一週間のお話
作者:「なんか調子戻ってきました!」
ソードブレイカー
割りと昔からある武器ではあるが、その特殊な形状から武器屋や鍛冶屋からはあまり好まれない。
その峰の刺は相手の刃を絡め、テコを使って折るために用いられる為鋭さはなく、代わりに非常に頑丈に作られる。
「にしても金貨はやたら出てくるな」
ホントに金貨はやたらと出てきていた。
その他宝飾の類いや武器の類い、ボロボロの防具だったり骨や歯何てものも出ているが目につくのはやっぱり金だ。
「ふー、これだけあれば今回の赤字は取り戻せそうだな」
「それにしてもちと多くないか?」
「だな、おっ?この鎧…綺麗に切れてるな」
その鎧は袈裟斬りにされており、胸の部分がパックリ開いている。
「うん、我ながら上手く斬るよな!」
「そうだったな、ここを暴走させたのは未来のお主だったな」
「あ!じゃあ未来の俺がコアを回収したのかも!」
「まあ、そこの塵がコアだったとも断定出来んからな」
「じゃあ荷物詰め終わったら過去に行こう」
「主、何をする気じゃ?」
「ん?ダンジョンを暴走させる。予定の消化だよ。それに暴走した後のコアを俺が持ち去っていればコアは既に俺の手の内にあるような物だし」
ソウジは金貨と面白そうな物だけを取り出してトランクに放り込む。
「それ、行くぞ行くぞ『我、時を繰る者、我が意思に沿いて我らを欲する時へと誘え タイムリープ』
そしていつもの通り銀色の光で過去へ飛ぶ。
ただ、いつもと違ったのはそこは元々ボス部屋で過去にその座標にそこそこ大型の魔物が居たことだった。
で、ホントに偶然銀次郎とボスの座標がピッタシだった事だ。
「え、誰?」
それは銀次郎とちょうど背丈も同じぐらいで、牛頭の亜人だった。
体の要所々々から収まりきらなかった分の鎧が突き出ており、穴という穴から血を噴き、白目を剥いて立ち尽くしていた。
「あちゃー、そうだな…コレからはワープ先に何かいないかも確認しなきゃダメだな」
牛頭の亜人の身体が内部から金属の板で切断されてバラバラと崩れる。
中から出てきた血と内蔵にまみれた銀次郎は体をパーツ毎に分解して肉と血を落とす。
「あーあ、血みどろじゃん…」
血濡れの全身鎧って結構怖いな
「うむ、洗うのは戻ってからが良かろう」
「帰ったら皆とりあえず風呂だな」
重雪は血のついた部分を切り離す。
「重雪以外な…さてとどうやったら暴走するやら…」
「こいつらの動力は魔力じゃぞ?」
「ふむ、ならコイツを突っ込んで見るか」
ソウジはポケットから魔水晶を取り出す
「まだ持っとったのか…」
「だってキラキラしてて綺麗じゃん。そこらの宝石より価値あると思うし…じゃっ離れとけよ?やるからな?」
ソウジは魔水晶を持ち、瞬間的に一秒を拡張する。
指先で押し出されるように投げられた魔水晶は拡張された一秒で限りなく直線に近い放物線を描く。
物体の運動エネルギーの計算式は質量×速度の2乗÷2だ。
その移動距離がほんの10メートル弱でもソウジの時間の拡張で一秒が百倍に引き伸ばされたとしたら、魔水晶は実時間0.01秒で10mの距離を移動することになる。この速度は約秒速1000m(時速3600km)。
たとえほんの15g程度の結晶体でもそんな速度で飛んできたら例え空気抵抗があったとしてもただでは済まない。
結論、結晶はコアを貫通した。
そして壁に当たって崩壊を始めた結晶は急速に紫色の霧を発生させ始める。
が、同時にコアが紫色の霧を吸い込み始める。
「お?、貫通したから中が見えるな」
中では小さな光が瞬いている。
次第に穴は黒く染まり、大きく成長し始める。
「おぉ、暴走したぞ」
「魔物が溢れてくるぞ、急ぎ退却、撤退~銀次郎、撤収!走れ!」
ソウジは銀次郎の背にしがみつき、出口を指差す。
親指を立てた銀次郎はミスリルの大剣をしまって走り出す。
血濡れの全身鎧とそれにしがみつく真っ赤なコートの少年、それを追う雪だるまと九つの頭の竜。
奇怪な一行は全速力でダンジョンから脱出するのだった。
△▼△▼△▼△▼
目が覚めるとそこは見慣れた家でも、借家でも、黒い空間でも白い場所でもなかった。
見慣れない町並み。
見慣れない黒い道。
見慣れない車に見慣れない街灯。
ただ、私はここを知っていた。
「日本?の何処だろう…」
人通りがなくやたら静かな交差点、道路の二ヶ所に血痕が残っていて、脇のガードレールを破壊して大きなトラックが街路樹に突っ込んでいた。
無音の街に信号の音が僅かに響いている。
「何か、あったのかな?」
ブーツが硬い地面を踏みしめている筈なのに地に足が着かない感じがする。
「これは…夢なんですか?アイーシャさん!どこですか!居るんですよね!?」
『彼女ならいないよ。あなたの体を維持する為にあなたの空席を埋めてるもの』
「えっと、どちら様ですか?」
『言えないかな、あなたの為にもあたしのためにも』
「じゃあ、ここから出るためにはどうすれば…」
『目覚めれば出られるよ。あたし達とは違ってあなたはまだ目覚められるから。もうじきまたあの瞬間が始まる』
「あの瞬間?」
『そうあの瞬間、あたし達の最期、あなたの原点、その記憶が始まる。ほら』
トラックが消えて、ガードレールと街路樹が修復され、血痕が消える。
『始まったわ』
その一言を皮切りに人通りの無かった道に車が通り始め、チラホラと歩行者が現れ始めた。
『ほら、アレが私』
その女性はコンビニからアイス片手に出てきて、横断歩道を渡り始める。
▼△▼△▼△▼△
「ただいま戻りましたー!」
血塗れの一行はケルビンまで戻ってきた。
「ソウジ君、どんな戦い方したらそんなに血まみれになるの?それとその全身鎧のゴーレムは何?」
戻ってきたらケイトがご立腹だった。
「え~と、こちら銀次郎です。アッチでの使い魔です。で、ダンジョンが暴走したのでそれを処理してきたらこうなりました」
「お茶淹れといてあげるからさっさと洗い流して来なさい。」
「お茶は帰ってきてからにします、ギルドに素材売りに行かなきゃなので」
「そう?じゃあ、身支度進めとくわね。次はエネシスよ」
「あ、エネシスまでどうやって行きますか?連結馬車ならついでに券買ってきますよ」
「そうね…まあ、お金ないし地道に行きましょ」
「魔法でビューンってですか?」
「それは寒いからやだ。もう冬なのよ?空はもっと寒くなるんだからね?」
「じゃあ、少しずつゆっくりにしましょう。とりあえず行ってきます!」
ソウジは血で真っ赤に染まったコートを抱えてギルドに駆け込み、速攻で素材を売り払ってお金を作り、そのお金で銭湯に走った。
というのは一週間前の話だ。
あの後、レリックは無事にラジェルの助手として就職を果たした。
俺とケイトさんは野営したり宿屋に泊まったりしながらゆっくりとアリシアを越えて南下していき、今は山の麓にいる。
「ねえ、ホントにここ越えるの?雪積もってるわよ?絶対寒いわよ?」
山脈の頂は白く染まっており、どう見ても寒そうだ
「でもここ越えると最短距離なんですよ。フウカさんなら何の躊躇いもなくなく越えると思いますよ?」
「ソウジ君たちは暖かいコート着てるから大丈夫なんだろうけど、私はそれないから凄い寒いのよ!?」
ケイトはファー付きのウールのコートに足先まですっぽり包まっている。
「完全防護で何言ってるんですか…」
「ソウジ君にはわからないだろうけど、下から空気が入ってきて脚痛いのよ」
あー、分かりみが深い。
「ならなんでズボン買わなかったんですか?」
「だってそれは元とはいっても貴族だし?そんなはしたない恰好は…ね?」
こういう時だけ貴族するケイトさんの十八番だ。
「ほら、行きますよ」
俺は駄々を捏ねるケイトさんを抱えて翼を作り、朝露で湿った地面を踏みしめる。
「え、待って跳ぶつもり?」
「勿論です、口閉じてないと舌噛みますよ?いっせーの…せ!」
掛け声に合わせて翼を羽ばたかせ、同時に瞬間的に時間の流れを弄って加速しつつ地面を蹴る。
到底生身では出せない速度で山の頂に向かってほぼ直線の放物線を描く。
そして山頂付近で一度降り立つ。
「うっ、前にソウジ君が酔った理由がよくわかったわ」
ケイトさんは雪の上に転がる。俺も手頃な岩に腰かける。
『おっ、意外と近くまで来とったな。ワシじゃ、エルじゃ』
どこからかエルの声がした。
しかし巨鳥の姿は見当たらない。
「え、どこですか?」
「前」
「うわっつ、え?ちっさ!?」
俺の目の前にはそれらしい白い鳥がいる。
しかしそれは少し大きいトンビぐらいの大きさでロック鳥のエルとは到底思えなかった。
「神具の力で街中を移動するのに適したサイズに変身している」
「なるほど、涼のミニ体の様な物ですか」
『主よ、今日のランチは焼き鳥にするのか?』
噂をすればミニ体の涼が脇の空間を歪めて出てくる。
『・・・ロック鳥か!?』
「転生者よ、九頭竜なんぞと契約したのか?愚策だと思うぞ」
『それはどういう了見だ!我々多頭竜の方が貴様らロック鳥のようなただ大きいだけの鳥より優れている』
「いって置くが、自分の頭同士で喧嘩するような種族は多頭竜以外にはいないぞ」
『貴様らこそ白フード如きになすすべもなく滅ぼされ掛けたこの世界の恥だ』
「貴様らは白フードの標的にもならない雑魚だがな」
「ハイ、ストップ。エル、こんな所まであなた一人で来たってことは何か理由があるんでしょ?」
復活したケイトさんが二匹を制止する。
「そうじゃった、小娘が倒れた。恐らく過労なんだが…ワシには介抱するための知識がない。それに復活しても手を打たなければ改善しないから、先に手を打とうとお前たちを探していた」
「またですか。フウカさんは単独行動すると働き過ぎちゃう傾向がありますね」
「ほら、ソウジ君何やってるの!早く下山するわよ」
ケイトは翼を展開してさっさと下っていく。
「急に元気になりましたね」
「だな、我らも急ぎ下ろう。リンに任せてあるから恐らく大丈夫だろうが…とにかく急ごう」
ソウジとエルも続いて山を下って行った。