冬の訪れ
作者:「五章突入ー!!」
レン:「お?コレはコレはいきなりステーキですか、隊長!」
アル:「いきなりステーキ…w」
作者:「リアクション薄っ!」
木箱を持って戻ってきた私はさっそく地下の工房に来ていた。
「あはは、いやホントに色々お世話になりました」
「いや、俺も職人冥利に尽きる仕事だった。で代金の方だが…」
「遠慮なく言ってください、金貨ならここにたんまりあるので」
50万枚、当初は100万枚の予定だったのだが良心の呵責に耐えられなかった為に半分になってしまったが、それでも年単位で遊んで暮らせるだろう額だ。
「いや、それがな?三日ほど前突然領主様がこの汚い工房に訪ねてきてな?コレを置いてったんだ」
ディーダラスは小さい金属の額縁に入った紙を取り出す。
「曰く、好きな額を書いて持ってこいとの事で…」
「はー、50万枚相当の報酬ってそう言う事ですか」
「いや、なんでも近い内に起こる戦争に備えるために専属の技師が欲しいんだそうだ。これは言わば身売り金だ、契約金はまた別で出るそうだ」
「おー、遂に実力が認められたって事じゃないですか」
「まあ、それもコレも海龍の一件ありきだがな…むしろあんたには礼を言うべきかもな」
「いえいえ、そもそも杖が使える状態になってなければ海龍討伐は失敗に終わってたでしょうし、ディーダラスさんも確り立役者の一人ですよ」
「まあ、金は領主様からせしめるから別にいい」
「いや、それはいけません。お金は払います。それとこれとは話が別ですので」
で私はディーダラスとの交渉の末に金貨30万枚を支払った。
そして、設置した相転移門を特別に利用してアリシアに戻ってきた。
戻ってきてからの事を大まかに言うと、帰ってきてから直ぐに家の大掃除と生活必需品の買い換えを行った。
そのあと直ぐにローンの支払いを終えた。
金貨20万枚(20,000,000¥相当)はまだまだ残っている。
暫くは仕事をしなくても良さそうな感じだ。
そして私は今エネシスの方に呼ばれている。
ミゼリアさんがなんでも50万枚相当の報酬について提案があるそうで、私はエネシスの領主の館に来ていた。
海辺の高台に建てられた領主の館はアリシアのソレとは全く趣が違っており、優雅でザッ貴族って感じだった。
そんな優雅な館の美しい東屋に私は通されていた。
「フウカちゃん、紹介するわ。そちらのケイトちゃんと婚約する筈だった息子の」
「ブロード=エネシスと申します。本日は坂道の急な所ご足労頂きありがとうございます」
坂道の急な所?足下のお悪い中みたいな感じかな?
「フウカです。ここ数週間の一連の騒動でミゼリアさんに大変お世話になりました」
「フウカ殿の功績のお噂は聞き及んでおります。非常に優れた魔法の才をお持ちだと」
「いや、そんな大層な物ではありませんよ。それでミゼリアさん、私の報酬とブロードさんは何か関係があるのですか?」
「いえ、単にブロードが会いたいと言うのでついでに同席させたまでですよ。報酬の方ですが、色々考えたのですが…家で専属の魔術師になりませんか?研究費も潤沢に出しますし、設備も待遇も約束します」
「・・・・・お断りします」
場に沈黙が訪れる。
この世界では割りと貴族の力は強い(私は気にしないけど…)、その誘いそれも下手に出てるのを断るなんて何様のつもりみたいに思われても全然おかしくない。下手したら領事裁判権とか出てくるかもしれないから、一応逃げる準備だけしとこうかな…
ミゼリアは肩を落として目を白黒させている
(うーん、どうしよう…ミゼリアさん泣きそうだし…でも、事情もあるし…)
沈黙を破ったのは笑い声だった。
「アハハハ、フウカ殿、貴女面白い人ですね!ヴィンスおじさんが気に入るわけだ!いや納得いきましたよ」
「ブロード、無礼ですよ」
「母上、今回は母上の方が無礼だったのではないですか?フウカ殿は既にアリシア領主様の庇護下にあられるのにそれをあまつさえ金銭で引き抜こうなど上手く行くはずがないのですよ」
「いえいえ、私は一冒険者に過ぎませんので領主様から私に対して礼儀を気にする必要など微塵もございませんよ」
「なるほど、寛大な言葉に涙が零れそうですよ」
「いえいえ、私は皆さんに渡した善意をミゼリアさんの方からお返し頂けるというだけで身に余る幸運だと感じております。その上礼儀などまで要求するのは流石に無礼だと案じたまでですよ」
ブロードはこめかみを一瞬ピクつかせた。
「お気遣いなく、礼儀とは本来万民に対して払うべきであり、それを忘れて良いときはないのです。ですが、先程の母の無礼も合わせた御礼をしなくてはなりませんね」
「そ、そうね。何が良いかしら」
「母上、領主の船が何隻かありましたよね。今となってはそんなに使うことも無いですしあれらのどれかを一隻差し上げてはどうですか?」
「いいわね、最近は平和だから私たちも乗らないし」
「母上、例のアレの開発にも参加して頂いてはどうですか?もちろんフウカさんさえ良ければですが」
「アレねぇ…でもアレの開発がバレれば隣国が黙ってないだろうしなるべく部外者は入れずにやった方が」
「どのみち長かった休戦状態は破れ、戦争が起こります。なら延命措置など止めて決着をつけてしまえばいいじゃないですか。アレは大きなアドバンテージになる筈です」
「アレとは?」
「ここじゃなんだし中で話しましょうか」
私はミゼリアさんについて館の中に入る
「でも流石に寒かったね。もう冬だし…復興事業も屋外業務を減らして屋内修復に傾けないとね」
「そうですね、冬の間に復興は極力終わらせて…春の戦争に備えましょう」
「春の戦争?」
そんな物初耳だ
「これは割りと知られてる事なので明かしてもいいよね?」
「はい、国軍にも間者は居ます。既に北にも東にも割れている筈ですので。実は南ゼレゼスは春に休戦状態を破り膠着状態の改善に動こうとしています。それもこれも帝国の動きが活発になっているからでしょうが…なんでも隣国近辺で上皇が精力的に動いてるそうで、そろそろまた虐殺皇帝が出てくるんじゃないかって上層部が怯えてるんですよ」
「虐殺皇帝?」
「帝国の現上帝。過去の戦争で帝国軍を前面に展開して劣りにして、単身で南北軍の背後に周り補給部隊を全滅に追い込んだ化け物。でしたよね母上?」
「ええ、今の南ゼレゼスがあるのも当時、補給部隊と上層部の大方が討たれたからこそなんだけどね」
「怪我の功名とでも言えばいいんでしょうか。それがまた出てくると?確か前回の戦争って30年も前ですよね?もうかなりのお歳なんじゃ…」
「実際どうなのかしらね。人間じゃないとすら言われてるから、解らないわ。でも間者の報告によれば今でも若い姿を保っているそうよ?」
「はぁ、人間離れしてますね。それで準備を進めてるなんですか…」
「じゃあブロードはここで」
「先に行ってますね」
ブロードは廊下の途中で階段を下りていった。
「で、その研究と言うのはどんな研究なんですか?」
「新しい船の研究を全般的に行ってるの」
「船ですか…お力になれないかもしれません」
「大丈夫よ、ただの船じゃないから。さっ続きは応接室でね」
使用人が扉を開けて待っている。
「失礼します」
私が応接室に入るとミゼリアは直ぐに扉を閉めて鍵をかけ、カーテンを閉める。
「テーブル動かすの手伝ってくれる?」
「あっはい」
テーブルをどけてカーペットを捲るとそこには重厚な金属の扉があった。
「あ、直しといて」
「かしこまりました」
使用人はそう呟くが入口に突っ立ったままだ。
「ほら行くよ」
「はい」
扉の下には階段が設けられていた。
石造りで少し湿った空気の階段を下るにつれて温度は下がり、湿気も酷くなる。
階段は曲がりくねっていていくつも分かれ道があり、所々灯りが設けられていた。
「ここは元々海賊の根城だったそうよ?まあ、私の祖父の代の話だけどね。まあ、海賊の根城だったこともあって抜け道とか隠し扉が多いのそれと」
ミゼリアさんが言い終える前に大きな空間に出る。
そこは一言では形容しがたい広さで、上のお屋敷が丸ごと三つは入りそうな感じだ。
「大きな船着き場があるのよ」
洞窟って言うより入江に木の橋が架かってる感じだ。
そして、豪華客船程のサイズはないがカーフェリー並みのサイズの船が何隻も停泊している。
「これは戦艦よ。コストダウンと装甲に厚みを出すために木で作られてる。あそこにある大筒が主砲。従来でも大型の大砲を何問も積むつもりなの。でそれを動かすには人力じゃダメ、帆船じゃリスクが大きいでしょ?」
「まさか動力船ですか」
「そう、それもただ石炭や薪を燃やしてたんじゃこれからの戦では勝てないわ。もっと高効率で動かせる動力が必要なの。魔法の力がね」
「魔力で動く戦艦を作ろうとしてるんですね」
「そういうことよ。魔力なら補給は簡単だし、魔石の調達も海なら簡単なの。海の魔物は大きいのが多いからね、大きい魔物は魔石を精製している場合が多いの。色んな物が溶け合う海は特に魔力が濃いから余計にね」
「はー、なるほど…でその動力の開発に参加して欲しいと…」
「どうかしら?」
「ちょっと考える時間もらっても良いですか?」
「ええ、勿論よ。あと報酬の船ね、どれが良いかしら…」
私達は広い地下空間を歩いて船を見て回ることになった。
一方でソウジとケイトは応接室でまったりしていた。
「フウカ、忙しそうね」
「そうですね、こっちよりかなり政治的に絡む事をやったみたいですし」
『まあ、そのうち戻ってくるだろ』
ケイトは椅子にゆったりと腰を掛けてうつらうつらしている。
その横でソウジはナイフで柑橘系のフルーツを解体して皿に広げて、一切れをカーペットでうねうねしている涼に放る。
涼は頭の一つでそれを食む。
「ソウジ君、やっぱり器用だよね。何やらせても器用にこなすし」
「いや、これぐらい誰でもできますよ」
「でも冬だしね…暫くは外出たくないわね~」
「そうですね、それなら俺も暫く長期間ダイブできそうですね。もうすぐクリスマスも来ますし、お正月に、バレンタインに…」
「ソウジ君、帰ってきてー」
「あ、はい。すいません…でもケイトさんこっちでは冬の間どうやって過ごすんですか?」
「冬は基本的に休業よ。やっても雪掻きとか見回りとか貴族への剣術指南なんてのもありはするわね」
「ふむ、ならホントに暫くはゆっくり出来そうですね」
「さあ、どうかしらね」
「いやまさか、そんなにポンポン騒動が起こるわけないですよ。ラノベじゃあるまし」
だが俺はこのあと知ることになる。
自分が巨大なフラグを打ち立てた事に…
それは応接室の窓を破って飛び込んできた。
『お主!』
「は?」
「きゃっ!?」
瞬間的にタイムコントロールを発動できるようになってきているソウジは咄嗟に発動させた。
窓が破片になって散り、ソウジの左の瞳の前数センチの所に宙に浮いた矢があった。
「うわ、怖っ!!あー怖すぎだろおい!ん?こんな攻撃的な矢なのに矢文かよ!」
ソウジは刀を抜き、ケイトを部屋から出して自分の時間の流れを元に戻す。
矢は床に突き立つ。
『主、敵意は三つだ!来るぞ!』
「見える、そんなのが何度も通じると思うなよ!」
飛んできた矢を拡張された一秒の中で斬り捨てる。
「第七頭解放」
こう言うとき気の利く涼はスナイパーライフルに変形する。
「弓の射程なんてたかが知れてんだ」
乾いた発砲音と音速を超えた事による轟音が響く
弾も俺に含まれる為に音速を超え、さらに速い弾丸は矢の持ち主の額を粉砕する。
『残りは近接型だな、気づく前にやってしまえ』
「おっけ、片方残しとけばいいか」
俺は涼の誘導に従って玄関に向かう。
そこには驚き慌てるリンと黒塗りで液体の滴る短剣を持った女とその後ろに両手斧を持った男が一人
「ふーん、どっちを殺すべき?コイツら仲間かな?」
『いっそ両方捕らえてしまえ』
「そうだな」
俺は両方を時間の停止した氷の箱に入れる。
「はぁ、なんかゆっくりはできなさそうな気がするな」
俺は今更ながら自分の不用意な発言に後悔した。