平たく言えば縮地
一方で訪ねられている当の本人こと私はと言えば…
「あの、アリアさん」
訳あってアリアの家と言うか部屋に来ていた。
「はい、なんですか!あ、同僚から貰ったクッキーあるんですけど食べますか?」
「いただきます…そういえばアリアさんのお宅にお邪魔するのは初めてですね」
「お宅なんて大袈裟な、ただのギルドの寮ですよ」
私は今、アリアさんの寮部屋の上座…つまるところ入り口から離れた位置に座らされて久々のアリアさんとのお茶に興じさせられていた。
▲▽▲▽▲▽
となるのもほんの一時間と二十分少々前のこと…
この見た場所に移動する転移(とりあえず縮地と呼ぶ)の練習のために街に繰り出した。
先ずは通りを歩かずに縮地で移動する。
人と同じ速度で移動しようとすると大変だったし、魔力の消費も大きくなった。
やはりコレも「移動距離×1m当たり消費量=魔力消費量」とはならなかった。
翼の制御と同じく「移動回数×1回当たり消費量=魔力消費量」となった。
試しに遠くの屋根に移動したりしてもそんなに魔力を消費しなかった。
やはり魔力とは世界を書き換える時に消費するエネルギーである事が明白です。
他にも建物の中への転移をしてみた。
窓から覗いて中に入る。
客商売をするような店はそこに人が入ることを良しとしているためか全く変化なく入れた。
しかし、単純に家屋に入ろうとするとかなり多めの魔力を消費した。
これはおそらく概念の影響だろう。
建物がそもそも人を拒むものと認識されることで侵入に対してレジストする効果が現れているんだろう。
他にも男湯や男子トイレなど普段私が入れない場所も試してみた。
結論から言えば見えなければ入れないために双眼鏡では無理だった。
なので術を行使しました。
【透視の術】:物質を透過して先の状況を知覚します。
【聴覚の術】:音の反響を利用して物質の構造を知覚します。
空間魔法【ワームホール】:空間魔法で穴を空けて中を見る事ができる。
結果から言えばコレもやはりかなりの魔力を消費した。
また複数の利用者が居た銭湯に限っては入れなかった。完全にレジストされたようだ。
低い概念優先度でも複数集まれば高位概念を弾けると言うことがわかった。
そして、最後に練習を兼ねて私はギルドで軽く依頼を受けることにした。勿論、ドアを開けてからは全部縮地で移動する。
そして、私は掲示板の前で考える。
複数の目標物があると回収系依頼は大変だなって…
と言うことで私は街道付近の森に出現したという巨大コウモリの討伐を受ける事にした。
なんでも上空からの音波攻撃と機動力で翻弄されてそこらの冒険者では軒並み歯が立たなかったとの事で注意書きがなされていた。
練習にちょうど良いからぱっと行って片付けてあげることにした。
そしてそれを手にとって私はアリアさんの列の最後尾(誰もいないので一番前)に縮地する。
「フウカさん…何してるんですか?」
アリアさんだけでなく他の職員たちにも不審な目を向けられていた。
「縮地移動の練習です。あ、コレ潰して来るので、依頼受理をお願いします」
私は依頼書とギルドカードをアリアに渡す。
「なんかこうしてフウカさんのお仕事を受け付けるの凄く久しぶりに感じます」
「まあ、なんだかんだで指名依頼が続いてたり、するのでその辺は仕方ないですよ。このあとも暫くグレイスさんからの依頼で国中を回る事になったので…暫くは…」
「グレイス?またギルドを通さずに指名依頼受けたんですか!?そう言うのはちゃんとギルドに報告して下さいよ!」
「なので今しました。まあ、相転移門関連は私にしかできないお仕事なので私に回ってきたのも納得なんですけどね」
「なるほど、って事は相転移門の管理に国が介入するんですか?」
「そうなりますね、通行税とか取られるようになるかもしれませんね」
「いや、じゃなきゃ色々成り立たなくなりますからね!」
「それじゃあ、サクッと殺して戻ってくるので」
私は処理の終わったギルドカードを受け取ってギルドを出る。
その勢いのまま西の門を目指す。
先ずは領主の館の屋根に移る、そのあと西の門を目視して目の前に転移する、そしてなんなくギルドカードを提示して外に出る。
翼を展開して、上空へ上がり、目的の森を探して、縮地。
ギルドを出てやく5分で私は目的の森に到達した。
そして巨大コウモリことフォレストファントムは大きかった、なんせ私より大きい。
両翼を広げた長さは6m近く、身長も3m強あった。
羽ばたくだけでそこそこの風圧が起こって弓や投擲では太刀打ち不可能なのはすぐわかった。
近づく事もこんなんで魔法を当てようにも速い。
しかし私は時間をかける気がさらさらなかったので、掌で魔力を練り上げて氷の槍を造って、縮地。
縮地は一般に高速移動や瞬間移動として使われる言葉だが、私が使っているのは擬似的な物で見た場所の空間と私の居た空間を入れ換える物だ。
だから槍は硬度に関係なくファントムの頭蓋を貫通する形で出現し、もと居た場所に槍の穂先の形にくり貫かれた頭部が落ちる。
そして私は再び縮地で地上に戻る。
どうやら認識の上で手に持っている物全ても私に含まれるようで、地面に降りると槍の穂先にはファントムが刺さったままでファントムは地面にほぼ全身刺さり、ファントム型の土が遅れて降ってきた。
「ふむ、頭だけあれば十分ですよね」
私はファントムの首を魔方陣で切り落とすとそのまま帰路につく。
埋まった死体は自然がどうにかしてくれるはず、そういう認識だ。
そしてまた5分と掛からずに私はギルドまで戻る。
「ああ、すいません。ある程度血は抜いてきたんですけどやっぱり取れ立ての頭部は血が滴っちゃいますね~」
私は討伐証明のために持ってきた新鮮なフォレストファントムの頭部をアリアに渡す。
「うわ…フウカさん、ドロドロじゃないですか!歯とか、爪とか、もっと細々した物で良いんですよ!」
「でも、正直に言って頭部しか残ってないのでコレで我慢してください」
カウンターの上に置かれた頭部は残った血液を重力に従って吐き出し、時折空いた風穴から脳髄を溢しておりなんと言うかドロドロと言うかベチャベチャと言うかビタビタだった。
「別にお金ほしくて仕事した訳じゃないので、コレ捨てといてもらえるならそれが報酬で良いですよ」
「お金欲しさで仕事してもらえませんか?」
「あんまり一人で勝手に稼いでるとケイトに小言を言われるのでお断りします」
この前、十日ほどソウジ君とゲーム三昧してから私の単独行動に少し敏感になってるようで、少し反省しては居るんです。
「じゃあ、これ以上特に用事もないので」
「あ、じゃあ私もう上がるんでちょっと私の部屋に寄ってきませんか?」
私はアリアさんに手をガッシリ握られ、じっと見つめる小動物のような瞳に屈して、私はアリアさんの部屋にお呼ばれすることになった。
▽▲▽▲▽▲
と言う訳で私はアリアさんのお宅でクッキーをかじる。
その素朴な味はよく言えば素材の味が引き立つと言えるが、ぶっちゃければ小麦の香りが強すぎて調和がなかった。
「このクッキー…60点」
「あはは、辛辣ですね…素人の手作りってこんなもんですよね」
「手作りなら65点」
「5点の恩情ですか…でも辛辣」
「理由、ソウジ君のが美味いから男子に負ける女子の菓子、これ笑止」
「なんか音踏みましたね?」
「いやいや、そんなことないですよ、たまたまですよ~まあ、食べられるってだけで私から見れば凄いんですけどね」
私は小麦強めのクッキーをかじる。
「え、そこまでですか…」
「うん…そろそろ、肉ぐらい自分で焼けるようにならないとな~戦争だしね」
「戦争ですね、フウカさんは戦争に参加するんですか?」
「面倒ですけど依頼なので仕方なくですよ」
「怖くはないんですか?」
「怖いですよ?負けたら、私にも処罰が下るんだろうなって思うと怖いですね。でも、負けませんよ?だって私が居ますから。幸か不幸か私には力があるので」
「凄い自信」
「自信じゃなく事実ですよ。事実、私は直径30kmに渡って草原を吹き飛ばして大穴を穿ちました。境界の平原を丸ごと消し飛ばせる自信とそれを裏付ける過去があります」
「敵の妨害だってありますし魔法による迎撃もあるんですよ?」
「そうですね。空間の境目を貫通できる魔法があったら称賛しますよ。しかし、私には魔力凝固の魔法があるので敵の魔法を悉く防げますし、魔力凝固の魔法を使えば人間ぐらいなら魔力過多で殺せますよ」
「それはまた残酷ですね」
「残酷です、戦争ですからね」
私の回答を聞いたアリアさんは寂しそうな顔をする。
「まあ、正直に言えば戦争なんかほっぽりだしてシーサーペントでダラダラ稼いで、のんびりぬくぬくしたいんですけどね。皆で集まってお茶会とか飲み会とかしたいな~そのときは向こうの人達もよんでワイワイやりたいな~」
「フウカさん、楽しそうですね」
「楽しいですよ?一度きりの人生楽しまなきゃ損ですよ~」
私は小麦強めのクッキーを口に放り込んで、砂糖多めのお茶で流し込んだ。
「あ、ちょっと失礼…」
『お母さん、お母さんに来客です。いつ頃戻りますか?』
「来客?誰?」
『んーと、げいるさん、と言う方です』
「ゲイルさんがコッチに?態々何でだろう…私に用事?」
『ソウジさんが連れてきました』
「そっか、じゃあ片付けしたら戻るね」
『はい、待ってます』
「今のリンちゃんからですか?」
「はい。アリアさん、急なんですけど用事ができちゃって…」
「お茶会もここらでお開きですね。家まで送りますよ、どのみち私も少し買い出しに行かなきゃなんで」
「じゃあ帰る前にお手伝いしますよ。クッキーいただきましたし」
私はアリアさんの買い物に付き合ってから帰ることにする。ゲイルさんの相手はソウジ君がしてくれるはずだからそんなに気にする必要はないだろう。
▲▽▲▽▲▽
「あの…バカなんですか?ここ外ですよ?大通りですよ?」
坊ちゃんはパンプスのまま地団駄を踏み、踵が小気味良い音を立てて石畳を穿った。
「?…あぁ。よく見てください?俺は女体化しました、リンちゃんは人形に変身してて、ケイトさんは元から女性です。女装してる変態は坊ちゃんだけですから、問題ないですね」
「いや、問題だろ!」
「坊ちゃん?シャラップですよ?男の子でしょ?泣き言を大通りで言・わ・な・い・の」
「わかった…ただし金輪際"ぼっちゃん"と呼ぶな!」
「わかりました、ぼっちゃ"ま"?」
「あくまでも僕を"ぼっちゃん"扱いするつもりなんだな?それならば僕にだって考えがあるぞ!」
「ささ、特訓行きますよ」
「おい、人の話を聞け!それになんで俺まで付き合うことになってるんだ!」
「え、男の子なのに領主なのに途中放棄ですか?」
「悪いかよ?」
「悪かないです。けど…」
「けどなんだよ?」
「はーい、リンわかるー!」
リンちゃんが元気に手を挙げるので俺は指差す。
「はい、リンちゃん!」
「ゲイルさん、女々しい!別に悪くはないけどかっこよくもないよね!」
「はい、大正解!」
坊ちゃまは何か見えないバッドに打たれたかのように、放心してしまった。
恐るべし、これが純粋無垢なロリっ娘の言葉のハンマーである。
俺はひそかに"ハートブレイク"と呼ぶことにした。
坊ちゃまが口をパクパクさせるその様はまさに金魚…もうちょいオッサン臭いから鯉のようだった。
※ハートブレイクではあるが恋ではない。
「まあまあ、ここは美味しいケーキ屋でティーブレイクで手打ちにしましょうよ」
俺はそう切り出し歩き出す。
「ん?それってこの前行ったって言うとこ?」
「あれは西側でしたけど今回は北側の地区に脚を伸ばそうかと思ってますよ?北側は王都の方の都会的貴族達がまず訪れる地区なので、オシャレなお店が多いんですよ」
「え、ミーナ、この状態でそんなお店に入るつもりなの?」
「はい、もちろんです。実践に優る特訓はありませんから」
「ケーキっ!…」
リンちゃんの目からハイライトが消える。
「どうせ、セイさんとデートしたときに教えて貰ったんですよね?私たち二番目なんですよね~…なんて微塵も思ってないですよ~」
「う、うん。ケーキスタンド、三段のやつを用意させるよ」
「やったー、楽しみ!頑張って歩くね!…はぁ、甘味で踊らされる安い女を演じるのが一流…とか思ってませんよ?」
ケイトさんがリンの肩に手を乗せてミーナへの嫌味を止める。
「リン、一流はそういうことは口にしないのよ」
こうして一行は、アリシアの南側の真ん中ら辺から町の中央である領主の館を超えて、北側の真ん中ら辺までざっと7km程度のハイヒールでの徒歩移動を開始した。




