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ウインド─第一章、改稿作業予定─  作者: 水無月 蒼次
南北東で戦だそうです。
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離別、訣別、再会

「うーん?とりあえず魔力を指定して、空間を指定して、空間内の物体の動きを記憶させて…あーでも、なんて言い表したらいいか…」


フウカはペン片手に床一面に広がった紙の上で転げ回っている。


対してソウジはと言うと…

与えられた部屋のベッドでヘルメットを被って寝ており、本から出てきたちょっと違うソウジ君は…


「この映写結晶を加工して何か装飾品にできないか…あーでも指輪とかだと移動するかもだし…地下室に宝石は絶対ミスマッチだし…」


紙を踏まないように空中に椅子を置いて、脚を組み、結晶体を片手に唸っていた。


どちらにも言えることだが、珍しく難航していた。


私達の監視を任されている兵士二人も何をしているのか解っていないのか硬直したままピクリとも動かない。

と言うかホントに銅像のみたいに…


「そっちはどうですか?」


「どう加工したものかって悩んでます。フウカさんは?」


「TOT現象に悩まされてます。泣きたくなってきました」


「それ、洒落ですか?」


「洒落ですよ?」


なんだかんだあるが、意外と余裕だった。


「ソウジ君、なんで私達契約書なんか探してるんでしたっけ?」


「それはルーノ男爵に嵌められてしょっ引かれるのを防ぐためですよ?」


「いや~そもそもルーノ男爵が取り引きに応じた瞬間をお義父さんに見せればそれで済む話なんだよな~って」


「それが出来てもヴィンス様に見せられないからこうして試行錯誤してるんですよね?」


「例えばですよ?部屋の壁に小さい穴を開けて、そこにその記録結晶を埋め込んで、記録した内容を見せるとか、そこに部屋ぐらいの広さの空間を創ってやらかした瞬間にお義父さんを連れてくとか…もっとやり方あるような気がして…」


「そもそも俺らに発言権がないので無理ですよ」


「そこはなんとか転がすんですよ」


「でも壁に埋め込むのは良いですね。壁の奥なら魔法陣も見つかりにくいんじゃないですか?」


ソウジ君は手の中でブリリアントカットに加工された結晶を転がす


「確かにそうですね。その結晶って音声も撮れますか?」


「はい、動画を撮る結晶なので。アプリとかであるじゃないですか?それをオブジェクト化した物ですよ」


「なる…ほど?アイーシャさん、そんなこと出来るんですか?」


脳内に気だるげな声が聞こえてくる。


『システム内にその機能自体は含まれるから、そのアイテムが機能に紐付いてれば使えるはず。ただその結晶をどうやって起動するかが難しい所だけど…それにそもそもシステム機能を引き出すのが難しいから往々にして同じ機能を単体で行える装置が開発される傾向にある』


「ソウジ君、それってこっちでも動くんですか?」


「たぶん動きますよ」


ソウジはそれを視界に納めて空中を叩く。


水面を打つような波紋のエフェクトを伴ってウインドウと呼ばれる光る板が浮き出る。


そしてソウジは録画開始ボタンをタップする。


「これで録画できます。ただフウカさんはできるかもですが、それ以外の人に使えるかはわかりません」


そしてソウジ君は四角をタップする。


「撮れましたよ?」


ソウジは再生ボタンをタップする。


『これで録画できます。ただフウカさんはできるかもですが、それ以外の人に使えるかはわかりません』


ウインドウには訝しげな私が映っている。


「はい、やってみてください。生身で扱えるかのテストです」


私はソウジ君から結晶を受けとる。


「まあ、失敗しても笑わないでくださいよ?」


結晶はやはり硬く、でも少し軟らかいいや実体が薄いように感じる。


ソウジ君と同じ動作でウインドウを引き出そうと結晶の前を指で押す。

どこまで押してもウインドウは出ない。


「いや、違うんですよ。押すんじゃないんです、水面を叩いて波紋を出す感じで」


「水面を叩く?」


ソウジ君は洗面器を持ってくる。


「こんな感じですよ」


振り下ろされた指は僅かに水面に触れて直ぐに離れ、水面を揺らす。


「こんな感じかな?」


見様見真似でやってみると…指先に確かな抵抗を感じ、ウインドウが出現した。


「おおっ…気持ちいい」


これなかなかアレだ。

成功すると地味に気持ちいいやつだ。

ジャグリングとかそういう類いと同じだ。


「へー、結構板って感じの感触。この感じなら色んな消し方があるのかな?」


私がウインドウの右端を小突くとそこから全面に罅が走って割れて消えた。


「じゃあこれで行きましょうか」


「じゃあ早速準備…の前に一回片付けですね」


思い返してみれば床一面紙だらけ、文字通り足の踏み場がなくなっていた。


「そうですね」


私は足下の紙を適当に集めるのだった。


▼△▼△▼△▼△


その男は割り当てられた部屋に換金されて一人悶々としていた。


その呟きは大きくないが、いい内容でもなかった。


「契約書はない…見つかるはずがない…私でも見つけられなかったんだ…あいつらごときに見つけられるはずがない…」


ルーノは落ち着きなく歩き回り、仕切りにベッドの縁に座ったり、窓から外を眺めたり、とにかく忙しなく動いていた。


「あの契約書はある日突然なくなったんだ…今さら出てこられた方が困る」


ルーノは野心家で暴君であったがそれ故か人一倍臆病だった。


考えることに長け、武の才はなくとも文官としての働きで一台で没落宮廷貴族から、小さくない領地と領民を持つ領主貴族に成り上がった。


そこで止まる気はなく。

彼は公爵、いや王になろうとすら考える程に野心家であり、臆病であったことから捨て置かれた存在だった。


こうなった以上、アリシア領主が自分に情けを掛け冒険者を罰するとも、僅かばかりの情状酌量の余地もないことを察していた。


自分の私兵、帝国の特殊部隊が自分を助けに来るとも思っていない。


彼は自分の私兵、使用人を纏めて地下に閉じ込めていた。

帝国との繋がりを口外にされては困るからだ。

だが殺しては後日困る可能性があるから基本的に換金して周囲にバレないように監視させながらやり過ごし、平静を装っていた。


そんな使用人達が自分を助けに来るなんて思えず、帝国の特殊部隊は自分の屋敷が目当てだからそもそも私が死ねば、報告義務が自然消滅してむしろ彼らにとってはやり易くなっただろう。

もしも誰か一人でも特殊部隊員が残っているならば、そいつの取るだろう行動は任務の遂行─すなわち、セルジオとミースの始末─か国外逃走だ。


ルーノ男爵は既に証拠が挙がらない事を祈るしかないのだ。

証拠が見つかれば内通者として尋問の末に処刑だ。

爵位と財産を没収され、良ければ罪人奴隷として炭鉱労働、悪ければその場で打ち首だろう。


そしてルーノは大きな罪を屋敷の地下に残していた。


使用人を地下牢に閉じ込めたままなのだ。

彼らが解放されて、あることないことを話せばルーノの身柄はこんな部屋ではなく完全な牢に入ってしまう。


その前に何か手を打たなくてはならない。

と考えたが、武の才のないルーノにとって発言権は唯一無二の武器であり、それが失われた今彼は無力であり、こうして祈りながら待つしかないのだった。


▼△▼△▼△▼△


そして後日


ルーノ男爵邸には多数の騎士と警備兵が踏み込み、当然の事ながら瓦礫の山は順に撤去された。


そしてフウカとソウジが捕らえて来たと言う特殊部隊の兵士とおぼわしき者たちの持つ物と全く同じ装備が二着発見された。


そして当然だが地下室も発見され、詳しく調べれば奴隷証は偽造されており、彼らがルーノ男爵に雇われていた使用人だと言うことは存外容易く発覚し、ルーノ男爵は内通ではなく違法奴隷の所持により牢に入る事になった。


で、私たちはあっさり釈放され…ルーノ男爵は引き続き取り調べを受けている。


しかし警備兵が隅から隅まで、文字通り草の根分けてまで探した契約書は見つかっていない。


理由は私が持っているからだ。

部屋の片付けを終えた私達はあのあと予定通りにルーノ男爵の屋敷の部屋と言う部屋にその記録結晶を埋め込み、ここ1ヶ月内の行動のすべてを録画した。


そのときにたまたま発見したと言うか、作成されて保管された次の瞬間に奪い取ってそれを未来に持ち帰ったのだ。


私達はそれを然るべきタイミングで屋敷に戻して来ようと思っている。


これが認められた瞬間ルーノ男爵の未来は完全に閉ざされる。


私はこれを出すべきかで少し迷っているが、どのみちルーノ男爵には未来はないのかもしれない。


先日、例の特殊部隊員が司法取引に応じて契約書の存在、自分達の上司のこと、ルーノ男爵には拠点を用意するために近づいた事を喋ったからだ。


で私は今、エネシスの港で旅立つ二人に手を振っていた。


『お世話になりましたーー!』


『今度こっちに来ることがあったら遠慮なく手紙飛ばしてくださーい』


もちろんミースとセルジオですよ。


二人は西の方に逃れると言っていた。


潮風に揺られつつ沖へ出てく帆船を私は眺めている。


「なんかあっという間だったわね」


隣にはケイトと


「まあ、ミースの言う通り次はこっちから会いに行けば良いですよ」


ソウジ君が居る。


「まあ、どうでしょうね。とりあえず暫くはこういうのは遠慮したいです。船の研究も途中ですし」


「もうすぐ冬が来るし、その前に多少稼いではおきたいところだけど…今はゆっくりしたいわ」


ケイトは私達が留守の間家の居心地が悪かったらしく、かなり窶れていた。


対照的に私と一緒で軟禁されていたソウジ君はむしろ元気になっていた。


私はどうだろかと思案していると、見覚えのある人が連結馬車から降りてくるのを私は目にしてしまった。


それは数ヶ月前に偶然会った人で、別に悪い印象は持ってないが…それが、矢継ぎ早に騒動を引き起こす原因になるとは夢にも思ってなかった訳で…


「あ、アデルお姉様!なぜエネシスに?」


「あんたら、ケルビンにエネシスにどこでも出るわね。そっちの白っこい方もケイト、あんたのお仲間だったのかい?」


「フウカもアデル姉様と知り合いなの?」


「まあ、ちょっとありまして…」


「で、あたしがなんでエネシスに来たのかだっけ?あたしは休暇だよ、冬になると仕事が減るもんで、貯まった貯金を使って私はエネシスで冬を越すのさ。こっちの方が温かいからね。あんたら何?仕事?」


「友人の見送りです。西の方へ船で行ったので」


「それはそれは、後悔のない航海になるといいね~あんたら宿は取ったかい?」


「いえ、アリシアまで今から帰るので」


「連結馬車でかい?大変だね…」


「いえ、相転移門です」


「相転移門?なんだいそれ?」


私達はアデルを伴ってエネシスの町中を歩き始めた。

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