冬隣には淡い彼らの物語
メモ書き小説16より
秋は快適な気候だ。
空気は澄み、風は戦ぐ。
空は高く、晴れ渡る。
今年、
初紅葉を見たのは、
もういつのことだったろうか。
肌を刺すようになった冷気が、
冬の訪れを予兆させる。
あれだけ綺麗だった
紅葉のグラデーションも
わずかに残るばかりである。
「なにしてるの?」
すっかり隣に居着いた彼女が、
なんとも自然に覗き込んでいた。
「別に」
彼女の目を、
見られるようになったのは、
もういつのことだったろうか。
目を逸らすではなく。
見つめるでもではなく。
ほんの少しの予定された邂逅。
たった数秒にも満たない繰り返し。
心に巣食う暗い自分が、
どこかに消えるような瞬間。
胸に満たす揺らめくものが、
自分をそっと照らすような感じ。
そんな彼女から、
目が離せなくなったのは、
もう、いつのことだったろうか。
自らの内を彩る紅葉は、
どんなグラデーションを、
見せているのだろうか。
それはきっと、
もう姿を見せない秋の紅葉。
美しいようで、透き通らない。
麗らかに晴れ渡る秋。
その場所に二人が居て、
幸せそうな空気だけが包む。
楽しさを見せない、楽しげな彼女。
嬉しさを見せない、卑屈そうな俺。
彼らは歪んだ平行線。
いつか絡み合う二本の糸。
自由な彼女が、
いつも少し先に歩き出す。
慣れた様子で、
彼が後ろで歩き出した。
互いの頬が、
見事な色彩を見せたことを、
また互いに知らぬままに。
今は、彼らに少しの、ほのかな恋物語を。