キューベレとリンとミーナ
作者:「お久しぶりです。作者です、水無月蒼次です。なんやかんや色々ありましたが諸々が一段落ついたんで更新します。おまたせしました!」
「主よ、そこな少年はもしかして妾への傀儡ですか?」
「キューベレ、こちらソウジ君。キューベレの率いる怪人軍団と戦う魔法少女だよ」
「しょ、少女?どう見ても男ですが、去勢して信者にしても?」
「ソウジ君、去勢されるって」
「いや、フウカさんそこは止めましょうよ」
「良いって」
「ではお言葉に甘えて」
キューベレの掌に黒い魔力が集まり、その手でソウジ君に触ろうと腕を振る。
ソウジ君は避ける。
「なぜ避ける?」
「いや、この前やっとこさ男に戻ったばかりだし、生理辛いし」
「去勢は女体化ではないぞ?」
「フウカさん!なんとか言ってください。俺、生理重い方なんで、もうあんまり女体化したくないんですけど!」
ソウジ君は連続して振るわれるキュベレーの魔力を避ける。
「別に、ソウジ君なら問題なさそうな気がしてます。それに、別に捕まらなければどうってことないでしょうし」
「こうなったらっ」
ソウジ君はいつもの薬を呷った。いつもどおり光り輝いてミーナに変身する。
「んな、な、自分で女になるなんてっ」
「ふふん、ミーナって呼んでね〜」
ソウジ君もといミーナは勝ち誇った顔で、肩にかかった髪を払う。
「なんて信心深い信者でしょう!貴女を私の側付きに任命します!」
「えっと……フウカさん?」
「主よ、信心深い信者を頂き感謝申し上げます」
「あ、敬語はいいですよ。そんなに敬われるとちょっとこそばゆいので」
「では主、感謝します」
キューベレは膝をついて頭を下げた。
「私のことは主なの?」
「主は私を作ってくれました。いわば母であり神、主と呼んで違いなし」
キューベレは豊かな胸を張ってそう言った。
「まあ、いいですけど」
「ミーナ、この家を案内しなさい」
「フウカさん、キューベレはどこで寝てもらいますか?客間ですか?それとも談話室か壱なる門か……」
「妾は主の部屋の床で十分です。主よー、どうか妾を置いてくだされ」
「あーその問題がありましたね。キューベレ、私のベッド使いますか?私は暫くケイトの部屋で寝るから」
「そそ、そんな妾の為に主がベッドを立ち退くなど許されません。妾にベッドで眠るよう申されましたら妾はミーナのベッドを使いますゆえ」
「客間使ってもらえばいいじゃないですか。アデルさんも帰って、ソフィアさんも帰ってちょうど誰もいませんし」
「妾が客など、滅相もありません」
「フウカさん、キューベレが萎縮してますが、何かしたんですか?」
「んー、思い当たる節は……アレかな?キューベレ」
「はい、主、なんでしょう」
「あり」
「妾は床でも外でも良いのでどうか置いてくだされ!!」
「がとうって言ったら消えるの自分でわかってた?」
「へ、あ、はい……申し訳ありません。契約内容がこうして刻まれておりますので……」
キューベレが瞳を見開くと、瞳に濃紺の魔法陣が明滅する。
私は空間魔法で即席の拡大鏡を作って、観察する。
「ふむ、これは私の呪文に対応した魔法陣なんでしょうね。知識によれば神界の言語で書かれているようです。『召喚対象名:怪人女王キューベレ 属性:怪人 役職:女王 付属:神杖 技能:支配、眷属創造、魅了、女性化、傀儡 概念優先度:下級準異世界放浪者 動力:魔力、慈悲
動作:即効、半永続 効果:対象を召喚・維持・支配 終了条件:発動者の謝辞 発動者:転生者フウカ・アリシア』って書かれてますね」
私は用済みになった拡大鏡を削除する。
「どうか妾に謝辞を与えないでくださいまし!」
キューベレは五体投地で拝んでいる。
神をモチーフに作ったのに崇められるとはなんとも不思議な状況です。
「キューベレにお礼を伝えたいときってどうしたらいいんだろ。言ったら消えるよね?」
私はふと生まれた疑問を口に出した。
今までのデモニックオーガやオゥボウなら人語を介さなかったし、怪人としての機能以外に持っていなかったから感謝の言葉は死刑宣告の意味しかなかったのだが、キューベレは人並みの知恵を持つからそうもいかなくなったのだ。
「うぅ……謝辞と言うのが言葉なのか意味なのかもわかりませんし……」
「例えばハンドサインとかは?声に出さなければ消えないんじゃないかな?例えばgoodサインとかさ?」
私はサムズアップサインを作る
「ぐっど?」
「んー、グッドは良いねって意味かな。うん、やってみるよ?」
「ひぃっ!あ、あ、主!もしも消えそうになったら中断できるんでしょうか!」
即座に立ち上がったキューベレは、転がるように部屋のすみに逃げた。だが残念なことにここは二階だ。
「消えたらもっかい作るから安心して?」
「安心できません!!」
「ほら、怖くない怖くないよ?321で行くよ?いい?」
私はグッドの準備をした。
「いや、良くないです!」
「そっか、じゃあ仕方ない『命令です、見てて下さい』
召喚魔法による、支配の効果でキューベレの目が見開かれて固定される。
最悪新たに作ればわかるまい。
「サーン」
「って聞いてない!ひぃっ」
キューベレは部屋のすみでしゃがみこむ。
しかし視線は私の手に釘付けだ。
「にぃー」
「あうぅぅっ」
続いて耳をふさいだ。
「1、ハイ!」
私の渾身のサムズアップが炸裂した。
「うぅ……消えてない?」
「みたいですね『戻ってよし』
私は支配を解除した。
「キューベレ、今のは良かったよ」
私はもう一度サムズアップのハンドサインを出す。
「あ、あるじぃ〜怖かったのです…消えるかと思ったのです…」
キューベレが私の腰にひしと抱きついて泣きじゃくるので、今後こう言う実験はキューベレではなく量産型のデモニックオーガで行おうと心で誓って、泣き続けるキューベレを抱きとめた。
「お母さん、そちらはどなたですか?」
リンがじぃっとキューベレを見ていた。
「リン、この子はキューベレ。怪人女王だよ」
「怪人と言うことはお母さんの実子ですか?」
「そうなのかな?」
私はキューベレを見る。
「妾を作ったのは主ですから、母と呼んでも変わりないかもしれません」
リンがじぃっとキューベレを見る。
「な、なんです?」
「お母さん、リンは今とても微妙な気持ちなのです。例え文字通り作られた怪人でも妹ができたのは嬉しいです。でも妹の方がリンより大人な見た目なのは、なんか嫌です!」
「えっと、この子が妾のお姉さまになるんですか?主?」
キューベレが訝しげにこっちを見てくる。
「キューベレ、この子は私の娘のリン。キューベレが私の子に当たるとするなら、キューベレのお姉ちゃんになるのかな?」
キューベレは少し考える素振りを見せて口を開いた。
「えっと……リンお姉様?」
「(むぅ……)リンの事はお姉ちゃんって呼べばいいです」
「お姉ちゃん、お姉ちゃんはおっぱいが嫌いですか?」
キューベレはとても真面目な顔でそう言った。
「嫌いではないですが、大きすぎるおっぱいは癇に障ります」
「こんな妹は嫌いですか?」
「べ、別に嫌いという訳では」
キューベレの悲しげな上目遣いのダメ押しが反則級にリンのお姉ちゃんな庇護欲とお姉ちゃんに見られたい承認欲求のスイッチをぶち抜いたのは、契約で繋がっている私には当然手に取るようにわかった。
まあ、契約がなくてもわかったと思いますが……リンはやっぱり可愛いな〜
「嫌いではないです。むしろ……(妹ができて嬉しいです……(ボソッ」
「お姉ちゃん、よろしくおねがいします」
リンはともかく、キューベレまで可愛いなと思ってしまう私は親バカなのでしょうか?
「……そう言えばフウカさん。魂魄の演算領域の容量がいっぱいだから、これ以上自立思考型の眷属は持てないって聞いてたんですけど、キューベレって完全に自立思考型ですよね。怪人って確か、フウカさんの魂魄の演算領域と繋がって反応を返してるんですよね?なんか変じゃないですか?」
その話をしたときソウジ君は居なかったと思ったけど、誰に聞いたんだろうか……
『この子の演算領域はフウカの中にはないわよ?魂の系譜……まあ、アカウントで紐付いては居るけど、見た感じは知能のある魔物と同じ出自の魂魄が内包されてるっぽいし……フウカが作ったキューベレはただの怪人じゃなくて立派な生物って事になるかな』
脳内会議でアイーシャさんが考察を教えてくれる。こう言う話ではアイーシャさんに聞くのが一番ですね。
『生物を創ったって倫理的にマズイんじゃ』
そこに何気に常識人のルミさんの感想が挟まってから
『そんなに目くじら立てなくても、現代日本でも技術的にホムンクルスやクローンや遺伝子改造種の作成は可能だったし、人物の複製は人権の問題で国際的に禁止されてたけど、キューベレはクローンじゃなくてオリジナルだからセーフでしょ』
現代日本の話を踏まえるメイさんの解説がくる。
『そういう事だからゴブリンやオーガ並みには大事にしないとだめよー』
でアイーシャさんがまとめる。
脳内会議の役割分担もだいぶ板について来たと思う。
「(ゴブリンやオーガ並みに大事にって、殺してギルドに売れって事かな……)まあ、なんかキューベレはゴーレムとかと違って自前の魂が入ってるみたいだから一人の人間として大事にしないとね」
「へー、生物と無生物で判定が違うんですね。じゃあキューベレには空いてる客間使ってもらいますね」
「じゃあキューベレのことはお願いしますね?」
「ミーナのことはお任せあれ」
キューベレが胸を張る。
「はいはい、キューベレも行きますよー」
「おう、参ろうぞ!」
まあ、あっちはたぶんミーナに任せとけば大丈夫だと思う。
さてと忘れがちではあるけれど、今は戦前だ。その内始まる戦争に備える必要がある。そして国王陛下から任された仕事である転移門設置はまだ2/3が未着手なのだ。
正直疲れるし大変だからやりたくないけれど、やらざるを得ないのだ。
それをどうにか楽にできないかと、私は頭を悩ませている。
『ふむ、確かにあの作業は大変だ。ソウジの時間操作の補助があっても二人で国中回るのは無理があるし、時間もない』
ルミさんの感想は最もだ。海浜領だけでもあれだけの労力がかかった。
『いくら移動速度が他に比べて早いとは言え、ここから王都まで数時間は掛かるし、現実的ではないですね』
メイさんは、澄ました顔でそう言った。メガネを掛けてたらフレームを左手で持ち上げているだろう感じだが、メイさんはメガネを掛けていない。
『そうね~、ゲートを作る魔法を水晶球にしたら?』
アイーシャさんは立ったまま、腰に手を当てて言う。
『それをするとフウカのチート魔法が流出しちゃいますよ?』
メイさんは当たり前の事をと言いたげだ。
『機能制限をつければ良いじゃない』
『それだと汎用性が下がりすぎて意味ないですし』
脳内会議ではいつもに比べれば低次元な内容を話していた。
『フウカが分身できれば良いんだけど』
メイさんは私がそっくりそのまま十数人に分裂すれば良いと考えてるようで……
『分身ってそんな無茶な』
それに対して、これならわかるとルミさんが珍しく議論に意見する。
『んー、できなくはないかも?』
アイーシャさんはこめかみに人差し指を当てて、そう言った。
『できるの!?』
すかさずルミさんが反応した。
『ほら、ちょっと前にソウジ君が生理で死んでたときにさ?温泉で溺れて竜にスワップしたでしょ?アレを使ってフウカの意識を眷属にスワップさせれば移動の短縮もできる』
『それ、空間魔法で十分だと思います。作業工程が変化してないし』
アイーシャさんの意見はできるだろうけど、意味がないと一蹴された。
『でも、それってさ?私達が肉体を持って外に出て手伝えるって事はまんま4倍にならないかな?』
ルミさんの意見は人海戦術のようだ。
確かに空間魔法さえ使えれば誰でもできる内容だし、ルミさんたちに手伝ってもらえば大幅に楽になると思う。
『私は空間制御は元から使えるから良いけど、あなた達まで空間魔法が使えるかは未知数よ?アカウント的にフウカちゃんに紐付くのか旧アカウントデータが参照されるのかわかんないし』
と言うのはアイーシャさんだ。やはりそんな都合のいい話はなさそうだ。
『あたし、バカだからそういう難しいのってよくわかんないや。うーん、ならさ?一気にやるから大変なんだろ?一日何箇所って決めてさ?ちょっとずつやれば良いじゃん』
それができないからどうやろうかって悩んでるんですけどね。
『戦争までもう猶予がないから急いでるんでしょ』
メイさんは今回の議論は当たり前の事が抜けた話が多いからかイライラしている。
『いや、ほらさ?時間はソウジに言って無限に拡張するなり、無限にループするなりすれば良いじゃん?週休二日でも3日でもすればいいんだよ』
ルミさんが難しいこと言ってる気がした。
『どういうこと?』
『だからさ?明日を仕事の日って決めたとしたら明日は仕事をする。そんで一日休んで明日に戻ってまた仕事をする。終わったら元の時間に戻ってまた休む。ってすればさ?実質働くのは一日だけで日数を分割してってできるじゃん』
『確かに、でも元の時間に戻るのって大変よ?』
『そこはソウジ君の魔法にテコ入れして時限式で往復する魔法にすればいいじゃないですか』
なんかいつになくルミさんの意見がクリティカルだった。何かおかしな物でも食べたのかもしれない。
「それで行きましょうか」
『よしっ!』
『珍しい、ルミが体動かす以外でまともなこと言ってる』
『明日は槍が降るかな?』
いや、そもそもそこには天気なんてないでしょうに。
と言うことで、私の転移門設置の方針はそのように決まった。
なにはともあれミーナと相談しなければ話が始まらない、ミーナとキューベレが戻ってくるのを待つことになった。




