元旦一周目
「全く、なんてていたらくですか。全然進まないなんて…」
私たちはアリシアとエネシスから方々に指示を飛ばしてもらい、一度アリシアに戻ってきた。
なんだかんだ言っても元旦の昼時、町は全体を通してお祭り騒ぎで、一部の人間が元旦なのに代り映えしない仕事にうんざりみたいな顔をして従事している。
「フウカさん…そんな元旦に働いてる可哀相な人達の中でも特にうんざりみたいな顔するのやめてくださいよ…目立ってますよ?」
「ソウジ君、人の考えてる事を一言一句違わず言い当てるのは失礼ですよ?」
「そうですね、一番ではなく人並みにですね」
私達はお昼をどうにかしようと繁華街を歩いている。
「それで良いですよ…にしても混んでますね」
「まあ、知っての通りここは貴族街と庶民街の中間に位置していて、今は一番活気のある通りだからね。人が集まるのは当然かな」
なんだかんだでこの町の住民は祭り好きだとよくわかる。
「この調子じゃお昼は帰らないと無理ですね」
「まあ、留守番組も待ってる訳だし。一回戻れば良いでしょ?」
留守番組…まあ、要するにリン・エル・涼の二羽一匹の事だからその気になれば人具で呼び出す事は可能。
他に待ってるのと言えば、ソフィアさんだ。
「それになぜかソフィアがまだ家に居るのよね~別に何時まで居ても私は構わないけど、あの子…元旦はニュー"いゃぁあぁぁーー"フェスで店が忙しいって去年は言ってたけど、今年はニュー"イヤァァーッ"フェスやらないのかしら?」
「あのケイトさん…会話の節々に入る断末魔で内容が入ってきません。なんでイヤーをそんな断末魔っぽく言うんですか?」
「だって"イァアァーッ"ってそう言う物でしょ?」
「yearは英語で、日本語…日本語?エリアス語…ゼレゼス語?まあ、翻訳すれば年って意味ですよ。newは新しい、つまり新年です」
「へぇー、普通に新年祭じゃダメなの?」
「まあ、日本語で言うならそうなりますね…」
「ニホンゴ?ってどこの言葉?」
「そうでしたね…私達のレン印ボディーには自動翻訳が備わってるんでしたね…」
「ジドーホンヤク?フウカたち普通に喋ってるじゃない」
「そうですね、私達はこの辺の言葉を話してるつもりはないんですよ」
「ふーん、要するにフウカとソウジ君の母国語が日本語ってことでそのレン印機能で私達の言葉も日本語に聞こえてるわけね?」
「はい、そうです」
「ま、便利だし良いでしょ…あの神様が作った物で散々な目にあった事はあれど失敗してまともに動かなかった事はないんだし」
「あ、じゃあ今から月光の竹林亭のそのニューイヤー」
「違う違うニュー"イヤァアァァー"よ?」
「ニュー…"イニャーー"フェス」
「だから"イアァーッ"よ。もっとおどろおどろしい感じで」
「ニュー"ミュニャァッ"フェス」
「ソウジ君、わざと猫の真似してませんか?」
「してませんよ?真剣に猫の真似してます。まあ、今から行ってやってるか見てくれば良いじゃないですか」
「やってたらどうするのよ?」
「お昼は月光の竹林亭にして、ソフィアさんには改めてニュー"イヤァァー"フェスの事を話してみる。やってなかったらそれはそれで家に帰ってソフィアさんにやってなかったことを話す」
「そう、それよ!"イアァァーッ"よ」
「いや、そこはどっちでも良いんですけど…良いですね」
「でしょ?やっぱり"イィヤァァーッ"でしょ?」
「ケイト、ちょっと黙ってて下さい。お昼は月光の竹林亭にしましょうか。ソフィアさんのお仕事の方も気になりますし」
そして私達は月光の竹林亭に寄ってみた。案の定、店は不思議なことになっていた。
「えっと…ハロウィンは何ヵ月か前にやりましたよね?」
店はハロウィンさながらのアンデッドな装いをしており、カボチャ祭りだった。
「なんですかこれ?」
「そりゃ"イィーアァァーッ"って泣き叫ぶ声を表現してるからよ?怖いものって言ったら武装したスケルトンやゾンビ、ゴーストとかレイスでしょ?」
「年始めから不謹慎ですね~」
「年始めだからこそ油断しないようにっていう習わしよ」
「スケルトンにしろゾンビにしろそんなに驚異じゃない気がします。脚は遅いし、体は脆いし、魔法も使えなければ動きも遅い、案山子同然じゃないですか」
ソウジ君は店先の装飾の案山子の鼻を突いて
「さ、混んでるけど入りましょう」
ソウジ君は案山子にビンタすると扉を開けてスタスタ入っていった。
『五人と一匹なんですけど、食堂の方って席ありますか?』
『はい、ご用意でき次第随時ご案内致します。そちらのwaiting boardに名前と人数を記入して暫くお待ちください』
『あはは、見てませんでしたすみません』
その暫くあと、ソウジ君が出てきた。
「ケイトさん、ちょっと自信がなくなったので字が間違ってないか見てもらえますか?」
「ヒアリングとスピーキングは体の補整でできても文字まではカバーしきれないもんね」
「フウカ、列並んで待っててね?」
「待ってますよ~」
再び、二人が入っていく。
『なにこれ、ソウジ君字下手ね~』
『リーディングはできてもライティングができるとは限らないんですよ!』
『はいはい、帰ったら書き取りの勉強ね?』
そしてさらに十数分後私達は中に通された。
「はぁ、流石に冬ですね。手が冷たいです」
「手袋ぐらいつければ良いじゃない。今のフウカなら純金製の魔法の手袋とかでも余裕で買えるでしょ?」
「まあ、そうですね。でも正直あんまり必要性を感じないんですよね」
「っていうと?」
「ポケットに手を入れればいつも極楽なので」
「へー、そうなの?ちょっと入れさせて?」
「良いですけど、この快適な食堂で態々ポケットに手を入れなくても良いと思うのは私だけですか?」
「それもそうね」
そう言いながらも隣に座ったケイトは私のポケットに手を突っ込んだ。
「あ、ホントに暖かい」
「それよりリンちゃんたち呼ばなくて良いんですか?涼は既に…」
視線を下ろすと涼さんがウネウネしていた。
「…マズかったか?」
「いや、リンちゃんたちも呼んできて欲しかったなって」
「リンはまだしもエルはこの店には入らんだろ~」
「いや…当然、変身してだよ。と言うかお前もできれば人型に変身してくれないか?」
「んー…、頭が九つある人間でもいいか?」
「ダメに決まってるだろ?そんな怪物」
「頭が九つある人間…まんま読むと九頭人間になっちゃいますしね」
「ダメか…多頭生物の悩みの種だがどうやっても、頭の数は減らせないからな」
涼さんは少しガッカリしたみたいで、控えめにウネウネしている。
「じゃあ、そろそろ呼びますね」
正直、店内はハロウィン風、店員もアンデッド仮装だから涼の九頭人間でも目立たないかもしれないとか思いつつ、いつも通りに二人にテレパシーを送る。
「はーい、お昼ご飯ですー」
まずは床に展開した白い魔法陣からリンが飛び出してくる。
「我も~」
そしてそれにくっついてミニ体のエルが飛び出してくる。
「エルさん」
「なんだ?」
「人型に変身してください」
「嫌じゃ」
エルはケイトの膝の上に乗るとそっぽ向いて丸くなる。
「だいたい我が人型にならないのには理由がある」
「その理由は?まさか頭が増えるとかじゃないですよね?」
「まさか、ミニ体だとお腹一杯食べられるからだー」
エルはどや顔で言い放ったが内容はしょうもなかった。
「はぁ…もう好きにしてください」
「ふ、我の勝ち~」
エルさんはミニ体でちんまりした見た目で得意気だった。
そして私達は暫くメニューを眺めてから…手を挙げる。
いくら高級宿屋の食堂とは言えど、流石にこの世界にはピンポーンとなるアレなどは存在しないから、店員を呼ぶときはベルを鳴らして手を挙げる、より大衆的な店なら「すみませーん」+挙手しかないのだ。
『はい、注文お伺いします』
注文を取りに来た、ソフィアさんをじっと見る。
ソフィアさんはゾンビメイクだった。
「なんだ皆さん結局来たんですか?」
「結局?」
「はい、二周目?の時に一緒に朝まで戻らせて貰って、そこでお昼はソウジ君が作るって言ってたので」
「あ、私達は一周目です」
「一周目?」
ソフィアさんはなんのことやらって顔なのでソウジ君に視線を向ける。
「ソフィアさんは一日過ごしてからタイムリープして仕事してるでしょう?」
「はい」
「過ごした一回目の元旦が一周目です。恐らく、俺の魔法で朝に戻る前にソフィアさんは俺達とお昼を食べたんじゃないですか?」
「はい、食べました。美味しかったです」
くつろいでるな~
「で、俺の魔法で朝に戻った時点からソフィアさんは二周目の元旦を過ごしてる訳です」
「な、なるほど?それでソウジ君たちは?」
「まだ一周目です」
「よくわかんないですけど、とりあえず注文取りますね」
「オススメ一つ」
「旬の魚料理と旬の魚の炙りかムニエルそれぞれ二皿で!あとご飯一皿」
「リンは、お肉食べたいな…今日は豚の気分」
「我は牛がいいな、ハンバーグにしてくれ」
「私も牛、シチューにして?あとパンつけて?」
「はい、大雑把な注文承りました。また追加注文あったら呼んでください」
ソフィアさんはメイド服で所狭しとならぶテーブルの間を抜けていった。
「大変そうですね」
「大変だと思いますよ?」
「なんか二人ともやけに実感が籠ってるわね?」
「昨日、実際に体験してますからね?毎日やるとなると大変だと思います。俺は無理ですね」
「私も一週間バイトしましたけど、大変でしたもん。途中で過労で倒れちゃって迷惑かけちゃいましたし…」
「確か収穫祭の直前でしたね。あのときは俺も心配、心配?…してなかったな。ハンバーグに必死で…」
「ソウジ君、私も女の子なんですよ?少しぐらい優しくしてくれても良いんじゃないですか?」
「フウカさん、俺に優しくして欲しいんですか?いや、やりますけどね?」
「んー、考えてみれば別に要らないですね」
「嘘でも、欲しいって言って欲しかったですよ…」
「ケイトが優しくしてくれますから」
私はポケットに入ってるケイトの手を握る。
そして獣魔の陣営からエルさん・涼さん・リンの順番で
「ソウジよ、お前に勝ち目はないぞ?」
「お主にフウカさんの相手は務まらんぞ」
「うーん、ソウジさんはご飯美味しいし色々便利だけど…お父さんとしては見れないかな♪」
ときて最後にケイトが
「そうよ?フウカは私のなんだからね?たとえソウジ君でも譲らないわよ?」
「まあ、俺もフウカさんにはケイトさんとよろしくやって欲しいと思うので構いませんが…少しぐらい仲間として頼られたいですよ~」
「頼ってますよ~?私の胃袋はソウジ君に支えられてるので!自信持ってください」
リンがソウジ君に優しい目で
「ソウジさん、メッシーとして認められたね」
一周目の元旦はこんな感じで平和だった。




