』を奢らなければならない。だけど、若葉ちゃん」
「「大事にした落とし前、きっちりつけやがれ!」」
「えっ、え〜!!!!!」
* * *
こうして人生初告白シーンは幕を閉じた。この後俺は若葉にフレンタを奢ったのだが、反対に若葉もジュース一本ずつ俺と和に、ついでに木村も俺と若葉と和にジュースを奢る羽目になった。
「なんで俺はお前らよりも多い三本も奢らにゃいかんのだぁ!」
と、キレ気味のツッコミをぶちかましていたところは、非常に爽快だった。あれだけ煽られたんだもん、これくらいは許してくれるさ。
そして、俺と和とのカップル生活が幕をあけてから、大体二週間が経った。2週間経てば、デートとかさまざまなイベントを踏むわけだが、思い返せばそんなによくいうリア充みたいなイチャイチャをしていない気がする。
こんな俺でも大丈夫なのだろうか、と少し心配になってくる。まさか、いきなり告白しておいて、いきなりフラれることはないだろうか。
「何ボォーとしてるの?亮平ちゃん」
「和が俺に告白してきたことを思い出してた」
「へ、へぇ〜。てか、亮平ちゃんってば私のことしか考えてないんだぁ〜」
「当たり前だろ。俺はお前の彼氏なんだがら」
少し顔を赤く染める和。そして、あの時の意地悪な顔を浮かべて、言う。
「そうそう、亮平ちゃんは私の彼氏なんだから。俺が彼氏で大丈夫か、なんて心配すんなよ」
どうやら杞憂のようだった。そして、見透かされていたようだった。だから、元気に「おう!」と返した。心配させる素振りを見せたら見損なったと言われかねない。
俺の姿を見て、和は笑顔になる。この笑顔を独り占めできるなんて、俺は幸せ者だ。
そして、俺よりもすこし高めにある和の目線が上下する。ジロジロ俺の全身を見ながら、言う。
「にしても、何度見ても違和感でしかない。何故、亮平ちゃんは愛くるしい女の子の姿になっちゃったんだろうね」
「知るか、知ってそうな人にでも聞いてくれ」
「知ってそうな人ねぇ。是非聞いてみたいところだ。去勢手術を受けずに男子を女子にする方法をね」
そう、今の俺の姿は150㎝位の和よりもちっちゃく、黒髪ロングで、華奢な体つきで、しかし胸はCカップという整った体つきの少女である。
「まるで亮平ちゃんは彼氏じゃなくて彼女みたいだ。まさに百合カップル成立ってところだね」
「百合カップル、か。本当は違うけどな」
「まあ、見た目が女の子なら百合に見えるさ。さて、どうする?ここで抱き合うくらいはしていいんじゃないかな?姫男子や姫女子の皆様方には需要があると思うんだけど」
「えっ、抱き合うって、、うわっ!」
和はいきなり俺の体に抱いてきた。今は和の方が体が大きいから振り解くことはできない。俺はなるがままに抱擁した。
「ふふ、いい匂い」
「は、恥ずかしいな。まあ、和もいい匂いかな。癒される」
「ふふ、これクセになりそうだな」
今日は放課後の時間、誰もいない教室で和と抱擁した。とても幸せな時間だ。しかし、根本的に今の現状が変わることはない。会原亮平が男から女の姿になったことは。
そして、俺は思う。
どうしてこうなっちゃったんだろう、と。
次回予告劇場
若葉「ども!向日葵笑顔をみんなに送るでお馴染み、向日葵若葉と」
和 「野中和です」
若葉「今回は序章スペシャルということで、この二人でお送りします。ちなみに、第一章からは前に投稿された『次回予告』の時や新作『次回予告』の時と2パターンでいきます!」
和 「なお、本『次回予告』は新作『次回予告』です」
若葉「さて、前置きはさておき、次回遂に本編が始まるよ!」
和 「本編ねぇ〜。一つ言えることとしたら、改稿前と改稿後でめっちゃ変わってるんだよね。いや、変わっているというよりかは未公開シーンが追加された感覚に近いかもしれないかな」
若葉「けっこう変わったよねぇ〜。序章ですら変わったもん」
和 「変わってないものもあるけどね、ね?」
若葉「ご、ごめんってばぁ〜」
和 「まあ、多分読者の皆様には楽しめる内容になってると思う」
若葉「私も、第一章は楽しかったよ〜」
和 「うん、私も。あと、貴重な体験だった」
若葉「さて、そろそろ締めますか。尺がもういい感じだからね」
和 「うん。さっきも言ったけど第一章が次回から始まります。会原亮平は何故女の子の姿になったのか、どんなドラマが待っているのか、読者の皆様方も是非私たちと一緒に体験しましょう。次回、第一章第一話『一晩寝たら女体化していた件』」
二人「「それでは、第一章でお会いしましょう!ではまた!」」