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35.まずはお友達から

 翌日。

 昨夜遅くまで悩んでいたのだが、結局考えは纏まらなかった。

 三人だけなら三城谷の策略とも考えられたが、転校生まで参加していたので意味が判らない。転校生は別口なのかも知れないけど、他の三人とも面識があるみたいだし。対立している様子でもあったから、彼女らの関係が全く予想出来なかった。

 昨日はうろたえてしまってまともに話も聞けなかったのだが、とりあえず事情を聞いてみないと何も話は進まないという結論にだけは達していた。

 朝から覚悟を決めていたのだが、彼女らからは接触して来なかった。

 彼女らは遠巻きに、切なそうな顔をして俺の方を窺っていて。中でも楠見さんは、ずっと泣きそうにしていた。昨日は、楠見さんだけは一歩引いた感じで、余裕が感じられたのだが。今は、一番余裕がなさそうに見えた。

 クラスメイトたちも、拍子抜けしたみたいだったけど、成り行きを見守っていた。


 昼休みになって。俺が弁当を食べ終わったところを見計らった様に、四人が集まってきて。周囲の空気が変わるのが判った。

 「話をしてもいいかしら」

 皆を代表してか、土原さんが口を開く。

 俺も話を聞きたかったから、黙って頷いた。

 「私たちは全員、あなたと親しくなりたいと思っているの。だめかしら?」

 「親しく……? 要は、友達になりたいってこと?」

 彼女の言葉に思わず安堵してしまった。いや、本来なら残念がるところなんだろうけど。

 俺の反応に、土原さんは片眉を上げて。俺に顔を寄せて迫った。

 「友達以上の関係に、ね」

 「う……」

 間近でそんなことを言われて、俺は言葉に詰まった。多分、赤面してしまっているだろう。

 「なんか、嘘くせぇ」

 近くで男子の誰かが野次を飛ばした。

 「からかっているだけじゃないの? 榊君、かわいそう」

 女子の誰かが同調した。

 土原さんはムッとした顔で、周囲を見回す。

 「別に、あなたたちに信じて貰う必要は無いけど。──そうね、妙なちょっかい出させない意味でも、何かして見せた方がいいのかしら」

 彼女は不敵に笑って。そして、再び俺の顔に自分の顔を寄せてきた。

 俺は動けずにいたのだが。

 「ちょっと土原さん」

 三城谷が慌ててそれを止めた。三城谷が止めなければ、俺はそのままキスされてしまいそうだった。

 「フェアに行くんじゃなかったの?」

 三城谷が土原さんを咎めて見せるが、俺はそれを策略だと思ってしまった。

 「なんだよ。思わせぶりなことしたかと思ったら、初めから三城谷が止める算段だったのかよ」

 俺の言葉に、二人はギョッとした顔で俺を見た。

 「からかうのもいい加減に──」

 その時、唐突に横から手が伸びてきて。両手で俺の頬を挟んで強引に横を向かせられたかと思うと、いきなり唇を奪われた。

 「──んんっ!?」

 至近距離過ぎて、初めは誰だか判らなかったのだが、それは楠見さんだった。

 周囲は暫し固まっていて。シーンとしたかと思うと、凄い騒動になった。

 「ちょっ、絵梨菜! ずるい!」

 三城谷が慌てて楠見さんの腕を引っ張って。ようやく、俺たちは離れた。

 俺は混乱してしまった。

 「どうして……この二人にそう命令されたの?」

 思わずそんなことを言ってしまう。

 彼女は傷ついた様子で、真顔で俺に迫った。

 「私は……誰かに言われたくらいでファーストキスを捧げるほど安くは無いつもりよ?」

 「……ごめん」

 謝るしかなかった。

 「でも……楠見さんは朝から泣きそうにしていたからさ。不本意な事でもやらされたんじゃないかって思ったんだよ」

 「私のこと……見ていてくれたんだ」

 彼女は一瞬、笑みを浮かべて。だけど、直ぐに沈んだ調子になってしまった。

 「私は……自問自答していただけよ。──あなたのことを、私は好きになってもいいのかなって」

 その瞳から涙が零れ落ちて。

 俺は、無性に胸を締め付けられた。

 なんだろう、この感覚。それは、昨日目覚めた時に感じていた、強烈な切なさと悲しさを彷彿とさせた。


 結局、彼女らの行動理由は何も理解は出来なかった。

 ただ、俺と親しくなりたい、そう懇願されて。じゃあ、まずは友達から、ということで放課後は一緒に遊ぶ様になった。

 全員一緒だったり、誰か一人だけだったりと、何やら彼女らの中で取り決めがあるらしい。俺の方も、部活とかやってなかったから特に用事とかもなく。彼女らに言われるがまま、デートの様なことを重ねていた。

 色々と話をする様になったのだが、こうなった経緯などは誰も話してはくれなかった。


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