春は桜色、人は何色
メモ書き小説05より
一般的に季節は巡るものだ。
それも一夜にして変化するものではない。
朝に始まり、夜に終わり、また朝を迎える。
一日の繰り返しが年月を重ねて、新しい季節を呼び込む。
窓際に座る生徒が居たとして、
彼を廊下側から眺めた時に何が見えるか?
いや、それは、もちろん彼が見えるのだが。
同じくらい背景に見える窓に映る季節もよく見える。
春に桜、夏に緑、秋に紅葉、冬に枯れ木。
桜が散るのは
春が終わり夏を迎えようとしている
そんな季節の変わり目の時期。
「ねぇ、桜好きなの?」
背景でない場所に人が増える。
それは少女だった。
名前は知らない。聞いたかも知れないが。
仮称、ぱちぱちライムソーダ。
「もう散っちゃうね」
教室はすっかり昼休みだ。
昼食はさっさと食べたので、やることがない。
隣近くを見やると
何故か楽しげにメロンパンを食べるぱちぱちライムソーダ。
ぱちぱちライムソーダって長いな。
「名前は?」
「桜」
今にも舞い散りそうだった。
「桜は好きか、桜」
「いきなり下の名前で呼び捨てとか」
馴れ馴れしいやつ、と続きそうだ。
お前にだけは言われたくないと思った
「苗字教えろよ」
さくらだけじゃ
苗字かそうじゃないかわからないだろう。
「春香」
どっちにしても
苗字じゃないようにしか聞こえない。
春香桜。
名付け親のセンスを疑う呼びにくさに思えたが
慣れれば違和も消え去ってしまうのだろう。
「で、春香」
「呼び捨てとか」
問題はそこだったようだ。
「もういい」
桜はこの間にも舞い散る。
景色をピンク色に薄ら染める。
季節を始める春の色だ。
桜は好きでも嫌いでもない。
そういう類いのものではないのだ。
春に当然のようにある色だ。
桜が日常から無くなるまで
四月の春色に染める。
月日が流れるまで、
いつの日までか
その色は変わらない。
そして春に今を生きる
彼らの二人の色は
どんな色に染まるのだろうか
それは時間のみが知ってるかも知れない。