あいすからこそ
作者:「あははは、楽しいなぁ!」
レン:「ほのぼの系だね!」
それはこの世界にきて早数ヶ月に渡って俺を悩ませていたとある問題を完全に克服した物だった。
「どう?そろそろこういうの恋しくなってきたんじゃないかと思ってさ!」
レンは事も無げにそれを作った。
縦3m、幅1m、高さ1.2m程度
全体の三分の一を占めるのは艶消し加工の施された無機質な銀色。艶消しなしの取っ手が目映い。そして更に三分の一を占める黒々とした面には三角形の頂点を思わせるように円が並びその周には小さな柱が並ぶ。
そしてやはり抜きには語れないのは真ん中の三分の一を占める水平線を思わせる強化セラミックの平面!
それだけでは終わらない。手前の面に備え付けられた扉から見てとれる超大収納、28cm以上のフライパンも余裕で入りそうな気すらしてくる。
そう、コレはシステムキッチンだ。
俺の悩みとは、安定しない火力、水平じゃない台、水捌けの悪い流し台だったのだ。
「いや、お前コレ水道もガスも電気も通ってないだろ?」
「チッチッチッ、ソウジ君。僕がそんなダチョ〇倶楽部みたいな罠を仕掛けるとでも?」
「仕掛けると思う。今まで散々そう言うのに引っ掛かった気がするし」
「えー、そんなになんかしたっけ?」
思い返してみる。
縛られた(菱縛り)、性転換、巻き込まれた鬼ごっこ、朝食のすり替えはしょっちゅう(なぜか起きてくるとドーナツにすり変わってるんだよな…)、ちゃちゃが入る事もしばしばあった気がする。
うん、性転換のあたりで普通は許せないよな。
「僕的には控えめなつもりだよ!!」
俺は反射的にビンタした。
いや、反射じゃない。
こいつが次に喋ったら叩こうと思っていた。
「痛い…これがDV…D…」
レンの手にはディスクが乗っている。
「文字通りリッピングするか」
こうして見るとフウカさんの気持ちが凄く解る。
『リッピングは犯罪です!!だから止めたい!撲滅したい!!そんな気持ちを歌にして…』
「誰?」
「え?知らないの?リッピング撲滅を唱える山崎君だよ?」
「は?誰だよ!」
俺は喋る白黒の絵のようなやつを切り捨てる。
『ぐわぁぁぁ!君がジャック・ザ・リッパーか…撲滅したかった…』
「ソウジ君、やっぱり君はバイオレンスだよね」
「で?水道とかつながってるのか?」
「えーっとね?水晶球に飲めるレベルの水をとか電気とか出すようにプログラムして埋め込んであるんだ。で分子を魔力に変換するブラックボックスを埋め込んであるからスイッチを押せばすぐそこに!それがモンスターズぐっ!痛いな…肋骨折れたじゃん!」
肋骨が折れたって言うかレンの腹に質素な杖が刺さっている。
「あなたが変なこと言うからです!」
フウカさんは背後に大量の杖を浮かせて、レンを指差し怒鳴る。
「酷いな、代替品の扱いが雑すぎるよフウカ君…もっと優しくして欲しいよ。僕にっ!」
レンもまたがなる
「突然出てきてふざけすぎなんですよ!なんですか!この大きなシステムキッチンわ!」
「なんなんですか?って自分でシステムキッチンって言ってるじゃないか!それにそれはソウジ君へのプレゼントであって君のじゃないよ」
なんでこの二人はこんなに仲が悪いんだろうか…
そしてフウカさんの眼光は次に俺の方を向く
「こんなの置く場所は家にはありませんよ」
「あ、そこはご心配なく。トランクにしまうので。ほら重雪、担げ!」
トランクからひょっこり顔を出した雪人形はムクムク大きくなって、システムキッチンを丸ごと担ぎ上げる。
「もうしまっちゃうの?どうせならこの場でやろうよ、散文クッキング」
「あぁ、アレな散文で紹介するやつな?なあ、お前バカなんじゃないのか?」
俺はレンの頭を叩く。
「まあ、ちょうどお昼ですし…性能テストも兼ねてやってみたらどうですか?」
確かにそれもそうだ。
そもそも、お昼を用意するために話していたんだ。
出来合いよりもその場で作った方が美味しいし楽しいだろうしな…
「そうそれ!僕が言おうと思ったのに~」
レンはわざとらしく悔しがる。
「はい、良いですよ?なんかリクエストありますか?」
やはりリクエストの有無は重要だ。
やる気に直結する。
「リクエストか~僕はね~皿うどん!」
レンは皿を片手に箸でうどんを啜る。
「食べてるじゃないですか」
「フウカ君、もっと勢いつけて!」
「嫌ですよ。なんで私が貴方のためにそんな労力を使わなきゃ行けないんですか!」
なんだかんだこの二人は仲良しだと思う。
なんだかんだあっても和気あいあいとしているし、フウカさんはこいつを消し去れるかもしれない魔法「トリミング」を持っているのに使わない。
「あはは、キャーバックで突かれるよ~」
「あなたって神はなんて事を、私が変態みたいになるじゃないですか!」
と言いながらもフウカさんは槍が二本に見えるような速度でレンを突き、レンはそれを全て避ける。
和気あいあいとは程遠い行為を行っているが、本気じゃないのが解るからか微笑ましく見える。
「そうだな冬だし、今日は洋風鍋うどんにしましょう。フウカさん、手伝って下さい」
「え?私!?私、料理はからっきしで…」
「俺の指示通りにやってくれれば良いですから」
「は、はい…でも絶対足手まといになりますからね?」
「良いですよ、俺がサポートするのでどんなミスを犯しても絶対に食べられる料理に仕上げて見せますよ」
こうしてソウジ君とフウカ君による、初めての散文クッキングが始まったのだ。
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「だから散文クッキングってどういうことだ!」
「いや、僕は知らないよ。まあ、とりあえずなんか作ってみたら良いんじゃない?」
レンは適当に言い放つ
「やってみましょう!」
フウカさんがワンカットでノリノリになっている。
「俺は平行世界にでも来ちゃったのかな?」
次の瞬間にはフウカさんが真っ二つに割れる。
「私はこんなじゃありません」
「あー、イマジナリーフウカ君が…」
「イマジナリーが実体化してるんですよ!気色悪い物を出さないで下さい!」
(うん、これがフウカさんだよね)
そんな事を考えつつも鍋とまな板を取り出して包丁の準備を整えてしまってる辺り俺もつくづく毒されてきているのだろう。
俺はさっさとフウカさんと自分を対象に指定して時間を加速させる。
「さ、フウカさん、やりますよ!」
「あっはい!」
「とりあえず、手を洗って下さい」
「そのぐらいは大丈夫ですよ」
と言っては居るが実際どの程度のヤバさなのか俺を含めて誰も知らないはずだから一応用心する。
「で、何からやりますか?」
「とりあえず野菜切りましょう。人参は短冊切りに…」
「はい、短冊ですね~」
フウカさんの目付きが変わる、僅かに振り上げられた短剣は一息に人参を真っ二つにする。
(あ、なるほど。そう言うタイプですか…)
「何か問題ありますか?」
「とりあえず野菜を手で押さえて切るようにしましょう。切った端がどこか飛んでったら大変なので」
「あ、そうですね!」
今度は人参をガッシリ掴んで切る。
(時々居るよな、料理になると途端に不器用になる人)
思うにそう言うタイプだ。
フウカさんは知識は持ってるようでちゃんとその形に切っていく、しかし恐ろしく効率が悪い。
「ふぅ、終わりました!」
「フウカさん、ちょっと見てて下さい。ジ短冊切りは先ず人参は半分に、そこから縦にスライスしてけばいいんですよ」
「でもそれじゃ端が細長く…」
「だから端は少し厚めに切ったりするんですよ」
「そんな適当な」
「適当で良いんですよ…じゃあ次は玉ねぎお願いします」
俺はあらかじめ皮を剥いて時間を止めておいた玉ねぎの時間を戻してフウカさんに渡した。
「はい!頑張ります」
その間に俺は芋の皮を向いて八分の一程度に切るそれはとりあえずボウルに入れておいて、俺はハーブを選ぶ。
この世界にもハーブは一応ある。
ただ故障などの香辛料と同じく少々高額だ。
がしかし、俺は異世界からハーブと香辛料だとかを持ってきてるから遠慮なく使う。
「先に肉に振っとくか…」
別のまな板の上にちょっと前に取ってきた猪の肉を置き、塩コショウを擦り込む。
「ソウジ君…玉ねぎが…」
俺はフウカさんの蚊の泣くような声に振り替えると…
フウカさんはすっかり細長くなった玉ねぎを持っていた。
「え、そんな童謡じゃないんですから」
「皮を剥くのは知ってたんですけど…どこまで剥いたら良いのか…」
フウカさんは目を擦りながら言う。
「フウカさん、とりあえず手と顔を洗いましょう」
俺はまな板の端に積み上げられた玉ねぎの残骸をそこそこ見える形になるように刻んで鍋に放り込み、火に掛ける。
「じゃあフウカさん!これ炒めて下さい。あんまり焦げないようにお願いします」
「はっはい!」
これなら大丈夫だろう。
俺は肉を切って塩コショウを揉み込む。
煮物にするなら牛なら肩ロースが俺は好きだ。猪がどうかは解らないがとりあえずそこそこの厚さでスライスする。
バラも良いだろう、これも適当にスライスして塩コショウ振って放り込む。
「あとは芋と根菜を放り込んで、煮る!」
「こんな適当で大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫、俺には異世界から引っ張ってきた秘密の万能調味料がある。と言うことで次はうどんですね」
「まさか今から打つんですか?」
「まあ、ラーメンの麺はあってもうどんの麺はないのでそうなりますが、そんなに時間は掛かりませんよ?」
俺は小麦粉をボウルに移し、常温の水で塩水を作り、混ぜる。
そしてまとまってきた粉をこねてまとめる。
そしてまな板に移して、こねて、こねて、こねて、こねて、こねて…ねかせる。
そして生地の時間をさらに加速させて、数秒後、再びこねる。
そして伸ばして、畳んで、切る。
「こんなもんです」
「それはソウジ君が時魔法が使えるからこその手軽さですね」
「さ、これを量産しましょうか」
早速銀色の光と共に大量のうどんの麺が姿を現す。
「未来で作ったものを送ったんですか?」
「そう言うことです。ポトフの方どうですか?」
喋りながらも俺は次々うどんを煮る。
「ちょっと色味が薄い気がします」
「そうですか…じゃあ調味料の出番ですね。手作りコンソメキュ~ブ~」
気分はただ飯食いの青タヌキだ。
「て、手作り!?それを?」
「はい、向こうでちゃちゃっとコンソメ作って、煮汁を濃縮したものです。それとこの醤油で味を整えて…」
俺はなんとなく形になったポトフに茹でて水でしめたうどんを放り込む。
「さっ出来上がりです」
「なんか全然役に立てなかった気がします…玉ねぎ失敗しましたし」
(はぁ…)
俺はポトフの時間を止める
「じゃあデザート作りましょうか。アイスクリームならフウカさんは適性があるので簡単にできると思いますよ」
俺は牛乳と砂糖を別の鍋に放り込んで火に掛ける。
「先ずは沸騰させないように砂糖を溶かして下さい」
「はい!これなら私でもミスしません」
これが一番怖いのだ。
自信のある人間は大抵ミスる。
俺は卵をボウルに解く。
「次は何をすれば?」
「ここに少しずつ入れてください。少しずつですよ?」
「はい!」
それを今度はザルでこしながら鍋に戻す。
「次は何をすれば?」
「これをとろみがつく程度まで火にかけます」
「はい、所でバニラエッセンス的なのって入れなくて良いんですか」
「─ポック、ポック、ポック、チーン…─あっ。切らしてる!?まあ、大丈夫。ミルクアイスって事で…」
自信のある人間は大抵ミスるんですね。
はい、自信のあるのは俺でしたか。
「とろみがついたらどうしますか?」
「ボウルに移して混ぜながら氷水で冷やします」
「はい、また混ぜるんですか?」
「アイスクリームは混ぜて作るものです。冷えたら容器に移して冷凍庫で少し固まるまで冷して、混ぜてを三回ぐらい…」
「冷凍庫、ないですね」
「(ジーザス!なんと言うことだ…呪うぞ異世界!)…魔法でなんとかしましょう」
『氷よ、汝は箱。内に納めし場を氷点に保つ箱なり アイスボックス』
フウカさんの手の上にちょうどボウルの入る程度の箱ができる。
「これに入れて冷やしましょう」
「盲点でした。ありがとうございます」
俺はボウルを納めた箱をまるごと選択して時間の流れを早める。
「さっ、混ぜましょう」
「はい」
結局散文クッキングってなんなんだ?
俺の些細な疑問は残されたまま作業は進んでいった。
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「それで、そのあいすくりーむはどうなったの?」
待ちきれなくなったケイトさんが特設厨房に来ていた。
「こうなりました」
それにはスプーンが突きたっており、持ち上げても振っても抜けない塊になっていた。
「まさか、冷凍庫の威力が急上昇して中身を完全に凍りつかせるとは思いませんでした」
「あはは、まあ練習しかないんじゃない?」
ケイトさんはスプーンの刺さったアイスクリームを一欠片舐める。
「まあ、味はまずまずだから次頑張って♪」
俺はちょっとアレだが、フウカさんは意外と満更でもなさそうだった。




