赤色が青色になるまで
メモ書き小説03より
物語の始まりというのは、いつも唐突にある。
それは
いつの日かに訪れた偶然であるからだ。
とても普通で、すごくどうでも良い、そんな一瞬なのだ。
普段は
信号の赤に捕まらない時間なのに、
いざ気づいてみれば青くない。
最近は、信号機の色は青くはないんだが、そういう話ではなく。
止まれという意味の色をしている。
車が行き交う。やがて待てば、信号は青に。
進めという色に変わるだろう。
これはこの社会で、日本で、俺には常識だ。
常識とは即ちルールである。
人間社会のルールは、いつかの誰かの意思によって、善意的にも悪意的にも作られる。
社会で決められたそれは、俺のルールになる。社会で生きるのだから、当然とも言える。
信号の赤に足を踏み出すのなら、怪我をして当然だ。
人は誰かのルールの上でしか生きられない。
どんなルールを選ぶかは自分次第だが。
隣に同じ学校のルールに従った服装の人間が、赤い信号に踏みだそうとしていた。
歩きながら小さなスマホの画面に目を落としている。
咄嗟に肩を軽く叩く。
「おはよう…………あ、ごめん。人違いだった」
少女は不思議そうな表情を浮かべる。
顔もまともに確認せずに彼は歩き出した。
進んでも良い色を信号機がしていたから。
ただ、そういう理由にしておくことにする。
彼もまた、気難しい少年であるようだ。