母なる魔女
作者:「お久しぶりです。就活があまりに上手くいかなくて、ヤケクソになって更新しました」
レン:「売り手市場で人が溢れてるらしいもんね。君みたいな社会不適合者なんて買い手市場でも貰い手いないんだから無理無理」
ジン:「新卒は普通に就職できるって聞いたんだが?」
作者:「不景気だからね」
オンナオトコ事件が終結して性転換から開放された翌朝、ケイトは戦場の華の指導員の仕事があると朝から出かけている。
どうもソウジ君にはオンナオトコが相当堪えたらしく、展開を早めてV作戦を完遂しようと考えたらしい。
と言うことで私もソウジ君の意見に賛同して、作戦をフェイズ2に移行することにしました。
フェイズ2って言うのは単にカッコいいからそう呼んでるだけで、要するに黒幕を明かす段階だ。
私の代わりに黒幕としてソウジ君に討伐される怪人の生みの親となる存在をキューベレと名付けた。
理由は簡単で、生みの親と言う意味で地母神の名前としてキュベレを引用したはいいんだけどそのままだと芸がないから、文字ってみた。
で、そのキュベレは私が想像した黒幕衣装。ソウジ君の魔法少女服よりもっとシャープかつゆったりとするように裾を伸ばして、クリノリン……要は骨組みを取っ払った黒いロングドレスの要所要所にアクセントで深緑をあしらう。
魔女と言えばとんがり帽子と杖だと思うからそれも作る。
「フウカ君、安直だよ……もっとズレた魔女でもカッコいいと思うんだよね」
「例えば?」
私は参考までにレンのアイデアに耳を傾ける。
「例えばさ?スカートは強化ポリカーボネートをプリーツ状に折りたたんで構成してさ?腰部に武装拡張用ジョイントパーツを装備させてさ?腕部装甲にはダイヤカーボンとアラミド繊維を採用して」
「魔女って言うよりロボ?」
「魔女だよ〜戦場の魔女。主兵装はVSSヴィントレスとソードオフショットガン、サブでククリナイフとソードブレイカーを操るマルチアタッカーなんてどうよ?メカチックでミリタリーでカッコよくない?」
VSSとはソ連が制作した中距離狙撃銃で、大型サプレッサーと亜音速弾によって消音性能を高めており、10発装填のマガジンを基本として、20発装填のマガジンにも換装可能で、フルオートでの連射機能を有する。
『カッコいいかも!』
『ショットガンだと片手で使えないので、スピンコック可能な物ですね。ソードブレイカーはエリアスでは強いですよ?オススメです』
『腰部ジョイントパーツに武器とか装甲の格納用のバインダーを付けましょ。ジャコッて出るやつ。いっそ羽みたいに背負うのも良いわ』
脳内会議の面々も何故かレンのアイデアで盛り上がっている。
「いや、不採用ですよ。それもはや魔女じゃないですもん」
私がはねつけると、今にもブーイングが飛んできそうな雰囲気が充満した。
「ちぇ、カッコいいと思うんだけどな〜」
レンは渋々、創り出したVSSヴィントレスを虚空に消す。
私は再び、キューベレの設定を練る。
コレはある種のお芝居だから設定を作り込むのは重要なことです。決して、楽しいから考えてる訳ではありません。
「怪人を生産可能な能力を与えて、他に何か……キュベレって言うとライオンを従えてるイメージで怪人の親玉としてはピッタリなんですが、他のイメージが湧かないですね」
「武器は王笏なんてどうかな?王笏を振って魔法を使って、地面から怪人を生み出したり、生み出した怪人の能力を奪って使うとかどうかな?」
「王笏って言うと、先端に王冠がついてるやつですよね」
「そうだよ、宝石とかの場合もあるけどね。概ねそれらしい宝飾のついた杖だよ。フウカ君のスタッフも形だけは王笏に近い物ではあるけど、王笏の本質は王位を証明するって点にあるからフウカ君のスタッフとは別物だよ」
「それで、なぜ普通の杖じゃなくて王笏にするんですか?」
「王位を証明する魔導具だよ?その場に自分の支配領域を作って、空間に影響を及ぼすとかカッコよくない?それに怪人の女王であることに変わりはないし、女王に相応しい杖は王笏でしょ」
「特に理由なしと……でも他に武器の案はないので採用します。うーん、地母神、魔女、怪人、なんというか、物足りないですよね」
『キュベレと言えばキュベレ信仰の聖職者は儀式の末に去勢を施して女性として過ごす男性が任命されるんですよ。去勢する儀式を施して相手をコントロールするなんてどうでしょうか?』
「それは……たしかに怪人っぽいかも。採用!」
「そう言えばフウカ君、そろそろ相転移門の設置に行かないとまずいんじゃないかな?」
「そうでした。そっちもありました……でもコレは完成させとかないと後がつかえるから」
「僕はフウカ君の好きにしたら良いと思うよ」
「では遠慮なく」
私は契約を行使して、神具の杖を召喚する。
まもなく、いつもの杖が光を伴って手元に出現する。
握り、詠唱のために握ると魔石を包み込んでいた黒白の双翼が開かれる。
「お、本気だね〜」
『汝は深淵より出る混沌の魔神、汝は混沌より生み出されし怪物であり、その女王なり。その御手の握りし神杖の一振りで下僕は平伏し、その御手の一振りで大地より混沌の怪物を生み出し、その肢体はあらゆる雄を魅了し、その性器を奪うことで従順な信者とし、その眼光は自らの下僕を意のままにする。』
特徴の提示は終わった、次はその稼働条件の提示。
『汝の糧は我が魔力と慈悲、我の力許す限り我が現し世に在ることを許そう。我が許す限り汝は我に与し現し世に在り続けることを命じる。汝、我が魔力を糧に直ちにここに顕現せよ 怪人女王キューベレ』
私から濃密な魔力が杖を流れて空中に濃密な魔力の塊が溜まって肉塊になっていく。
「あれ?前より上手くなった?」
「今回は魔力を惜しみなく使ったことで質量が足りてますからね」
肉がボコボコと蠢いて、その質量を増やして、骨を作り筋を作り、徐々に人の形になっていく。
「じゃあ、レン。あと見といて下さい。私は相転移門の方に行きますので」
「はいはい、なんかあったら電話すればいいよね?」
「そうしてください」
そして私はエネシスへと転移しました。
▲▽▲▽▲▽
私はミゼリアさんのお屋敷の執務室前に直接転移した。
最近はもう、玄関前から歩く事も珍しい。
ドアを3回叩いてから、要件を告げる。
「ミゼリアさん、始めますよ。海浜領ネットワークを完成させます」
「フウカちゃん、一応、コレでも私は貴族なのよ?ノックのあと返事が来るまで待ってくれるのが普通じゃないかしら?」
「実際に働くのは私で、ミゼリアさんは実際居ても居なくても変わらないので、そのまま続けて貰って大丈夫ですよ。陛下の書状もあるので、問題ありません」
「一応、海浜領の今後が関わるから見届ける義務があります」
「完成後でも十分ではありませんか?」
「フウカちゃんがもしも今後揉めたときに備えて何か仕掛けないとも限らないから監視です」
「それはご苦労さまですね」
そんなこんなで私とミゼリアさんは予定地に着く。
そこではソウジ君“達”と同数の私が並んでいる。
「ソウジ君、協力ありがとうございます。お礼はしっかりしますね」
「いいですよ、居候ですし」「いや全然大丈夫ですよ」「俺とフウカさんの仲ですし」「いつもお世話になってますし」「V作戦の方でお手伝いしてもらってますし」「もらえるならもらいますけどね」「このぐらい朝飯前ですよ」「でも帰ったら決めた時間に戻る魔法は水晶球にしましょうよ」「イチイチ唱えるのダルいんで」
8人のソウジ君“達”は口々にお礼を述べてくる。
「さあ、私“達”もお仕事ですよ!番号ーっ1!」「2っ!」「3です」「4番です」「5ですよ」「6周目」「7周目ー」「8です」「9、さっさと始めましょう」
「じゃあそれぞれの水晶球を持ったらそれぞれ始めてください」
私はトランクからマーキング水晶球と対になる水晶球を入れた藤色の箱をつ作り、2番から9番までの自分に配る。
「じゃあ、ミゼリアさんは暇なら繋がった相転移門の確認をお願いします。無理なら結構です」
私は箱に入った4つの水晶球を手に取った。
「まずはシーゼリアですね」
箱から手に取った1と刻まれた水晶球に魔力を流すと、藤色の光の糸が西の方に伸びて私を光の繭のような物が包んで、空間を跳ぶ。
光の繭が消えると私は見知らぬ土地の空き地に降り立っていた。
書状で私が水晶球を建設予定地に置くように指示したから当たり前ですが。
もしも人が繭と半端にぶつかっていたら、その人間は空間の入れ替えによって、繭とぶつかった分の質量がエネシスに飛ばされて、当たりどころが悪ければ即死だったでしょうね。
「まずは領主に挨拶して、場所を確認して開通。近隣の村に行って村長に挨拶して、場所確認して開通。を×3か……それを×残り8回。はぁ、やりますか」
私は一番大きな建物の戸を叩いた。
「ごめんください、ヴィンス陛下の命で転移門の開通に伺いました。フウカ・アリシアです。領主様はいらっしゃいますか?」
すると後ろから「はーい、少々お待ち下さーい」と気の抜けた男性の声が聞こえてきた。
振り向けばつなぎを着た男性が庭の隅の土をひっくり返していた。
男性はスコップを土山に突き刺して、こっちに歩いてきた。
「えー、こんな格好でお迎えしてしまい大変申し訳ありません。シーゼリアで自治を任されております。ヴィルム・シーゼリアと申します」
「いえいえ、こちらこそ突然の訪問で申し訳ありません。つかぬことを伺いますが今していたのは家庭菜園の土壌改良ですか?」
「ええ、その通りです。シーゼリアは何せダルカス共和国との国境に近い規模大きな街なので、中立的立場のダルカスとの国境とは言え、戦時中に疎かにするわけにもいかないので派兵することは難しく……」
ここから、前線となる境界の平原まで、山脈を迂回する都合、連結馬車でも三週間は掛かる。その間に何千人の兵士の生活を支える物資を用意し、それらを運ぶ馬車を用意し、魔物の跋扈するこの世界を三週間も移動することは難しく、開戦前に疲弊は必須だ。
「代わりに物資の献上を言い渡されておりまして……」
私がヴィンス陛下から相転移門ネットワークを作るように言われた理由も物資と兵士の移動の為だ。
「昨年は不作でこそありませんでしたが、豊作とも言い難かった上に今回の物資援助で来年の食料が少々心もとなく、住民にも苦しい生活を強いることになるので、領主である私共も多少自給して、税を下げようかと考えまして」
「そうでしたか大変ですね。ネットワークが完成すれば、食料不足も解決するかもしれませんね。ではさっそく、設置地まで案内をお願いします」
「はい、コチラです。既に設置地の設営は終わってますから、後は置いてもらうだけです。交通の管理なんかは交易の街なので、任せてもらって大丈夫です」
「重要な軍事施設でもありますので管理には注意してください」
「ええ、それはもちろんです。ここです。そこの枠の中にお願いします」
設置地の地面にはレンガが敷かれ、私の要望を満たして三面の壁と屋根を持つ堅牢な門が作られていた。
「手紙にあった要素は最低限用意しましたが、これでホントに大丈夫ですか?」
「ええ、問題ないでしょう。では設置します『我、空間を繰る者。我が意志の元に空間を超えて穴を穿て、その糧は此の地と彼の地の魔の力、その使命は旅人を送る方舟、その使命尽きる時まで彼の地と此の地を結びたまえ ゲート』
私のイメージのとおり、小屋の壁に魔法陣が浮かび景色が渦巻いて、ドリルで穴を掘るように小さな点から大きな穴が開いた。
魔法陣が自動的に周囲の魔力を吸って動き続けている。
「ふぅ、こんな具合です。ちゃんと開通してるかは見ればわかりますね。ではエネシスの方の位置を確認してもう片方も設置しちゃいますね」
コレを一人で5回した。その後も何周かして海浜領を駆けずり回った。
ソウジ君の魔法のおかげで数分の一の時間で完遂できたが、純粋に数が多く手作業でやらざるを得ないためなかなかに労力がかかる。
コレをあと2回、繰り返すと思うと大変だ。
▼△▼△▼△
「ほら、キューちゃん、おかわり」
一段落ついてソウジ君と家に戻ってくると、にこやかに笑い手を差し伸べるレンと
「念の為、念の為言っておきますが、妾はコレでも怪人を統べる女王なのです。こんな畜生扱いを受ける謂れは…」
ムスッとしてレンの右手に左手を乗せる怪人女王が居た。
「キューちゃん、おかわり」
「わ、わん……いや、コレはお前なんかに屈したわけではない!妾が付き合ってやっておるのだ、この変態め!」
レンがこっちを見る。その瞳は蘭蘭と輝いていて、まるで新しい玩具を貰った子供のよう。
「あ、フウカ君おかえりー。キューちゃん完成したから遊んであげてた所だよ?」
「ちちがう、妾が遊んでやっておるのだ!」
慌てて立ち上がった黒衣の魔女は言うまでもなく完成間近にレンに任せたキューベレだろう。
「キューちゃん、おすわり」
「創造主よ、コレは別に屈したわけではないのだ」
と言うが、キューベレは即座に犬のように座っている。
「妾は断じて犬畜生などでは」
「キューちゃん、お返事は?」
「わん」
「お返事できるね、偉いねー」
レンはキューベレの頭をワシワシ撫でる。
「お前なんぞに撫でられても嬉しくないわ」
「キューちゃん?僕は神だよ?そんなこと言って良いのかなぁ?ホントにワンちゃんにしてあげようか」
「わ……ワンワン!」
キューベレは仰向けに転がって服従の姿勢を取るに至った。
「フウカさん、アレなんですか?」
「怪人女王キューベレ、キュベレーを元ネタに私が作った怪人の親玉です。完全に調教されてますけどね」
「べべ別に調教されてなんていません!主よどうかこの変態を遠ざけてくださいまし!」
「仕方ないですね。レン、遊びの時間はおしまいです」
「そうなの、フウカ君は忙しいねー」
「あまりキューベレを性欲の捌け口にするようなら。去勢するほかなくなりますよ?」
私は槍でレンの股間を突き刺した。
「ふぎゃー、僕じゃなかったら不能になってるところだよ!」
「中もかき混ぜましょうか?」
「はいはい、フウカ君は冗談通じないんだから。キューちゃんまた遊ぼうねー」
レンは姿を消した。
「主、凄い。あの変態を簡単に撃退した!」
「キューベレ、変なことされませんでしたか?」
「危うく犬にされるところでした。神とはたちの悪いものですね」
こうしてキューベレが誕生した。




