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ウインド─第一章、改稿作業予定─  作者: 水無月 蒼次
南北東で戦だそうです。
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憧憬の代償

俺が呼びに行くとなんとも言えなく気まずい空気がそこに漂っていた。


「(カルム、なにこれ?)」


耳元でカルムに訊ねるがカルムは首を横に振るばかりだった。


見れば見るほど一触即発というか爆発した後に見えてくる。


「フウカさん、貴女がそんな軽い人だとは思いませんでしたよ」


アリアさんの一言について俺は…

『フウカさん、ホントに知らないところでなにしたんだろ…』と心で呟く


「特別だと思ってたのに嘘だったんですね」


ソフィアさんの涙ながらの一言には

『いや、たぶんフウカさんは割りと誰にでも同じ対応ですよ…』


そしてユリさんは…


「プリンですか!?いただきまーす」


「はい、どうぞって…切り替え早!!」


「ソウジ君、腕を上げましたね?」


「毎日作らせて貰ってるのでメキメキ上達はしてますけども…」


「つっこみ?は及第点ですね。細かいことを気にしていてはやってけませんよ?カルムもね」


あれだけ大騒ぎして細かいことなのか…


「だってそもそもですよ?フウカさんの特別は私達下々ではなくケイトさんの物です。それをああだこうだと、おこがましいにも程がありますよ!フウカさんが軽いのは…体重的に確かにそうですけど、それ以上にケイトさんへの愛が重いんですよ。二人ともちょっと自意識過剰なんじゃないですかぁ?」


(う、うわぁ…なんか現代日本でも聞いたことがあるようなセリフ…最後に小さく「ぁ?」って伸ばすあたり煽りテク高いな~)


アリアとソフィアが固まる。

そしてなんとも気まずい顔をしている。


それに対してフウカさんは…無言の笑みを向けている。


「ソフィアちゃん…」


アリアが沈黙を割り…スプーンを口に運んだ。


「…プリン、おいしいね」


「…そ、そうですね」


「落とし込んだぁ!これは確実に最終的にプリンに全部落としこんで混ぜてゴリゴリに任せて有耶無耶にしようとしているよ!」


赤い瞳の黒髪のそれはフウカさんの肩に手を置いてマイク片手に熱烈な実況をした。


「なにその目、まるで人をコンクリ風呂でクルージングに出すような目だけど?」


フウカさんの肩に触れてた手が確りと掴まれる。


「んふふ、誰の許しで私に触ってるんですか?」


フウカさんの手が確りとレンの手首を捻る。


「痛いイタタタタ…はなしてぇー」


「…ちゃーんと外してあげますよっ」


ゴリッ


ハッキリと聞こえる程の音を立ててレンの左肘が異常な方向に曲がる。


「ぎゃー、普段非力なのになんでこういう時だけ怪力なの~」


「魔力で身体強化してますからね」


レンが床でわざとらしくバタバタとのたうち回った末に冷静な顔で肘を元の位置に戻した。


「はぁ、いきなり酷いことするよね…ねぇ、僕の分は?」


「は?」


「だから、僕の分のプリンはないの?」


「突然出てきたやつの分なんて用意はねぇよ!」


「まあ、それもそっか…でも最近は大人しいね。この前までは『ダンジョンだー』『海竜だー』『白フードだあぁ』って騒がしかったのに…」


「最後のは殆ど貴方のせいですけどね」


「今はもう冬で冒険者は休業だ働かなくてもしばらく暮らせる金はあるしな」


「へぇ、なんだつまんないの~僕も今は暇なんだよね~色々やることはあったけどもうやることは終わって待つばかりなんだよね~」


「へぇーそうなんですか、帰れ」


「いや、だから君たちに協力したら少しは暇潰しになるかな~って思ったんだけどさ?」


「どんな協力をしてくれるんだ?」


「なんでもやるよ?僕はなんでもできるからね!」


「じゃあ、帰って?」


「ヤダ」


「帰れよ!」


「ソウジ君、この人怖い~」


「いや、俺も今取り込み中だから出直して欲しいな」


「仕方ないな~じゃあプリン一個で帰ってあげよう!」


「ただの食い逃げですね、叩き出した方が早いですね」


フウカさんの手に藤色の魔法陣が浮かぶ。


「まあまあまあ、じゃあレン、チョコレートプリン出せ」


「プリン一個で出してあげよう!」


「後払いだ」


「はーい…」


渋々ながらレンの手にプリンが現れる。

それをソウジは受け取り、


「はい、受け取ったら帰れよ?」


そのまま渡した。


「いや、これ僕が出したプリンじゃん!」


「プリンはプリンだろ?」


「そうだけども、そう言うことじゃないよ!もっとなんて言うの?わかんない?」


「あぁ、わからん。帰れ」


「ソウジ君の人でなし!そのうち長期間に渡って女体化が解けない呪いを掛けてやるぅ!」


レンはバタバタと暖炉から出ていった。


「これで片付いた。そう言えば皆さんはなんで集まってたんでしたっけ?」


「私とカルムはソウジ君のお見舞い」


アリアさんは

「右に同じ」


ソフィアさんは

「私はフウカさんと遊びに来ました」


「あたしは居候」

ついでとばかりに置物と化していたアデルが告げる


「アデルさんは知ってます」


「フウカさん!今から遊びに行きましょう! 」


「あ、俺は肋骨治ったので遊んできて貰って大丈夫ですよ」


服を捲って見せるとフウカさんの指が折れていた肋骨に触れる、全く問題ない。


肋骨が僅かに熱を持つのを感じた途端、激痛が走る。


「えっ!?治った筈ぅ…」


「この程度で折れちゃうならまだ仮に治癒しただけだったのかもしれませんね」


フウカさんはニコニコしながら指を離した。


その指先から僅かに水浅葱の光の粒が散るのを俺は見た。


青は水、緑は風…水の効果は浸食、沈殿、浄化、風の効果は確か…風化、腐食、運搬だったはず。いったい何をしたんだろうか…


「風の特性の運搬のエネルギーを水の浸食と絡めてピンポイントで直接骨に通しました。並みの状態なら折れないように加減したつもりですよ」


「…フウカさんも人が悪い」


自分の顔が青いのはなんとなくわかる。

正直、痛みで意識が飛ぶ一歩手前なんだ、そのぐらいわかって欲しい


「まあまあ、後でちゃんとポーションを染み込ませてあげますから。多少は許して下さい。と言う事で私はソウジ君を部屋で看病するので適当にやってて下さい」


フウカさんは俺が激痛のショックで動けないのを見越してか、空間魔法で俺を直接運ぶ。


俺は特に文句はないから黙って運ばれる事にした。

どうと言う事もなく俺は自然とフウカさんの部屋のベッドとに横たえられた。


「ソウジ君、いつも君には迷惑を掛けてばっかりで悪いと思ってる。だからついでと思って少しだけ私のわがままに付き合って下さい。いや何をして欲しい訳でもないんです、ただ少しだけ理由になってほしくて…」


俺の前には世にも珍しい、フウカさんの涙があった。


気丈な態度を常に崩さず、時に魔物を無慈悲に殲滅する殺戮者、時に大人を手玉に取る策士、時に子を育む母として、誰からも非難される事もなく尊敬の眼差しを向けられてきたフウカさん。


しかし、目の前にあったのは年相応の普通の女子高生の姿だった。

フウカさんの手の中から放たれた藤色の箱は部屋の壁にピッタリと貼り付く。


「…私だって辛いんです」


ぽつりぽつりと涙と一緒に絞り出すような呟きが吐き出される。


「皆にフウカさんって呼ばれて、なんでもできるみたいに持て囃されても私は殆どの希望に応えられない、応えられない自分が辛い…ホントはただ強気に振る舞ってただけなのに」


部屋を見回してみれば、至るところに本と文章の書き列ねられた紙切れが山積みになっている。


「ホントはこの体も、この知識も、この才能も私自身の物じゃない。この体はレンの作った容れ物、この知識は夢唯さんの物が殆どだし、この才能は瑠美さんによるところが大きい。私じゃない!私は…この世界に産み落とされただけなんです、ただレンに転生者とか呼ばれただけでホントは…」


部屋の中全体からフウカさんがフウカさんであるために努力し続けていた事が伺える。

なんでもできる天才であり続けようと必死で努力した形跡が分かりやすく残っている。


「私はさ?ソウジ君が自分の力で色々できて、一人でも大丈夫で、戦闘も、人付き合いも、料理も、研究もできて、皆に胸を張って俺がやりましたって言うの見てると羨ましかった…私もソウジ君みたいに虚栄じゃなくて胸をはって皆と話したいけど、ダメなんだ…だってこの口は私の物じゃないんだもん」


俺は応えに困っていた。


きっと、「ケイトさんが好きなのは等身大でも虚栄を張ってても、フウカさん貴女なんですよ」とか言うべきなんだけど、それを言ってもいまいち説得力に欠ける気がしていた。何せ俺はフウカさんとは違って知識も記憶も自分の物で、体も自分の物を元にレンが用意した物だからだ。きっと今のフウカさんにはわかってもらえないだろうから。


▼△▼△▼△▼△


「フウカさん、大丈夫でしょうか…」


食堂はまた違った雰囲気が漂っている。

なんと言うか気まずい感じだ。


「やっぱり誰か様子見てきた方が良いんじゃないですか?」


フウカの取った明らかな強行手段に皆動揺していた。


そして入り口にはみっちりと白い毛玉が填まり込んでいる。


「見に行くって言ってもリンが退いてくれない事には行けないでしょ」


リンは廊下と入り口を成長したその巨体で押し潰していた。


リンが首を横に振る。


「今のおかあさんには誰かの言葉じゃなくてただ休息が必要なの…」


リンはいつになく真剣な声色でそう言った。


「ねぇリン?、フウカはどうしたの?」


「おかあさんは親に愛された事がない、正確には愛された記憶がないのは皆さん知ってますよね?」


フウカは記憶喪失でここに来る前の記憶を失っている、その以前の人格が例のアイーシャさんと言うのがここの一部の面子の共通見解だ。


「つまり知らないんです親に愛される事を、どんな親が良い親なのか知らないまま、残った知識を元に理想の母を演じ続けて居たんです。他の所でも理想の冒険者、理想の交渉人。常に理想の自分であり続けようと隠れて努力して…辛さも本音も押し殺して…隠れて吐き出してたんです」


場が完全に静まり返っていた。

ほぼ全員に心当たりがあったからだ。


「でも、ちょっと前…神具の覚醒とアイーシャさんの覚醒はどちらも更におかあさんから時間と余裕を奪い理想のハードルを上げることになりました」


アイーシャさんの覚醒は自分の過去が明らかになったことで自分の人格が後付けの紛い物だと証明されたに等しくフウカから余裕を奪う結果になった。


神具覚醒の大きな理由の一つだった白フード襲来はエネシスに甚大な被害を及ぼし、その復興の為にフウカは過労で倒れるまで働く結果となった。


そして神具と繋がった結果リンとエルと繋がり続ける事になり、常に良き母であり続けなくてはならなくなり、今まで圧し殺してきた諸々が爆発した。


とリンはエルの言葉をそのまま代弁した。


しかし、ならソウジ君はどうなんだろうかとケイトの中に疑問が湧く。


同じく神具を継承し、エネシス復興にも参加し、毎日家事をこなし、仕事をこなし、おそらく誰よりも働いている彼はそう言う不満がないのだろうか…と


◆◇◆◇◆◇

作者:「実際のところどうなんだろうねぇソウジ君?」


ソウ:「別に不満はないですよ。確かに演技はしてますけど…その分向こうで遊んでますし?フウカさんと違って気分転換に使える時間は幾らでもあるのでそんなにだよ」


レン:「僕はねぇ、毎日が退屈~退屈がストレス」


ジン:「俺は冬の休暇が楽しみだ。冬はスキーにこたつに…」


作者:「ちょっとまって、ジン君、こたつでスキーするの?」


ジン:「なわけあるか!」


◆◇◆◇◆◇

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