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ウインド─第一章、改稿作業予定─  作者: 水無月 蒼次
南北東で戦だそうです。
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騒動の予感

俺は相変わらず応えに困り、結局何も言えずに泣き疲れて床で横になったフウカさんに悲鳴を上げる体(…と言うか肋骨)を無視して毛布を掛ける。


「思い返してみれば俺の方こそフウカさんに頼りっぱなしなんだよな…」


俺は主に居場所という意味合いでフウカさんに頼りきっていた。


フウカさんが居たからこそ俺はここに居ることを許され、フウカさんが居たからこそここに居場所を作れた。

今の人間関係も殆どフウカさんから貰ったような物、何も持っていないのはむしろ俺なのだ。


まあ、そもそもずっと昔に全てを失った俺には今さら何がないとか何もないとか関係ない事だ。

ただ、少し贅沢を許されるなら俺は腑甲斐無い自分を恥じるべきなのだろう。


腑甲斐無いと思える事自体が余裕ある事の誇示だ。

俺にあるのは己の身と涼と多少の金子。


フウカさんより秀でて持っている物など殆どないに等しい。

しかし、俺は普段から貰っている物をさっき、あの場で少しでもフウカさんに返すべきだった。

しかし、残念な事に俺には何をどう返して良いのかがわからなかった。

そして、未来からの俺も現れなかったあたり、俺は未来永劫フウカさんにその返すべきなにかの返し方をわからないのだろう。


外との繋がりを断っている空間魔法は未だに消える気配はなく。

肋骨の痛みも一向に引く気配はなく。

どのみち動けないから空間魔法の結界について気にする必要はないのだが…


「涼、いつもの本を取ってくれ」


『んっ?ここなんかつっかえるな…んー、よっこいせっ!』


掛声と共に開いた小さい穴から涼がなんとか出てくる。


「アタタタタ、肋骨が痛いんじゃー!」


「お前は折れてないだろ!」


「あぁ、すまん。ノリだ、許せ」


涼は九つの頭の内の一つで咥えてきた本を放り投げる。


「それで、我にどうしろと?」


「あっちのラックにある対骨折・部位欠損デバフ用のポーション取ってきてくれ」


「あっちの世界は便利だな…」


「あと、予備があれば注射器も…なければ良いわ」


「はぁ…我にお前のごった返し棚の中からそのお使いの品を探してこい、そう言いたいんだな?」


「そ、そう言うこと」


「我はまだ炙りトロ丼を受け取っていない」


涼は九つの頭で俺に白い目を向ける


「そう言うこと言うのか…なるほど。なら俺にも考えがあるぞ?お前がどうしても今この場では協力しないと言うなら体に直接頼むしかないな…」


俺は感覚共有を図りつつ腫れ上がって変な色になった肌の上から肋骨に触れる。


「おい、お主ぃ?馬鹿な事はよそうではないか?それはお主にも我にも損だろぅ?」


「お前が素直に手伝ってくれるなら俺もこんなことをしなくてもいいんだがなっ」


俺は歯を食い縛って肋骨を親指で弾いた。


「くぅっ…ふっ、どうだ思い知ったか!」


「あぎゃぁっ!…我は断固として報酬の先払いを要求する!」


「そうかなら、分かってくれるまで続ける他ないな」


俺は再び肋骨に触れる。


「まっ待て、早まるな?お主は利口な筈だ。ちょっと未来から取り寄せれば良いだけだろう?」


「・・・!それがあるじゃんか!っいたた…」


「お主、気づいてなかったのか?」


「あはは、最近配下を使う事ばっかり考えてて自分を使うことが盲点だったわ!そうだな、肋骨治した俺に肋骨治す為の薬を持ってこさせれば良いんだよな!涼、ホワイトボード!」


涼はトランクにダイブして俺の予定表…通称ホワイトボードを引っ張り出す。

ホワイトボードって言ってもデカイ紙を木枠と板を組み合わせた土台に張り付けただけのなんちゃってホワイトボードだ。


ただ、一日の枠に書き込むことが多い俺はもう一面で見れて広いスペースがあった方が良いからこの形にした。

どのみちトランクもあって持ち運びにかさ張るとか言うのは今更の話というか…ね?


「さてと、やりますか!えーっと、明明後日の俺が暇してるな、ちょっと取ってきて貰おう、肋骨に効くポーションと炙りトロ丼3杯(内一つは涼用)っと」


「おまた~ご所望の品を持ってきたよ~」


現れたのはやけにテンション高めで女バージョンの俺だった。


「あ、ついでに忠告ね」


「は?未来の情報を渡すことがどう言うことかわかってるのか?」


「大丈夫、大したことじゃないからさ!」


未来から来た俺の目が冷たく研ぎ澄まされて俺の瞳を真っ直ぐに覗き込む。


「──覚悟しとけよ」


未来から来た俺は銀色の光となって消えていく。


「なんだったんだ?」


「さぁの?ほら、ワシに大盛りの炙りトロ丼を寄越せ!」


「ほらよ、ありがとな」


そう言うと涼は頭の一つで少し照れくさそうに首を捩る。


「まあ、お主はある意味我自身だ。このぐらいは…な?」


「それもそうだな」


俺はコートのポケットから水晶球を抜き取って魔法を行使する。


そうして時間を止めた丼二つをフウカさんのテーブルの上に並べた。


そして例のポーションを一気に飲み干す。

向こうのアイテム特有のエフェクトで飲むと体が若干光って回りに光エフェクトが発生すると言うのがある。にも関わらず部屋が少しも明るくならないのは全くの謎だ。


すっかり痛みの引いた俺は肋骨を確りと治すために、市販の回復活性ポーションを飲み干す。


「さてと、変身が解けても良いように俺は一応着替えよう」


そして女物の服からいつもの服に着替えてコートは脱ぎ、フウカさんをベッドに寝かして自分も横になる。


もう、少しでも早く痛い肋骨から解放されたくて俺はいつもよりかなり早くかつ深く眠ることにした。


精神的な時間の流れを弄れば僅な体感時間で長時間眠れる(細かい事を言えば起きようという伝達が体の各部に届くのも遅れるから必然的に睡眠時間は長くなる)


そして俺は短くしょうもないが夢を見た。


俺は研究室で魂を弄っている。

魄の内包エネルギーの有効活用の研究を行うにあたって、既に確立されている魂エネルギーの抽出を洗い直しているのだ。


「ねぇ、たまにはさ?この部屋から出て僕と世界を見に行かない?」


いつの間にか隣には少し延びた黒い髪をヘアワックスで固めて赤い瞳でこっちを覗き込んでくる彼が居る。


口が勝手に開き、少し高い女性の声で喋りだす。


「んー、今はいいわ。養殖場見学はまたの機会に誘って?」


「僕は君にはもっと彼らの世界を見て欲しいと思ってるよ」


「研究が終わったらね」


「それって何百年後なのさw」


「どうだろうね…学びには果てがないからね」


夢はそこで終わっていた。


のそりと起き上がると、俺は変わらずフウカさんの部屋に居た。そして肋骨の痛みはなく、直に触れようとすると脂肪の塊が邪魔をする。


「ん?」


俺はしばらく自分の胸に手を当てて考える。


「戻ってない…」


窓からは燦々と初冬の穏やかな日光が差し込んでいる。


見れば太陽は既に真上に上がっている。


つまり俺はかなり長い間、少なくとも一日は眠った筈なのだ。


「あれ?おかしい…時魔法の影響なのか?涼、状況報告」


『お主が眠ってから丸一日と二時間程度経った』


「涼、女体化解除薬」


空間に穴が開いて瓶が放り出される。


それを一気に飲み干した。


▼△▼△▼△▼△


私は私の部屋で眠りこけるソウジの様子を見に部屋に戻ってきた初冬と言うことでかなり冷える家の廊下を靴底を鳴らして歩き、自室の扉を開け放つ。


「ソウジ君!いつまで寝てるんですか?もうお昼ですよ!」


ソウジはベッドの上で俗に言う女の子座りでワタワタしていた。


「フウカさん…」


そして私が何か反応するより早く泣きついてきた。


「ど、どうしたんですか?」


「どうしたもこうしたも見ての通りです」


見ての通り?ソウジ君は着崩れした男物のいつもの格好で、コートは着ていない。刀は足下に転がっていてちょっと危ない。


「戻らないんです!男に戻れなくなっちゃったんです!!」


「そのうち戻るんじゃないですか?」


「もう、5日分ぐらい体の時間を進めてるのに治らなくて」


「は、はぁ…まあ、大丈夫ですよ。家とか周りには協力してくれる女性陣はたくさん居ますし、何か不都合があれば手伝いますから…ね?」


「…戻れなかったらどうしよう…」


「何か不都合ありますか?」


「ありますよ!見慣れてるだけで女の子として生活するのは初めて…じゃないですね。こっちに来てから結構してましたね。でも仕事には行けなくなりますよ?」


「ソウジ君、当分お仕事はお休みだから大丈夫ですよ」


「そうでしたね」


「まあ、何かあったら手伝いますから…とりあえずお昼にしませんか?」


「・・・あ、はい。リクエストありますか?」


「そうですね…豚汁とか冬は良いですよね」


「豚汁で良いんですか?」


「素朴ですけどこの異世界だと用意するのが難しいって聞きますし」


フウカさん、それは正しいけど間違ってるよ…俺の場合は豆系調味料には事欠きません!


と言うことで今日のお昼はめちゃ和風な定食にすることにした。


ご飯、豚汁、魚の煮付けと海草の和え物。


「ソウジ君…この煮付けは上手く作ったわね」


醤油、酒、みりんはないから砂糖多めに入れて作った煮付けは思いの外上手くいった。


ぶっちゃけ俺は味覚が変質して九頭竜寄りになった結果、魚は飛びきり美味しく感じるのだが、それを抜きにしても美味しく感じる出来ばえだった。


一方でフウカさんは…


「なんでかわかりませんけど最近お肉が美味しいんですよね…特に四足動物が」


「それ、エルさん辺りに感覚を引っ張られてるんじゃないですか?」


「そんなことあるんですか?」


「俺は現に涼に味覚が寄って魚が美味しく感じます。もう、鱗まで甘美になっちゃって…」


ケイトさんの白い目が俺の方を定めて


「それはもはや病気ね」


容赦ない言葉の槍が胸を抉りました。


「うぅ…ケイトさんも涼の味覚で魚を食べたらわかりますよ…」


ソウジ君は小さい涼に鰯を放る。


涼はそれを九つの頭の一つで食べて残り八つで貰ってないと言う目でソウジを見る。


「でも、もしもそうならクジラとかがより美味しく感じるかもしれませんね」


「クジラ?全長3m以上のイルカですか?」


「それです。ロック鳥はその巨体でシロナガスクジラを捕らえて食べるって伝説知りませんか?」


「あー、なるほど?でも捕鯨って違法じゃないですか?」


「別に違法じゃないわよ?弱い生物は必然的に淘汰され強い者だけが生き残る、弱肉強食を自然としてその自然を尊ぶ為に人間による特別な自然保護は禁止らしいわよ?別に詳しくはないけどさ…鬼人の森の辺りの自然保護法案がその原則でダメだってギルドに邪魔されて通らなかったのは結構最近の話だし…」


ケイトは良い終えると豚汁をスプーンで食べる。


「じゃあ、午後からは鯨捕りですね」


「俺は流石に鯨は料理したことないですよ?」


「カイさんの所に行きましょう。ついでにギルドで何か依頼を受けてきましょう。まあ、たぶんすぐ見つかりますよ♪」


こうして昼は過ぎていった。

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