年末ラストスパート
作者:「本日のウインドは名前の通りラストスパートと言う事で1.5倍でお送りしてます」
レン:「なにが?」
作者:「文字数が」
で、私達は忙しそうな王都をスルーして、アリシアに帰ってきた。
「あと行ってないのは?」
「戦場の華の所とドルクスの店だけね」
「じゃあ近いんでドルクスさんの所寄ってきますか」
「最近働いてないし久々よね」
「ここ最近はメッキリ武器を使った戦闘も減っちゃいましたしね~」
「それはフウカが魔法で吹き飛ばしちゃうからでしょ?」
「まあ、そうですね」
そうこう言ううちにドルクスの店に着いた。
「最近、来てなかったですし」
「最後に会ったのって確かケルビン行く前よね?ソウジ君が来て直ぐだったし」
「そうですね。あ、たしかフウカさんの見送りには来てた気がしますね。まあ、何はともあれ…」
「暮れましておめでとうございます」
「暮れましておめでとうございます」
「暮れましておめでとうございます」
「長いフリの割りにバラバラだな!」
「んー、揃いませんでしたね…」
「待っちゃってすみません」
「惜しかったわね」
「て、俺のことは無視か!」
ドルクスがカウンターを叩いた。
私達はドルクスの方をじっと見る。
「ま、暮れましておめでとう。最近見なかったが元気そうでなによりだ」
「まあ、最近は仕事してないしね」
「まあ、冬ですしね」
「まあ、包丁ぐらい自分が研ぐんであんまり用事はないですね」
「じゃあ、用事は済んだので帰ります。よいお年を~」
「ドルクス、来年もよろしくね?」
「お騒がせしました~、あと今日の夜はホームパーティーがあるので良ければ来てください。ディーダラスさんもたぶん来ますよ?」
そして私達は店を後にした。
「そう言えば、最近…と言うか夏以来ヴァルキリーの皆さんを見てないんですけど?」
「あ、あの子達なら、あのときの依頼の報酬で王都に拠点を移したわよ?」
「それまたなんで」
「まあ、あの子たちはアリシア出身だし王都に憧れでもあったんじゃない?普通の冒険者だと都市間の移動は割りに合わないし、一度行ったら移動の資金が溜まるまではそっちで活動するってこともよくあるのよ」
「そうなんですか~家とかどうするんですかね」
「フウカ、冒険者が皆お金持ってると思ってない?」
「思ってますよ?こんな割りが良くて簡単に稼げる仕事、他に思いつきませんし」
「フウカ、普通の人はフウカみたいに便利な魔法を次々作ったりできないし、魔法を使えない人もざらに居るのよ。だから普通の武器だけで魔物と戦うのは難しいって人が多いの、家が異質なだけで一般的な冒険者パーティーはもっと貧困よ」
「そうですよフウカさん、世の中には2000枚少々の金貨で卒倒しそうになるような人も居るんですからね」
「ソウジ君も金銭感覚おかしいけどね?」
「そうですか?金貨2000枚じゃたいして生活できませんよ?安宿+食費で一週間持つかどうかじゃないですか?」
「ソウジ君、それ日本円に換算してみてください」
「だって安宿の一泊料金10,000円として…一週間で70,000円で一食1,500円ぐらいで三食で4,500円が七日でえ~と…32,500円。一週間で102,500円税抜きですか…高いですね安宿」
「だいたい金貨1枚で100円です。ソウジ君の支払った金貨2,000枚はざっくり200,000円です。ギルド直営宿の料金が金貨50枚、公衆浴場の利用権付きで75枚/日です。だいたいちょっとした料理なら金貨10~15枚で食べられます。食材はもっと安いです。なのでだいたい一日あたり金貨で150枚程度あればまあ程々満足の行く生活が送れると思いますよ」
「なるほど二週間分ぐらいでしたか。それだけあれば道具の整備とか魔法書の購入なんかもできそうですね」
「2000枚は多いんですよ?」
「でも普通にギルドの報酬って一日に400枚ぐらい払いますよね?」
「まあ、一回働くとそのあと道具のメンテナンスとか休息日をいれる人が殆どですし、その辺の準備期間を怠らせると死亡率があがって結局効率が下がります。この金額は冒険者にとってもギルドにとっても利にかなった金額と言うことです」
「へ、へー。詳しいですね…」
「お金、好きですから」
そんな感じで私達は戦場の華の邸の戸を叩き勝手にあける。これで六件目なのでいい加減私達も要領をつかんでいた。
『暮れましておめでとうございまーす』
「バッチリ揃いましたね!」
「さすがに六回目ですし」
「でも気持ちよく揃ったわね」
「暮れまして…おめでとうございます…」
出てきたのはカルムだった。
「他の皆は居る?」
「ユリさんは…ギルドに書類整理の依頼に行きました…ツバキさんとカルミは警備兵の模擬戦に混ざってる…頃合いです」
「で、カルムはお留守番と…」
「そういうことです。年末なので挨拶に来る人が多いから誰かは残ってた方がいいってなって…取り残されました」
「あー、なんか凄くわかる。なんか家の周りのメンズは女性に振り回されるタイプが多い気がします。…自分も含めて」
エレナに振り回されるレリック
ミースに振り回されるセルジオ
アリアさんとかノアさんに振り回されるカイさん
カルミやツバキに振り回されるカルム
それにソウジ君。
「違うわよ、ナヨっちい男が集まってるのよ」
「ナヨって…フウカさん、俺家出したくなりました」
ソウジ君のコートの裾をリンが掴む
「ソウジさん、晩御飯、すき焼きって約束しましたよね?ソウジさん、リンにステーキ焼いてくれるって言いましたよね?」
「いや、待って…ステーキは知らない。フウカさん、リンちゃんが食い意地のお化けになりつつありますよ!?良いんですか?」
「・・・家出は今から行ってきても良いですけど、夕飯の支度には戻ってきてくださいね?」
私はにっこり笑ってそう言った。
「あ、はい。この母にしてこの娘って事ですね」
「今晩、家でホームパーティーするからよかったら来てね?あとツバキ達にも伝えといてくれるかしら?」
「わかりました…今年はありがとうございました」
そして私達は戦場の華の屋敷をあとにして帰宅した。
『それじゃあ、準備を始めますよ!』
帰宅するなりソウジ君"達"は声を揃えて言いました。
「大晦日一周目のソウジです」
「大晦日二周目のソウジです」
「大晦日三周目のソウジだよ」
「大晦日四周目のミーナだよ?」
「大晦日十五周目のミーナでーす!」
「大晦日じゅーなな周目のソウジ…です。凄く眠いです。疲れきってます」
未来から来たソウジ君は周を重ねる毎に疲れておかしくなっていた。
「あれ?大晦日一周目のソウジ君はどこ行ったの?」
「家出だそうです」
「あ、そ。まあこうして未来から遡ってちゃんと準備する辺りソウジ君だな~って思うわ」
「そうですね」
『よし!各自ホワイトボードを参照し仕事に取りかかれー!』
『俺の癖に生意気だなー!!オイ』
「なんか楽しそうですね」
「あれ、やってて虚しくならないのかな?」
集まった十六人のソウジ君の奮闘によりパーティーの準備は粛々と進められ家中にソウジ君が溢れる事態になった。
▲▽▲▽▲▽
その頃一周目のソウジはと言えばこっそりログインしていた。もちろん向こうの面々に年末の挨拶をするためだ。
で、さっさとランフォート武具店の前まで来た、開いてなかった。
「おやすみですか…そんな日もありますよね」
ソウジは次にそっちの世界のギルドに顔を出す。
「知り合いは~いない。と」
そしてさらに転移門広場にも顔を出す。
「人はまばらだな~」
そしてさらにゲイルの執務室にも顔を出してみた。
「暮れましておめでとうございまーす」
「ソウジ殿、何してるんですか?」
ゲイルはソウジをじっと見ると
「それを言うなら明けましておめでとうございますじゃない?」
「いや、向こうの世界だと年末に暮れましておめでとうって挨拶するんですよ」
「まあ、だとしても今日は場違いだよ」
「?」
「だって年末じゃないし」
「え?こっちとそっちって暦ずれてるの!?」
「だって今日は12月30日ですよ?」
「そっか、閏年だったか…」
「そうですよ」
「じゃあ、明日は新年の挨拶に来るのでよろしく」
「いや、年末の挨拶に来てくださいよ」
そしてソウジはその場を後にした。
▽▲▽▲▽▲
で何だかんだ時間は流れて、夜!
「ただいま戻りましたー」
「お邪魔しまーす」
「暮れましておめでとうございます」
ソウジ君がアリアさんとソフィアさんを連れて帰ってきた。
食堂はパンパンで結局客間と談話室を解放して各部屋で立食パーティーのような状態になった。
戦場の華の面々とカイさんが固まって話をしている。仕事の話だろうか?
「カイさん肉焼くの上手ですね!」
ユリが皿の肉を平らげて言う
「ほんとほんと、男の子って料理上手よね~家にも料理上手が欲しいなー」
ツバキがぼやき
「だってカルム、せっかくだし料理教えてもらえば?」
カルミがカルムに振り
「え、僕が料理するの?」
カルムが戸惑う。
「いや、世間的には女性の方が家庭的なんじゃないのかな…」
カイが呟き
「そんなわけないでしょ?冒険者の女なんかこんなもんよ、こんなもん!」
既に出来上がってるのかツバキさんがカイさんの背中をバシバシ叩き、ガハガハ笑う。
もはやオッサンだ。
一方でドルクスとディーダラスのオッサン二人はと言うと…
「ドルクス、未だに結婚してないのか…」
「いまさら相手がいねぇよ。そう言うお前も奥さんに先立たれちまって大変だろ?」
「今となっちゃ独身とかわんねぇよ」
サイドテーブルを占領してチビチビ飲んで、肉を摘まんでいた。
「オッサンはオッサンでも枯れたオッサンと元気なオッサンでこれだけ違うんですか…」
私が他のテーブルを眺めてると皿と酒を手に持ったソフィアさんが寄ってくる
「フウカさん、フウカさん、ソウジ君ってなに作らせても美味しいですよね。家の厨房の仕事とかどうですかね?」
「ソフィアさん、そう言うのは本人と交渉してください。それと大分飲みましたね?」
「えへへ、今日くらいは良いと思って!そうそう、それで、それはなんと言うか、怖いと言うか…血気盛んな年頃だろうし…私はフウカさん一筋なので、押し倒されたら困るな~って」
さらにアリアさんが寄ってくる
「いや、私はどっちかって言うと心配ですよ?だってソウジ君ってもう適齢期でしょ?女性ハーレムパーティーに居るのに何にもないなんて、変ですよ~まあそう言う意味ではカイも似たようなものですけど…」
「カイさんはソウジ君より年上ですよね?」
「たぶん二個ぐらいかな?まあ、いい加減相手を決めてくっついて欲しいかな~お姉ちゃんはモテる癖に周りの娘を歯牙にもかけない弟が心配だよ~」
「アリアさん、自分は大丈夫なんですか?」
「えー、わたし?わたしは恋愛とかいいのよ。子供とか要らないし、そう言うソフィアはどうなのよ?いい人いないの?」
「いやー、私は女の子のが好きだから男の人は苦手かな~」
なんで私の周りは男の人を好きにならない女性ばかりなんだろうか…
ふと、隅の方を見るとミーナが料理の追加を持って出てきた。あれは四週目のミーナだ。
一周目のソウジ君はと言えば、セイとケイトとヴィンス、アリシア家に捕まって助けを求めていた。
しかし、それは無視する。
私はリンとエルと涼…家のなんちゃってマスコットを探す。
すると一番キッチンに近い所で二周目ソウジを捕まえて肉を焼かせていた。
明らかに他よりも厚い肉を焼いていた。
「ソウジ、ステーキうまいぞ!」
「お主ー、次は鮭が欲しい」
「リンちゃん、そろそろ良いかな?」
「ダメ、肉おかわり」
「お主ー、我も酒が欲しい。ジョッキで九杯くれー」
「ソウジー、ローストビーフまだあったらおかわりくれー」
「この食い意地トリオめー」
「あ、ヒドイ。ソウジさん、リンをこんなオッサンと一緒くたにした!」
「食い意地トリオだと!?我をそんな魚類と一緒にするでない」
「お主ー、私は樽でもいいぞー」
涼に関しては既に出来上がってクネクネではなくぐでんぐでんになっていた。
九つの頭がグラグラ動いて気持ち悪い。
「あれ?エレナさんは…」
「エレナって誰ですか?」
「まさか、フウカさん。新しい女ですか!?私が居るのに新しい女ですか!?」
「フウカさん、そんなところでケイトさんに似ちゃダメですよ~」
見ればエレナはホットプレートを占領してすき焼きしていた。
「一人すき焼き…見てるだけでもキツいですね…」
私はエレナに声をかける事にする。
「エレナさん?楽しんでますか?」
「すき焼き美味しいです。これを再現しなきゃなので味わってます」
「良ければ一緒にどうですか?」
私は魔法陣に手を突っ込んで、トランクからワインのボトルを抜き取る。
「あ、エレナさんズルい。フウカさんにお酒勧めて貰うなんて」
「エレナさん、これで勝負です。勝った人がこのあとフウカさんを独り占めするってことで」
「え、えぇっ!?」
「まあまあ、どうせならやりましょうよ?私に勝てたらソウジ君を二週間ぐらい貸しますから」
「やります!」
そして食堂の端で年末の肝試しが始まった。
「ふぃー、いやだって、わらしは~はじめるまえからのんれたかんね~?みんなよりのんれたから~」
最初にアリアが机に伏せた。
「あはは、やっぱりフウカさんに相応しいのは私なんですよ!」
ソフィアがだいぶ出来上がっている。
「ぬひひひ、これで勝ったらフウカさんと、フウカさんと…」
ソフィアさんは鼻血を吹いてひっくり返る。
「うぇへへ、なんか天井がぐるぐる回ってる。でもアリアさんには勝ちましたよ~」
ソフィアさんはそのまま寝てしまいました。
「何々?肝試しやってるの?あたしもやるー!」
ツバキさんが乱入してくる。
「勝ったらフウカさんかソウジ君を独り占めできるんだそうです」
「いいね、それ!あたしもソウジ君に専属コックになってもらうんだー」
ツバキさんもほぼ泥酔していた。
もはやコップ一杯で潰れそう。
と思っていると、椅子に座ろうとしたツバキさんだが座り損ねて尻餅をつきそのまま落ちてしまった。
「なんか酔っぱらいだらけになってますね」
「そうですね」
「エレナさんは酔わないんですね?」
「慣れてますから」
「じゃあ、もう一杯行きましょうか」
そしてさらに一時間。
私の周りには追加で三体の泥酔した面々が転がった。
カイさん、ユリさん、セイ君。
セイ君ついては一口で赤くなってひっくり返った。
「あははは、楽しいですね~こんなのはじめてですー」
エレナもだんだん赤くなって、頬杖を付いている。
私についてはまだ全然だが。
周りも既に客間のベッドとか予備の布団とか毛布とかで眠りについた人が多い。
ドルクス・ディーダラス・ヴィンスの三人は固まってまだ飲んでいる。
ソウジ君達もソウジ君達で固まってご飯タイムだ。
どうやら年越し蕎麦を作っていたらしい。
「さてとそろそろ決めましょうか」
私は手持ちで一番強い酒を取り出す。
「そーですねー、負けません…負けませんからー」
一口飲むと、エレナは目がとろんとして、そのまま机に伏してしまった。
「フウカさん、今回は勝ちを譲ります。次は負けませんから」
「いつでも挑戦待ってますよ」
それを最後にエレナは静かに寝息を立て始めた。
「はぁ、もうすぐ年越しですか…私も最後の一人に挨拶してきますか…」
私は席を立ち、死屍累々を跨いで屋上に出た。
「ふー、寒っ…」
寒月が真上に浮かんでいる。
雪こそ降ってないがかなり寒い。
私は屋上の縁に腰かける。
「君、こんな寒いのに態々屋上で待つとか鬼畜なの?暖かい所にしてよほんと」
目当ての神は悪態をつきながら唐突に現れた。
「あなたなら来ると思ってましたよ」
「せっかく空気読んですき焼きは遠慮したのに」
レンはポケットから白い袋。平たく言ってカイロを投げて寄越す。
「ほら、僕の温もりだよ!」
「いちいち言い回しが気持ち悪いですね」
と言いつつもカイロを受け取った。
「もうすぐ年越しだけど、一緒に年を越すのが僕でいいの?」
「そうですね、それも癪ですね。挨拶だけしたら中に入りますよ」
「そっかそっか、じゃあよいお年を~」
「違いますよ、この世界では暮れましておめでとうって言うんですよ」
「おー、フウカ君もエリアスに染まってるね!僕はうれしいよ、じゃあ僕からも暮れましておめでとう!フウカ君」
「今年は、ありがとう…ございました」
「…フウカ君がデレ期だ…明日は槍でも振るのかな?」
「私だって年末ならお礼ぐらい言いますよ」
「フウカ君、今年はありがとうね!じゃあねー!」
そうしてレンは姿を消した。
遠くに零時を告げる鐘の音が聞こえる。
私は家の中に戻った。




