時間は加速度的に
作者:「本日も遅刻しまして申し訳ありません」
レン:「君、明日は運転免許試験じゃなかった?」
作者:「なんで知ってるん?」
レン:「まあまあ、健闘を期待するよ♪」
翌朝、私は一晩で完成させた多数の魔法を書き記した紙の束を小脇に抱えて部屋から滲むように出た。
「お、わった…」
結局、昨晩夕飯に顔を出さずにノンストップで構築し続けた私は集中力が限界を迎えて視点が合わなかった。
「あはは…これでダメなら、もう帝国も北も私が滅ぼしてやる…」
覚束無い足取りで食堂に顔を出す。
まだ、日は高くない。だいたい6時って所だ。
「寝てませんが…おはよう、ございます」
食堂の暖炉には既に火が入っており、ケイトが毛布に包まってそこに居た。
「フウカ、大丈夫?」
ケイトはいつも通り変わらず、紅茶を手に静かにそこに居た。
「大丈夫ですよ…徹夜の一回や二回…冒険者ならそんなに大したことじゃないです、よ。あははは」
「お疲れ様。とりあえず、水よね?」
ケイトはテーブルの上に並べられたティーセットの中から水差しを手に取り、コップに注いで渡してくれた。
「あ、ありがとう」
ケイトが空のカップ新たにポットから紅茶を注いだとき、フワッと少し濃い紅茶の香りが漂った。
「フウカ、晩御飯食べてないからお腹空いてるでしょ?ちょっと待っててね?軽くなんか作ってくるから」
それを一気に飲み干したケイトは席を立つと少しふらつきながら台所に向かう
「あ、やっぱり先にお風呂沸かしてくるね?お風呂沸かしてる間にご飯作れば良いよね」
「ケイト、もしかして…起きてたんですか?」
ケイトは少し頬を掻く。
「フウカが一段落着いて出てきた時に何もなしじゃ寂しいでしょ?」
ケイトは事もなげにそう言ってくれた。
「ずっと紅茶飲みながら待ってたんですか…ごめんなさい。そうとも知らずにこんな時間まで…」
「いいのよ、徹夜の一日や二日ぐらい大したことないわよ。それに私、最近なんにもしてないから大丈夫。このぐらいさせてよね、じゃあお風呂沸かしてくるからちょっと待っててね?」
部屋から出るケイトの背中を見てふと、胸が締め付けられるような気がした。
僅かにケイトの背中に別人の背中が重なって見える。
私は、ふと頬に熱を感じて手の甲で拭う。
手の甲に冷えた液体が跡を残した。
「あれ?なんでだろ…嬉し泣き、なのかな?」
私はケイトの後を追うことにする。
お風呂に入るためだ、もちろんケイトと一緒に。
▼△▼△▼△
そして、幸せな時間はあっと言うより早く過ぎていき…
私は、魔研の薄い扉を勢いよく開けた。
ドアは壁に叩き付けられて轟音を立てて壊れた。
「今日こそは習得して貰いますよ」
三人が寝起きの目でこっちを見てくる。
どうやら、使えない上に寝てたようだ。
全くいいご身分だと思ったが、これから使えるようにするからその点は我慢する。
「今日は時間がないんですよ。何せ使えるようになってもらう魔法が幾つもあるので、昨日みたいな緩い引き継ぎの時間はおしまいです。さあ…始業です」
掌で練り上げた魔力は放たれると藤色に強く光り、周囲の魔力に影響して、光の範囲を拡げていく。
そして私の願った通りに部屋を埋め尽くすと、僅かに転移による存在の揺らぎを感じる。
そして眩んだ視界が戻るとそこは、どこかの島だった。
「ななな、何事ですか!?」
ベリオが飛び起きる。
「し、資料がー!」
ケイジは崩れた資料の山を見て嘆き
「フウカちゃん、僕に用なんて…大胆だね」
デックは変な空気を出していた。
「昨日の魔法の制御を複数の魔法に分割、イメージしやすいように簡略化しました」
「じゃ、じゃあ早速使ってみましょう!」
「ストップですよ、ベリオさん?先ずは講義の時間です。私の持ってる魔法理論を先ずは理解するところが重要です」
ベリオが押し黙り、代わりにデックが口を出す。
「魔法理論って…フウカちゃん、絵空事は時間があるときにしようよ?」
「はい、デックさん。絵空事以外の方法で貴方方三人が魔導機関砲の魔法を開発したとしてそれにどれだけの時間を要するんですか?一ヶ月も猶予はありませんよ?」
「だからって絵空事でできるとも限らないでしょ?」
「だから今日は実験です。今日のテーマは概念優先度の低い人間でもイメージを魔法に反映できるのか、そして内容を少なく魔法を小規模に限定した場合に概念優先度を補うことができるか、の二つです」
「えっと、まず概念優先度ってなんですか?」
「準に説明しますよ」
私は背後に空間魔法で板を作り、概念について纏めたメモを空間魔法の円柱で板に留める。
「始めに概念とは事物を表現する言葉、言わば名称です。観測者がそれをなんと表現するかで概念も変化します」
「その概念の意味がどう関係しているんですか?例え認識が変わっても現実は変わりませんよ?」
ケイジが標本を手に言う。
「しかし、魔法については不定形です。形なき物を私達がどうあるかを定義して形を与える。世界の認識を改変する理が魔法です。そもそも認識し概念を定めるのは人間であり、持ちうる先入観や固定観念が影響しえる。ここまでは先日ミニファイアを用いて説明した内容と同様です」
「信じ難く論理的でもないですが、とりあえずそれは脇に置いておきましょう。問題はその概念優先度と言う存在についてです」
「世界を書き換える理が魔法です。魔法は誰にでも扱うことが許された理。ならば同時にそれぞれ逆の方向に書き換えようとする瞬間が訪れるのは必須。そうなったときにどちらの変更を優先するかを定めるのが当人の概念の優先度です。より優先される概念を持つ者の願いがより強く世界に影響し、低い概念を改変できるんです」
「なるほど、でその概念優先度はどのように決まるのですか?」
「恐らく出生時、いえもっと前の魂が選定された時に決定されます。しかし、それは変化しうると思います。概念優先度は世界が決め、世界を変えうる人間なら概念優先度すらも変えられるのではないかと私は見ています」
「じゃあ、フウカちゃんは今から概念優先度を上げるつもりなの?」
「いえ、まずは今ある概念優先度の内で、"できない"という固定観念を排除して限界を目指しましょう」
「で、その方法は?」
「反復練習です。ここに必要な制御を限りなく細かく分割した魔法が記してあります。これの小さいものから順番に発動していきます。もしも限界に達したとしたら途中で使えない魔法が出てくるはずです。先ずは、一度文言を全て読んでイメージを作りましょう。出来上がりの形だけじゃなくてそれが動作したらそのあとどうなるのかも含めて四次元的なイメージを作ってください」
「四次元的に?ってどう言うこと?」
「四次元って言うのは、高さ、幅、奥行きを持つ三次元の空間に、時間の範囲を追加して考える考え方とその表現の事ですね。実現したい現実を正確にイメージしてもらえればそれで大丈夫です」
魔研の三人への魔法の習得は至難を極めるかと思われた。
がしかし存外拍子抜けで、三人は前回のが嘘のように難なく簡略化・細分化された魔法を使いこなし、午後からは改良された魔法による水晶球制作に取り掛かることになった。
▼△▼△▼△
そして一方でソウジの方はと言えば…
「突然の設計図追加とか、キツイですよアドバイザー…」
コントロールパネルの製造をほぼ一人で受け持っているフェイは朝になってフウカさんが持ってきた設計図の事でソウジに詰め寄っていた。
「まあまあ、コレでコントロールパネルを拡張できるようになれば今後流用も容易くなるってことでさ?」
「…まぁ、仕事なんでやりますけど…正直に言えば追加報酬貰いたい所ですよ?」
フェイは試しに作った拡張パーツを作業台に乗せる
「掛け合ってみようか?」
「は?」
フェイは"お前バカなのか?"とでも言うかのように驚いた。
しかし、ソウジは自分は少なくともバカではないと自負している。
「だから、俺がミゼリアさんに追加報酬の件で掛け合ってみても良いぞ?別に俺はここの仕事クビになっても全然困んないし」
「こんな割りの大きな仕事なのにですか!?」
「まあ、任しとけよ。どのみちこの拡張パーツの件はミゼリアさんに報告に行かなきゃだしな」
ソウジはオリジナルの設計図を持ってドックから地上に上がる事になった。
「却下よ、ただでさえカツカツなの。そんな追加報酬なんて無理ね」
ミゼリアは目を通した設計図をソウジに放る。
「世紀の大発明なんですけどね。これがあれば幾らでも簡単に魔法を重ね掛けできるのに…」
「それに時間もないの。主砲だけに費やしてる暇もないの。わかるでしょ?」
「そうですか~残念ですね~せっかく拡張パーツのライセンスをほんのちょっとの賃上げで譲渡しようと思ったのに…」
「そんな事言っても無駄よ?主砲が完成すれば現物を元に技術は盗める。そんな安い取り引きに応じる私ではないわよ?」
「もちろん完成はさせましょう。とりあえずの追加報酬は俺が出して作って貰うことにしますよ。あ、コレ完成品なんでサンプルに一個どうぞ?あ、別に中見ても良いですよ?見られるならですけどね」
ソウジはパーツをぞんざいにミゼリアの机に放ると部屋から出ていった。
「別にこんなの開けるぐらい私でも訳ないに決まってるでしょ?」
ミゼリアは船の修繕用のコテを引き出しから取り出し、箱の溶接箇所を削ろうとコテを突き立てた。
「何コレ、傷ひとつつかないなんて…」
ミゼリアは突起に指を掛けて強引に引っ張る。
「んぐぐぐっ…取れない~」
机に叩きつけたり…
ダンダンダンダンダンダン
「このっ!このぅ!」
床に投げてみたり…
ゴツッ!!
「エイサァッ!これでもダメなの!?」
調度品で殴ってみたり…
「チェストー!!」
バキィィッ!
そしてミゼリアの奮闘は遂に部屋の外に出る。
「ふふふふっ、少し歪むなり割れるなり隙間ができればそれで良いのよ!私は軍艦を作ってる港の主よ?」
ミゼリアの手元には大砲がある。
弾はもちろん拡張パーツだ。
「さ、あの崖は過去に父さんがトンネルを掘ろうとして断念した硬さなのよ。耐えられるかしら。見物ね!くぅらぁえぇぇー」
打ち出された拡張パーツは火薬の力で真っ直ぐに飛び、崖を粉砕した。深々と埋まり見事、穴の向こうに海を覗かせる。
「あー!!拡張パーツがーーー!」
ミゼリアはその場に崩れ落ちた。
崖もまた崩れ落ち、穴を埋めた。
それを空から眺めるソウジとレンは、ニヤニヤと嗤う。
「うん、コレが普段のレンの気分か…確かに楽しいなこれ」
「でしょ?やめられなくなるよね」
「いや、そこはやめような」
というのも、実は今回のミゼリアさん奮闘劇にはレンの入れ知恵があった。
それはソウジがパーツを持って階段を上る途中の事…
「ねぇ、ソウジ君。今からどこ行くの?」
「賃上げ交渉」
レンは詰まらなそうにそう言うと途端にニヤニヤし始める。
「ふーん、新技術をちらつかせてね~良いこと教えてあげよう。ソレ、バラしたら新技術盗めるよ?」
「あっ!!確かに…」
「ソウジ君、今日は少し僕とお勉強しようか。ビジネスマンの狡猾さを教えてあげるよ。僕の言う通りにして?」
そしてソウジはレンに言われるがままにパーツの時間を止め、少し上から目線かつ呷るような口調で交渉に挑んだ。
レンの思惑通りに交渉は決裂。
ソウジとレンはこそこそとミゼリアの奮闘を眺めてたという訳。
「なんか我ながら悪趣味な事してる気がしてきた」
「そう?僕なら大砲で吹っ飛んだ時に『あ~あ、残念ですね~』って言っちゃうよ?君は特にミゼリアちゃんにも戦争にも肩を貸す義理はないんだしね」
そうしてレンはふっと姿を消し、後程ソウジはミゼリアに泣きつかれる事になった。




