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遭遇

しばらく呆然としていたが、呼吸が落ち着いてきたせいか少し冷静になってきた。


立ち上がって先ほどまでひび割れがあった空間に手を伸ばす。

ついさっきまでは感じられた初夏の風は全く感じる事が出来ない。

そして見つめる先には生い茂るジュラ紀のような木々が見えるだけで、ひび割れや歪みは一切見られなかった。


「もう閉じちゃったんだな…」


これからどうしようかと周りを見回した時、先ほどまでより体が痛く無いような気がした。


「そういえば…」


先ほど聞こえた、

『<苦痛耐性Lv.1>を取得しました。』

という言葉を思い出す。

呆然としてたせいで聞き流してしまったが、女性とも男性ともつかない機械的な音声だった。

いや、本当に聞こえてたのか?

頭の中に流れただけのような…?

いや、そんなことはどうでもいい!


「これは…?もしかして!?」


そうだ。周りは完全に日本だとは思えない。

そして頭に響いた謎の声。

そしてアナウンスの内容に呼応するように痛みが楽になった体…

異世界転生ってやつでは!?

先ほどまでの絶望感が嘘のように消えて、ワクワクしてくる。


今や少しでもオタク文化に触れるならかかせない、チートやハーレムなんでもござれの必修科目!

唸れ現代知識!見せよ効率厨のゲーマー知識!


…でも神様とかには会ってないし、体もそのまんまだな。


装備も制服とスニーカー。チート要素は全くない。

いや、あれか?異世界から来たから実は身体能力が別次元とか、才能が無限大とか、魔力が桁違いとかそのパターンか!?


「はっ!」


見よう見まねの正拳突きをしてみたが、いつものようにそよ風がなびくだけだった。

どうやら身体能力は変わらなさそうだ。


目をつむって深呼吸をしてみる。

自分の中に流れるエネルギーをイメージしてみる。

…しばらく集中してみたが、何も感じられない。

魔力に関しては先生が必要かもしれない。まあ、まだ魔力があるのかもわからないけど。


全く当たりがなかった。

しかし、本命はまだ残っている。

まるでゲームのように流れた音声!

その状況から得たであろうスキル!

そこから導きだせる結論は…


「ステータスオープン!」


あれ?何も出ない。


「ウィンドウ!」

「コール!」

「ブック!」

「スキル!」

「スクリーン!」

「照会!」

「オープン!」

「ステータス!」

「アイテム!」


何も出てこない。

あれ〜?これだけは自信あったのに。


一瞬、嫌な予感がした。

まさか…ね。いやいや、そんなわけないよ。


チートが無い。

この世界の知識が無い。

庇護者が居ない。

武器が無い。


いや、まだ魔物がいるとも限ったわけじゃ…と、気づいてしまった。

例え魔物がいなかったとしても、今は森の中だ。日本でも熊や猪に出会えば命の危険がある。

そして周りの植生はジュラ紀の様相。

肉食の恐竜なんていたら…

先ほどまでの興奮が嘘の様に引いていって、お腹の奥が冷たく感じた。


急いで周りを見渡す。

幸い、大きな生き物の気配は無い。


ホッとしつつも、安全のために状況を整理しなくてはと自転車を確認する。

よくよく見ると酷い有り様だ。

前輪はひしゃげてるし、体にぶつけたのはハンドルだったのか、曲がってフレームと干渉してしまっている。


これはもう乗れないなぁ。

と思ったところで、前かごに入れてた鞄はどこにいったのかと目線を上げると、直ぐに見つけた。紺色の学校指定のボストンバックだ。


中に何が入ってたかな…と鞄を持ち上げた瞬間、後ろから「ブブブ…」と嫌な音が聞こえてきた。


バッと後ろを振り返ると、十メートル程先にそれはいた。

トンボだ。ただ、デカイ。1mはあろうかという巨体と光沢のある青い複眼。そして黄土色の体。

それは大きな羽音を立てながら、真っ直ぐこちらに向かって来た。


「ヒッ!」

と息を飲んで、全力で逃げる。

虫であのサイズはダメだ!

生理的に無理だ!


走り出したのもつかの間、僕は転んだ。

気が動転していたせいか、あっさりと木の根に足を取られた。

振り返るとトンボはもうすぐそこにいた。

恐怖に任せるままに、なんとか手を離さずに済んだ鞄を振り回す。


トンボの体に鞄が当たる。

ドンと衝撃を与えたのと同時に、トンボがよろめく。当たりどころが良かったのか、羽が一枚落ちた。


そこからは必死だった。

鞄で叩く。叩く。叩く。

トンボが飛べなくなって地面に落ちたら立ち上がって踏む。踏む。踏む。


<状態異常:恐慌(小)>になりました。


動かなくなるまで踏む。踏む。踏む。

そして水色の体液を撒き散らしなながら、やっとトンボが動かなくなった。


心臓がドンドンと鳴り響いて、胸が痛い。

体が必死に呼吸をしようとしてるのか、荒い息をする度に喉と肺が痛む。


完全に動かなくなったなと思った瞬間、バッと周囲を伺う。


他に生き物は見当たらない。

ホッとした瞬間、それが頭に鳴り響いた。




<第11層テラからの異邦者による原生生物の殺害を確認>

<当第12層アウスより申し立てを送信>

<第11層テラの回答を受信>

<当第11層テラは訪問者に関する全ての権利を放棄し、御第12層アウスに譲渡する>

<本回答を持って、異邦者を第12層アウスの管理に基づき処分する>




そして僕の意識は途絶えた。

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