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閑話11.タイムリープ後

※神林視点です。

 気が付いたとき、私は自分のベッドの上にいた。慌てて飛び起きたのだが、自分がパジャマ姿であることに気付いて、呆然としてしまった。

 あれからどうなったのか。

 土原さんから、私が智哉の死を拒絶して、元に戻せと強く願えば道が開けると言われたけど。それを実行した後、そのまま意識を失ったらしい。

 部屋から飛び出して、廊下の電話まで走る。こういう時、携帯電話が欲しくなる。

 家の電話を操作して、愕然としてしまった。

 智哉の家の番号が、無い?

 電話帳に番号が登録されていないだけでなく、履歴にも一切残っていなかった。

 ──土原さんに消されたのだろうか。そんなありえない妄想が頭を過ぎる。

 私はうろ覚えだったけど、智哉の家の番号を思い出そうと、電話機をじっと見ていて。ふと、それに気付いた。

 ──液晶の日付が、四月になっている。

 不審に思い、壁に掛かっているカレンダーを見ると、四月のページであることに気付いた。

 ──どういうこと?

 そういえば、パジャマも薄手で、部屋の中もそんなに寒くない。

 台所で朝食の用意をしていた母が、私が起きて来たことに気付いて廊下に顔を出した。

 「あら、お寝坊さんの千佳が、今日は早いのね」

 珍しい物を見たような顔で声を掛けてきた。

 「まぁそれも仕方ないか。転校初日だしね」

 ──転校初日!?

 私は母が何を言っているのか理解出来なかった。

 台所に入り、点けっ放しのTVを目にして。四月の時節ネタを呆然と眺めていた。

 暫くして。唐突に、電話のベルが鳴った。

 「あらあら、こんな時間に誰かしら」

 母が慌てて電話に出た。私も何事かと廊下に出る。

 「はい、神林です……はい……えっ?」

 母は、怪訝そうに私に目を向けて。

 「はい、居ますけど……ちょっと待ってくださいね」

 母は受話器を押さえて、私を呼んだ。

 「千佳……今日からあなたのクラスメイトになる、土原さんって人から電話なんだけど……」

 土原さん!?

 私は慌てて、母から受話器をひったくった。

 「もしもしっ!?」

 『土原です。私のこと、覚えてる?』

 ──覚えてる?

 その言い方。

 「どういう……ことなの?」

 『やっぱり、混乱しているみたいね。私たちは、クリスマスイブから一学期の始業式の日まで時間を遡ったのよ」

 やはり今は、母の言うように始業式の日なのか。

 「そう……なんだ。でも、どうして?」

 『詳しいことは学校で話すけど。ひとつだけ、忠告させて貰うわね。──この時間軸の榊君は、あなたの知る榊君では無いだろう、ということを』


 土原さんが言った言葉の意味は、程無く判った。

 智哉は、私を見ても何も反応しなかった。

 前の時間軸のことを覚えていないというだけではなく。智哉は前回と違う反応を見せたのだ。

 私は自己紹介の最中だったにも関わらず、思わず涙を零してしまった。

 その私の様子に担任が慌てた。

 「あ、すみません。大丈夫ですから」

 私は手で涙を拭った。

 「私は、神林千佳といいます。これから一年間、よろしくお願いします」


 HRが終わって。私は智哉の席に近付いた。

 彼も私に気付いた様子で、私を心配そうに見ていた。さっき私が涙を流したとき、彼を見ていたことに気付いているみたいだった。

 「──榊君」

 本当なら、智哉と呼びたかったけれど。私を知らない彼にはさすがに馴れ馴れしすぎると思って苗字で呼んでみた。

 「……以前、どこかで会った?」

 彼は怪訝そうに首を傾げた。やはり、私のことなど何も覚えてはいない様子。

 そういえば、さっき私が名乗っただけで、まだ誰とも自己紹介をしていなかった。

 前の時間軸での、転校初日の智哉の様子を思い出す。

 あの時、智哉はこんな気持ちだったのか。

 恋人に自分のことを忘れられていて。そのことを自分だけが覚えていて。辛くない筈が無かった。それでも、また私と付き合おうと、口説いてくれたんだ。ならば私にも、同じことが出来る筈。

 「榊君は多分……私のことを覚えていないと思う。だけど、私はずっとあなたのことを想っていたわ」

 私の言葉に、榊君は一瞬ポカンとして。そして頬を染めて、目を瞬かせた。

 周囲のクラスメイトたちが騒ぎ立てる。

 普段の私なら。こんなことを堂々と、それも当人だけにではなく衆目の中で言える様な性格じゃなかったけれど。

 前回、彼がそうしてくれたから。彼から勇気を貰ったから、私は堂々と気持ちを言葉に出来たのだけれど。

 「榊君。私と──」

 「そこまでよ!」

 最後まで言えずに、誰かに割り込まれた。

 それは、土原さんだった。

 「土原さん……」

 私が彼女の名を呟くと、智哉はまた怪訝そうな顔をした。私が彼女のことも知っていることに驚いている様子。

 そんなことを考えていたのだけど、土原さんの言葉で思考を遮られる。

 「抜け駆けは駄目よ」

 土原さんのその台詞に、周囲がどよめいた。

 普通、こんな事態になったら、周囲は冷やかしたりはやし立てたりすると思うのだけど。土原さんに対しては、皆意外そうにしていた。

 そういえば。前回の彼女は、智哉以外の男子は誰も相手にしていなかったっけ。

 「土原さん、それじゃあなたも告白してるのと同じじゃないの。──フェアに行こうって言ったのはあなたでしょ?」

 三城谷さんが割り込んできて。頬を赤らめながら智哉を見ていた。

 「もう、音葉も同じじゃない」

 三城谷さんの背後から楠見さんも近付いてきて、三城谷さんの肩に手を置いた。三城谷さんは彼女に向かって舌を出した。

 周囲はもうどよめきを通り越して、当人たちを他所に憶測が飛び交っていた。

 「どうした、何を騒いでいる? もう授業の時間だぞ!」

 いつの間にか一限目の時間になっていて。担当教諭の怒号で私の告白は中断されてしまった。


 結局、私はちゃんと告白することが出来なかった。

 休み時間になると、智哉は私たちを避ける様に教室から飛び出して行って、ギリギリの時間まで戻っては来なかった。

 そして放課後は、智哉は周囲を振りきるかの様に、慌ただしく帰宅してしまった。

 その後、私は土原さんたちに連れられて、何故か駅前のカラオケボックスに入った。

 「内緒話をするなら適当な場所だと思って、ね。なんて、榊君の受け売りだけど」

 智哉の受け売り──やはり、智哉は土原さんと……?

 などと考えていると。

 「今あなたが思っている様なことでは無いわ。前の時間軸でも、私は榊君とどこかに出かけたりしたことは無いのだから」

 鋭い目付きで睨まれた。

 私に腹を立てているらしい。

 「私をどうするつもりなの?」

 「別に。ただ、話をしたいだけよ。詳しいことは学校で話すと言ったでしょう? だけどあなたがあんなことをするものだから、学校では目立って話もろくにできやしない」

 土原さんの言葉に、三城谷さんが鼻を鳴らした。

 「混乱しているかと思ったら。ぬけぬけと、あたしたちを出し抜こうとしてて、びっくりしたわ」

 出し抜こう、だなんて。私は、ただ元の状態に戻そうとしただけなのに。

 「さも当然、って感じね。前回の不始末、何とも思っていないのかしら」

 呆れた口調で、だけど冷酷な目で睨みながら楠見さんがため息混じりに漏らす。

 不始末。たしかに、前回智哉は私を助けようとして死んでしまったけれど。その事故をさして不始末などと言われる謂れは無い筈。

 「不服そうね。あなたの選択によって、榊君は死んでしまったのに。榊君を絶望させて死なせてしまったというのに!」

 「絶望……どういうこと?」

 「榊君は、あれだけの目に遭ってきたのに……結局、誰のことも根本的には救えなかったと、またあんなことを繰り返してしまうのかと、絶望しながら死んでしまったでしょうね」

 ──救えなかった?

 今の土原さんの言葉には、三城谷さんも楠見さんも不思議そうな顔をしていた。

 「あの時。私たちが駆けつけなくても、あなたは私からどうすればなんて話を聞かされなくても、あなた一人で時間を遡ったでしょうね。そして、たった一人でこの時間軸に放り出されて、何も判らないまま学校に行って。クラスメイトたちとの距離感を見失った状態で、あなたは誰とも親しくなれずにいて。そしてまた榊君と付き合うことで、彼をまた死なせてしまうんじゃないかと恐れて、もう榊君には声を掛けることすら出来なくなってしまっていた……かも知れないのよ。もちろん、そうはならなかったかもしれない。そもそも、そうなっていたら卵が先か鶏が先か、なんて話になってしまうものね」

 何を言っているの……?

 「だけど。榊君は、間違いなくそう思っていた筈よ。自分が死ぬことなどお構いなしに……あなたのことを想って、あなたに何も話さなかったことを後悔しながら……私たちを救えなかっと、絶望して死んでいった」

 土原さんは、私を睨みながら涙を流していた。

 「あの時榊君は……自分が死んでしまうことを知っていたのに……それでもあなたの元に駆けつけたのよ」

 「……どうして? 死ぬのが判っていたのなら──」

 「あなたのことを助けるために決まっているでしょう!?」

 胸倉を捕まれ、至近距離で睨まれる。

 「榊君は……クリスマスイブにあなたと会ったら、あなたが事故に巻き込まれて……そして、あなたを庇って自分が死んでしまうことを知っていたのよ。榊君は、あの日はあなたとは会わないと、あなたにも家でおとなしくしていて欲しいと言っていたのではなくて?」

 確かに、智哉はイブには会えないと言っていた。でも、どうして?

 「……榊君はね。何度も時間を繰り返していたの」

 「えっ……?」

 「だから、前回私たちの身に何が起きるか知っていたから……私たちを救おうとしてくれたのよ。いえ、前回だけでなく、前々回も、私たちのことを救ってくれて……私たちは全員、榊君と親しくなって。だけど私たちが彼を巡って争う様になってしまったから……榊君はもう一度やり直そうとしていたのよ」

 土原さんは、とても悔しそうな顔をしていた。

 「榊君は……自分が誰も選べなくなっていたことが原因だと……自分のせいで私たちが傷つけ合ってしまったと後悔していて……だから前回は、私たちとは親しくならずに、神林さんとだけ付き合うことにしたのよ。榊君はあなたのことを選んだけれど……それでも、私のことも、本気で好きになっていたって言ってくれたから……もちろん、私だけ特別な訳じゃなくて、彼の好きだった女の一人でしか無いことも判っているけど……それでも、そう言ってくれたから! 私はその言葉だけを抱きしめて、一人で生きていこうと思っていたのに……榊君とあなたのことを、ひっそり見守っていこうと、そう思っていたのに! なのにあなたは、彼の信頼を裏切った。彼の寵愛を独り占めしていたのに、彼の言葉を信じなかった。そのせいで、彼は死んでしまったのよ。そんなあなたに、愚痴の一つや二つ零しても罰は当たらないでしょう!? ……せめて死の間際、私の言葉が届いていたらと願うばかりよ」

 私は、土原さんが言っていることの半分も判らなかったけれど。それでも、智哉が中三の女子にそこまで言わせるようなことをやっていたんだということは理解出来た。

 「榊君は、繰り返す時間の中で、何をしてくれたの?」

 楠見さんも私と同じようなことを思ったのだろう、土原さんにそれを問う。

 「……あなたたちにも詳しい話はしてなかったわね。──それを聞いたら恐らく、楠見さん、あなたが一番苦悩することになると思うけど。それでも聞きたい?」

 大仰な前振りに、楠見さんはごくりと生唾を飲んで。それでも、頷いて見せた。


全文を載せたら二万文字超えそうだったのでカットしましたorz

繰り返しの話になるので、あまり意味はありませんし^^;

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