Act.3
———電車内。休日だからか人で溢れている。俺達が乗った駅は始発で、そこまで人はいなかったのだが、そこから各駅各駅で少しずつ人が増えてきた。
「……兄様が立っていて琴音さんが座ってる…この状況はやはり納得いきません。」
「仕方ないじゃん。負けたんだし」
「へいへい、どうせ俺は弱いですよ」
話は遡る事5分前。
琴音に半ば強引に押される形で電車に乗った時だ————
「やっぱり始発だと人少ないね〜。」
「普通なら始発で人が沢山乗ると思うんだが」
「でも人いないからラッキーじゃん!ほら、ちょうど4人掛けの席空いてるし座ろう」
「えーっと…俺達5人なんだが…。」
「あ…。そうだった忘れてた…じゃあどうする?」
「私は兄様の隣がいいです」
「あっ!それなら私も!」
「べ、別に私は兄ィの隣でも構わないわ!」
「だってさ〜。…もしくは立ってるって選択肢もあるけど?」
「ふっ、悪いがその選択肢は俺には————」
「じゃあここは公平にじゃんけんで決めようか!」
「どうしてそうなる!」
—————そして今に至る。というわけだ。
「拓也って本当昔から勝負事とか弱いよね〜?何でそんな弱いの?」
「知るかよ」
「お兄ちゃん大丈夫?変わろっか?」
「いや大丈夫だ。お前達は座ってていいぞ」
「さっすが。男だねぇ拓也。」
「兄様を弄ぶなんて愚の骨頂です。到底許せる事ではありませんね…。そもそもじゃんけんで席を決めるだなんて、もはや兄様の負けを見越したとしか思えないです。確かに兄様は昔から勝負事が弱いですが、それを分かっておきながら勝負事を提案するなんて…そこまでして座りたいのですかこの女は。…全く、兄様を立たせておくなんて最低です」
「落ち着け楓。俺は気にしてないから。な?」
「…そうですか。兄様が気にしてないのならそれでいいのですが」
「まあ、サラッと貶された気がしたけどな」
「気のせいですよ。兄様」
「そ、そうか」
たまに入る楓の暴走スイッチ。いつの間にかこのスイッチは入っていて、いつの間にか切れてる。だから俺にもどのタイミングで入って、どのタイミングで切れるかなんて全然わからない。…とまあ、そんなちょっとした会話の中でも、電車は次々と駅を通過していく。駅を通過する度に徐々に人が増えて、電車内も少しずつ賑やかになってくる。自分達が降りる駅は終点だ。琴音曰く、その駅がチューチューランドの最寄駅なんだとか。
「…あのさ拓也」
「ん、なんだよ」
「いや、さっきからずっと疑問に思ってたんだけど…この子達、昔と比べて随分変わったような感じがするんだよね」
「そうか?昔からこうじゃなかったか?」
「そうじゃなくて、その…なんというか、昔はこんなんじゃなかったよ?もっと明るくて、活発だったよね?けど今はなんかこう…逆というか何というか。拓也に依存し過ぎてるというか…なんだろね?」
「いや俺に聞かれても…。」
「私達が兄ィに依存?…依存なんてしてないわ。ただ私達は兄ィが大好きなだけ。兄ィの言うことなら何でも聞く。それが私達だもの。他の女に渡したりなんかしないわよ。」
「その通りですね。他の女に兄様を渡すなんて決してありえません。」
「うんうん。お兄ちゃんは私達のお兄ちゃんだもん。誰にも渡さないよ?…例えそれが琴音ちゃんだとしても、ね…」
「お、おい?お前ら大丈夫か? 目が笑ってないぞ…」
「あ…安心して。私は拓也を取る気なんてないから。」
「ふーん。じゃあどうしてそんなに胸を強調した服なんて着てるのかな?かな」
「へ?いや、こ、これは…」
「その格好だと、完全に兄ィを誘惑してるようにしか見えないんだけど?」
「どうせ他の男にもそんな格好で誘惑してるんでしようね。しかも紐まで。」
「ち、違うってば。今日はたまたまこの格好で…」
「おい、もうその辺にしとけよ…。周りの目もあるし…何より俺が恥ずかしい」
「…わかりました。兄様に恥をかかせたくありませんからね。ここは兄様に免じて我慢します。」
この辺で止めておかないと楓達が暴走しそうで怖い。正直、琴音に言われた事は分からなくもなかった。嫉妬深い、という意味では楓がダントツだと思う。昔はそこまで嫉妬深くはなかったが、いつの間にか嫉妬深くなってしまったのだ。




