初依頼はトレント狩り
フウカは依頼掲示板の前で立ち尽くしていた。
ケイトは後ろの方で腕を組んで見ている。
ギルドは大陸規模の巨大組織であり、魔物の管理を行っている。
そのギルドの特徴が「依頼」という冒険者に出される仕事である。
ギルド関係者から出される物も多く存在するが依頼の大半を占めるのはギルド関係者以外の一般市民からの依頼である。
その点を踏まえると、ギルドという組織は害獣駆除を行う組織ではなく人を必要とする場所へ人員を派遣する人材派遣会社であるのだが、多少のことは気にしてはいけない。
ギルドには多種多様な依頼が来ており、そのほとんどを占めるのが討伐依頼だ。
魔物や盗賊、海賊を捕獲または討伐するのが討伐依頼だ。
その他にも貴族や商人などを護衛する護衛依頼、薬草などを採集する採集依頼、土木工事や除草作業や帳簿などを手伝う雑用依頼がある。
なぜ私が今、討伐依頼の掲示板の前で立ち尽くしているのかと言うと、ケイトの休日が終わり次の依頼を受けることになりその依頼をどうするかと言う話をした所
「これから冒険者をやって行くなら依頼選びぐらいは、できるようになっておいた方がいいよ。うん、そうしよう。今回の依頼はフウカが選んできてー・・・」
というふうに勝手に話が流れてしまい今に至る。
私は大量に貼り付けられた依頼書をじっと見る
私の視線が一枚の依頼書に止まった。
その依頼は、ここから三時間程の所にある森でトレントを狩るという物だった。
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トレント:ランクD 樹齢数十年の樹木に何らかの要因で魔力が集まることで魔物となった樹木。その素材は建築資材として需要が高い。
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報酬は五体で金貨700枚だ。 (金貨70000枚=70000円)
私はその依頼書を取ってケイトの下へと持っていく。
「うーーん、なかなか難しい依頼を選んできたね、まぁ初めはこんなもんでしょ」
「なんか、すいません……」
「いいのよ、別に気にすることないわ。さぁそれをアリアちゃんの所に出してきて」
「はい、行ってきます」
高々十数mの距離なのになぜかそう言って私はカウンターに向かう
「おはようございます、フウカさん。本日はどうなさいましたか」
私は依頼書をカウンターにのせ
「依頼の受注です」
「はい、わかりました」
アリアは、依頼書を半分に割き上半分を燃やし下半分にサインをした
「こちらにサインを」
私は指定された場所にサインする
「手続き完了です」
「ありがとうございました」
私は挨拶をしてケイトの下へと戻り、そのあとは私たちは準備をするためにギルドの二階に来た。
二階は物品の取引を行っている。
売っているものは多岐にわたり、戦闘に必要な武器(数打ち品)やポーションの類や野営に必要な薪やテントや水と言った物はもちろん、衣類などの生活雑貨や石鹸やタオルと言った生活必需品や森で取れた野菜や何かの肉などの食材まで売っていた。
そして似たものでも値段はピンキリ
ポーションや水晶球は一際それが顕著だ。
水晶球はレンが言っていた通りかなりの数が存在しており、種類もかなりあった。
魔法なら品質に違いわないだろうと思っていたが実はかなり違っていた。
中に込められた魔力の濃度により発動する魔法の持続や水晶球自体の耐久性能に変化があるらしい。
なんでも、水晶球に保存された魔法もいずれは薄れて消滅してしまうと言う。
再び水晶球に魔法を保存することは可能だが、二度目以降は魔法の持続が短くなるらしい。
ポーションもかなりの種類あり少しずつ効果も違う。
その効果により値段も違う。
多少切り傷を治す程度の効果のものは金貨5枚程で買えるが切断された腕を付け治す程のものになると金貨10000枚程かかる。
その他にも解毒作用が付与されていたり、体感気温を少し下げたり上げたりできたり、身体能力の一時的な向上などの効果を得られる物もあったり
生命力の一時的な向上効果に追加で疲労回復効果が付与されたポーションや胃もたれに効くポーションなどの戦闘以外での使用を考えて作成されたと思われるポーションも多々あった。
「さてと必要なのは水と食料と薪と素材を入れる容器。あとトレントは毒を使ってくる場合があるから毒消しとポーションね」
「かなり重たくなりそうですね」
「このぐらいは標準装備よ?冒険者やるなら慣れてね」
「ケイトはそんなに持ってるように見えませんけど?」
「私のポーチは特別製なのよ」
そうしてかなりの重量の荷物を各々鞄に押し込んで出発するのだった。
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そして三時間後
私達はアリシアから徒歩三時間程の所にあるかなり鬱蒼と茂っている森、通称 木霊の森に着いた。
トレントの生息地だ。
トレントは歩き廻って、毒の棘を飛ばして獲物を仕留めて、その死体を土に埋めるという行動以外は少し古い木とさして変わりないためこのような森の中では見つけるのが困難である。
そしてこの世界の森はどこも人の手が入っていないようだ。
(ちゃんと管理すれば魔物の被害をもう少し抑えれると思うんだけど)
私達はトレントを探して鬱蒼と茂った薄暗い森の中を歩きだした。
歩きはじめて三十分程
私フウカは、林の向こうに不自然に動く樹を見つけた。
「ケイトさん、あれそうじゃないですか」
「えっどれ?」
「林の向こうで揺れてるやつ」
「多分、当たりだわ」
「奇襲を掛けますか?」
「そうね、そうしましょう」
私は槍を構える、ケイトも短剣を構える。
私達は林を一気にこえる。
そこには、トレントが8体いた。
私は槍で一番手前にいたトレントを横凪ぎに切り裂く、普通の槍なら少し傷が付くだけだっただろうが生憎にもこの槍は神特製の槍だった。
槍は豆腐でも切るようにトレントを真っ二つにする。
紫色の樹液が飛び散った。
そして次のトレントを貫き槍を引き抜くと、またしても紫色の樹液が噴き出した。
私は衣服を紫色に染め次のトレントへ走る。
ケイトは一本ずつ枝を切り落としていた。
そして短剣でトレントの顔と呼ばれる顔っぽい所を切り裂いた。
フウカが切ったトレントとは比べ物にならないような勢いでトレントは紫色の樹液を吹き出した。
そうして大量の紫色の樹体を飛び散らせながらトレントは、討伐された。
「以外と早く終わったわね。早く帰って服洗いたい」
「待ってください、まだ終わってないみたいです。」
林の中から新たに5体トレントが出てきた。
私は何も言わずに前を歩いていたトレント3体の顔を一振りで切り裂く。
トレントは大量の樹液を飛び散らせながら絶命した。
そのまま後ろを歩いていたトレントの1体を貫いた。
残りの一体は、ケイトに顔を切り裂かれて樹液を飛び散らせて絶命した。
「もう、終わり?」
「いえ、次は大きいです」
「ミシミシミシ、ズンッズンッズンッズンッ」
私の足元の地面が揺れた
「そうみたいね」
林の中から体長10メートルを優に超えるトレントが出てきた
「センチュリートレントね」
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センチュリートレント:樹齢百年を超えた大樹に魔力が集まって魔物となったもの、または百年以上の時を生きたトレントのこと。
その能力の高さからランクCに位置づけられているトレント
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「フウカ、後方支援をよろしく」
「わかりました。前衛は、お願いします」
私は槍を地面に突き刺し、背中から杖を取る
『風よ汝、我と我が友に疾風の如く飛ぶための翼を授けよ 疾風の翼』
私とケイトの背中に翼が現れる。
『大気よ汝、弓となりて鋭利なる風の矢を射て我が前のものを消し去りたまえ 疾風の弓』
私の手に風と魔力が集まって弓の形を作る。
私は杖を地面に突き刺し弓を引く動作をすると弦と矢が現れる、私は限界まで引き絞り、射る。
風の矢は真っ直ぐ飛びセンチュリートレントの顔に突き刺さり。
風の爆発によりセンチュリートレントの顔を吹き飛ばす。
紫色の樹液と木片が辺りに散らばる
ケイトが続いて次々と切りつける、切り口から樹液が流れだし地面を紫色に染める
更に矢を射る
トレントの幹が吹き飛び木片と樹液が飛び散る
ケイトが枝を切り落とす
紫の樹液が吹き出し、切り落とされた枝が紫の水溜まりに落ちる
すると急に樹液が吹き出すのが止まり、トレントの動きがスローになった。
「そろそろ最期みたいね」
ケイトは幹を深々と切りつける
私はまた矢を射ってトレントを折った
ボロボロになった化け大樹は自らが作った紫の水溜まりに沈んだ。
そしてトレント討伐終了後
私達は、ケイトが持ってきた鉈でトレントを解体していた。
ケイトがトレントを解体する所を横で見てわかったがトレントの顔だと思っていた場所の裏に紫がかった塊があった。ケイトが言うにはこれがトレントのあの動きを可能にしている心臓とのこと。
この心臓が地面から大量に水と養分を吸うポンプの役割を果たして光合成により樹液を濃縮することで大量のエネルギーと魔力を体内に貯蔵し、その樹液を利用して体を動かしているらしい。
簡単に言えば油圧式で動く大きな木だ。
顔より上は普通の木なのだ。
私達はトレントの枝を落として、顔の少し上で切断して束ねてトランクに入れる。
「はい、終わりー」
空はまだ青く日の傾き具合からして三時頃だ
「終わりましたね」
「さてっ、帰りましょ」
「そうですね」
私達は立ち上がり鬱蒼とした森の中を歩き出した。
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そしてまた三時間後
日が沈みかけた頃、私たちはアリシアの門に向かって走っていた。
閉門まであと十数分しかない。
アリシアまであと1.5キロという所、はっきり言ってギリギリだった。
私たちの横を商人の馬車が通り過ぎていく。
周りの走っている人は徐々に走るのをやめていき、野営の準備に入る。
それを気にせず私たちは門に向かって走った。
あと数百メートル
間に合わないかもしれない。
私たちはかなりの速度、日本にいた時ならこんな速度で走ることなんて不可能だった速度で走り続けていた。
きっとこれは転生によって得た体だからこそできているのだろう。
だがそれでももう限界が近い。
この速度で顔色一つ変えずに走るケイトがすごいのかこの世界の人の足が速いのかちょっと気になっている。
「間に合わない…」
「そうね、このままじゃ無理ね。フウカちょっと揺れるけど我慢してね」
ケイトは腰の短剣の鍔に埋め込まれた水晶球に触れる
そしてフウカを抱えて、速度を一気に上げた
「ちょっ、速い…」
「悪いけどもうちょっと我慢して、もうすぐ着くから」
門はもうすぐそこだった。
そして間一髪ギリギリで門を通り抜けた。
そのあとはまっすぐギルドに行って討伐証明部位を提出する。
討伐証明部位とは各魔物の特徴的な部位である。
トレントの場合は紫色の新芽だ。
それ以外にも牙であったり風切り羽で当たりすると言う。
オーガは角らしい
「はい、依頼お疲れさまでした。こちら報酬と素材の買い取り金額です」
「いつも、ありがとね」
「いえ、これが仕事なので」
「それじゃあ、また」
私達はギルドをあとにして宿に戻った