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ウインド─第一章、改稿作業予定─  作者: 水無月 蒼次
南北東で戦だそうです。
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信頼、困惑、そして失望

無事にミースを取り戻した私達は内通者であるデブを引き摺って領主の館を訪れている。


デブはその場に残っていた帝国の特殊部隊の隊員達とその死体と一緒に領主の館のエントランスホールに無造作に放り出されて、その場の人間全ての目を引いた。


「おい、何事だ!ルーノ男爵!?大丈夫ですか?」


衛兵がデブもといルーノ男爵に駆け寄り容態を確認する。

失禁しただけで、他は無傷のはずだ。


「これはどういう事ですか?返答によっては姫様のご友人でも極刑は免れませんよ」


衛兵達が槍を打ち鳴らす。


「へぇ、貴方ルーノの統治者でしたか…野心あるタイプだとは思っていましたが、ここまででしたか…私達は帝国の間者をなるべく生かして捕縛してきただけですよ。その場に居たので重要参考人としてご同行願ったんですが…どうも嫌がったので無理やり連れてきたまでですよ」


「こいつらは私を貶めようとしているんだ!この小娘を捕らえよ」


私はふと後ろを見ればソウジはアサルトライフルを提げているが引き金に指が掛かっている。


「ソウジ君?抑えてね?」


「抑えてますよ。その気ならもう撃ってますよ」


さてと、ここからどうしようか…


「ルーノ男爵、どういう事ですか?」


「しかもそいつは私の別宅を魔法で吹き飛ばして、地下室まで入ってきたんだ!あと少しで奴隷が逃げ出す所だったのだ」


「地下室で、何を行っていたのですか?」


「それはだな…奴隷の調子を見ようかと…」


「なるほど、それで一緒に居たとの事ですが彼らとの関係は?」


「私的に雇った傭兵だ。戦争が近いのだろ?そのための準備だ。私ほどの地位になると貶めようとする不届き者が出るやもしれんだろ?」


「なるほど、そこに彼女達が襲ってきたのですか?でもなぜ彼女らが貴方を襲うのか動機がわかりません」


「動機などどうでもいいのだ!私が貴族で、こいつらは平民で、私が襲われた必要なのはそこだけだ!どうせ金が目当てだろ!」


とんでもない理論だ。


「お金は別にありますし…もしもお金が欲しかったらあの場で貴方の頭を吹き飛ばして家捜しした方が早いですし、そもそも家を魔法で吹き飛ばしたりしませんよ?」


「じゃあこうしましょうか。アンダル帝国の間者を何人か確保してあるのでそいつらに尋問して貰って、そいつらが吐いたアジトを改めて訪れましょう。もしそこがルーノ男爵の邸宅ならばその時は貴方が内通者という事です。貴方ほど用心深い方がそう易々家を敵国の尖兵に明け渡すなんてないでしょう?そのための傭兵なんですからねぇ?」


「他にも間者を確保してるんですか?」


「死体もあるのでルーノ男爵を別室へお連れしてください。それと公平かつ正確な状況把握をする為に尋問、調査等は全てルーノ男爵と私達を外して行ってください」


「それが良いでしょう。私達衛兵を主体に行うと約束しましょう」


そこに屋敷の主が現れる。


「おい、いったい全体なんの騒ぎだね?フウカ君、情報統制の件は復興の効率向上のために必要な事だから…これはこれはルーノ男爵、今日はどのようなご用件で?」


「ヴィンス様、ルーノ男爵の滞在する許可を」


「どうしたのだね?貴族街に別邸があるだろう」


「どうやら戦闘で破損したようです。それと現在ルーノ男爵とフウカ殿ご一行にはそれぞれアンダル帝国との内通の疑惑が掛けられております」


「フウカ君が内通者?君、バカも休み休み言いたまえよ?フウカ君にはゼレゼスと敵対する理由もアンダル帝国に与する理由もないだろう?ルーノ男爵は帝国に与する事で敗戦後の地位を保障するような事を考えたとしてもおかしくはないと思うが?」


「なので公平をきしてフウカ殿達が捕縛してきた間者と思われる者達に事情聴取を行い、同時にルーノ男爵の邸宅をくまなく捜査いたします」


「そうしてくれ、それとフウカ君達にも部屋を用意してくれ…公平をきすなら彼女達にもここに逗留して貰った方がいいだろ?」


「そうですね、ではそのように。それと事情聴取のための部屋も準備してきましょう。その間者と呼ばれる方々もそこにお願いします」


ヴィンスは額に手を当ててこっちを見ると、のそのそと奥に戻っていった。


「さてと、帰っても暇だったので別にいいんですけど…面倒な事になりましたね」


「まあ、そうですね。ケイトに暫く帰れないって鳥を飛ばさなきゃですね」


「俺やっときましょうか?」


ソウジは袖口から杖を引き出す。


「いえ、大丈夫ですよ。リン、おつかいお願いしていいかな?」


私の杖の先から雀ぐらいのサイズの白い鳥…リンが出てくる。


「はーい、ケイトさんに伝えればいいんだよね?」


「そう、お願いね?」


「うん!」


リンはエントランスを出て空へ飛び立っていった。


「リン一人で行かせて大丈夫ですか?」


「大丈夫ですよ。リンには転移の能力もありますし、術もあります。きっと大丈夫ですよ。それよりも事情聴取ですよ」


私はソウジ君を引っ張ってさっきの衛兵の後を追う。


▼△▼△▼△▼△


で、ミースとセルジオはと言うと…


「ほら!なんとしてもあいつらが特殊部隊の人間だって判明するような証拠を分かりやすくするよ!」


ミースはほぼ廃墟同然の瓦礫の山を漁っていた。


「それもそうだが、あんまり弄らない方がいいぞ!」


「でも、なんとかして返さなきゃ!私達のせいで罪を負ったようなものよ!?」


そしてミースは瓦礫を一つひっくり返して…壁を崩した。


「だから言ったのに…どうせならもっと確実な事をしよう。俺らの装備をそこら辺に紛れさせとくんだ」


「え?」


「元はと言えば俺らも奴らも同僚だ。ここに全く同じ装備があるんだ。これをここに不自然にならないように残しておけば疑いの目はあの太っちょに向く筈だろ?」


「でもバレないかな?」


「それと暫く俺らは瞬撃の隼のパーティーハウスには戻らない。事前に偽装用に作った冒険者カードでギルドの宿を利用しよう。それとケイトさんには状況を伝えたい、何か方法があれば良いんだが…」


「なるほど、サポートに徹するのね?」


「ああ、そうだ。ほらさっさと服を拝借して装備を捨ててずらかるぞ」


「ええー、ここで脱ぐの?」


「そこら辺の無事な部屋でも使えば良いだろ…」


「はーい…着替えはあるの?」


「衣装棚漁ってみろよ!はぁ…キース、お前苦労してたんだな…」


セルジオは黄昏に染まる空に向けて溜め息をつき、同時にやたら白い小さい鳥を見つけた。


その鳥は右を見て、左を見て、また右を見る。

その場で留まって首を傾げるあたり、迷子なのだろう。


「賢い鳥も居たもんだな…」


セルジオはテキパキ装備を外していく。

と言っても黒塗りのナイフに、多種多様な薬品、多数の毒針や針金やワイヤーと言った所謂細々した装備だけで内側に着込んで居る黒いインナーは脱がない。


『もう!この屋敷、こんなのしかないの!?これならまだ裸のがマシなんじゃない?』


「おーい、まさかインナーまで脱いだのか?」


『当たり前でしょ!インナーだけ残ってなかったら不審に思われるでしょ』


たしかにそれもそうだ。


『このタンス、男物ばっかりなんだけど!』


そりゃ、あの貴族の屋敷だからな…


「はぁ…ちょっと待ってろ。使用人の部屋を漁ってくるから」


セルジオはもう一度深く溜め息をついて瓦礫の中を抜けていく。


瓦礫の中を練り歩いて、奥まった所で豪奢ではない扉を蹴破る。


「これは物置き?にしては生活用品が充実してる…まさかこんな窓もなければ横になって寝返りも打てない部屋が使用人の部屋なのか?」


セルジオは化粧台の引き出しを開けて中身を物色する。


「中身は入っているもののほとんど使いかけ…やっぱり誰か使用人の部屋だったんだろうけど」


そもそもこの屋敷に押し入った時から使用人は一人もいなかった。


「使用人はどこに行ったんだ?これだけの屋敷だから、人を使わなければ管理は難しい。地下の奴隷達の世話もしないとだろうし…いや、まさかな」


セルジオは首を振って思考を放棄して、衣装箱を開ける。

予想通り中身は全て女性物だ。

セルジオはそれを抱えてミースが着替えている部屋の扉を叩く。


『そこ置いといて…』


衣装箱を扉の横に置いて、再び見張りに戻った所でふとさっきミースが言っていた事を思い出した。


「そうだ。俺も脱がなきゃか…まあ、ぱっぱと脱げば問題ないだろ」


そしてセルジオはぱっぱとインナーを脱いで、上を着てズボンに手を掛けた所でどこからともなく火の玉が飛んできた。


「うわっ、やべぇちょい待てよ!!」


セルジオは数歩後ろに下がりながら器用にズボンを穿き、ベルトを閉める。


「ふー…ゼレゼスの同業者も結構やるな。でも、全てを灰塵に変えさせるつもりは毛頭ないぞ」


そして、捨て置いたナイフで飛び来る火の玉を掻き消す。


本来、魔法であれ怪奇であれただのナイフで火を掻き消すなんて事はできない。

しかしセルジオが持っていたナイフは内部に封魔鉱石という魔力に反発する鉱石を練り込んで焼き上げられたナイフであり、触れた魔法を導き構成する魔力と反発することでその構成を破壊、掻き消す事ができる。


しかし無数に飛び来る魔法を全てを消し続けるなんて事はできるはずもなく…屋敷が燃え始める。


『水よ、汝は壁、穿たれる火の雨を防ぎたまえ ウォーターウォール』


屋敷の見える範囲全てを薄く水の壁が覆う。


遠距離から投げ掛けられていた火の玉が一時的に止んで、曲がり角や建物の影から十人以上の魔法使いが出てくる。

顔を布で隠していて個人の特定は難しい。


「なにあれ…帝国の兵じゃないし、あの太っちょの私兵って所かな?」


着替え終えたミースは如何にも新米冒険者っぽい杖とナイフを持っている。


「さて、アイツらを放火魔として捕縛して警備兵に突き出すか。屋敷の守りは任せる」


セルジオは音もなく駆け出し、自分に当たる範囲の魔法を全て掻き消すか避けるかして、一番近くの敵の腹に拳を叩き込む。


「やっぱり内に防刃布着込んでるよな!」


そのまま相手の胸ぐらを掴んで力任せに背負い投げの要領で頭から壁に打ち付け気絶させる。


その間にも火の玉は飛んでくるからそれを処理しながら男からベルトとズボン引き抜く。

そして次を目指して駆け出す。


近接戦では不利だと察したのかそいつは懐からちょっとしたナイフを引き抜いている。

その男か女かもわからない刺客は刃渡りも幅も短いナイフで突いてくるが…


「前線向けの特殊部隊を嘗めるなよ!その程度、訓練なら即刻除隊物なんだよ」


ナイフの刃をナイフで弾いて、奪ったベルトで顔を打つ。


相手は反射でほんの一瞬目を瞑る。


しかし、セルジオが相手の首をベルトで締め上げるには一瞬で良かった。

窒息して意識を失いつつあるそれを持ち上げて盾にしつつ次へと走る。


そして、まさに詠唱中の魔法使いにそのまま突っ込み、押し倒して杖を奪う。

詠唱中だった魔法使いを奪ったズボンで縛って窒息したそいつを上から乗せる。


そして再び火の玉を掻き消しながら詠唱


『光よ、汝を見た者は現世を覚えること能わず、速やかに夢へと誘え ミスティライト』


杖に光が集まり炸裂する


セルジオは目を瞑ってやり過ごし、目を開けると半分以上が倒れていた。

そして残りの数人は部が悪いと判断したのかどこへともなく路地に消えていった。


「チッ、まあこんだけ捕まえられれば充分か」


セルジオは戦果であるそれらを拘束して尽く顔の布を奪い、そして驚いた…


「まだほんの子供じゃないか…」


男も女も関係なく、若い者では十に届くか届かないかの子供も居た。

そしてそれらは尽く痩せていた。


「孤児か…大方後ろ暗い事をするときの捨て駒として拾ってきたって所か…あの豚野郎どこまで罪深いんだ」


間もなく日が暮れる。

その空は既に濃紺に染まっていて、吹き付ける冷たい風は静かに流れて行こうとしていた。

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