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弱肉

目に焼きついた紫色の軌跡で、それが空から降って来たのだと辛うじて認識する。

それと同時に吹き荒れた爆発のような突風で、僕は洞の奥に叩きつけられた。


一瞬息が止まったが、背中にまわしていた鞄がクッションになったお陰で痛みは少なかった。


何が起きたのかわからない。

混乱する頭で外を確認する。




それはいた。




体長は10メートルほどだろうか。

長く伸びた首に、尻尾。上半身が発達した短い胴体。

前腕は殆ど羽だ。広げられたそれは、体長より長そうだ。

後ろ足はつかむのに特化したような形状をしていて、

その足には僕の自転車がしっかりと握られていた。

握りこまれた自転車からは、聞いたことが無い金属音が鳴り響いている。


一瞬、ワイバーンという言葉が脳裏をよぎった。

でも、僕のイメージするワイバーンとそれは大きく違った。


目を引くビビットな紫色の鱗。表面は滑らかなようで、つるりと艶がある。

全身を覆うそれは一枚一枚が厚みがあり、凹凸を強調している。

翼膜はエメラルドグリーンで、鱗とは違う紫色の血管が網のように巡っているのが、透けて見える。

そして翡翠のような目は猫のように大きく、瞳孔が開いて黒目がちだ。

目線はしっかりと足につかんだ自転車に向いている。


一度だけ羽ばたくと、羽をたたんで足を地面につける。

そして口を自転車に向けると、そのまま首を持ち上げた。

軽い動作で行われたそれは、僕の自転車のフレームを真っ二つにした。

耳を劈くような金切り音が響き渡る。


一瞬、それの動きが止まった。

ポトリと口元の自転車を落とす。

そして瞳孔を細めながら、足元の自転車を確認する。

まるで何かが意図と違ったような動作だった。



そして初めて、周囲を見渡すように顔を上げた。



全身を悪寒が走った。

口からこみ上げる悲鳴を止めるために、両手で口を押さえる。


<状態異常:恐怖(大)>になりました。


心臓の鼓動が大きすぎて痛い。耳鳴りが響き、周囲の音が聞こえなくなる。

口から内臓を全部吐き出したい気分に襲われる。


お願いだ。こっちを向かないでくれ!

気づかないでくれ!そのまま飛び立ってくれ!


時間がゆっくりと進んでいるような感覚になる。

それでも、それの首はこちらに向けて動いて来ている。

一瞬、僕の居る洞の中まで震えたような気がした。


首が、僕の方を向いた。

そして、止まった。

眼が合ったような気がした。




翡翠の中の瞳孔が一気に開いた。




全身があわ立つ。

昔の記憶が、いろんな場面が連続でフラッシュを焚いたかのように明滅する。

僕の中の冷静な部分が、走馬灯って時系列順じゃないんだなぁ。なんて事を思っている。


<恐怖耐性Lv.2>を取得しました。

<恐怖耐性Lv.3>を取得しました。

<状態異常:恐慌(大)>になりました。

<混乱耐性Lv.1>を取得しました。

<混乱耐性Lv.2>を取得しました。

<記憶復元Lv.1>を取得しました。

<感覚圧縮Lv.1>を取得しました。

<冷静沈着Lv.1>を取得しました。


まるで時が止まったような感覚の中でも、アナウンスはしっかりと聞こえた。



そして、紫の体が身構えた。

圧縮された感覚の中でも素早く、ほとんど見えなかったその所作は、

僕に死を確信させる。

でも、僕の冷静な部分は、それの横の空間が揺らめいたのを見ていた。


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