待つ間の花は美しい
メモ書き小説12より
外食をするとして、
美味しさを考えて行列を作る。
もしくは時間を考えて、
行列を嫌って適当な店に入る。
行列が店の美味しさとは、
関係ないのかもしれないが、
人気の指標であることは間違いない。
食の美味さを楽しみ、
食の楽しみは美味さに、
依存することも多いだろう。
それは少しの時間を使って、
行列を作るだけの意味があるのである。
大抵は待っていれば、
その待ち時間さえ乗り切れば、
楽しみにした美味さを楽しめるのだから。
しかしながら、
待ち時間に見合わない
好みの味でないこともある。
行列に並んだが、
それほどでもない。
そういうことも、確かにあるのだ。
待っている間、
その料理が一番美味しかった。
待つことは重要である。
どんなことにも、
最適な時期があり、
最高な時期があり、
完璧な時期がある。
待つことは想像の時間である。
その時間は、
期待に胸を膨らませ、
必要以上の想像をし、
本物よりも良いもの生み出す。
そんな空想の時間なのである。
待ち時間に想像したものが、
本物を超えてしまったのなら、
膨らんだ期待は現実に投影されない。
まぁそうでもないものだったと
至極当然のように思うのである。
待つ間が花なのだ。
つまりは、
あれやこれやと美しい花を想像しても、
現実になるとそれほどのものでもない。
空想して想像している間が、
一番楽しい時間ということである。
夏の暑さを忘れかけた季節が、
制服にまだ温かい風を当てて、
彼の想像を現実に引き戻す。
「おはよう」
期待を膨らませた彼に、
制服姿の彼女が映る。
至極当たり前の光景に、
少し残念な気持ちになる。
浴衣、可愛かったな。
心の中だけで口にする。
待つ間に彼が想像した彼女は
一体どんな姿だったのだろうか。
それはきっと、
花より美しい彼女だったのだろう。