2.予兆(1)
十月初旬。
俺は神林さんのことをあまり意識しなくなっていたのだが、それでもまた彼女の表情が曇るのに気付いた。
俺たちに対して何があるという感じでも無さそうだったから、初めはその理由が判らなかった。
暫くして、何人かのクラスメイトに変化が見られた。女子の仲良し三人組の様子が、少しおかしくなっていたのだ。
彼女らとは特に親しくも無かったから、神林さんが注視していなかったらそれに気付くことは無かっただろう。三人組の一人、楠見絵梨菜さんが時折思いつめたような顔をしていて。他の二人、速水真樹さんと那須智香子さんが、その彼女を心配した様子で事情を聞こうとして。楠見さんは何でもないと言う様に、首を振っていた。
俺が彼女らの様子を見ていることに音葉が気付いて。音葉は楠見さんとは一年のとき同じクラスだったらしく、音葉も彼女らを心配した様子で見ていた。そして、一度ならず楠見さん本人に事情を聞こうとしていたが、音葉も何も教えては貰えないみたいだった。
翌週の月曜日。朝から教室に入ると、速水さんと那須さんが抱き合って泣いていた。
楠見さんの姿は無く。その様子に、俺の頭の中は嫌な予感が渦巻いて仕方が無かった。音葉も事情を知らないらしく、彼女らの様子に不安そうな顔をしていた。
やがて。朝礼に現れた担任が目を赤く腫らしている様子を見て、予感が当たっていることを確信してしまった。
「みなさん……昨日……うちのクラスの楠見さんが……亡くなりました……」
担任はどうにかそれを報告して。教壇に突っ伏して泣き出してしまった。
教室中がざわつく。
既に予見していた様子の音葉だったが、それでも静かに涙を流した。
クラスメイトたちは、速水さんと那須さんを取り囲んで、事情を聞き出していた。彼女らは、「自殺らしい」と話していた。
無遠慮な憶測がクラス中を飛び交う様子に、神林さんは悲しげに俯いていた。
一話あたりの文章量がまちまちですみません。
話の区切りごとにアップさせていただきます。




