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ウインド─第一章、改稿作業予定─  作者: 水無月 蒼次
南北東で戦だそうです。
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忘れられた国家機密

「何から言って良いか…とりあえずご心配お掛けしました」


私は今、エネシスの領主の館の地下の魔導戦艦研究所の一角でミゼリアさんと面と向かってお話している。


「ホントなら毎日来て欲しい所な・の・に、遊びに行って遭難ですか?そうなんですか。貴女は仮にも国家の秘密兵器の開発に携わってるんですよ?もう少し緊張感と言うものを持っていただきたい物です」


「いや、仕事はキッチリが私のモットーですので仕事の方は大丈夫です、もう仕上がってますよ」


「ならなおさら自分が国家の機密を握ってるという自覚を持って欲しい物です。コレで他国に抑えられたらどうするつもりだったのか、詳しく聞きたい物ですね」


「いやでも、私は猿轡されたり手枷付けられても魔法使えますし、敵とわかり次第海の藻屑に、いや塵にして逃げて来るつもりでした」


「手枷に魔法封じの効果が有ったらどうするのかな?」


「そのときは肘で魔法使います。こんな風にっ」


エルボから放たれた圧縮された風の塊は遠い岩壁にぶつかって膨れ上がり表面を丸く削り取った。


「こんなのも使えますし、スラッシュ!」


なんとなく扱える程度のお粗末な後ろ回し蹴りは踵の軌跡に沿って白い線を残した。


「これに触ればこんな鉄板ぐらい」


フウカが拾い上げたのは戦艦用で魔法を弾く特殊な装甲板だ。

それが紙切れかバター同然にスッパリいった。


「因みに、別に動きとかそう言うのなくてもできますよ。その方がむしろ楽です。動けば動いた分疲れますし、動きに同期させる分難しくなりますので、より精密な調整を求められます。なので私にそう言う軍事的心配は無用ですよ、海の上ならどれだけ海面を吹き飛ばしても誰も文句は言いませんから、もはや無敵ですよ」


普段からケルビン周辺での事を色んな人に言われ、壱なる門と島を吹き飛ばした事をエルに責められ、形ある色々を吹き飛ばさないようにというのを気に掛けて魔法を使うようにしているフウカにとって、海は唯一何も気にせず問答無用で跡形もなく吹き飛ばしたり、切り刻んだり、空間毎消したりできる場所なのもあってか、フウカは海の仕事は森や平原の仕事よりも若干テンションが高くなりガチだった。


「フウカちゃん?私が文句を言うわよ」


「そんな殺生な…海を取り上げられたらこの有り余る魔力と才能をどこで発散したら良いと言うんですか?」


「戦争…かな?」


「戦争かー戦争って儲からないって聞くけどやり方次第なんでしょうか…戦争って悲しいですね。それを跡形もなく消し飛ばす…それって良いことでしょうか?」


「跡形もなく消したり、吹き飛ばすのが良くない事でしょ?物事には順序と程度が存在するの一切合切無視して全部壊したらダメに決まってるでしょ?」


「でも、壊したり消したりするの得意なんですよ?」


最近、フウカは長く平穏な生活に物足りなさを感じていた。と言うか完全に不完全燃焼だった。


軽い運動程度の模擬戦や人質が居なければ腕の一振りも無しで吹き飛ばせるレベルの木の魔物とか…鯨に関しては完全にエルの掴み取りになり戦闘はなく…

ないにも関わらず二日か三日に一回ぐらいのペースでやってる精神世界での瑠美の格闘教室で近接格闘術はメキメキ上達していく。あまりにも充実感のない生活のなかでフウカは限りなくバトルジャンキーになっていた。


「もういっそ一人で突しちゃおうかな…私なら敵国の首都上空まで簡単に行けるし…一撃の元に首都に住まう人間全てを首都の建物と同じ量の土壌と一緒に灰塵に返したら少しはこの魔力過多の肩凝りも治るかな」


そしてフウカの悩みはもう一つあり、もう随分前からフウカを悩ませている魔力量の多さだった。以前は多すぎる魔力で周りから浮いたり実際に浮く程度だったが、こちらで過ごす内に高まり続けた魔力は杖を壊し、ついには謎の肩凝りに至った。

こうなってる来ると魔力生産過多は運動不足のような感じになってきて使わない魔力が体の各所に半凝固状態で溜まってダルくなったり時に痛みを伴ったり…


「え?なにその高血圧の肩こりみたいなの初耳なんですけど」


「それはそうですよ、普通の人なら体内で魔力が半凝固まで高まったら死んじゃいますからね」


しかし、フウカの体はレン印。

化け物染みた性能を秘めていたとしても何ら不思議ではなかった。


「ミゼリアさん、どっかに魔法を存分に使えて充実感もあるお仕事ないですか?」


だが、残念なことにミゼリアにはそんな仕事は冒険者か傭兵以外には思い付かなかったし、実際そんな野蛮で勝手なお仕事は他に存在しなかった。


「はぁ、冬。暇だなぁー」


フウカの溜め息は洞窟の中でも若干白く漂い、周囲からは暇とは縁遠いトンテンカントンテンカンが響いていた。


▼△▼△▼△▼△


対照的にソウジ、いやミーナの方は忙しかった。


体が男に戻らないとはいえ、やることが減るわけではない。

これが感染症の類いでもない以上休むという選択はDNAに刻み込まれた世界一の社畜精神が許さなかったし、いつでも腹ペコ(ホントにどこに入ってるかわからない)三匹とついでに一人も朝、昼、晩と三食欠かさず食べるし、家事手伝いに趣味の色々とか、買い物とかで何だかんだ忙しかった。

気分的には完全に専業主夫、いや専業主婦だった。


「まだしばらくは鯨もなくならないだろうし秋の猪がまだ大量にあるから肉は取り合えず困ってないんだけど、問題は野菜だよな」


周囲からは最近、アホな冒険者が冬越えの準備が終わらなくて恐喝紛いの集金を初めてて治安が悪くなるから警備兵に巡回増やして貰わなきゃと世間話が聞こえてくる。


そう、俺もそのアホな冒険者の一人なんだよな…


この世界に来てそろそろ二ヶ月、俺はこの世界の残念さを実感していた。

冬を越すためにお金や食料を秋の内に買い込んでおいて冬はそれで凌ぐのだとケイトさんから教わったが、お金はフウカさんが多少ギルドの屋根から巻いて金に群がる人間の実践をしても問題ないぐらいに持っているのもあって正直危機感が薄かった。

だからどうしたのかというと、端的に行って出遅れた。世間は既に冬に突入しており、野菜は秋頃の倍額になり種類もすべてが根菜になっていた。


「この冬、何回ぐらい蒸かし芋をすることになるかな~まあ二桁台でとどめたいのが本音だよね。おばちゃん、葉物野菜とか小松菜とかほうれん草とか冷凍インゲンとかない?」


「えっと?冷凍人間?そう言うのはね肉屋か路地裏に行くもんだよ」


あるわけがなかった。

冬である以前にここは異世界だ、小松菜だ冷凍インゲンだカット野菜だなんてあると便利な現代野菜の小売り商品なんてあるわけがない。


「なー、キャベツとか白菜とかないのか?」


「どうだろうね~キベッツとか言うまるっこい葉っぱの固まりがダルカスの西の方では作られてるらしいけど、冬は交易商人も減るからね、雪が積もったり積もらなかったり酷いと雨が降るアリシアじゃ無理だね」


なるほど、雪とか雨で路面が濡れて冷えると凍る訳だ。街道はまんま土だから雪が降ればカリカリ、雨が降ればグチャグチャな訳か…


夏は乾いてて過ごしやすいアリシアだが、冬は雨季でビチャビチャな訳か…ただこの雨雲どこから流れてくるのかは割りと謎だ。常に偏西風のような風で雲が西から東に流れている。


アリシアが夏に乾いてるというのも南にやたらと高い山脈が通っていて雲がそこを超えては来ないからだ。

つまり、アリシアに来るのは山脈の西の果てから流れて来る雲というわけだ。


「西か~帝国のある方だっけ?」


「そりゃ東だね。東の帝国、西の共和政だよ」


「それそれ、そう言えばなんとか教国とかってのも西だったな」


「キベッツが作られてるのはその東のサルブスタって国だよ」


「サルブスタか…一泊二日ぐらいで旅に出るのも良いかもな…上手くやればあの二人とも会えるかもだし。おばちゃんあんがと。キベッツ入ったらあたしに売ってよね!」


「入ったらね!」


ミーナは八百屋を後にしてふらふらと青龍通りを歩く。


コートの下で尻尾が揺れる。

防止で耳は隠しているが、コレが必要以上に人の目に触れるのはできるだけ隠しておきたかった。


ここ、南ゼレゼスは人間主義国家だ。

それは元居た日本もそうだったしアメリカもドイツも南アフリカ共和国だってそうだ。

普通に見れば問題ない、そこに人間らしからぬ物が混じらなければ…


この世界には多くの種族が生きる。

人間、獣、草花、魚…それらの一部は魔物と呼ばれ廃絶されようとし、それらの一部はヒトと呼ばれ群れて国を作り、それらの一部を亜人と謗り…排斥した。そしていずれ亜人もまた国を作った。


ここ南ゼレゼス王国の歴史は比較的古い方で、伝統的に亜人排斥論を主に掲げ亜人差別の根強い地域だ。


民草のレベルではそんなものは殆どないに等しい。

何せ今となっては亜人の国は世界でも有数の大国となり、帝国より西側では絶対的な権力を有し、資本主義の罷り通る現在となっては亜人もまたヒトであり、客であり、商人だからだ。


しかしこのゼレゼスって国の法律には少し大きすぎる穴があって…


『南ゼレゼス王国領においてはいかなる人種も差別、区別することはなく。いかなる人間も人ならざる邪物や魔物の驚異から守り職と安寧を約束する』


とアリ、この「いかなる人種」と言うのは地球で言う白色、黒色、黄色の範囲であって、亜人については「人ならざる邪物」の方で括られている訳で…

人に危害を加えれば重犯罪者以上の優先度で処罰、というか裁判すらすっ飛ばして討伐されかねないし、そうでなくてもリンチされても誰も助けに来ない可能性すらある。


つまり、猫耳や尻尾が生えた俺は今法律上めちゃくちゃ立場が弱いと言うことだ。


ギルドに逃げ込めばその限りではないが、ここは青龍通りの真ん中、ギルドがあるのは朱雀通り。


町を真っ直ぐ下ってって領主の館を超えて更に真っ直ぐ下ってって、家を超えて下った所だ。


そこまで走るだけで一苦労だ。


その前に領主の館に逃げ込むか、家まで走ればなんとかなるだろうけど、無駄な揉め事はごめんだからね。


でも、世の中って不条理でさ…


前から程々身なりの良い冒険者の二人組がわざとらしく胸を張って歩いてくる。

周りが遠巻きになっていて明らかに治安の悪い類いだ。


我ながら運がない…


俺も周りに合わせて道を開けてやり過ごそうと思ったが、運悪く後ろから子供がぶつかってきて、頭に乗ってただけのキャスケットは落ちてしまった。


子供は一目散に駆けていって、すぐに見失ってしまった。


代わりにさっきまで道の真ん中にいた治安の悪い顔が真上に来ていた。


「どうも…いい天気ですね~」


「ああ、ホントにいい天気だなw」


「おかげで冬越えできそうだ」


残念ながら今日の天気は臼灰色の雲に覆われた曇天で、北風強めだった。

作者:「ソウジが女の子してると色々楽しいね」


レン:「そうだね~平和だよ」


ソウ:「お前らはな!こっちは大変なんだよ!!」


ジン:「平和だな」


レン:「ジン君、令和だよ?」

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