進む華、戻る鳥
作者:「ホントすんませんでした!!」
ジン:「今日はどんな言い訳をするつもりだ?」
作者:「完全に月曜日だと思ってました…」
レン:「それはちょっとないんじゃない?」
ジン:「セイ・アリシアより残念だぞ?」
作者:「大変遅れて申し訳ありませんでした」
私はソウジ君にセイさんを任せて、一足先にリンとアリシアに戻ってきた。
日はすっかり落ちて、通りは飲食店の光と魔導街灯で照らされている。
こうやって見るとリンの白い服は鳥の羽をモチーフにしているらしく、一歩進める度にフワフワしてて、凄くメルヘンな感じだ。
「ねぇ、お母さん。お母さんはエネシスとアリシアならどっちが好き?」
「え~、迷うな~でもなんだかんだでアリシアが好きかな」
「リンもアリシア好き。なんだろう、お家って感じがするの!」
「やっぱりそうだよね。実際お家あるもんね」
どうなんだろ…リンの場合家は壱なる門だけど…まあ、最初に開いた場所が所在地って事でいいのかな?そう言えば大きさが自由になったから、壱なる門から移ってきてもいいのか…なんならリンの家と繋げちゃってもいいか…
「エネシスも好きだよ?カイさんもノアちゃんも居るし、海キレイだし、皆優しいもん」
あれ?優しくない人居なかったっけ?
私の脳裏をスキンヘッドが通りすぎる。
うん、まあ…だいたいは優しい人だったね
「そういえば、お母さん?」
「何?」
「アリシアでのホゴキョーテーってどうなったの?」
「それはお義父さんにお願いしてすぐに対応して貰える事になってるから大丈夫だよ」
エネシスで海龍討伐に託つけてロック鳥の保護条令を結ばせたのは記憶に新しい。
アリシアでもリンとついでにエルを自由に出歩ける様にしたいと思い復興の合間を縫ってお義父さんにお願いしてみたのだ。
結論は上記の通り…希少な種族を我々人族の勝手で根絶やしにしては忍びないと言うことで快く了承してくれた。
「おとうさんってあの金髪のおじさんだよね?お母さんに似てないね?」
「うん、私のお父さんじゃなくてケイトのお父さんだからね」
「でもケイトさんも似てないね」
「確かに髪の色は似てないけど目元とか髪質とかは結構似てると思うけど」
「ううん、魂が似てないのこの根元的な所にある光が違うの」
「魂が似てない?魂を見る術とか使ったの?」
「なんだろう術を使ってる訳じゃないけどなんとなく見えるの。ケイトさんの魂とお母さんの魂は似てるよ?」
「上位種の特権なのかな?」
「うーん、リンにはよくわかんないけどグレイさんの本にはよりマトリクスレイヤーに近い所に位置するが故の物だって書いてあったけど…マトリクスレイヤーって何?」
「この世界では聞き覚えがないね。向こうの映画にマトリクスってあった気がするけど…あのあれ、銃弾を海老反りで避けるやつ」
「うーん、わかんないよー!」
「こんどジンにでも聞いてみようかな」
「あの黒い人?教えてくれないと思う。それより赤い人のが教えてくれそう!」
「レン?あの神はなんだかんだはぐらかしそうだし…」
「そうかな~?赤い人…全然名前覚えてくれないけど、悪い人ではなさそうだよ?」
「人の嫌がることを意識せずに素でやるからね。言い換えれば単に度を過ぎた無邪気とも言える辺りたちが悪いけどね」
「いい人だと思うんだけどな~」
そうして暫く歩くと貴族街の端の方に移ってきて、町並みもより庶民的になってくる。
それにつれて武装した人が増えてくる。
「あ、フウカさん!お久しぶりです!」
向こうから手を降って駆けて来るのは…
「ユリさん、ご無沙汰です」
「あれ?収穫祭以来なので一月ぶりぐらいですか?」
「そうですね、一月ほど留守にしていたのでそのぐらいですね」
「またどこか行ってたんですか?」
「はい、ちょっとエネシスまで…あ、お土産!買ってくるの忘れました…」
「気にしなくて大丈夫ですよ」
「まあ、今となってはその気になれば買いに行ける距離ですしね」
「フウカさんと一緒に考えられたらこっちの身が持ちませんよ。私たちはエネシス旅行なんて夢のまた夢ですよ?」
「あれ?聞いてませんか?エネシスとアリシアが姉妹都市としてとある魔法で繋げられた事」
「へ?またなんかやったんですか?」
「エネシスとアリシアの友好の手助けをと思いまして…でも道が繋がってからもう半月ぐらいは経つ筈ですけど…もしかして、貴族専用になってるのかな?確かに商人ばっかり通ってたかも」
「はい、お母さん。ほとんど商人の方でしたね。えーと、グレイさんはこう言うときは力ある者が優先的に情報と権利を得るって言ってました」
「うーん、賄賂を流して情報統制を行ってる人がいるのかもね」
「お母さん、どうしますか?」
「まあ、そっちのほうは後々手を打とうかな。ねぇ、それよりリン?また大人びた?」
「えへへ、早く大人に成りたくて…勉強してみました」
「あの、フウカさん?さっきから気になってたんですが…そちらのお子さんは…」
「そっかリンとは初対面でしたね」
「はい、何がなんだかさっぱり…えっと何方とのお子さんですか?」
「リンは端的に言えば養子です。まあ、込み入った事情は抜きにしますが」
「もっもしかしてケイトさんとの間に実子は設けられないからですか?」
ユリさんは少し赤面しつつも真面目な顔で見つめて来る。
「お母さん?顔赤いですよ?」
「い、いや、そういう事は…全く関係なくて…成り行きと言いますか…」
「リンちゃん、成り行きだって~ひどいお母さんだね~」
「でもホントの事だからリンはそれでも幸せですよ?」
「あ、そうそう!こっちも新しい人入ったんですよ!」
「やっと本格再開ですか?」
「新人さんだからまだ、本格的にとは行きませんがだんだんと復活していかないとですから!」
「そう言えばユリさんは何してたんですか?」
ユリは手に持っている布の鞄を見てハッとした顔をする。
「そうでした、買い出しの途中だったんです!すいません、私行きますね!」
ユリはそうとだけ言うと再び走っていってしまった。
「帰ろっか」
「はい!」
私達は手を繋いで少し肌寒い夜道を帰る。
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「あーあ、お前がダラダラお茶飲んでるから完全に暗くなっただろ!」
「ダラダラとは心外な!優雅に飲んでいたぞ!」
ソウジとセイは完全に日が落ちたエネシスの相転移門の前で立ち話していた。
「いや、問題はそこじゃないだろ?」
「ん?別に暗くなっても問題ないぞ?街中は魔導街灯で照らされて明るいからな」
「おい、真っ昼間でもゴロツキに捕まったのはどこの誰だったかな?」
「ふん、それは仕方ないんだ。なんせ俺は高貴な身だからな」
「うん、次に捕まってる所を見たら縄と一緒に真っ二つな?」
「おいおい、親友だろ?そうカッカするなよ?」
「は?おいおい待てよ?俺がお前の親友?俺はお前の命の恩人ではあっても友ではない」
「でも姉さんに近づいたのは要するにそう言う事だろ?貴族の口利きが欲しいんじゃないのか?」
「はぁ?お前、ホントに俺がそんなもの欲しさに瞬撃の隼に居ると思ってたのか?」
「違うなら何があるって言うんだ…確かにフウカさんは魔法の天才で、美人だけど…」
「はぁ…お前には失望した。まさかそこまで残念な頭だったとはな、ブロードさんがあの態度を取るわけだ。じゃあな」
「なあ!俺の何が悪いんだ!」
「そのぐらい自分で考えろ、残念な頭使ってな」
ソウジさっさと藤色の魔法陣を潜っていってしまった。
「俺に何が足りないんだ…」
「何が足りないか…金はある、容姿もいい、地位も、権力もある。まあ、殆どの女を容易く落とせるだけの物は大方揃っているな」
「なんだブロード…笑いに来たのか?」
「いや?そんな事する暇はないんでな。陸軍の方と会合があるからアリシアから向かった方が早いもんでな」
「丁度いい、なあ、俺には何が足りないと思う?」
「ん?取り合えず頭は悪いな」
「勉強して頭良くなればいいのか?」
「そういう短絡的に考える所がお前が頭悪いって言われる所以だとだけ言っておこう。じゃあ、自分には時間がないのでな?」
ブロードもまた藤色の魔法陣を越えていく。
何が足らないって言うんだ…
アイツにないものを僕はいくつも持っている。
そもそも何故僕はこんなにもアイツに固執しているんだろう。
アイツなんて取るに足らない平民にも劣る流れ者の筈なのに。
アイツにあって僕にない物…
僕になくてアイツにある物…
セイは暫くその場で悩んだ末に魔法陣に背を向け、夜の町に向かって歩いていった。