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ミ・ツ・ド・モ・エ   作者: 亀の甲羅
第1部
1/5

Act.1

「ん、んんん……(うっ、体が重い…この感覚…まさか…!)」



ある朝、俺は起きたら体に違和感を感じた。だが、その「違和感」の正体はすぐにわかった。



「…今日はお前か」


「あ!お兄ちゃん起きた!おっはよ〜!」


「おっはよ〜、じゃねえよ…朝から人の上に乗って来るな。いつも言ってるだろ。彩……」


「え〜?だってお兄ちゃんいっつも朝起きるの遅いんだもん!こうして私が起こしてあげなきゃお兄ちゃん起きないでしょ?」


「だからって人の上に乗っていいわけあるか。とりあえず降りろ」


「はーい…」



彩が残念そうにベッドから降りると、拓也は体を起こし、ベッドに座る。



「そもそも俺は大学生だ。お前が起こしに来なくても自分で起きれる」


「え〜?でもお兄ちゃん、私が起こしに来なきゃずーっと寝てるじゃん?」


「そりゃ今日は休日だからな」


「休日じゃなくても遅刻ギリギリまで寝てる時あるよね?」


「……ほっとけ」


「…まあいいや。とにかく、朝ごはんできてるから、着替えたら下に降りてきてね?」


「へいへい。わかりましたよー」


「じゃあ私、下で待ってるから!…二度寝しちゃダメだよ?」


「わぁーってるよ」




俺は毎朝、妹達に代わる代わる起こされている。月火は恵、水木が楓、金土が彩。そして日曜日は全員で起こしにくる。何が悲しくて毎日妹達に起こされなきゃならんのだ…。確かに俺も、遅刻ギリギリまで寝過ごしてしまったりとかはある。その時3人のうち誰かが起こしに来るのだが…。俺は決して1人で起きられない訳じゃない。目覚ましさえあれば大丈夫だ、多分。

しかも今日は土曜日。大学もバイトも休みだから、こんな日くらいはゆっくり寝ようかと思っていたが、妹達は許してくれないようだ…



「よし、こんなもんでいいだろ」



俺は簡単に衣服を着替えて妹達のいるリビングへと向かった。



「兄ぃ!遅い!いつまで寝てんのよ全く」


「別にいいだろ休みなんだし」


「そういう考えがダメなのよ!大体兄ィは昔からいつもいつも───」



この口うるさいのが三姉妹の長女、恵。口の悪さに似合わず意外と面倒見がよく、下の妹二人をまとめている。ツンデレっぽいところがあるのがたまにキズ。



「ちょっと!兄ィ、聞いてるの!?」


「…恵、少し黙って下さい。…兄様もです。早く席についてください。でないと…刺しますよ?」


「朝から怖いこと言うなよ…」



朝から物騒なこと言っているのが三姉妹の次女、楓。普段はあまり喋らなくて大人しい雰囲気だが、変なスイッチが入ると暴走する。怒らせるととんでもなく怖い。



「あ、お兄ちゃんやっと起きたんだね!早く座って座って!」



そんでもって今朝俺の体の上に乗って起こしに来たコイツが三女の彩。元気が取り柄だが、加減が分からずにいつも1人で突っ走っていってしまうタイプだ。



「「「「いただきます!」」」」



俺の家では家事などは全て当番制になっており、その日に割り振られた当番の人が家事などをこなすというルールになっていた。…俺を起こすのもいつの間にか当番制になっているらしい。これは妹達が勝手に決めたルールだ…。



「ていうか、何でこんな朝早くに…。今日は土曜なんだからもう少しゆっくり寝かせてくれよ…。せっかくバイトも大学も休みなんだしさ…。まだ6時だぜ?何で今日に限ってこんな早く起こしたんだ?」


「えっ……兄ぃ、もしかして兄ぃ、今日の予定忘れた?」


「予定…?何かあったっけ?」


「…嘘ですよね兄様、忘れたのですか」


「えーっと、すまん。何だっけ?」


「何で忘れちゃうのさー!お兄ちゃんこないだ言ってたじゃん!次の土曜は大学もバイトもないからどっか遊びにでも行こうかって!」


「あー……そういやそんな事言ったっけな…。悪ぃ、完全に忘れてたわ」


「ま、兄ィの事だから忘れてるんだろうとは思ったけどね。全く、彩が起こしに行かなかったら今頃兄ぃは私達との約束も忘れて寝ていたんでしょうね」


「す、すまない…」


「まぁ、そこがお兄ちゃんらしいけどね〜」



確かに冗談半分で、どこかに遊びに行こうか〜とは言ったのは覚えている。しかしまさかそれを本気にしてしまうとは思わなかった…




「「「「ごちそうさまでした」」」」



朝食を食べ終えた俺たちは、食器を流し台へ置いた。片付けは今日の当番の人がやる事になっている。今日の当番は…楓だ。



しかし、遊びに行くといっても大した当てもなく、近所の公園かショッピングセンターとかでいいだろう。なんて考えていた。



「…ねぇお兄ちゃん」


「なんだよ」


「結局どこに連れてってくれるのー?」


「兄ィの事だから、きっと近所の公園かショッピングセンターでもいいか〜。なんて考えてるんじゃないの?」


「うぐ、何で分かったんだよ」


「当然じゃない!兄ィの考えてる事なんて手に取るように分かるのよ。それで?どこに連れてってくれるのかしら?」


「あのな、そもそも遊びに行こうって言ったのは半分冗談で─────」


「私は水族館に行きたいわね!」


「私は映画館がいい!」


「では私は…温泉が良いですね」


「あ、楓ちゃん!お皿ありがと!」


「今日は私が当番でしたので。それで?どこに連れて行ってくれるんですか?」


「私美術館がいい!」


「私は動物園がいいわ!」


「私は静かな図書館がいいです」



「お前らさっきと言ってる事バラバラじゃねえか。はぁ…分かったよ。確かに冗談でも言ったのは事実だし、連れてってやるよ。けどせめて1つに絞ってくれ。そんなバラバラだとこっちが困る」


「うーん、じゃあお兄ちゃんが決めてよ」


「は?」


「そうね。それがいいわ!兄ィに決めてもらいましょ」


「マジで言ってる?」


「…私も2人の意見に賛成です。兄様、時間だけが無駄にすぎてしまいますので、早く決めて頂けますか?」


「えぇ…まじかよ」


いきなり俺に決めてもらう、なんてあまりにも無慈悲過ぎないだろうか。そんな急に言われても何も考えているはずもなく、何かないかと考えてるうちに、ふと、テレビで宣伝していたとある場所が思い浮かんだ。



「あー…そうだな…ディ○ニーランドなんてどう───」


「いいわね!そこにしましょ!」


「兄様にしては悪くない選択です」


「さんせー!そこにしよ!」



嵌められた。こいつら最初から俺に選ばせるつもりで聞いてきたな。もしやさっきのバラバラな意見は全部フェイクだったのか…。こういう時だけは頭の回転が早い妹達だ…



「そうと決まれば早速準備しなくちゃ!」


「待ちなさい彩。行くのはアンタだけじゃないのよ!」


「……全く、2人ともはしゃぎ過ぎです」


「それだけ楽しみだったんだろ。まあそれ以前に俺が覚えてれば良かったんだけどな…」


「何を言ってるんですか?私もそうですが、皆兄様と出かけられる事が楽しみなんですよ?」


「え、そうなのか?俺と?なんで??」


「…我が兄様ながら本当に鈍感ですね。失礼、鈍感なのは昔からでしたね」


「正論で殴るのやめろ…心が痛い」


「正論パンチをしたつもりはないのですが、兄様には大ダメージのようですね」


「ほっとけ」


「まぁ、そういう兄様も素敵なのですが…」


「何か言ったか?」


「何も言ってませんよ?さて、私も準備しますので。兄様もさっさと準備して下さいね」


「お、おう...」



楓と話しているうちに、色々なことを考えてしまっていた。交通費や移動手段など色々心配だ。だが最も怖いのは、行った先で3人が暴走しないかどうかだ。暴走されると俺でも手が付けられなくなる。それだけは避けたい。



「お兄ちゃん!準備できたー?」


「兄ィ!準備出来たんでしょうね!?」


「兄様。準備は出来ましたか?」




…待てお前ら、準備が早過ぎる。そんなに行きたかったのか。


「兄様、早く行きますよ」


「お前ら早過ぎだって…」


「兄ぃ、忘れ物ないわね?」


「無いと思うが」


「兄様の事ですから、小物を忘れたりしているかもしれないですね」


「大丈夫だ。何も忘れてない」


「安心しました。よかったです」


「……よし、お兄ちゃんも準備出来たし、それじゃ、しゅっぱーつ!」


「何だかんだ言って、やっぱり楽しみだったんだな」


「当たり前よ。この日をどれだけ待ち望んだと思って?」


「恵ちゃん、毎日カレンダーとにらめっこしてたもんね」


「そ、それは言わないでよ!」


「へえ、恵ってそんなとこあったんだな。可愛いとこあんじゃん」


「か、可愛いとか!ほ、褒めても何も出ないからね!」


「へいへい」



こうして4人だけで和気藹々と喋りながら歩くというのは新鮮でいいのかもしれない。

どこか出かけるということがそもそもあまりなかったのだ。それぞれ学校やら、部活やらあって、なかなか休みが取れない時が多かったから、こうして妹達が楽しいと思えるのならそれでもいいのだろうと、俺は少し思った。






第1章 fin

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