成長期
作者:「混沌、ここに極まれり!」
ジン:「どうした?」
作者:「うん、楽しかったよ♪」
私がリンが建てた家に降り立つと、リンは一人机に向かっていた。
「んーー…なんで?なんでできないの!」
ロック鳥の姿と人の姿を行ったり来たりしている。
私はそっと近づいて白い頭を撫で撫でする。
「おじさん!入ってこないでって言ったでしょ!」
怒り気味で振り向いたリンは私を見てハッとする。
「リン、どうしたの?」
「おかあさん!?ごめんなさい、おじさんかと思って…」
「一人でなにしてたの?」
リンは黙りこんでしまう。
私は何も言わずに抱き締める。
「私はダメなお母さんだね。」
ふと口から言葉が溢れてくる。
「こんな時になんて声を駆けるかどころか、なんで悩んでるかすらわかんないんだ」
溢れた言葉が私の中で後悔を掻き立てる。
見ないふりをしていた、リンを不憫に思う気持ちが静かに水面を湛え、押さえきれなくなったそれが雫を成して瞳から零れる。
「ホントはもっと一緒に居る時間を作らなきゃいけないのに、エルさんだったりグレイさんだったりに任せっきりにしちゃってさ…」
リンは腕の中で小刻みに震えている。
「リン、私なんかがお母さんになっちゃってごめんね?」
溢れた言葉は一段落つくと嗚咽で掠れて途切れる。
情けない
例え成り行きとは言えリンの育て親になると決めたのは自分の筈なのに、全くこなせていない。
その後悔を軽くしたくて、リンにこんな弱音を吐いてしまっている。
情けなすぎて泣けてくる。
「──リンは、お母さんがお母さんになってくれて嬉しかったよ?それに、お母さんはダメなお母さんじゃないよ?」
その一言を皮切りにリンは言葉を紡いでいく。
神具の契約で言葉にせずとも心が伝わってその真意がわかってしまう。
そんな事がわかりきっていても敢えて言葉を紡いでいる事は痛いほどわかる。
「リンにとっては立派なお母さんだよ?お母さんは閉じ込められて産まれられなかったリンに命をくれた。お母さんは本当のお母さんもお父さんもいないリンに名前をくれた。お母さんは…リンに外の世界を教えてくれて、グレイさんとも会わせてくれて…」
リンが私の事を悪く思っていない事なんて敢えて言葉にされなくても解っていた。
温かい気持ちが伝わっていたから。
それでも、私は…言葉にせずには居られなかった。
「リン、産まれてきてくれて…こんな私でもお母さんにしてくれて…ありがとう」
▼△▼△▼△▼△
で、一方で…
「帰って来ませんね」
ソウジは足りなかったのか謎の魚肉を鉄板で焼いている
「あー、色々あるんでしょ?今日は帰って来ないかもね…」
ケイトは一通り食べ終わって、繋ぎにソウジが持ってきた魚のフライで酒を煽っている。
「いや、それは流石に…」
「お主、我はレアが良い。たたきって言ったか?あのぐらいの感じで」
涼は魚の焼き加減の注文をして
「ソウジよ、ワシは魚よりも肉がいいぞ…直に冬だもんで脂肪をつけなきゃならんから」
エル、そもそも魚ではなく肉が良いと要求する。
「ほら、たまには二人っきりで話したい事もあるんでしょ♪気にすることないでしょ。うん、このフライには発泡酒がいい!出してくるからそっちお願いね?」
ケイトは希に見る上機嫌で食堂から出ていく
「フウカさん不在にしては異常だよな?」
「確かに、まあでもそのうち帰ってくるのが解ってるからじゃないか?」
涼は魚肉を齧りながら別の頭で喋る。
「ん?でもさっき帰ってこないかもって」
「ん?」
ケイトは片手で瓶を二本持って戻ってきた。
「コクオー印♪コクオー印の発泡酒♪」
「ケイトさん、上機嫌ですね?」
「そうかな?まあ、美味しいつまみと美味しいお酒があれば誰でも幸せでしょ。フウカ、早く戻ってこないかな~」
「え、さっき帰ってこないかもって」
「え?ミースとセルジオの話じゃないの?」
「の~ワシに肉をくれ~」
「鳥は自分の主に強請るのが筋だろ?」
「んな、ここで契約を持ち出すのか!?お前の主は肉程度を出し渋るけちん坊なのか!」
エルと涼が睨み合う横でソウジはエルの分の肉を鉄板で焼き始める。
「いや、けちん坊はないですよ!?涼、お前も変な事を言うなよな?エルさんの契約者はフウカさん、家のローンを単独で殆ど返しちゃった人だぞ?もう、ほぼフウカさんの家に居候してるような物なんだから…な?」
「いや、ソウジ君?そこは仲間なんだから協力しないとぐらいの事を言おうよ…」
ケイトは魚のフライの添え物のフライドポテトを食べながら言う。
「それにさぁ?そもそもパーティーハウスだからね?ローン分は後々私とソウジ君で協力してフウカに返すんだからね?まあ、ソウジ君は既に料理とか魔法とかで大きく貢献してるから主に返すのは私なんだけどね…」
ケイトはジョッキを置いて俯く
「はぁ…最近、私の存在意義が薄れてきてる気がするしな~フウカなんてあと読み書きさえ出来れば完璧じゃんね…ソウジ君は読み書き出来たっけ?」
「日常会話程度なら…エルさんソースは?」
「無しでミディアムで頼む」
ソウジは話を聞きながら肉を仕上げていく。
「はぁ…フウカは最近一人で結構稼いで来てるし…ソウジ君は家の事やらせれば間違いないし…私、なんか翻訳係みたいになってる節があるし」
ケイトはジョッキに新たに黄金色の酒を注ぎながら続ける。
「それに戦闘でも最近はフウカはもう魔法で頭数個抜けてるし、ソウジ君の速度にも正直ついてけないし…お荷物だなーって感じだし…前はな~フウカがまだ空間魔法使ってなかった頃はな~フラットな実力差で役割分担もできててさ~そこそこ戦ってる感あったけど、最近はフウカ出てったら一発でしょ?もう空間魔法でスパッ!終わりみたいな感じでさ?それが無理でもソウジ君が時間魔法でパッと行って、ザシュッ!終わりでしょ?私、出る幕がないんだよね…フウカがいないときに遠距離攻撃要員か、ソウジ君がいないときの近接攻撃要員か、二人ともいる時は素材剥ぎ取り要員か…ホント、みんな優秀すぎて私の立つ瀬がないよ…」
ケイトは芋を口に放り込んでジョッキを呷る。
そして勢いよくテーブルに叩き付けて、突っ伏せる。
「もうやだ、なんの役にも立たないのにリーダーとか辛い…」
「ケイトさん、酔ってます?」
「酔ってないわよ…」
そう言うケイトの顔は少し赤かった。
▼△▼△▼△▼△
一通り泣いて一段落したフウカとリンはグレイが残したテキストを凝視していた。
「それで?結局何が上手くいかなかったの?」
「えっとね?ココ、変身は成りたいイメージに成ることができる術って書いてあるでしょ?」
確かにそこにはそう書いてある。
「でね?こう言うのはできるんだけど…」
リンがくるっと回ると服装が冬っぽいファー付きの白いコートになる。
更に回るとフリルのドレス、水着、ゆったりしたスカンツ姿とか色々変わる。
「身長もある程度なら変わるんだけどね?」
確かに元の白いワンピースの時よりスカンツ姿はちょっと背が高い気がした。
「ココが…」
リンはビキニタイプの水着になる。
「えっとね?前にかいりゅーの時に皆水着だったでしょ?アリアさんとか素敵だな~って思って変身してみたんだけど…ココがストーンて…」
リンは自分の胸を撫で下ろす。
「(あー、確かに…)」
リンは私の脳内のデータベースで行くと、ノアさんとトントンぐらいで…
「リンね?素敵な大人になりたいな~って思ってココ大きくしたくて頑張ってたの…でも」
リンが何度回っても胸はそのままだ。
「ほらね?」
「なんでだろうね…グレイさんのテキストは読んだ?」
「読んだけど…ダメな可能性は書いてあったけど解決法は書いてなかったよ?」
リンは分厚い本を開いて赤字の一文を指差す。
『※生物学上、乳房の発達が不必要な種族の場合、変身術使用時も乳房の発達が見られない場合があります』
「リンのココ、大きくならないの?」
(生物学上…鳥類は卵生、十分に成長した状態で孵化するため哺乳類の様に母乳で育てる種は稀だ。
上記の理由から鳥類にはそもそも乳首が存在しない為、母乳で育てる種も食堂の一部で精製したミルクを与える。
で、この説で行けばリンはロック鳥…つまり鳥類。母乳を与えて育てた覚えもそんな事を聞いた覚えもない。つまりリンには本来、乳首や乳房はおろか胸という概念もないに等しいはずだから…残念ながらリンは一生ペタン娘…まな板、チッパイ、断崖絶壁…)
「って、夢唯さん?変な知識を披露するの止めてくれませんか?なんですか!ペタン娘とか!チッパイとか!」
(なに?僻んでるの?あー怖い怖い、パイオツもがれる~)
「お母さん、大丈夫?」
「うん、大丈夫。心配ないよ。でもそれは私じゃどうにかするのは難しいかも…」
「だよね…お母さんもココ小さいもんね」
私は自分の胸を見下ろす。
確かに大きいかと言われれば、首を横に振らざるを得ない。
「う、うん…まあ、そうだけどね」
「やっぱりムリなのかな?」
リンは肩を落とす。
どうやったら巨乳になれるのか?
確かにこれは現代日本でも語られる難問だ。
豊胸手術とか偽乳とか色々方法はあるが、ココはエリアスで技術レベルは19世紀前半並みかそれより下。
そして私の知識にある方法の殆どは現在再現できない、または理想とする効果を出せない。
「いや、諦めるには早いんじゃないかな?アリアさんに秘訣を聞いてみたり、ソウジ君とかエルさんに適切な術がないか聞いてみたりしてからでも…」
でも、まともな手段がないのはノアさんの存在が証明している。
「ねえねえ?僕に聞くのが一番早くない?」
ドアからヒョッコリ顔を出した神がなんかいかにも僕、できますよ~的な顔で入ってくる。
「僕は創造神だよ?欲しいものも見たい未来も思うがままなんだよ~?凄いでしょ?僕が考えれば、トリッ|〇〇<<ピー>>の三年後は巨乳のナイスバディ…アリアちゃんとミゼリアちゃんを足して二倍した超絶美形も夢じゃないよ?」
「あ、セールスはお断りです。お引き取りください」
空間魔法の壁が入ってこようとするレンを押し戻す。
「ちょ、待ってよね…協力しようと思って来たのに酷くない?」
勉強机の椅子でふるふる震えていたリンが確りとレンを見据えて立ち上り口を開く。
「リンね?いっつも神様出てくる度に思うんだけど!まずはちゃんと名前を覚えるべきだと思うよ!!」
リンの怒声はなんとチャランポランの神様の心に効果抜群だったのか、レンは謎の吹き出しに思いっきり貫かれた。
「うぅ、心が…痛い…。この痛む胸が心なのかな…」
「あの、何してるんですか?それ勝手に出して勝手に突き刺さっただけですよ?」
「フウカ君、君はホントに冷血漢だね…僕はなんか今日は凄く傷ついたから帰るよ…ごめんね?」
レンはのそのそと部屋から出ていった。
「あわわ、言い過ぎちゃったかな?」
「大丈夫、アレぐらいで調度良いよ。リンはご飯食べた?」
「まだ」
「じゃあ向こうで食べよっか。ソウジ君が作ってくれてるだろうから」
「うん♪リン、皆でご飯好き~」
そして私はリンを連れて元々通ってきた藤色の魔法陣を通って食堂に戻った。