夏の日の暑さを感じて
メモ書き小説09より
日本の暦の上で夏が始まる時期。
それは立夏という言葉が示す。
太陽暦で五月の始まりとなっている。
夏来ると言えば、立夏のことであり。
立夏とは夏が来たということである。
しかしながら大体の人間とっては。
そう少なくとも俺には
暦の夏の訪れは、夏の始まりではない。
それを夏と呼ぶには、まだ慣れない季節だからだ。
春は人の初まり、新しきの出会い。
新しき生まれに、生まれ変わりの季節。
別れを経験した者たちの、後の祭りでもある。
戻らないことを後悔した者たちが騒ぐ季節。
戻らないと悟ったからこそ彼らは騒ぐのだろうか。
五月に始まった夏は、そんな祭の最中である。
雨が降るジメジメとした頃から空が晴れ。
夏の日差しを太陽が運んで来る頃が始まる。
やっと始まったかと思える夏である。
夏休みは数少ない休む季節だ。
太陽が仕事をして、俺は休暇になる。
大人にすれば、長いすぎる休暇だが。
子どもにすれば、短い一夏である。
しかし夏の休みの半分は秋の休み。
暦の夏は八月の始まり頃で終わるのだ。
気づかぬうちに終わった夏を知り。
夏は良かった、と嘯く彼ら。
夏の暑さを感じながら、彼らは。
秋と思えない暑さから、彼らは。
どちらかなら夏だから、彼らは。
過ぎた夏をまた後悔する。
だから今日は出かけようと思った。
自分だけがいる家の中で。
誰もいない玄関先を見て。
ここから動き出したいと。
もしかしたら会うのかも知れないのだから。
「行ってきます」と声には出さない。
まだ暑さが残るだろう外を思って。
踏み出した一歩に予想以上の蒸し暑さを感じる。
彼は後悔するのだろうか。
何も始めなかったあの頃を。