積もる不安、そして断罪
日が落ちて、私が戻ると家は灯りもついて居らず非常に静かだった。
「え二人とも出掛けてるの?フウカ?ソウジ君?」
返事はない。
家の中は少し怖いぐらい静まり返っている。
私は魔導ランプを灯して家の中を見て回る。
「ねぇ、ホントにこういう悪戯は怒るわよ?セルジオ?ミース?いないの?」
返事はない。
どこにも人は居なかった…
「皆で外食でも行ったのかな?たしかにもう門は閉まってるし今夜は野宿って考えてもおかしくないけどさ…」
『ケイトさーん』
「リン?」
私は反射的に返事をした、その次の瞬間には胸にちょっとした衝撃を受ける。
白くて小さい毛玉が突っ込んで来たのだ。
「あら、今日はちっちゃい鳥で来たの?」
私が手を差し出すとリンはちょこんと乗る。
「えへへ、そうなの。じゃなくて…えっと、えっと!お母さんが、√?ボーノ?そんな感じの名前の男爵をスパイ行為でヴィンスさんの所に突き出して、不敬罪と国家反逆罪で男爵と裁判で…」
「ちょっと待って、るーととかぼーのの所から話が入ってこない。その男爵ってルーノ男爵のこと?」
「そうそれ!知り合い?」
「前に盗賊の濡れ衣着せられて取り調べを受けたわ」
「じゃあ向こうは目の敵にしてるかも…」
「ルーノ男爵を北の内通者として突きだしたの?」
「ううん?えーっとぜひおじやだっけ?帝国の特殊部隊と一緒に居たから、捕まえて突き出したの」
「ゼヒージャね。セルジオとミースの出元ね。まあ、大方セルジオとミースを始末して、その任務の手柄を持って帝国に亡命するつもりだったんでしょうけど…」
「で!しばらく帰れないって伝えてって言われたんだった」
手の上で器用に頭を掻く仕草をするリンはものすごく可愛い。
「うん、ありがと。リン一人で家まで戻ってきたの?」
「うん、小さくなれば目立たないし、リンはこれが使えるから」
リンはその場で姿を消す。
手の上に重さを感じるからそこに居るのはわかるが見えないのだ。
「えへへ、忍法透明の術~。ホントは光学迷彩の術なんだけど、この方が場が和むってソウジさんが言ってた!」
「なるほどね。セルジオとミースは?」
「お母さんにお使い頼まれたんだって~リンもお使いしたよ!」
「偉いわね~」
私は見えないけどたぶん頭だと思う所を指で撫でる
「ソウジ君は?」
「お母さんと一緒。ソウジさんも特殊部隊の人いっぱい捕まえてたから…」
想像するのが凄く容易だった。
あの二人は一緒にしとくと悪ノリする傾向があるから、そのノリで男爵の屋敷にガサ入れして全員捕縛しても不思議じゃない。
「うん、だいたい解ったわ…さてどうしようかしら…」
「うん…困った」
「下手したらまた濡れ衣着せられるわよ…」
「たぶん、そうなったらアリシアの最後だと思う。ソウジさん、もしもそう言う事になったら、たぶん刀抜いちゃう。さっきもあと少しでルーノ男爵の頭をスラッグ弾でぐちゃぐちゃにする所だったし、そのあとも領主の館でルーノ男爵が出鱈目喋ってる時アサルトライフルのセーフティ掛けてなかった…」
「スラッグ弾って何?」
「スラッグ弾は~銃の弾の一種で~命中制度に難があるけど口径と破壊力の大きい弾で~スラッグ弾がドアを破壊する確率は150%って言われたりするってグレイさんが書いてた。ドアが開く確率が100%、更にドアが倒れる確率が50%なんだって」
「そうなんだ…」
まあ、銃って言うとソウジ君が使うアレだし、魔法の一種って考えればそんなに珍しい話ではないし…
「じゃあ、ソウジ君が限界迎える前に事態を納めないと戦争の前にアリシアが火の海になっちゃいそうね」
「うん、涼さんが居るからたぶん大丈夫だと思うけど…ちょっとわかんないかも、涼さん悪ノリするし」
「何か決定的な証拠を見つけられれば良いんだけどね。それこそ、契約書とかね」
「うん、お母さんもそれ考えてるみたい。それで独自に捜査を進めるつもりなんだって」
リンは掌から飛び上がる
「ねぇ、リンはフウカの考えてる事が解るの?」
「うん、契約で繋がってるからお母さんが許す分は私にも伝わってくるの」
「じゃあ上手くすれば連携も取れるわね」
リンは暫く私の頭の上を飛んだ後降りてくる。
「できる!うん」
「まあ、頑張ろっか…リンはご飯は食べた?」
「まだ」
「とりあえずご飯にしよっか」
私はとりあえず家中の灯りを灯して台所に向かった。
▼△▼△▼△▼△
「さてと、引き続きどうするか考えましょうか」
フウカは用意された豪勢な部屋(鍵は外から掛けるタイプ)をソウジに用意された部屋と繋いでソウジが焼いたクッキーを片手にどうするかを考えている。
「残念なのは俺らが既に身柄を確保されて事件に対しての発言権がないことですね。あれば時間を遡って現場を抑えたり、写真取ったり、書面を奪ったり出きるんですが」
「書面を奪うことはできますが、それをしても提示する方法がない…」
少しの間があく。
そしてフウカはクッキーを口に運んでから両手を打つ
「でも書面を確保してしまえば証拠隠滅に会う事もなくなりますね」
「それもそうですね!奪いましょう」
ソウジは早速袖口から杖を引き抜く。
「なるべく早い頃の物を確保するためにあの場の時間の流れを調べましょう」
「どうやりますか?」
「そうですね…今回は見ることにしましょうか」
「見るですか…部屋の中に他所へ繋がる魔法陣なんか設置したら怪しまれませんか?」
「それは…そうですね」
そしてまた沈黙。
ああ、こんなときアレがあればな~
光を集めて、虚像を記録するあの道具があれば楽なのに…
「うんうん、よく解るよ?こういうのが欲しいんでしょ?」
それは唐突かつ久々にそこに現れていた。
「久々ですね」
その神は何気ない顔でカメラを片手にソウジのクッキーを齧っている。
「うん、確かにこうして出てくるのは久々かも…フウカ君は海竜戦の手前で一回でそれっきりだもんね。ソウジ君の方も白フードの時共闘して以来だもんで二週間ぐらい?」
「そう…だな。確かに久しぶりだ!お前、意外と影薄いよな」
レンはカメラを取り落とす。
カメラは床に叩き付けられてバッキバキになる。
「え、酷い。久々に出てきたら影薄いとか酷くない?ねぇ、フウカ君どう思う?」
「帰れ」
「えぇー…じゃあ、もう帰るけどホントに良いんだね?カメラもあげないからね!?」
「ハイハイ、さっさと帰ってください」
レンはすごすごとドアから出ていこうとしてノブに手を掛ける。
「あれっ、開かない。開かないんだけど!?これ、外から鍵かけられてるんだけど!?なにこのドア!まるで監禁か軟禁じゃないか!!」
「いや、ちょうど軟禁されてるんですけどね」
「え、そう言えば君ら、なんでこんな所に居るの?出ようと思えば出られるでしょ」
フウカはため息を着いて無言でゲートを開く。
「ん?何?強行突破するの?ああっ、痛いじゃないか!」
そして無言のまま蹴りでレンをゲートに押し込んで、ゲートを消した。
「さてと物に空間を記録する魔法を考えましょう」
フウカは気を取り直して、紙を広げたテーブルに着く。
「そうですね」
ソウジも背筋を伸ばして真剣な顔をする
「うん、そうだね!」
そしてレンも椅子に座ってティーカップにお茶を注いだ。
「いや、なんで居るんですか?」
「なんか知らない所に飛ばされて困ったから戻ってきたんだけど?」
「戻ってこなくて良いです」
「えーだって暇だし…」
レンはぼやきにぼやいてフウカとソウジの論議に散々無用な茶々を入れた後に帰っていった。
▼△▼△▼△▼△
同時刻。
月の光も通さないような厚い雲がゼヒージャの上空には垂れ込めていて、真夜中の街は街頭も灯らず。
人っ子所か酔っ払い一人いない街は閑散としており、どこか不気味だった。
唯一灯りの灯っているのはその地の元の当地者の住む家だけだ。
しかし今夜は様子がおかしかった。
少し肥えてカイゼル髭が目立つその男はなんとか立っていると言った表情で壁に張り付いている。
そして本来その男が座るべき椅子で足を組み、真っ黒なマントを羽織り、見るからに豪奢な冠を被って不機嫌そうにそこにふんぞり返っていた。
「何をそんな壁際に縮こまっている?もっと近うよれ」
「は、はい。上帝陛下、お心遣いありがたく存じます…」
男は這々の体でなんとか上帝の座る椅子の足下に立つ
「それで、お前はなぜ俺がここに来たのかわかっているか?お前が俺の私用の邪魔立てをしたからだ」
「そっそんな、滅相もございません!私はただあなた様のご計略をお手伝いできればと考えただけでして…」
「ほぅ?それは殊勝な心掛けだな。それで俺が何をあの兵士に託したか、まさか知らぬ訳ではなかろう?」
「いえ、存じ上げず申し訳ありません」
「知らぬのに、手伝おうとしたのか…俺はあの兵士らに秘密裏に手紙を届けるように指示したのだ。なのに貴様はそれを…」
「申し訳ありません。しかし、陛下にお仕えする心は誠であります。どうかご寛大な処置を…」
カイゼル髭の男は足下に跪き、頭を床に擦り付ける。
「それもそうだな。良いだろう昇格させよう」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ、勿論本当だとも。俺は元皇帝だぞ?俺が嘘を言うとでも?」
「いえ!」
「ならよい。よし!では今日からお前を執政官にしよう。今後も存分に帝国に尽くすが良かろう」
カイゼル髭は泣いて喜んだが、それも束の間。
「なっ、何を…なさるん…ですか」
カイゼル髭は大量の血を吐く
カイゼル髭の胴がずれて床に転がる。
皇帝の手には青黒いオーラを纏う刃がある。
「執政官に"する"んだ。そうか、お前は執政官がホントはなんなのかを知らなかったか」
皇帝が指を鳴らすと。
入り口から執政官が入ってきて目深に被った白いローブのフードを取り、仮面を外す。
それは、皇帝と瓜二つの顔をしていた。
「なっ、皇帝陛下が二人!?」
「二人じゃないぞ、執政官の数、いやそれ以上の人数の俺が存在しているのだ」
皇帝がカイゼル髭の胸ぐらを掴んで持ち上げる。
「そう言うことだ。今後も俺の為に尽くしてくれたまえよ?」
「嫌だ、啜られるのだけは…」
「安心しろ、俺は綺麗好きだからそんな汚い事はしない」
皇帝の手がカイゼル髭の胸に突き刺さる。
カイゼル髭はなんどか大きく痙攣した後に青黒いオーラで包んだ球のような物を抜き取られると同時に静かになる。
「まあ、今後も活躍を期待しているよ。俺の中でな?」
皇帝はそれを持ち上げて握りつぶして浴びるようにして飲み込んだ。
その様は黒いマントのように見える翼も合間って正しく悪魔の様だった。