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対面

ガチャンと鍵が開く音がして、足元が開かれた。

目を閉じていても光が差し込んできたのがわかる。

流れ込んできた新鮮な空気は、少し肌寒いくらいだ。

どうやら、外の気候はジュラ紀の森とは大きく違うようだ。


景色はどんな感じなのだろうか?ジュラ紀とは違うのかな?

そんな疑問を振り払って寝たふりを続ける。

起きてるのが見つかったら碌な目に合いそうも無い。


ふっと暗くなるが、また直ぐ明るくなる。

どうやら中を確認している人が居るようだ。

不意に枝のようなもので足を叩かれた。

思わず声が出そうになるが、緊張してたお陰か、一瞬強張るだけですんだ。

なんとか反応せずに乗り切れた・・・


気づかれないように、ほっとした気分をゆっくり呼吸にのせて吐いていると声が聞こえた。


「旦那!だれも起きてやせんぜ?」


日本語ーー!?

え!?異世界来てそのパターンなの!?

そんな事あるの!?


大混乱の僕を余所に、野太い声が続く。


「バカヤロウ!寝たふりしてんだろうが!」

「バッチ!あいつはどこに入れた?」

「へい。1番下の左から2番目です。」

「カシー!準備はできているな?トチんなよ!?」

「は、はい!大丈夫です!」

「トンマ!わかったらそいつをさっさと引きずりだせ!」

「わかりやした!」


聞こえた瞬間、足首を思いっきり引っ張られた。

え!?このパターンはどうしたらいいの!?

戸惑っている内に腰の辺りまで外に引きずり出される。

次は肩の辺りを捕まれて、そのままグイッと外へ引きずり出された。

出されたところでパッと手が離される。


え!?落ちる!?

焦ったのと同時に、時間がゆっくりに感じた。

記憶復元とちがって、感覚圧縮は出来る子!

手かせが邪魔で手をついて体を支えれることはできない。

ならばとタイミングを合わせて体を動かす。

上半身を起こして足を曲げ、地面に上手く着地する。

反動を逃がすために、スクッと立ち上がる。


うおー!すげぇ!

今の、体操選手みたいな動きじゃなかった!?

元の世界じゃ絶対できなかったであろう動きに感動する。

浮かれそうな気分を何とか押しとめて、周囲の様子を確認する。


やはり、山道に居るようだ。

見える木々は常識的な見た目で、イメージとしてはカナダの森っぽい。

日本の森とは違って見える。

山肌に沿って作られてたであろう未舗装路は、右手は急斜面で左手は鬱蒼とした森だ。

少し先には、先ほど越えたであろう倒木が見えた。

雨が降って崩れたのだろうか?

倒木の周囲には水が流れていて小さな川のようになっている。


しかし、外に出て分かった。僕の視界は完全におかしくなっている。

尋常じゃなく視える。視力もそうだけど、それ以上に空間把握が凄い。

周囲が全て見えている気がする。周囲の人の一挙手一投足が分かる。

・・・荷台の後ろの人まで視えるのはどうなってるの?

これでバスケットボールやったら奇跡の世代になれるな!?

って寝てる間に一体どんなスキルを得たんだよ!?


一先ず、そんな視界を有効利用して人と配置を確認する。

前方に9人、僕を引きずりだした後に荷台の影に隠れたのが1人。

ほとんどの人が服の上に皮鎧を着けて、両刃の直剣を抜いている。

冒険者か山賊かって出で立ちだ。

こ、こんな状況じゃなかったら、人と出会えた事と、ファンタジーな装いにテンション上がっただろうに・・・

それにしても、抜き身の刃を突きつけられる初めての経験なのに、恐怖感が薄い。

恐怖耐性のお陰だろうか?・・・もう僕はこの世界に染められてしまったようだ。

でも、あれで斬られたらイチコロなのは分かる。

た、戦いだけは避けよう。


5人は扇状に囲んでいて、その左右の後方に2人ずついる。

右後ろの2人は斜面から飛び出た大きな岩の上で弓矢を持っている。

弓に矢を番えているが、弦はひかれていない。しかし、直ぐに放てそうだ。

左後ろの1人は他と同じ装いだ。ただ、細身の体は争いごとに向いていそうに無い。

もう1人は神父だろうか?クリーム色の服の上から、同じくクリーム色の赤で縁取りされた貫頭衣を着て、腰で帯止めにしている。首から掛けたロザリオは、十字架ではなく上矢印みたいな形だ。

そして前に居る5人だ。

目立つのは2人。真ん中に立つ大男と、その隣に立つ少年だ。

大男はボサボサの髪にひげ面で眼帯を付けたその様は、山の中にいても海賊のようだ。

金属製の胸当てを着けていても分かるほど分厚い胸板。

腕の太さに合わせて余裕を持たせたであろう服の袖は、僕のウェストくらい有るかもしれない。

手には、分厚く幅広のカットラスに似た剣が握られている。

少年は、深緑のローブを着ている。見たところ中学生くらいに見える。

首に掛けたネックレスのトップに、石が付いている。

手かせに付いているもの色合いが同じだ。

手には、枯れ木のような杖が握られていた。


完全包囲だ・・・逃げられる気がしない。

に、人間あれだよな!コミュニケーションだよな!まずは挨拶からだ!


「こ、こんにちわ!」


ジロリと睨まれる。そして挨拶の返答ではない声が返ってきた。


「怪我が治ってやがる・・・カシー!」

「はい!」


大男の指示で、少年がこちらに杖を向けてきた。

魔法か?魔法が飛んでくるのか!?

挨拶には火球で返事とかは勘弁してほしい!

せめて避けれるようにと身構える。

すると、目の前に薄くて淡い緑色のもやが出た。

「うわ!?何だこれ!?」

顔を逸らすが、一緒についてきて離れない。

手で振り払おうとしても、すり抜けるだけだ。

何をされているの分からず涙目になっていると、声が飛んだ。


「ジョシュ!てめぇ、加護は欠片だったんじゃねぇのかよ!?弾いてんじゃねーか!」

「た、確かに加護は欠片の反応だった!欠片でそこまでとなると、10柱か、もしかしたら4席かもしれない!」


大男の問いに、僧侶が答えた。


「ほぉ。そりゃすげぇ。余計に逃がせねぇな。カシー!越えられるか?」

「さ、3分もらえれば確実に!」

「1分だ!お前ならできる!」


瞬間、雰囲気が変わった。

少年がペンダントの石を握りながらブツブツと何か唱える。

周囲からは殺意とも敵意ともつかない視線が送られてくる。

じりじりとにじり寄ってくるが、飛び掛かってはこない。

これ以上何か有るの!?と思うのと同時に、もやが消えているのに気がついた。

どうしよう?何をされるかわからないし、これは逃げたほうが良いのか?

加護ってアレだよな?蛇の威嚇音みたいな、辛うじて"シャーシュ"って聞こえるような<加護の片鱗>ってやつ。なんの効果があるの?詳細プリーズ!!もしかして視界もその所為か!?

飛び飛びになる思考をまとめようとあくせくしていると、荷台の後ろの1人がこちらに寄って来ているのが視えた。

前の4人の視線をみると、どうやら後ろから取り押さえる算段のようだ。


どうする?大人しく捕まるのが正解なのか?

こんな場面でどうしたら・・・と、手かせが目に入った。

パッと、映画で見たシーンが蘇る。

スーパーエージェントたちが、手錠で敵の首を絞めるシーンだ。

こ、これはやるしかないのか・・・?

人質を取れば、もう少しまともな会話が出来るかもしれない。

しかも、この人たちは僕が視えているのに気がついていなさそうだ。

こ、これはやるしかない!


決意した直後に、後ろの男が飛び掛ってきた。

広くなった視界と、感覚圧縮の両方を駆使して、身を翻す。

腕を輪のようにして、男の首を手かせで締め上げる。




出来た!と思った瞬間だった。

トスッと左のわき腹に衝撃を感じた。

見ると、矢が刺さっている。

矢は、森の中から飛んできた。

呆気に取られる。


その瞬間力が抜けたのか、

腕から抜け出した男に突き飛ばされる。

倒れる視界で、岩の上にいた2人は矢を番えたままなのが見えた。


「そんな・・・伏兵?」


地に倒れた僕に、少年が視線を向ける。

少年の胸元のペンダントが紫に光ると、僕の手かせの石も紫に光る。

その瞬間、急激な眠気に襲われた。

倒れた衝撃も、わき腹に刺さった矢の痛みすら乗り越えるような異常な眠気に、

僕は為す術もなく眠りについた。

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