戦火に向かって
で、フウカがブツブツと一人言を言いながらテーブルに向かってなんとかイメージを簡略化しようと試行錯誤している頃…
ソウジが帰ってきて…「すぐご飯作るのでちょっと待ってて下さいね~」と台所に早足で駆け込んでいった後の食堂にて。
◆◇◆◇◆◇
レン:「状況説明長くない?」
ジン:「ちょっと一息でしゃべりすぎじゃないか?」
作者:「ぜぇ…ふぅ…頑張りました」
ジン:「なんで息切らしてるんだ」
レン:「ジン君が一息でとか言うからだよ」
◆◇◆◇◆◇
食堂にはアデルとケイトだけがいる。
「あたしがこっちに来てそろそろ一月ぐらいか…部屋を貸してくれて助かってるよ。荷物が増えるに増えちゃってね」
アデルはテーブルに右手を乗せて言う。
態度が大きいのは決して体格が大きいからじゃない、それもあるけどそうじゃない。
「いや、良いのよ。どうせ空いてるから、アデル姉さんが居なくても誰かが泊まったり荷物置いたりするぐらいで全然使い道がないからさ」
「うん、あたしもちょっと前から思ってたけどこの家はあんたらにはちょっと大きいんじゃないかってね?」
「そうかな?」
「家もシャツもあったやつが良いわよ?無駄がないとスッキリするしね」
LLサイズのシャツに合わせて肉を詰めてる訳でもなければ、肉に合わせてちょっと小さめのLLサイズを買った訳でもない。
姉さんの体格は無駄ばっかりじゃないかな?とかは言ってはいけないのだ。
「だってねぇ?あたしは談話室が二つもあって客間もある冒険者の家を他に見たことがないからね」
「そうなんだ…私は元々貴族で、実家には談話室が五つあるからよくわかんないな~」
因みに戦場の華のパーティーハウスには談話室が一つ、居間が一つ、空き部屋が二つある。
「それに家財も少し纏めた方がいいかも知れないよ。どこまで影響があるかはわからないからね」
「そうね、戦争だものね?」
「ああ、あたしがまだフウカちゃんぐらいの年のころにも戦争があった。その頃はまだゼレゼスはやれ"南だ"やれ"北だ"なんて言ってなかった。その戦争でいろんな街が焼け焦げた、一緒に人もたくさん燃えた」
「ええ、ゼレゼスと帝国は三十年の間蓋をしてきた戦火を再び始める。いろんな人が色々に動く、街も家も人もまた燃えるでしょうね」
暫くの沈黙が訪れる
「明日、発つよ。ケルビンにはあたしが居ないと何にもできない、はなたれがまだ大勢居るからね。街道を自由に通れる内に帰るよ」
「そ、近い内に遊びに行くかもね」
「そうかい、そのときは芸でも見て、お金置いてってよ」
「ふふふ、そうね。たまにはそう言うのもいいかもね。でも、私は本が好きだから。芸のハードルは高いわよ?」
ケイトは笑い、アデルは笑む。
「金にならなかったら修練不足だよ、またしごいてやらないとね。また会える日をケルビンで待ってるよ」
「とりあえずご飯にしましょ。別れの挨拶には早いわよ」
「そうだね」
二人は再び向かい合い、ソウジが台所から出てくるのを今か今かと待っている。
▼△▼△▼△
で、同時刻私は魔法の構成を一つずつ細分化していた。
コレが導きだした答えだった。
はっきり言って魄の奥底、意思の集積回路がどこにあるかなんてわからない。
だから明文化しない。
コレは変わらない、足りない部分はイメージが補完する。
しかし、その結果はイメージが固まらずグズグズになってしまった。
そこで私は考えた、私は普段息をするように魔法を行使している。
しかし彼らは違う、先行する魔法研究に準拠し、魔力を流して杖に集中し、同時に魔力を乗せた言の葉を口にすることで大気中の重ね合わせのプロパティに干渉して魔法を扱っている。
その大部分のプロセスを水晶球は代行してくれる。
つまり砲手はイメージに専念できる。
ここで一つ、水晶球を作成するには実際に魔法を発動させることが可能であるのが第一の条件です。
彼らがそれを完璧に発動させる必要があるが、それは叶いませんでした。
だが、誰が一つの水晶球で全ての複雑な制御を行わなきゃいけないと言ったでしょうか?
少なくとも私はそんなことを言った覚えはない。
そもそも、複数の魔法を重ね掛けする前提の兵器です。
制御用の水晶球を幾つかに分割したところでさして支障はない。
そして一部分の制御だけなら彼らでもイメージできるのではないか?と思った。
ここは完全な賭けですが、私の構文で少なくとも私は発動できているので、後はイメージと概念優先度の問題のはずなんですよ。
「うん、考えたね。ソウジ君の魔導回路が大活躍だね」
それは私のメモ書きを覗き見するとそう呟いた。
「フウカ君、柔軟になってきたね~」
「でもお母さん、コレだけの数の水晶球をどうやって回路に組み込むつもりですか?砲身開発班の方々はもう製作に取り掛かってるんですよね?」
「あちゃー、フウカ君!どうするの!?もう今さら設計図書き換えなんかできないよ?」
レンが私の肩を揺さぶってくる。
少し揺れるが、私は我慢することにする。
「それには、多少、考えが、ありま、す」
揺れる視界を無視して二枚目のメモ書きをレンに見せる。
「何この若干上手いどっかで見たことある絵」
「お母さん、なんですかコレ?」
「確か、元にした物のスケッチがこの辺に…あったあった」
私が広げたそれは適当なスケッチだが見る人が見れば何かわかる程度に特徴を捉えていた。
「某ゲーム会社の携帯ゲーム機の拡張スライドパッド?またレトロなの選んだね」
「なんですかコレ?」
「本体をコントロールパネルに見立てて、コレこのように拡張パッドを取り付けて水晶球の接続スロットを増やします。言ってしまえばハブです」
「あー、HUBね」
「ハブ?シャーッって言うやつ?」
◆◇◆◇◆◇
作者:「そうそう怖いよね~あんな小さいのが突然足下に噛みついてくるんだよ。でもね~一回目ならそんなに命の危険があるような毒じゃないから安心して?」
ジン:「二度目は?」
作者:「死ぬ、アナフィラキシーで呼吸困難で死ぬ」
ジン:「というかそっちのハブじゃないだろ!」
作者:「そうそう、ホントはこっち」
HUB:多数のPCを接続して有線Local Area Networkを構築するための集線装置だよ。ツイストペアケーブルとかUSBとかいっぱい挿す機械だよ
ジン:「でも、お前が先にこっちの説明をしなかったのはわかるぞ?リンちゃんが可愛いからだな?」
作者:「あ、バレた?」
ジン:「このロリコンめ!」
作者:「違うよ、リンちゃんは大人になっても可愛いから」
ジン:「この1割でも主人公の方に向かないのがな…」
作者:「?フウカ君は―うん、まあ普通だよね。うん」
◆◇◆◇◆◇
「うんうん、ハブね~可愛いよね~」
レンはリンの頭をポンポンする。
「うん、美味しそうだよね!」
リンの頭の中ではハブは唐揚げに刷り変わっていた。後ろにさりげなくソウジ君が映ってるのは願望かな?
「やっぱり他の弾も撃てないと芸がない気がしました」
「それは確かに最短距離で突き進んでくる弾ばっかりなら対応できるもんね。そう言えばフウカ君、空間魔法でバレット使ってたよね?」
レンは手で鉄砲を作って見せる
「あれは着弾した所から一定範囲の空間を隔離する魔法です。殺さずに捕縛したい時とかに使いますね」
「それ使ってさ、着弾点に転移させる魔法とかって言うのも良いんじゃない?送るのは榴弾でも人でも良いし」
「そう言う使い方もなくはないですね…船を瞬間的に転移させるには良いかもしれませんね」
「そう言えばフウカ君は海戦に行くの?」
「そうです、私も気になってました。お母さんは海戦にも参加するつもりなんですか?」
「うーん、海戦の方はコレがあればミゼリアさんたちでなんとかなると思うので、参加するとしても境界の平原の方ですね。私がこの戦争に参加していいものかって言う是非は確かにあるけどね」
「そうだね、転生者は概念優先度が普通の人間に比べれば高いから過剰戦力かもね。特にフウカ君はソウジ君と比べても高いみたいだからね…ソウジ君だけでも時間を掛ければ平原を丸ごとなます切りにはできるだろうけどね」
「まあ、平原を吹き飛ばすのは私ですけどね」
私は痛む肩を軽く揉む
「フウカ君、古傷が痛むの?」
「なんですかその古傷って…ただの魔導肩こりですよ」
「なにその魔導肩こりって…とりあえず揉んであげようか?」
「別にいいです、根本である魔力過多を解消しない限りは治らないので」
「まあまあ、自慢じゃないけど僕はゴッドハンドだよ?」
「ただ自分が神だってだけですね」
「まあ、騙されたと思って…」
レンの手が肩に触れる
「ダメー!」
前にリンがレンの足を踏みつけた。
「お母さんの肩はリンが揉むの、神様は触っちゃダメー」
「え、そうなの?ちょっとだけでもダメ?」
「ダメなの!お母さんが肩たたき券使ってくれなくなるもん!」
リンちゃんは部屋の反対側の壁を指差す。
そこには額縁に入った手作りの肩たたき券が飾られていた。
「あー、フウカ君…あれは酷いよ…うん、あれはない」
「何がですか?」
「フウカ君、ああいうのはね?使って貰うから嬉しいのであって飾られても嬉しくないよ?」
「いやでも普通に永久保存しませんか?」
「親バカだねぇ…リンちゃん、お母さんをリンちゃんの手なしじゃ生きられない骨抜きにするために僕の技術を伝授しよう」
「んー、んー…はい、神様!」
「神様って呼ばれるの嬉しいなこれ…じゃあこの肩を使って教えようか」
「はーい」
私の肩を使って伝授したら余計に肩たたき券を使う機会がなくなるんじゃないかと思ったけど、言うのをやめた。
ただ、私が思うに肩は叩いたり揉んだりしてもただ楽になるだけでそんなに気持ちの良い訳ではないから根本的解決を目指すのが一番だろうな…
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で、その頃ソウジはと言うと…
「今日の、晩御飯は、石狩鍋風クリームシチューだー」
楽しげだった。
一人で夕飯の準備をしているだけなのだが、楽しげだった。
理由は…
「石狩鍋と言えば鮭だよな~」
「鮭ではないけどそれっぽい魚は居る!」
涼がドックでバチャバチャ捕まえた鮭みたいな色の魚を捌いている。
正確には海の魚なのだが詳しくは言及しなくて良いだろう。
「我の戦果だぞ~ありがたく思えよ?」
「だなだな~因みに海老とか貝とかそう言うのは俺が帰りに買ってきたやつだぞ~」
「残りは軽く炙って生で食べる」
「絶対旨い、魚の旨味万歳」
要約すれば、魚の旨味に酔っていた。
魚の虜、いや奴隷に成り下がっていた。
「なんで魚ってこんなに美味いんだろ…」
「さあな~我らの体が魚を求めてるんだろうな~」
ソウジは着々と魚の準備を進めていった。
「それに今日はコレもあるしな」
ソウジは冷蔵庫から木箱に入ったそれを取り出す。
しっかりと氷漬けにされたそれは黒々とした赤み肉だ。
「これで機嫌直してくれるといいんですけどね…フウカさん」
「間違いない、フウカは鯨好きだ。コレで機嫌を直してくれるに決まってる!そしてお仕置きの拳骨を回避だ!頭二つぐらいまで減れば御の字だー、頭二つだったら我一発とお主一発な?」
「おい、その計算だと俺が二発貰うことになるだろ。お前、どうせ頭2/9で済むんだから受けとけよ」
「おい、言っておくがな。頭の数が多ければ痛みが分散する訳じゃないんだ。普通に一発ずつ痛いんだぞ?」
九頭竜にも悩みが尽きないようだ。
「腫れたとしても重雪が冷やしてくれるってさ」
冷蔵庫の上段に鎮座する重雪は親指を突き立てる。
「痛くないように、穏便に済ませたいの」
「そうだな」
ソウジと感覚を共有してない重雪は暫く頭を捻ると、再び親指を突き出すのだった。




