教える者、学ぶ者
作者:「あははは!楽しいな~」
レン:「君ってさ、何気に戦場の華の事好きだよね!」
作者:「うん、ヒロイン気の薄い主人公と量産型よりは書いてて楽しいよね!あー、でもその内主人公ズも模擬戦的なの書いてみたいな~楽しそうだし!」
で、その夜。
甲高い金属音と魔法の炸裂音が一際大きく目立ち、遠く見える黒い空と白い地面の境い目を割るように槍が飛んでくる。
それを槍でいなしてそのまま床の一枚を槍で剥がして立てる。
私は剥がした足場をトランポリンのように歪ませて前に飛び、迫ってくる風の弾丸を槍で切り裂き、瑠美の顔に空気の塊を直接叩き込む。
しかし、ほぼ同時に腹部に鈍い痛みと衝撃を感じると数メートル上に打ち上げられていた。
私は落ちる前に翼を開いてバランスを取る。
「これでまた私の勝ちだね~九勝五敗、フウカはアレだね。近接戦になるとセンスないね」
瑠美は地面から新たに槍を生やしながら言う。
対照的に瑠美は近接戦のセンスは非常に高かった。
さっきの一連の動きを見ても解るが、空気の塊を受けつつ、私の力を利用して体を反らして左足を持ち上げて蹴りを打ち込む。
こんな戦闘を努力のみで行える人間がいるなら私は冒険者を辞めるだろう。
魔法もすぐに扱えるようになり、簡単な物なら無詠唱も出来るようになっている。
さっきの空気の塊を受けたときも、瞬時に顔の前に風の障壁を張ってダメージを軽減して、圧力を調整していた。
勘が良くて、物覚えが良くて、覚えたことを直ぐに実践できる人間。
所謂、天才って呼ばれる部類の人間なんだろう。
「でもアレだな、魔法って言うのもなかなか難しいな。使いたいイメージを言語化とは言わずとも伝わるように組み替えるのはなかなか頭使うな!私はまだ盾!とか弾!とかしか無理だな~」
とか言いながらも早速、燃える弾が十以上放たれる。
私はそのすべてを槍で打ち消して、接近する。
「またやるの?」
瑠美は槍を悠然と構える。
私の槍は、瑠美の槍に意図も容易く止められる。
瑠美は槍越しに魔法を発動させて炎を纏った空気を爆発させる。
「へへ、至近距離でコレを食らえば少しは堪えるでしょ?」
爆煙が晴れると私の藤色の魔法陣が見えたはずだ。
「まあ、そうだよね~『炎よ!汝は我が力の化身!汝は破壊の象徴!汝の業火で眼前の敵を滅せよ!プロミネンスバァースト!』
瑠美の槍に特大の魔法陣が描かれる。
『我、空間を繰る者。我が意思の下、我が権限に従って、眼前の空間を歪めん!空間歪曲』
私の目の前の空間が歪んで、突き放たれた紅炎を返す。
私はそれでは終わらない。
無詠唱の空間魔法で瑠美の背後に空間を繋げて瞬間移動する。
「そう来ると思ってたよ!」
瑠美の手には新たに槍が握られている。
打ち合う槍が重厚な金属音を響かせる。
瑠美は新たに炎の槍を作り出して突き出して来る、私も新たに風の槍を作って真っ向から突き返す。
ぶつかり合った炎と風の槍は互いに、侵食し、押し合い、喰い合って微動だにしない。
互いにもう片方の手で槍で打ち合う。
しかし、純粋な力比べではやはり瑠美に分があるのか槍は見事に弾かれて飛んでいく。
しかし、まだ私には空間魔法の盾がある。
突き出された槍を盾で弾いて首に盾の縁を添える。
僅かに触れたのか、瑠美の首から赤い筋が垂れる。
「これで九勝六敗か~やっぱりフウカは体鍛えた方がいいよ?技術はだいぶ身に付いたみたいだけど、体が追い付かないと技術は光らないからね」
「瑠美は魔法の上達が早いですね。教えてからまだそんなに時間経ってないのに」
「慣れれば便利な物だよね~」
瑠美は笑いながら槍を手放す。
私も槍を手放して歪曲した空間を戻す。
「あのさぁ!あんたらもうちょっと静かにやれないの?」
そこには顔が煤けて、真っ黒な塊を抱えた夢唯が居た。
「あ、夢唯さん、こんばんはー」
「夢唯、居たんだ~」
「居たんだ~じゃない!コレ何か分かる?」
夢唯は抱えてきた黒い塊を突き出す。
「うーん、炭?木炭とか?」
「コレは本、あんたがさっき魔法で焼き尽くした本よ!」
「なんかすいません…たぶん私が空間を歪めていなしたからですし」
「フウカは素直に謝れて偉いね~それに比べて…」
「ん?私?あー、うん悪いと思ってるよ?でも、フウカと戦闘訓練するならあのぐらいの火力と勢いがあった方が良いと思ってさ?そこは夢唯もわかってくれるよね?」
瑠美は悪怯れる様子もなく言うから更に夢唯を怒らせるんだろうな…
「私は別に戦闘く・ん・れ・んにはそこまでの火力は要らないと思うけど?勢いだけを高める事も出来たんじゃないの?」
確かにそれは出来る。
「いやでも、勢いだけじゃなくて威力が伴わないと気迫は伝わらないからね?そういうのを慣れるのも必要でしょ?」
確かにそれも一理あるけど…
「いや、だからと言って私の本を一瞬で黒こげにする程の火力は要らないと思うけど?」
ご尤もです。
「まあ、次から気を付けるから許して?」
瑠美は手を合わせて頭を下げる。
「はぁ…まあ、今回は許すけど次やったらこの本みたいにコンガリ焼いてあげましょう」
瑠美の足元から丸みを帯びた何かが浮かんでくる。それは明らかにヤバそうな兵器で、知識には夢唯が考えたコスト度外視の核弾頭としてある。
その威力は…
「日本アルプスを平原に変えるって…どんなですか?」
「流石は私の知識を持ってるだけあってコレも知ってるんだね」
「まあ、今の私は魔法武闘家だから?現代兵器なんて怖くないけどね!」
瑠美は屈伸しながら言う
「へぇ、随分と強気ね?」
「だって今ならあんなノロマトラックなんかに轢かれないし♪銃弾もフウカの瞬間移動に比べれば遅いもんだよ♪」
「じゃあ、やってみようか?」
夢唯の足下から黒々とした銃が浮かび上がってくる。
「銃?ホントに使えるの?」
銃を手にした夢唯はなんの躊躇いも予備動作もなく瑠美に発砲した。
そのロングバレルから放たれる鉛色の嵐は風の盾に流されて瑠美には当たらずその後ろの床をボロボロにする。
「凄いでしょ?フルオートのライフルよ?コレの利点は発熱するパーツ以外がカーボン製で普通のボルトアクション式のライフルよりも軽いんだよ?それに反動軽減装置を内蔵してるから私みたいなか弱い女の子で使えるんだよ~」
そんな事を言いながら二丁のライフルで持って間断なく鉛玉をばら蒔く所を見せられてか弱いと判断出来る人は世界に何人居るだろうか…
「ムダムダムダムダムダムダムダァァーーー」
夢唯はライフルを手放してイヤーマフをして、ロケット砲を両手に持って続けざまにぶっ放す。
一発目のロケットは風の盾に衝突して白い煙を撒き散らし、二発目のロケットは風の盾にいなされて背後の床に突き刺さる。
「イグニッション…」
直後、瑠美は爆炎に包まれた。
背後で爆発が起こって、振り撒かれた白い煙に引火して、瑠美は炎に巻かれて燃え上がった。
「アッチチアッツ!イヤ、ヤダ!ホントに痛い!熱い!!死ぬぅう!!」
いやもう死んでるでしょうに…
瑠美の断末魔が聞こえる中で私は意識を肉体に戻した。
▼△▼△▼△▼△
で時は流れて翌朝5時過ぎ…
私は玄関で身支度を整えていた。
持ち物は大方持っている。
今回は翼は使わず徒歩での移動だからいつもより持ち物が増えているが動くのに支障がでない程度まで減らした。
秋も終わりとは言え、長時間の移動になるはずだから水袋はそこそこの大きさのものを用意した。
後は回復薬の類いは一応多目に持っていく。
回復系の水晶球も持っていくが、持ち主の魔力もそこそこ食うため使用は最小限に留めたい。
後は、あっちに任せればよし…
「ケイト、早いですね…」
どうやら起こしてしまったらしい。
「フウカ、おはよ。今日は朝から依頼だから、家の方はお願いね?」
「はい、それは良いですけど…ホントに私もソウジ君もついて行かなくて大丈夫ですか?」
「大丈夫に決まってるでしょ?ここ数ヶ月の依頼とか戦いに比べたらお散歩程度の依頼よ」
「なら良いんですけど…」
「じゃあ行ってくるわね」
私は不安そうな顔をするフウカに"ういんく"を返して玄関を出た。
門までのんびり歩けば鐘半分は掛かる。
今出れば少し早くつける程度だろう。
日も登らず月も沈んだ通りは静まり返っていて、朝露が石畳を濡らして少し滑りやすくなっていた。
「それにしてもこうして一人で依頼を受けたのは久しぶりね」
フウカが来てからはフウカが一緒にいて、ソウジ君が来てからも依頼にはどちらかが必ず一緒に来た。
こうして二人と離れて依頼を受けるのは夏のジムとカインの臨時パーティー以来だろう。
気づけば秋も終わり、冬が着々と近づいている。
そう考えると時の流れが速く感じられて仕方がない。
そんなこんなであっという間に門前広場にたどり着いた。
考え事をしながら歩いたせいかいつもよりも早くついてしまった。
おそらくまだ鐘五つから鐘半分も過ぎていないだろう。
「うーん、困ったわ。寒いし、ちょっと早すぎたわね…」
「あ、おはようございます。ケイトさん!」
そこには既にカルミが居た。
「早いわね。他は?」
「先輩方は、まだ、準備して、ます。私は、ちょっと、早めに出て、素振りを…」
カルミの手には幅広で重厚かつ鋭利な先端を持つ短い両刃の片手剣、グラディウスが握られている。
その丈夫で重い刃は肉を切るのは勿論骨を断つのにも強いアドバンテージを発揮して、剣と言うより打撃武器に近い性質を持っている。
「手堅い武器ね。でもそれを扱うには使う人間にも相応の力が必要なのよ。リーチが短い分だけ相手に肉薄してより強い力で剣撃を叩き込む必要があるからね?」
「はい、なので、毎朝、素振りを、してるん、です。筋力強化に、いいって、ツバキさんが、言ってました」
カルミは剣を苦しげな顔で振っている。
肩とか腰にやたらに力が入ってしまっている。
恐らく重すぎるんだろう。
振り下ろす時に剣の重さについていけずに前のめりになるのを恐れているのが見ただけでわかる。
剣を鞘に納めたカルミは座り込んで肩で息をしている。
「ちょっと貸して?」
私は地面に置かれたグラディウスを借り受けて抜き放つ。
刃こぼれが目立ち、刃渡り70センチ強。
グラディウスとしてみてもかなり重い剣だ。
ロングソード並みの重さがある。
なぜこんな武器を買ったのか些か謎だ。
まあ、せっかく借りたから少しだけ技を使ってみる。
私はグラディウスを両手で持って正眼に構える。
「見てなさい?グラディウスって言うのはね?その重さが十分な武器になる、だから小細工は要らない。必要なのは一歩の速さと重たい剣に速さと重さを乗せる腕。剣は地面が止めてくれる、刃こぼれしてもそうそう問題にならないぐらいの頑丈さがある。だから信じて振り下ろすのよ」
グラディウスが光を纏っていく。
コレはただ魔力を流して切れ味と強度を補強したに過ぎないそして、一瞬で間合いを詰めつつその刃を振り下ろす。
絶大な気迫を纏って振るわれた剣は目の前の空気、触れた地面のみならず飛び出した魔力が触れた壁にまで爪痕を残した。
「凄い…」
「ね?体がついてくれば相応の力を発揮してくれる。グラディウスってそう言う武器よ?」
私はグラディウスを鞘に納めてカルミに返した。
「あの!どうやったらそんなに強くなれるんですか?」
「そうね~生き残り続ければ気づけば強くなってるものよ?何をおいても生き残らないと強くはなれないならね。私なんかは完全な叩き上げだけど、人によっては剣術指南なんかを受けたり道場で学んだりするらしいわね?手っ取り早く強くなるなら誰かに教えを乞うのが一番の近道よ」
カルミは勢いよく頭を下げる。
「あの!私に剣を教えてください!」
「まあ、その為に今日来てるような物だからそれはやぶさかではないけど、私は結構厳しいわよ?」
「はい、早くツバキさんたちに追い付かなきゃいけないので」
グラディウスを抱えるカルミの瞳には憧憬が灯って見えた。
「おはようございます!」
ユリが走ってくる。
その後ろをカルムが息絶え絶えに走っている。
「ユリも朝から元気ね」
「はい!体力は何よりもの武器ですから」
ユリは涼しい顔だが、ついてきたカルムは…膝に手をついて、肩で息をしている。
「カルムはもうちょっと体力つけなきゃダメだね…魔法使いでも戦闘中は走ったり跳ねたりするし、近接戦に持ち込まれたら応戦しなきゃだからね?魔法だけ学んどけばいいなんて事はないのよ」
ユリは自分の経験から必要な知識を述べる。
「そうそう、冒険者は体が資本だからね。おはようございます、ケイトさん。今日はよろしくお願いします」
遅れながら歩いてきたツバキの到着とほぼ同時に六つ目の鐘が鳴り、そのまま私達は出立した。