暇と怒りの矛先を
作者:「今回はプチ騒動だね!」
レン:「ただソウジ君とフウカ君が可哀想な相手を徹底的に叩きのめしただけじゃん!つまんないよ…」
作者:「まあ、後日に繋がったり繋がらなかったりするってことで許して?」
それはほんの一瞬の出来事だった。
さっきミースを捕らえた私服の特殊部隊が俺を探し当てて、殺気を放って迫ってきた。
しかし、さっきと違うのはこっちには強力な助っ人がいる点だ。
──まさか一瞬で路地裏の一帯がまるごと凍り付くとは思ってなかったのもまた事実ではあるのだが──
「さてと、おとなしく君たちのアジトの場所を教えてもらおうか?」
ソウジは一番近くで凍っている男に脚を掛ける
「けっ、誰が…」
男は言葉と一緒に唾も吐き捨てた。
「うーん、君達はいまいち自分の状況を理解してないのかな?まあ、良いよ。口に聞くよりもっとわかりやすい手段を取らせてもらうとするから」
「なんでもやってみるがいい。俺達はそう簡単には情報を漏らさねぇぜ?」
「そうかそうか、ならそのぶっさいくなお口じゃなくて体に聞くからお構い無く『我は時を繰る者、我が意思の下に彼の者達の時間を返せ リバース』
袖口から銀色の光の弾が飛び出して一番手前の男に当たる。
途端、男の氷が溶けて男は逆向きに歩き始める。
「じゃあ行こうか」
「なあ、アレってどうなってんだ?」
「時間の流れを逆向きにしたんだ。そしたらヤツはアジトに戻るだろ?」
「酷い話だ…コイツらはどうする?」
「うーん、トランクに拉致っとくか…」
ソウジは凍り漬けにされて地面固められた面々の氷に銀色の光を当てながら、謎の鞄に押し込んでいく。
到底、人が入る大きさではないのにホイホイとすんなり数人の人間が押し込められてしまった。
「よし!見廻りが来る前に追うぞ~」
「お、おう!」
ノリと勢いでソウジについて後ろ歩きの男を尾行すると、男は人通りの多い通りを避けて徐々に徐々にアリシアの中央に向かっていた。
「ふむ…ここから先は貴族街か。警備が厳しくなるから注意しなきゃだな」
「さてと…さっさと行くぞ」
「おい、聞いてなかったのか?貴族が相手なんだぞ?下手したら領事裁判権で裁かれるぞ!」
「ふーん、まあその時はケイトさんのお父さんは見る目がなかったって事になるな」
「は?」
「だから、ケイトさんのお父さん、即ちヴィンス・アリシア辺境領主が俺を裁くんだろ?そしたら法廷の答弁台の上で俺がヴィンス・アリシアを捌くって言ってんだよ」
「もう一度言うぞ?はぁ?お前、頭おかしいんじゃないか?領主だぞ?それも国の二本指に入る権力者に手を上げれば、国から出ることもままならないだろ」
「うーん、俺一人で割りとなんでもできるからな…一万の兵隊も堅牢な要塞も時間を掛ければ攻略できる。俺にはそれを可能にする能力がある。例え一万人の兵士を用意しても動けなければただの案山子に過ぎない。どんなに堅牢な要塞もいつかは朽ち果てるだろ?」
「ああ、お前は天才だったな」
「天才か…それはないだろうな。俺はただ器用貧乏なだけだから。ほれ、着いたみたいだぞ?」
見れば後ろ歩きの男が玄関扉に背中を打ち付けてもぞもぞ動いている。
「さて、じゃあ。襲撃作戦開始だな!」
▼△▼△▼△▼△
俺はタイムフルブーストで俺とセルジオの時間を引き伸ばした。
先ずは下準備だ、これの制度で戦果が変わると言っても過言ではない。
「先ずは窓とか裏口とかを氷で塞いで時間を止める」
俺はぱっぱと作業を進めて窓から排気口まで固めた。
ここで怠ると後が面倒なのだ。
「なぜ?」
「一匹残さず捕獲するためだ。窓から逃げられたりしたら大変だし。そして玄関から入って扉を閉めて、時間を止める。そして俺らの時間を戻す」
タイムフルブーストを解いて目の前でそこそこ驚きつつ戦闘体勢に入った見張りを見て敢えて笑う
「なんで、戻す!そのまま捕縛して回れば良いだろ!」
「なんでってそりゃ、こういう戦闘はラノベには付き物だろ!」
俺は刀を二刀流に持ち変え、更に右の刀を銃剣の付いたアサルトライフルに、左の刀をウィンチェスター…つまりショットガンに変形させて進む。
ここが誰の屋敷かはわかんなかったが、エントランスホールからバカデカい。
大の大人が五人で戦闘しても手狭にならない程度には広さがあるから結構な大立ち回りができる。
銃の先に取り付けられた銃剣で突き出された短剣をいなしてもう片方に持ったショットガンで発砲する。非殺傷性の水鉄砲だが、当たれば骨折ぐらいはする。
水と魔力で再現されたスラッグ弾はそいつの肋骨を砕くには十分過ぎたのか大きく吐血して倒れた。
「うっ!」
背中に鋭い痛みを覚える。
明らかに何かで刺された、いや刺そうとされたのだろう。
しかし!何度もこの話はしているが、このコートは破れない、汚れても洗えば落ちるとんでもコートなのだ!
「イッテェな!」
ナイフが刺さらずに驚きつつ後退したそいつの顔面に銃を突きつけ…殴る。
銃底で殴り付けた結果そこから血が垂れて男は倒れ伏す。
ついでとばかりに背中に銃剣を刺しておく。
「よし、あと一人!っていなくなってるし…まあ良いかどうせ逃げられはしないし」
俺は再び進む。
屋敷の中も家とは比べ物にならないぐらいに豪奢で広かった。
あらゆる部屋を見たが、どこも広く洗練されていて、そして人が居なかった。
「気配がないな…」
「当たり前だ、俺らは特殊部隊だぞ?これでもエリートだぞ?」
「まあこういう場合はやっぱり地下なんだろうけど、仕掛けとかわからんし…わかりやすく階段もないし…お前、特殊部隊ならそれっぽい仕掛けとかわかんないか?」
「歩いてみた感じ、変な床もなかったしな…間取り的にも何か階段を隠せるような所もない。暖炉の隠し扉とかもなかったしな…昇降板があるのかもな」
「カーペットを片っ端からひっぺがせってか?」
「何か、もっと簡単に移動ができてそれこそ考えも及ばない場所にある筈だ」
家の東側の壁が窓を覆っていた氷だけ残して消し飛んだのはその数秒後だった。
「なっなんだ!ソウジ、急いで逃げるぞ!」
「あいたた…どうやら奴さんはフウカさんに喧嘩吹っ掛けたみたいだ…俺も逃げたくなる」
消し飛んだ壁と言うか天井の向こうには緑色の翼を羽ばたかせて、風の弓を携えたフウカが居た。
いつもの愛想笑いはなく、目は完全にいつも駄神を蔑む時と同じかそれ異常に不機嫌そうで、明らかに敵が地雷を踏んだのがわかる構図だった。
『お主、奴らがリンに短剣を向けたもんでフウカがキレた…なんとかしてくれ』
「お前、今さら来といてそりゃないだろ…」
銃から涼が飛び出してくる。
そしてフウカが降りてくる。
「敵は地下ですね。ホント言えば表面土壌ごと消し飛ばしても良いんですが…ソウジ君達が巻き添えになりそうなのでやめました。ソウジ君も来ますか?」
「もちろん行きますよ。でも仕掛けが見つからないんです」
フウカが来たと言うことで最終手段として床を吹き飛ばすと言うのもあるが、ミースも無事では済まないだろうから一先ずは仕掛けを探したい。
「大丈夫ですよ。リン、目を貸して」
『はーい、ビジョンシフトー』
杖が喋っている、今は中にリンちゃんが入ってるのか…
「見えました、まさかそんなところに隠し階段があるとは思いませんよ…」
フウカは呟きながら家の裏手に回る。
そしてゴミ箱を開ける。それに底はなく、代わりに階段が続いていた。
「さて下りますよ」
俺はフウカの後に続いて階段を下りていく。
真っ暗な階段だが、フウカの翼が光っているため歩くのに不自由はしなかった。
そして程なくかなり開けた部屋にたどり着く。
そこにはまたも数人の特殊部隊の格好の人間が居る。
「またか…」
「邪魔です」
俺が発砲するより早く立ち塞がってきた奴の上半身が丸くくり貫かれて消滅していた。
「今、私はすごく怒ってるんです。邪魔をすれば消します」
フウカさんの前の扉が壁ごと消滅する。
そこは所謂地下牢だった。
「これは…奴隷ですか…趣味の悪い貴族ですね」
主に人間が男女問わず牢に入れられている。
しかし、中には獣のような姿の者や魔物も混じっていた。
「フウカさん、コレって違法じゃないですか?」
「別に違法ではありませんよ?ゼレゼス王国は基本的に亜人排斥論の国ですからね。人間の奴隷もそんなに珍しくないですよ?炭鉱での労働などの劣悪環境の職場は奴隷が主な労働力です。しかし、見ていて気持ちのいい物ではありませんね」
フウカは進んでいく。
『お母さん、ミースさんの気配ですが…かなり希薄になってます』
「急がなきゃいけませんね。あの奥です、ソウジ君は戦闘と治療の準備を!」
フウカさんが地下牢の中を翼のアシストで加速しつつ駆け抜けていき、目の前の鉄の扉を消し飛ばした。
部屋の奥が見える。
先ずは逆さに吊るされたミースが目に入り、次に数人の拷問官気取りの特殊部隊員、そしてやたらと肥えた身なりのいい誰か。
「お前らは誰だ!いつの間に…それより、見張りはどうした!」
狼狽するデブはなんとか一歩前に出た。
「見張りは…上半身とお別れしておねんねしてますよ?とりあえずミースさんは返して貰いますね?」
藤色の箱がそのままミースを取り込んで外部と内部の空間を切り離す。
同時にデブを壁際に隔離する。
「後は任せますよ」
「了解!」
その後は一瞬…まさしく瞬撃と評して問題ない筈だ。
タイムフルブーストで加速した俺にダメ押しとばかりにフウカさんの加速が掛けられて、俺でも制御しきれないぐらいの速度で牢の間を抜けて特殊部隊員に肉薄し実時間ではほとんど同時に見える速さでスラッグ弾を頭部に叩き込んだ。
タイムフルブーストを解いた瞬間、加速で色覚機能を失ったままの視覚でも一瞬のうちに頭部が弾けとんだ。
遅れて壁に叩きつけられた体が地面に倒れる。
「ふぅ、貴方には私達と来て貰いますよ?ヴィンス様の所に直接持ってって帝国との内通の件に関して洗いざらい吐いて貰いますよ」
「何をするつもりだ!私は貴族だぞ!!貴様ら程度が気安く近づいて良い身分ではないのだ!!この無礼者共が、領事裁判権を知らんのか!!」
「ソウジ君」
「あい、近づかなきゃ良いんだな?じゃあ、ここで死んでみるか?」
俺はそいつの頭の横の壁にスラッグ弾を叩き込んだ。
一撃でコンクリートと思われる壁は砕けて、大きな穴から水を溢れさせた。
しかし床を濡らしたのは水鉄砲の水だけではなかったようで地下室に新たに糞尿の臭いが充満することになった。