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ウインド─第一章、改稿作業予定─  作者: 水無月 蒼次
南北東で戦だそうです。
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茸、エンジン、追手?

太陽が東の空の中頃に来た頃、ツバキ率いる戦場の華とケイトは目的の林に着いた。


「ここが例のね?紅葉してる木がそこそこあって綺麗な所じゃない」


「ケイトさん、コボルトが多く潜伏している筈です。くれぐれも気を抜かずに…私とケイトさんが前衛、次にカルミが真ん中、カルムとユリが後ろね?じゃあついてきて」


ツバキはブロードソードに手をかけて、前を歩いていく。


「じゃあ、私も念のため警戒だけしとこうかしら…」


ケイトはポケットから水晶球を取り出し撫でる。

無色透明で見えない翼を背中に折り畳んで進む。


「中衛でも頑張ります!」


カルミはグラディウスを鞘に収めて投擲ナイフを持っている。


「援護は任せて下さい!」


ユリはいつもの短杖を片手に、もう片方に鉈を持って進む。


そしてカルムは…


「なるべく…がんばります」


自信なさげにメモとバトンを持って進む。


そうして警戒して進むものの、コボルトは一向に出てくる気配はなかった。


ただただ紅葉した林に、栗っぽい実、山葡萄、アケビっぽい実、野芋、なんか赤い実、そしてカラフルでバリエーション豊かな茸と秋の味覚っぽいのが所狭しと詰め込まれた感じだった。


「ケイトさん!朝の技ってどうやったんですか?」


「アレは、剣に魔力を流して硬貨を促しつつ思いっきり振り下ろすだけよ?コツはキレかな」


「きれ?ですか?」


「そう、正確なラインで一息に切り下ろすの。フウカが前にぼやいてたんだけど、こうしたいっていう思いが術も魔法も大事なんだってさ。ほら、魔法もコレを使いたいって思って使うでしょ?」


「あー、確かに」


「それをより強くすると魔力で色々便利な事ができるって言うことらしいわよ?それを踏まえればより強く思う、それこそできるって信じ込めばできたりするかもね」


「あのさっきのキレって言うのは?」


「そうね~要するに勢いよ!こうだらだら~って続かずに斬るときは斬る、止めるときは止めるが、確りしてるっていうの?これはね~たぶん見た方が早いのよ…」


ケイトは自慢の短剣を抜いて構える。


「コレをこうして…」


短剣がうっすらと緑色の輝きを帯びる。

カルミが息を飲んで見つめるが、ケイトのそれは朝のそれとはまた違った剣閃となった。


この短剣はフウカの加速に近い能力が刻まれて居るため魔力を流すとそれが発動する。

その能力は移動速度の上昇という極めて単純な物で、その能力でケイトは疾風の如く戦場を駆け抜けて、旋風のように敵を刻んでいた。


それを溜めて一気に解き放った時に何が起きるのか…まあ、単純にとんでもない勢いで短剣が振り下ろされる。

そして衝撃を加速させてより遠くへ届けたのか短剣が打ち付けられた地面には少し大きな凹みができた。


「す、凄い…」


「うーん、ソウジ君とかはもっと派手だけどまあ私はこんなもんかしら?」


「十分派手だと思いますけどね」


カルミはグラディウスを片手に魔力を流そうと四苦八苦している。


「まあ、先ずは剣の腕をあげなさい?戦場でそんなことしてたら即死よ?」


「そうですね!はい、先ずは自分の身を守れるように頑張ります!」


「うん、その意気よ。カルムもね?」


「え?」


「まあ、聞いてなくてもちゃんと一から教えるから大丈夫よ。ユリ?後方は私に任せて、カルミのサポートお願い」


ケイトはユリを引っ張ってカルミの隣に持ってきて自分は後ろに回る。


カルムはケイトから視線を外してメモに目を向ける。


「カルム、森の中で余所見は危ないわよ?」


「大丈夫です。慣れてるので…」


カルムはなぜか悪路でも余所見しながら歩けている。


「ねぇ、カルムは秋の食べ物だったら何が好き?」


カルムは無言だ。


ケイトは内心ため息をつきつつ引き続き対話を試みる事にした。


▼△▼△▼△▼△


で一方で、私とソウジ君はと言うと…


「だいたい形出来ましたね」


「にしても凄い出力ですね。これならかなり早い移動速度が実現できそうですね」


壱なる門の片隅でガショガショと車輪を回す氷塊を満足そうに見ている。


「でもその分魔水晶がいっぱい必要になりそうです…まあ作ればいいんだけど」


「ここだからこそ動いてる感も否めないですしね」


「魔力を確保する方法を考えなきゃです。空気中からそのうち追い付かなくなるでしょうし…」


残念ながら空気中の魔力で潤沢に魔水晶を作ることは出来なかった。

小さい結晶は作れる物の大きいものになる前に空間内の魔力が尽きてしまうのが現状だった。


「でも、コレを置く場所は船倉になりますよね?魔水晶の補給にはどうしても手間が掛かってしまうのでは?」


ソウジ君の言うことも尤もだ。


「そうなんですよね…」


魔力はあらゆる状態に変化する粒子で、空間内を空気や水と一緒に滞留している。

それを凝縮、結晶化させたのが魔水晶である。魔水晶を作るには潤沢に魔力が必要で、それを幾つも、それこそ数百、数千と用意しないとこの魔道発動機を長期間運用するのは難しい。


「門を使う訳には行きませんし…」


「まあ、魔力濃度の高いところで作ってきたのを積むって言うのが一番では?」


「まあ、必然的にそうなるんでしょうけど…」


「後は魔石でしたっけ?」


「それも手段の一つですね」


魔石、魔物の体内で体液等と一緒に高濃度の魔力が凝固してできる石。人で言う結石とか胆石とか呼ばれる類いに近いらしい。

体の大きい魔物はそれだけ保有する魔力が大きい為に魔石が出来やすい。


「海の魔物は体が大きいので魔石も出来やすいのですが、それだけに探すのも大変らしいので海上での補給法として少し無理があるかもしれません」


「うーん、難しいですね…」


「私が思いついたのは寄港した所で魔石を買い付けてくるって方法です」


「なるほど、でも今回のような強襲作戦では無理ですね」


「そうなんですよね…」


私は頭を掻く。

そしてリンと涼に目を向ける。


涼は元の姿なのか巨大な九頭竜の姿でリンを乗せて温泉を泳ぎながら、リンの質問に答えている。


「人化の術と言うのは変化に近いが幻とは根本的に違うのだ。幻は魔力の作用を利用して相手に自分の見せたい姿を見せる物だが、人化は魔力の作用を自分に向け自らの体を組み換える物なのだ。ある程度の自由は効くが基本的な事は現実の自らの体や能力に依存するのだ」


「うんうん」


「つまりな?大人の人間の姿になるにはリン自身がその理想の大人にならねばならんのだ」


「つまり巨乳はムリってこと?」


「うーむ…まあ、そうと言えばそうなんだが…擬似的なソレなら出来ぬこともないかもしれんかもしれん」


「擬似的なソレ?」


「リン、お前泳げるか?」


「リンは泳げない。けど飛べるよ?」


リンは人の姿のまま水面の少し上で静止してみせる。


「じゃあ、我が主の姿を借りて…」


涼は女性化した時のソウジ君に変化する


「わ、ソウジさんになった…」


「で、コレは既にそこそこ良い体つきだが…我の水の術で擬似的に胸を再現すれば…」


涼はさらに巨乳になる、腰付きとかも少しセクシーになった。


「粘り気のある水を作って擬似的に脂肪を再現したのだ。基本的に脂肪でできてるこの胸と言う器官の見た目だけであればそう難しくないぞ」


「うーん、リンは水は使えないから…」


「そうだったな…我が主に本物そっくりの盛り胸を作って貰ったらどうだ?きっと上手く作る筈だぞ?」


「リンね?大人な水着着たいの」


「あー、なるほどな?言いたい事はよくわかったぞ?だがワンピースタイプも良いと思わんか?ラインは強調されるし、こう言う小細工もやり易いぞ?」


「うーん、ヤダ。涼さん、他に良い術ないですか?」


「じゃあ、そうだな…将来水着で海で遊ぶために泳ぎの練習をしてみたらどうだ?幸いこの温泉は広いけどそんなに深くないから泳ぐのにちょうど良いだろ」


「でもリンは沈んじゃうよ?」


「大丈夫だ、どんな生き物も水に浮く能力を持っている。沈むのは魚類ぐらいだ、それに人化しているのなら泳げる筈だからな」


「ホントに浮く?」


「まあ、先ずは浅いところで浮く練習をしてからだな」


「九頭竜もそうやって練習するの?」


「ああ、母に無理矢理水に放り込まれて溺れたらそれまでだ。残酷な風習だった」


涼は遠くを見つめる


「今となっては懐かしい限りだがな」


「そうなんだ…」


リンも真似して遠くを見ている。


なんかリンが入ると誰と居ても微笑ましく見えるコレが所謂「親バカ」というヤツなのだろうか…


「フウカさん!帰ってきて下さい…」


「あ、うん。ついね?」


「わかりますけど、魔力の入手方法考えなきゃですよ?」


「うん、そうだね。でもどっかにうまい具合に魔力の塊とか無いのかな~」


「それを作ろうって話だったじゃないですか…確りしてください」


「う~ん、ダメ!全く思いつかない、今日はここまでにしよ?コレは私が小さくしてトランクにしまっとくから」


「うーん、あんまり長引かせたくはないですけど仕方ないですね…俺の方でもちょっと考えときますね」


「ありがと、お願いしますね」


私は門に戻っていくソウジ君を見送った。

リンは涼と温泉の浅瀬でプカプカしている。

エルは遠くで丸くなっている。

ケイトは仕事…


「そう言えばセルジオとミース、見てないな~ちょっと様子見てきますか」


私は氷塊を空間魔法で小さくしてトランクに放り込んで、セルジオとミースを探す事にする。


▼△▼△▼△▼△


「はぁはぁ…撒いたか?」


「いや、追ってきてる!!」


セルジオとミースは路地裏を走っていた。


後方には普通の市民っぽい格好の男女が数人走ってきている。

その走りは速く、そして無音だった。


「くそっ、ここでも俺達は帝国の捨て駒かよ」


「セルジオ、先に行って。ここは私が食い止めるから」


ミースは黒塗りの短剣を抜く。


「おい、何考えてんだ。相手は俺らと同じ特殊部隊だ、それも複数。勝てるわけがない」


「だから行って!逃げる準備を整えて!」


ミースは短剣で一歩で迫ってきた女の短剣をいなして、その鳩尾に膝を捩じ込む。

女は地面に這いつくばって動かなくなる。


しかし、追手はまだまだ居る。


「長くは持たない!急いで!」


ミースは振り下ろされる長剣を短剣で受け止めて、毒針を相手の首に撃ち込み。

たちまち長剣を握っていた男は痙攣して地面に転がる。


「わかった。準備を整える、それまで死ぬなよ?」


セルジオは振り返らずに路地裏を抜けて表通りの雑踏に紛れた。

流石の特殊部隊でもこの大混雑に紛れれば迂闊には動けないだろう。


(まずは、ソウジ殿に助けを求めよう。ミースを助け出して、追手を殲滅、すぐにアリシアを出て…)


やることは尽きない。


しかし、ここで止まれば帝国に殺されるだけだ。

おそらく俺の居場所を吐かせる為か俺らの任務内容を調べるためにミースはすぐには殺されない。

すぐに殺して良かったのなら弓や毒針や魔法を使ってきた筈だし、態々昼間の街頭などではなく寝込みに襲ってきただろう。

時間は多くはないが、ないわけでもなかった。


セルジオは雑踏の中に紛れて行った。

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