頻発する玉突き事故
作者:「大遅刻ですがなんとか書けました。次回はエリアスの大晦日です。ワイワイします」
私はアリアさんの買い物に付き合っていた。
「私、エネシス出身でどっちかって言うと米派なので買い物大変なんですよ。フウカさんに手伝ってもらえるとありがたいです」
「私で良ければ手伝いますよ?私もどちらかって言えば米派なので、米ってパンと違って台車とか魔法なしで運ぶと大変なんですよね」
「そう、それですよね~もっと小分けの袋で売ってくれたら良いのにって思います」
「私は毎週ぐらいで売り歩くのが良いと思いますね。町の中をある程度の頻度で歩き回って売れば。そんなに量を運ぶ必要もないですし、結構売れると思います」
「それだと移動が大変ですよ。米が重いことには変りないですから」
「ま、誰もが私みたいに楽してお米を運べる訳じゃないのでその辺はどうしようもないですね」
私は魔法陣の上に積み上げられた米袋を見た。魔法陣は震えることも音をあげることもなく、ただ米を載せて私についてきている。
「魔法ってたまには労った方がいいのかな?」
「魔法を…労う?なんですかそれ」
「いつも重い物とか人とか載せてばっかりだから魔法もうんざりするんじゃないかなって」
「それは、魔法に意志があれば確かにそうでしょうけど…」
「まあ、魔力でも流しときますか…」
そして私は魔法陣に触れて魔力を流してみた。
反応して一瞬強く光るがそれだけだ。
「さてと、あとは野菜と肉と牛乳、良いのがあればチーズですか」
「なんか本格的に手伝って貰っちゃってすみません」
「良いですよ、普段お世話になってますし…荷物持ち得意なので」
私たちは貴族街手前の繁華街で必要なものを探している。
アリシアの繁華街では藤色の箱を浮かべて歩く少女は割りと見慣れた景色なので驚く人はいない。
驚く人はいないのだが…
「あ、フウカさんだー!こんなところで奇遇ですねー」
荷車に気箱を幾つも乗せて牽いてくるはソフィアさんだ。
「ソフィアさん、お勤めご苦労様です。にしても今日は多いですね」
「あはは、もうすぐ年の瀬じゃないですか。月光の竹林亭では年の瀬にパーティを催すんです。他にも、従業員の忘年会とか年明けにはニューイヤーフェス、新年会とお祝いムードが続くので、買い出しの量が通常の三倍近くに…」
「大変ですね、月光の竹林亭近くに送りましょうか?」
「助かります…」
「いえいえ、魔力と時間だけは無尽蔵にあるので」
「フウカさんは、アリアさんのお手伝いですか?」
「その通りですよ。どうも今は家が来客中のようなので邪魔物は寄り道して時間潰してます」
「そうなんですか、ソウジ君に想い人でもできたんですか?」
「いや、そんなんじゃないと思いますよ?あれで告白する勇気なんてないですよ」
「あはは、辛辣ですね…」
「じゃあ、また年明けたら新年の挨拶に月光の竹林亭に行きますね」
「新年と言わず、年の瀬パーティにも来てくださいよー」
「行けたら顔だしますね」
「うわー、絶対来ない人が言うやつですよそれ。じゃあ、今日のところはまだ仕事が残ってるので失礼します」
「頑張ってくださーい」
ソフィアは台車を牽いて込み合う人混みを抜けていった。
「年の瀬ですね。まあ、私はソウジ君が色々料理を作ってくれると思うのでそこは期待して…あ、そう言えばこっちだと年明け暫くは竈を休ませるとかそう言う風習ってありますか?」
「そうですね…エネシスの中でも辺鄙な所だとそう言ったこともありますけど基本的に元日前後はお祝いムードなんで一年で一番竈が忙しいと思いますよ?」
「ならいいんですよ。楽しみですね~」
そして私達は野菜類を買い、チーズを買った。
「後は肉ですね。肉、因みに何肉ですか?牛ですか?豚ですか?」
「牛ですね、お祝い事が近いので牛です」
「たぶん内は猪なんだろうな~牛、買っといたらソウジ君がすき焼きとかにしてくれるかな…牛買っとこうかな…あ、あと鯨!鯨食べたいです」
「く、鯨ですか?」
「あれ、美味しいんですよね~また、獲ってこなきゃ」
「なかなか、豪快ですね…」
「アリアさんは鯨苦手ですか?」
「まあ、昔一回だけ食べたことありますけどなんか固くて美味しくなかったです」
「それは焼き加減が悪いのかもしれませんね」
「なんかやたら詳しいですね」
「最近、鯨とか肉が凄く美味しく感じるんですよ…なので焼き加減とかも色々考えるようになりまして…」
そして突然、懐の物が久々に音を立てる。
『you catch a mail!』
「なんですかね…」
「なんですかそれ?」
私はポケットから入れっぱなしのスマホを取り出してその通知を開く。
中身は動画のようだ。
『セイー、お姉ちゃんが許す!応援してるからソウジ君を押し倒しちゃってー!』
そしてミーナにずいっと寄るセイさんが映っていた。
「ミーナちゃんもついに彼氏ができましたか。青春ですね」
「誓約違反ですねこれは…直に合体禁止に触れそうなので止めに行きます。アリアさん、荷物持ったままなので少し付き合ってください」
「え、なんですか?」
「跳びますよ」
私はリンの記憶の資格情報を借りて、転移する。
▲▽▲▽▲▽
一方で…
「ミーナ」
「おい、セイ?下手なことしたら許さないからな?」
「どうせ手に入らないなら、奪っても」
「せ、セイ君!?無理矢理なんてそんな」
「セイ様、求めるならそんな女じゃなく私にしてください」
オーディエンスの言葉を無視してセイは俺の顔の横に手を添える。
「落ち着け、そしてアホなマネはやめろ?」
「例えバカだ、アホだと言われても…この気持ちは本当なんだ」
触れた手はセイの癖に力強くて、残念なセイがいつになく真顔でこっち見てるから目が放せない。
「ミーナ、僕はミーナが好きなんだ」
セイの顔が近づいてくる。
俺はその真剣さに負けて目をつぶる。
「ああぁあぁぁ…セイ様の唇が他の女に盗られるー…」
「セイ君…そんな大胆なこともできるんだね」
ん………ん?
キスが来ない?
目を開けてみると…視界がうっすらピンクに染まってる。
コレが時に見る目がハートになるってやつなのか…
セイのキスは途中で止まっていた。
「ん、魔法陣?」
「ミーナさん?何をしてるんですか?」
横を見るとフウカさんが立っていた。
「フウカさん、いや今回は不可抗力で…」
「異性との性的スキンシップの禁止の条項で誓約違反ですよ。わかったら、舌を引っ込めて歯を食い縛る事をオススメします」
俺が口を閉じると頭に鈍痛が走り、衝撃が奥歯を貫通する。
脳が揺れて、視界が真っ白になる。
「イッイッタァ…ぁぁあぁ。頭、割れるぅ~」
リンちゃんが目を伏せたのが見えた。
『ぬっぬぉぉぉー!頭が割れるー!!頭、全部殴られたー!我、なんもしてないのにー!!』
壁に立て掛けてあった刀から悶えるように首が9本ある奇妙生物が転がり出てきて床でのたうち回る。
その姿は若干ホラーで普通にキモい…
『うわ、何あれ気持ち悪っ!』
ぼっちゃまが心からの本音を口からぶちまけた聞こえる。しかし、そんなことどうでもいいレベルで痛い。
「ぁぁ…なんか痛すぎて気持ち悪くなりました…」
「我もなんか気持ち悪く…」
「ちょっとトイレ行ってきますね?」
「我もー」
俺は大きな大きなアイスクリームができた頭を擦りつつ、お店の休憩室を借りる。
そして、全部吐いた。
ついでだが、涼も吐いた。
そして変身が開始する。
「え、うそっ!ヤベェヤベェ、吐いたら薬の効果切れるのー!?トランク置いてきちゃったよ!」
「お主、とりあえず脱げ!服を創る術を教えるそれで何とかしろ」
「服を創る?そんな術あるのかよ!」
「ある、元は普段全裸の我らが人間に変身したときに不自然にならないように考えられた術だ。多少なりと魔力の操作ができるお前なら、我の記憶の感覚を便りに使えるだろ…」
俺は感覚共有でその術の内容を知る。
「こうなりゃヤケ糞だ!」
涼との身体特徴共有で俺の体毛が蒼い鱗に替わり半ば表面を覆う。
それを魔力と念で操作して繊維にして服を創る。
そして出来上がったのが、いつもの服っぽい見ための服だ。そして上からさっきまでも着ていたコートを羽織る。これで元通り、一つ言うなら変身の影響で髪がブルーブラックから完全な蒼に染まってしまった。
ついでに余った部分で金属的な装飾を付けた。
「はぁ、なんとかなるもんだな…」
「コレなら変身するときも簡単に服を作れて便利だろ?」
「そうだな、ありがとな涼」
「脱いだ服は神具の疑似空間にしまっとくでな、後で洗濯せい」
「何から何まで…お前ってそんなに気が利くタイプだったっけ?」
「この数ヵ月、娘っ子どもにシゴカれて我も丸くなったってことだ」
「相変わらずキモいけどな」
俺は涼を抱えてトイレを出る。
「吐いたら戻っちゃいました…」
店のなかは主にカミーラとシーラを中心に騒然とし、俺とセイとケイトさんはお説教を受けるのだった。
▽▲▽▲▽▲
「セイ君、いくら美人で変身できるからって男の人とキスするのはダメだと思うよ」
「セイ様にはもっと慎みを持っていただきたいですね!」
「は、はい…」
「ソウジ君、いくらカレカノごっこが楽しいからってセイさんの言いなりになっちゃダメです。ソウジ君の女性生活には私との取り決めが多数あるんですよ」
「ハイ」
「魔法を使えばセイさんぐらいなんなく避けられる筈です。ホイホイときめいちゃうような軽い女には私は容赦なく強化した拳を叩き込むのでそのつもりで居てください」
「ハイ」
「それから涼さん?ソウジ君のことは大方解ってますよね?あなたの方が年長者でしょう?ソウジ君を正しい方向に導いて下さい。次回からも黙認して事案が発生した場合は監督責任としてソウジ君経由で頭九個分の拳骨を受けて貰いますよ?」
「う、うむ、次からは気を付ける」
「ケイトさん、いくらミーナちゃんが可愛いからって酷いですよ?仮にもパーティーの仲間を弟に売るような事は金輪際やめてください。ギルドとしては干渉しませんが、ケイトさんはパーティーのリーダーなんですよ?パーティーの中では影響力が強いんです私利私欲の為に結婚を強いるような事をしたら断りづらい物です。今後は言動に注意してくださいね」
「うん、軽率だったわ…」
「リンちゃんも居るんですからもっと常識的な行動を心がけて下さい。少なくともさっきのヤジは最低ですよ。子供に見せるべき姿ではないです」
「うっ、はい…」
意外なことにアリアさんは叱り始めると結構恐かった。
口調を変えず坦々と目を見て告げる。
いつもなら笑って流すケイトが、静かに正座して叱られている。
とっても珍しい光景だった。
『あの、僕らは何を見せられてるんでしょうか?』
『しゅらばの事後処理ですよ。ゲイルさん、マカロン食べますか?』
リンは専用のトングでマカロンを何個か皿に盛ってゲイルに差し出す。
『いただきます』
ゲイルは断る事もなく皿を受け取った。
『そう言えばソウジ殿はいつになったら僕をアウラさんに会わせてくれるんでしょうか?』
『アウラさんならそこにいますよ?あそこでソウジさんにお説教をしてる私のお母さんのゲームでの名前がアウラですよ』
『え』
『アウラはラテン語で風を意味していて、風の香りから自分をフウカと名付けたお母さんらしい名前です』
『そ、そうなの?えーー…』
『そんなに驚くんですか?』
『いやだって、フウカさんってあのバイオレンスさんですし…』
『お母さんも普段は優しいですよ』
『あのフウカさんがゲームですか…』
ゲイルは半ばかじったマカロンを片手に暫く考え込んだ。
『まあ、お礼言ったら帰るかな』
そしてその日ゲイルはお礼を告げると早々に帰っていくのでした。
そしてアリアさんはフウカさんが転移で送り届け、その日はセイと彼女たちを残してその他は帰路についた。
「そう言えばフウカさんはレンが適当に作ったブーツで戦闘とかしてもなんの泣き言も言いませんよね?」
「えぇ、別に問題ないですから」
「全く痛くないんですか?そんなヒールの高いブーツでいつも歩いてて?」
「まあ、そうですね。だって、羽が自在に使えるようになってからはズルしてますし…」
フウカの足下と背中に淡く緑の光が灯る。
「飛行する魔法で足にかかる体重を軽減して、痛みを防いでますから」
この回答に真面目に正攻法で考えてきた面々は顔を隠し、リンちゃんはどんな靴でもどんな悪路でも歩けるようになった。
余談だが、俺の髪の色は帰ってから身体特徴共有を解除しても元には戻らなかった。
涼が言うにはより深く契約した証なんだそうだ。




