Act.5
ゲートで5人分のフリーパスを買い、財布にかなりの痛手を追った。……フリーパスってこんなに高いんだな、と実感させられた。そんな事はお構いなしと言わんばかりに、彩と恵は今度はどっちが俺とアトラクションに乗るかで揉めている。俺は別にどっちでもいいのだが…。当人達はそうもいかないらしい…。
一方琴音はというと、自分が誘ったのにも関わらず、男が全部払うのが当然〜みたいな顔で俺を見てくる。……誘ったんだから琴音も少しは払えよと言いたかったが、女に払わせるとか最低〜とか言われそうなのでここは潔く諦めた。
「だーかーらー!私が!兄ィと一緒に乗るの!あんたはそこで子供みたいに見ているだけでいいのよ」
「なんでよ!私だってお兄ちゃんと観覧車乗りたい!」
「その考えが子供だって言ってるの!そもそも何で観覧車なワケ!?」
「だって観覧車が1番キレイでしょ?景色も最高だし」
「……とか言って、本当は他のアトラクションが怖くて乗れないだけじゃ無いの?」
「そ、そんなことないもん!私だってもう───」
「……2人共、みっともないですよ」
「ほら、楓もこう言ってるし、お前らも少しは楓を見習──」
「兄様を2人だけで独占しようとして……。何てみっともない。私だって兄様を独占したいけど、我慢してるんです。出来ることなら兄様に抱きついたりしたい、と考えてるのです。あわよくば既成事実まで、と思っているのですが……ここは人が多く集まる場所ですから流石にやりませんけどね。ですがこのような場所でも人目を憚らずに兄様にベタベタするなんて私には考えられません」
「楓ちゃん、また変なスイッチ入っちゃった…?」
「またいつもの楓スイッチか……」
「兄様は私が……私が……」
「楓、俺がついてるぞ。だから心配————」
「こうなったら兄様のベッドの下にあった本をネタに兄様を脅して…」
「えっ!?ま、待て!何の話だ!?なんだそれ!?」
「…お兄ちゃん、ベッドの下の本ってなに…?」
「…私も確かに聞いたわよ?ベッドの下に本なんて隠してあったの?どうなの?兄ィ?」
「いやいやいや!だから俺は何も———」
「いかがわしい本だったりして……」
「ちょ、琴音おまっ……!」
「お兄ちゃん、ちゃんと説明してくれるよね?」
「きちんと説明してよね兄ィ」
「な、なんの話だよ!そ、そうだ!単に動揺させようとしてそんなこと言っただけだよな?そうだよな?楓?」
「…………」
「黙ってないでなんとか言ってくれ……」
「妹が3人もいるのに、そんな如何わしい本持ってるんだ?」
「待て!とりあえず話をだな!」
「言い訳とか見苦しいよお兄ちゃん?ちゃんと説明してもらうからね?」
「兄ィ〜?さっさと白状なさい」
「話を聞けって!俺はそんな本知らないぞ!」
「拓也、さっさと吐いちゃって楽になりなよ」
「くっ……こうなったら……」
俺は一瞬の隙をつき、パーク内を全速力で走った。いや、走ったというより、逃げた。もちろん、ベッドの下の本なんて微塵も覚えがないが、とりあえず逃げた。
「あ、お兄ちゃん逃げた!待て〜!」
「こら待て兄ィ!逃げるな〜!」
「兄様、逃がしません……」
「待ちなさい拓哉!詳しく話聞かせなさいよ〜!」
なぜ逃げたのかは分からない。ただ俺の本能がそうしろと言った。そんな気がする。
このままだと説得してもどうにもならないだろう。俺はそう思い、チューチューランドの広い土地を利用して隠れながら逃げる事にした。




