深まる冬
作者:「今週からまた本編に戻ります」
レン:「一年ぐらいサボってない?」
作者:「サボってないよ。それと文字数も今まで通りに戻ります」
ジン:「いや、サボってるだろ」
作者:「さぼッテナイヨ」
レン:「これらカンゼンにサボテルネ」
私は頭に乗せていた白いヴェールを抑える円環をそっと取り、サイドテーブルの上に置かれたレン特製「どこからか電気湧いてくる充電器」に充電ソケットを合わせて立て掛けた。
「ふぁー、脳は動きっぱなしだったはずなのに体は爽快…ソウジ君がいつも元気な訳ですね」
私は下ろしっぱなしの髪を軽く纏めて、レンが一緒に置いてった裏地にファーがついてる温かいパンツとニットのセーターに着替える。
「コートは…とりあえずいっか、にしても寒っ」
それもそのはず、ソウジ君が女の子から戻って既に10日が過ぎている。
そうなれば当然、冬も深まる訳で…
「今日も木枯らしがキツそうだから出掛けたくないな~」
私は窓のカーテンを開ける。
一瞬、目が眩む。
そして入ってきた景色の中で光る粒が空中でキラキラと踊っていた。
「だ、ダイヤモンドダスト?冷えすぎでしょ…」
雪は降っていない。
「ソウジ君ですね」
私はそう判断してドアノブに手を掛ける。
ドアノブは不快な金属音を立てて回りはしたのだが…
「?ドアが、開かない!」
『お母さんちょっと待ってて!今掘ってるからぁ』
頭にリンの声が響く
心なしか外からもカリカリと言う音が聞こえる。
「えっとどうなってんの?ソウジ君、またレン相手に変な魔法撃ちまくったの?」
『じゃないんです、そもそもこうなったのは、ソウジさんと一緒になって二人で10日も遊んでたからですよ?』
直後窓に衝撃が走り、直後外側が凍りついた。
『この魚野郎!家に傷がついたらどうする!ケイトにどやされるだろうが!』
エルの怒号の直後何度も聞いた空気の炸裂音…よりはかなり軽い突風の音と炸裂音がした。
『ええい!貴様がちょこまか逃げるのが悪いんじゃ!そもそもお前が我の楽しみに取っておいたおやつを盗み食いしたのが発端だろうが!』
これまた涼の怒号が響き、凍った窓越しに水柱が突き立ち、凍った飛沫を飛び散らせるのが見えた。
『この、近所迷惑を弁えろ!そして、お前も我の肉を食ったであろうが!』
竜巻見たく渦を巻いた風が窓の氷を削り落として飛び散る氷を一点に集めつつ落下していった。
「開いたぁー!」
ドアが開きスコップとホウキを持ったリンが入ってくる。
「お母さん、大丈夫ですか?風邪引いてませんか?」
「大丈夫、大丈夫、事情も丸聞こえだったからだいたいわかったよ」
私はリンの頭を撫でる
「リン、頑張って掘ってきたよ~」
「ソウジ君は?」
「ケイトさんに怒られて、掃除してます」
「まあ氷だからまだマシだね。これで水浸しだったら乾くまでお説教だっただろうけど、とりあえず二匹を止めよっか」
「うん!」
窓を蹴って、氷を破る。
「近所迷惑でしょ!やるならもっと開けた所でやりなさい!」
小さいエルと小さい涼がこっちを見る。
「あれ?予想より小さい」
「当たり前だ、通常サイズでやったらなぁ?いや、我は通常サイズでも構わんかったのだ、しかし魚野郎がどうしてもお主に怒られるのは魚を譲ってでも御免だと言うのでな?」
「う、うむ。我は別におやつの件はもうお互い様だと思っとったぞ?それを鳥爺が、『えぇい!じゃぁかしぃぃ!決闘で決めようぞ』と喚くから仕方なく…げ、げんこつは頭四つで許してくれぇ!!」
「竜の癖に情けないな。おっと魚だったな」
「けっ、勝手に言ってろ、我は誇りより実利を取る!」
「エルさん?何を煽ってるんですか?」
「な、なんじゃ?いや我は事実を述べたまでだ!」
「エルさん、固い頭はトロトロになるまで叩くに限るって言うのが私のやり方ですから、覚悟いいですね?」
「っ、おい、小娘?お主、我の頭をどつくのがどういう事か解っとるのか?お主、自分の頭を打つのと同義だぞ?」
「まあ、10日も放置した私の責任でもありますし…無関係の私まで痛い思いするんですから怖いなんて…言いませんよね?」
「お主、早まるな?我を殴ればリンまで痛いぞ?それは可哀想だろ?な?それに、魚とのおやつ問題は今日のおやつを魚にも分ければ良いだけだろう?暴力に走る必要はないだろ」
エルはジリジリ下がる。
「ええ、おやつの件はそれでよしとしましょう。…ただ、やはり堅物な脳みそには肉を解す衝撃が必要だと思うので」
「お母さん、氷嚢準備できました!お母さん、できればお手柔らかに…」
「わかったよ。なるべく、ね?じゃあ、歯ぁくいしばれぇ!」
私は心して腕を魔力で強化して、体重移動と腰の捻りを使って私の腰ぐらいの高さのエルの頭に拳を落とした。
直後に、割れるような痛みが頭に走る。
「あぁぁっ!」
リンも頭を抱えて凍りついた地面の上で悶えている。
「いたいぃ…お母さん、たんこぶできてない?」
「あたたた…たんこぶはできてないよ?」
「うぉぉー、目が回るぅぅ…」
エルは脳震盪を起こしたらしく何歩かフラフラ歩くとひっくり返った。
「うぅ、痛そ…やっぱりフウカに逆らうのは何を置いても得策じゃないな…」
涼はひっくり返って翼で頭を押さえるエルをヒレでペシペシしながら言う。
「さ、ちゃんと二人で掃除してくださいね?」
「うむ…まあ、やってみる。溶ければ氷は我だけでなんとかなるからな…幸い家は無傷だ、抉れた地面や近隣への謝罪は…」
「鳥野郎、お前行け」
「なんでワシが」
「エルさん?」
「我はお前が氷を片付けてくれると言うなら謝罪回りに行っても構わんが?主がどうしても近隣住民への挨拶と謝罪が嫌で無理だと言うなら代わっても全然構わんのだよ?」
「うぅっ…うぅ…我も大人だ、落とし前は自分でつける。魚野郎!言うからにはお前も自分の仕事はちゃんとこなせ!」
「言われるまでもない、我は仕事キッチリソウジの契約獣だ。半端をやって主人の顔に泥を塗ることはない」
エルは人に化けると浮かない足取りで通りに向かって歩いていった。
「大丈夫でしょうか…」
「オジサン、不器用だし…とりあえず、リンは家の中のお掃除手伝います」
「そうですね、私は涼さんを手伝おうかな…」
『お主ら、一人ぐらい我を手伝ってくれても良いんじゃないのか?』
「大人の矜持見せてくださいよ?よっ!年長者!」
『我、一人でも何とかして見せるぞ!』
「お母さん、焚き付けて大丈夫ですか?リンは不安です」
「まあ、エルさんももう100歳超えの大人だし、ちゃんとしてくれるよ」
「100歳超えって言っても閉じられた門に閉じ籠った100歳だよ?」
「まあ、門の空間から一時的に抜け出す手段は有ったらしいし、大丈夫でしょ…」
私はとっても不安になったが、エルに期待する事にした。
▼△▼△▼△
ソウジはと言うと、汚れた廊下を雑巾掛けしていた。
「手伝わせてすまん、重雪」
重雪は成人男性並の大きさで氷に張り付いて徐々に体に取り込んでいた。
元を正せば涼の魔力、つまり俺の魔力だから重雪にとってはご飯に違いない。
重雪はそれを腕から足から背中からガツガツ吸収して氷を除去してくれていた。
で、氷がなくなった所を俺は雑巾を掛け、乾拭きしている。
重雪は表情を変えることなく、ただ拳を突き上げた。
「お前も段々、リアクションが増えてきたな。銀次郎ももうちょいリアクションが増えると良いんだけど…」
俺は向こうの世界で今日も日課のフリースタイルダンジョン…じゃなくてパトロールに勤しんでいるだろう全身鎧を思い出す。
もちろん表情筋など存在せず、そもそも中身がない銀次郎は重雪同様にジェスチャーによる意思疏通が主、最近は自信が取り込んだミスリルで作るプラカードでの会話もしばしば出るようになってきたところだ。
「お前もプラカードで会話とかできるのか?」
重雪は首を傾げる
「まあ、わからんよな。と言うかプラカードがわからんよな。プラカードってのは手に持つ看板の事だ。それに字を書いてだな…」
重雪は反対向きに首を傾げた。
「これは難しそうだな。わかった、続けてくれ」
俺は引き続き廊下の掃除を続ける。このあとは二階、そして完全に塞がった地下とやるべき場所は数多い。
「どう?掃除、進んでる?」
「ケイトさん、言うなら手伝ってくださいよ」
「嫌よ?それに使い魔の面倒は自分で見るってソウジ君言ったもんね?」
「言いましたとも、なので今まさにそれをこなしてます。進捗は見ての通り、もうすぐ一階が一通り終わりますよ。外は涼とフウカさんが、謝罪にはエルさんが行ったみたいですよ」
「離れてても考えることが伝わるのって便利よね」
「そうでもないですよ、でケイトさんは何するんですか?」
「私はフウカの方を手伝って来ようかな。ここは任せても大丈夫そうだし」
「まあ、大丈夫ですけどね」
「それに、ソウジ君が魔法使ったらこんなの直ぐ終わるんじゃない?」
「ケイトさん、時魔法も単純じゃないんですよ」
「そうなのね。まあ、詳しいところはよくわかんないから任せるけどさ」
言い終えるとそれ以上何を言うでもなく、ケイトは玄関から出ていった。
俺は引き続き廊下と壁の掃除を続ける。
重雪は次々と廊下の氷を吸収している。
そして、氷に含まれていた不純物が真っ黒な雪となって零れ落ちる。
それを俺はゴミ箱にそのまま放り込む。
「なんか色々ゴミも取れたみたいで悪くない掃除だよな~」
俺は床を拭く。
やっと玄関までちゃんと片付いた所だ、次は二階の掃除をして、出来そうなら地下も今日中にやる。
「ここよね?)ごめんください、フウカちゃん居る?」
そこにはここ暫く時々会う人の顔が有った。
「ミゼリアさん!?どうしてここへ?」
「どうして?フウカちゃんが全っ然!研究所に顔を出さないからよ!」
「あー、なるほど…ここ数日は息抜きしてたんでそれもありますね」
「息抜き!?二週間よ!二週間も連絡もなしで休むのが息抜き?」
「…いや、まあまあ。そんなに働かせたいならフウカさんに直接課題でも渡したらどうですか?あの人、そう言うハードルとか課題が提示されると急に動き始めますから」
「課題ねぇまあ、考えては見るけどさ…所で、気になってたんだけど何がどうなったらこの一角だけ氷漬けになるの?」
俺はうっすら笑う
「まあ、色々あったんですよ。この10日でい・ろ・い・ろ・ね?」
「どんな色々があったら中から外までびちゃびちゃの氷だらけになるのかしら、不思議だわ」
「フウカさんならたぶん裏庭で片付けしてますよ~ケイトさんもそっちに居るんで追加の研究の依頼はそっちにお願いしますね。俺は高いですよ?」
「言われなくてもそうさせて貰うわ。じゃ、お掃除頑張って」
ミゼリアさんは手をヒラヒラさせながら出ていった。
▼△▼△▼△
『水よ、汝は溶け合う者、汝は温もりの化身、汝は冷たき所へ流れ、そこに温もりをもたらせ ホットフォール』
温水が魔法陣から溢れだし、氷に向かって次々に飛んでいき、湯気を上げる。
「それを我が再び集めて、食らえ!」
頑固な氷解を寄り集まった巨大な水の塊が粉砕して、再び集まって巨大な水の塊となる。
『風よ、汝は熱、汝は昇る者、この場に漂う湿気を纏めて天へと送り届けよ アッパーウィンド』
更に魔法陣が屋根ぐらいの高さに現れ下から上へと空気を吸って吐き出す。
「液体の水は我がこうして、こうして…」
水の塊は身をよじるような動作と共に白い蒸気を上げてどんどん小さくなり、霧散する。
「我、スゴくないか?」
「スゴいですよ~」
「スゴい棒読みね、フウカちゃん?」
そこには、コートとタイツとイヤーマフで完全武装したミゼリアさんが居た。
「あ、お久しぶりです」
「ホントはお久しぶりですは聞かないのが普通なんだけどね?」
「いや、それは申し訳ない…でも、魔道原動機は完成してやることないのに仕事に行くのって嫌じゃないですか」
「だから新たに仕事を用意して来たわ」
「仕事ですか?」
私はユルフワモードから仕事モードに切り替える。
「前からそう言ってるでしょ!」
ミゼリアは地団駄を踏む。
「あんまりやるとタイツが伝線するぞ?」
「わぁぁっ!?なにこの蜥蜴っ!喋ったぁー!!」
「涼さん、人前で返信もせずに喋っちゃダメですよ?」
「おお、すまんすまん…えーと…九頭竜ってなんて鳴くんだ?我、昔から人語ペラペラだからわからんくて…」
「フウカちゃん、今度はあなたには主砲を作って貰うわ」
「なるほど?主砲、ですか…魔法で撃ち合いした方が簡単な気もしますけどね」
「いい?これからの時代は現代戦、魔法よりも科学なのよ!動力の時代なの!剣だの魔法だのの時代は終わりよ!これからの時代は魔道船と魔導機関砲よ!」
「は、はぁ?まあ、なんにしても魔力で撃てる砲を作れば良いんですね?」
「ただの砲じゃだめよ?主砲だからね!!立派なのにしてちょうだい!」
「まあ、わかりました。なるべくやってみますね…」
「…なんか圧の強いオバサンだな」
「涼さん?げんこつが欲しいですか」
「ひゅーひゅー、なんの事だろうか、我ただの竜だからよくわかんないな~」
涼はそそくさと逃げていった。
「家の竜がすみません」
「いえ、いいわ。あなたに比べれば随分使いやすそうで良いわね」
「そうですか?」
「えぇ、少しは自覚して欲しいわ…じゃあ、主砲の事お願いね?それと!せめて週一はドックに来て!」
「ぜ、善処します…」
「来るだけでしょ?相転移門があるんだから直ぐでしょ?」
「わかりました、わかりましたから!」
「その言葉確り聞いたからね?」
「とりあえず砲が完成したら持ってきますね」
「ちゃんと週に一回は来るのよ?」
ミゼリアはくどくど言いながら表に戻っていった。




