白フード 再来 エネシス
朝、私は猛々しくなる法螺貝の音の着信音に叩き起こされた。
私はそれを掴み取り、耳に当てて怒鳴る。
「あの!いい加減着信音を固定にしてください!」
『あはは、って笑ってる場合じゃないよ?奴さんたち来たよ?』
「そうですか、こっちはこっちでベストを尽くすのでそちらもお願いしますよ」
『もちのろん、一応そっちにはジン君向かわせたから』
私は電話を切る
「了解、エルさん?起きてください」
『うむ、来たか。今度は返り討ちにしてやる』
「それでは実験を始めましょう」
私は軽く着替えて翼を作り、窓枠を蹴って飛び出す。
「見えた、あれですね」
それは前にも見た白を基調に金で装飾されたゴテゴテの巨大な門だ。
『さて、どうする?』
「この瞬間の為に確り準備をしてきたので今回の私は一味違いますよ」
私は町の港の少し沖に作った氷の足場の上に立ち、そこに作った1m程の高さの氷の台座に触れる。
『魔法陣展開』
台座の上に魔法陣が浮かび上がる、私はそこに事前に集めておいた魔水晶を大量に置いていく。
その魔法陣は魔水晶、いや魔力を吸収して徐々にその範囲を広げ、台座の側面に沿って光の筋を伸ばして足場に垂れ、足場に掘られた溝に沿って光の筋が走る。
この足場は湾を囲む様にぐるっと広範囲に配置されていて、各所に水晶球が埋め込んであり、それらが反応して空間の裂け目を使った壁を作る。
『お主、この程度で奴らは止まらんぞ?なにせ空間制御のスペシャリストだ』
「壁で抑え込むならもっとガチガチに固めますよ、でも今回は殲滅するので」
『足止めか』
「範囲選択ですよ、さぁ徹底的にやりますよ」
わらわら湧いてきた白フードをさらに囲って下から底面一枚分のサイズの魔法陣に無理やり通し、その下のだいぶ小さいサイズの魔法陣から出す。
「さて、死んでもらいましょう」
私は大弓を構え詠唱する。
『風よ、汝は矢、無数の矢、魔を食らう矢、その大いなる風の力でもって触れたものを尽く風化させ、劣化させ、侵食し、塵に還せ 塵還の千風矢』
急速に体内の魔力が減り、その全てが緑色の巨大な矢に注ぎ込まれる。
『お主、急速に魔力が減少したぞ』
「これで締めるので関係ありません!」
私はそれを持って上空まで上がり、上から門に向かって射つ。
それは道中で急速に増殖する。
そして囲われた範囲内を無差別に襲う。
壁に当たった物は跳ね返り、他の矢とぶつかり爆発して当たりの物を散りに返し、魔力を吸って分裂して、他に爆発の余波を伝える。内部にあるものは全てが切り裂かれ、風化、劣化、蒸発する。
海水も残らず消し飛ばしそれでも無数の矢は爆発を続ける。
「ふぅ、これで死なない生き物は居ませんよね」
『まあ、普通はコレで死ぬんじゃろうが…』
ズッ
そんな感じの擬音が似合う感じで門が再び現れる。
「マジですか…」
『ヤバイぞ、他に策はあるのか?』
「・・・・・無いですね。一昨日だけでコレだけの物が用意できたんですから上出来じゃないですか?」
『そうではなく、お主死ぬぞ?』
「向こうも殺す気で来てるみたいですからね。エル、契約の使用を申請します」
『小娘?』
「神具の第二形態を解放してください」
『まだテストもしてないだろ』
「いま使わなきゃどのみち死ぬんですよ」
『わかった、神具の第二形態を解放する』
神具の翼の装飾が開き、白い魔石が露になる。
そして翼の延長に羽のように透明な魔力の板が現れる。
一枚一枚が羽のようなデザインになっており、うっすらと青にも緑にも藤色にも色を変える。
『主らしい杖になったな。理不尽で合理的で美しい杖に』
体に埋め込まれた契約が私にコレの使い方を教えてくれる。
「ふふふふっコレならなんとかなるかも知れませんね」
無数の透明な羽が杖から離れて自在に空を飛ぶ。
それは的確に相手を狙い急所を貫く。
『主、いきなり使いこなせる物なのか!?』
「うーん、どうでしょう?私だからなんとかなってる節が大きい気がします。この並列思考、頭痛く感じなります。こうしてこうして、こう!」
『汝は風、大いなる風の力でもって触れたものを尽く削ぎ、風化させ、劣化させ、侵食し、塵に還せ 塵還の旋風』
杖の先端に魔法は発動せず、そこらじゅうに散った羽で発動する。
そしてまたも無差別爆撃を起こす。
『くくく、自ら視界を塞ぐとは愚作だな。その程度の知能なら私が負ける筈がないな』
暴風と壁が消えるとそこにはきれいに整列した白フードがざっと30居た。
「はぁはぁ、まだこんなに居たんですか…」
「近接班、遊撃班、突撃!」
『お母さん、羽の半分はリンが操作します。お母さんは残り半分を、おじさんは第二形態を維持してください』
『おう…』
白フードの3分の2が襲い来る。
私は半分の羽を槍に集めて槍の刀身を擬似的に伸ばす。
それでもって白フードの剣を防ぎ隙があれば羽と槍で斬り殺す。
リンの操作する羽は的確に相手を追い詰め、斬殺していく。
『ごめんね?でも、仕掛けてきたそっちが悪いって先生なら言うよ!』
リンの操る羽は一度散開すると元々半透明な羽が透明になる。
『リンはこーがくめーさいは得意だよ』
次々と白フードがズタボロになり、落ちていく。
「邪魔ですよ!」
私は羽を直線に並べて空間魔法を纏わせ、周りの白フードを残らず一掃する。
切り刻まれたフードが風に舞い、海を赤く染める。
仲間が斬り殺されたのに白フードたちは知らぬ顔だ。
『ふん、撃ち方用意、カウント3で撃て』
銃!?
私は急いで魔法陣を展開して身を守る。
『1、2、3』
ドドドドドッ
大量の光弾は私の脇を通りすぎてエネシスの町を襲う。
「なっ!?」
町並みが一瞬で崩れ、火の手が上がる。
撃たれた船が爆発炎上してマストが折れる。
『ふん、第二近接班突撃開始、第二遊撃班町を襲え。mobは殲滅して構わん、踏みにじれ!』
「やらせない!」
羽が町に向かう白フードを追い、発生した風の矢が白フードを背中から刻み、落とす。
が、そっちに集中した為に防御が手薄になり白フードの攻撃を許してしまった。
刃はなるべくコートで受ける。
背中を斬りつけられる。
「ぐうっ!このっ死ねぇ!」
風の刃を纏った槍は容易く白フードの首を落とす。
風の弓は迫ってきた白フードの頭をその下端で僅かに貫き、侵食し風化させ砕く。
戻ってきた羽が周りのを刻む。
『近接班両舷から挟み込め!銃撃班撃ち方始め!』
ド!ドド!ドドドドドドド!
大量の光の弾が無差別に放たれる。
私はなんとか特大の魔法陣で防ぐ。
が、転移で迫ってきた白フードを防ぐ手がない
私は頭を腕で槍で守って目を瞑る。
「よくやった、背中は預かろう」
『あ?』
目を開けると白フードがなます切りで海に落ちていた。
私の前には黒装束に黒目黒髪、巨大な鎌はレンとは違い全く装飾がない。
ジンが居た。
「流石だな、だがあの手勢相手に町も守って自分も守るのは至難の技だ。少しは自分の身を案じろ、でないと俺の仕事が増える」
「ジン…ありがとう」
「礼なら後で飯奢れ、先ずはアレだな」
「射撃部隊をお願いします。近接は何とかして見せます」
「了解した」
ジンは姿を消す。
『近接班突撃、第二射撃班撃ち方始め!』
近接班が右舷から迂回して迫る。
光弾は全てが道半ばで火花を散らせ、それを放った白フードは肉片と消える
私もなんとか右舷から迫ってきた白フードを羽で食い止める。
「はぁはぁはぁはぁっくっ、…流石に無茶しすぎましたね…これは帰ったらケイトに怒られますね…」
さっき背中に受けた一撃が割りと大きくかったみたいで、たぶんどっか折れてる。
「いかせ…ない!」
刀身を伸ばした槍で止め損なった白フードを抉る。
「第三近接班突撃、第三遊撃班ジンを足止めしろ射撃班は町を攻撃、第二射撃班はジン、第三射撃班は転生者だ」
私は迫る白フードと弾丸雨注を前に魔法陣を展開しようと手を伸ばすが、それは起こらなかった。
「魔力切れ!?」
『待っておれ今ワシの魔力を別ける』
だが遅い。
羽の残り半分が集まってフウカの前で盾になり、無数とも思える弾丸を防ぐ。
なんとか弾丸はやり過ごせた。
がついに魔力が枯渇したのか羽が消え、杖が元に戻る。
「邪魔です、失せなさい!」
迫ってきた剣を素の槍で弾くが背後からきた攻撃に対処できない。
そこから波状攻撃が始まる。
私もなんとか白フードを一人ずつ仕留めるが、人の体の限界が来ていた。
短期間にこれだけ魔力を消費した、幾度も複数人を相手にした事による体力的限界
『第四射撃班、撃ち方始め!』
「くっ」
次の手を考えるフウカとは裏腹に新たに放たれた弾丸は煌々と輝きあたかも神罰とでも言うかのように空間を裂き迫り…
▲▽▲▽▲▽▲▽
ジンは敵の真っ只中で無限とも思える勢いで門から溢れてくる白フードを相手に大立ち回りをしていた。
後ろからきた白フードの首を狩り、姿を消して、別の方向から来た白フードの首を落とす。
「コイツらリスポーンしてるな」
ジンは射撃部隊殺して回る。
例えじゃなく文字通り回る。
あらゆる物を切断し、mobの魂魄を回収する。
それが彼ら死神科の特殊装備ザ サイズ オブ デス(通称:デスサイズ)
その能力の基礎を応用すれば、神を狩る死神ともなりうる。
それが彼らが科と言う小規模組織でありながら他の管理局と対等にやりあえる理由である。
「コールプロパティ:ザサイズオブデスの回収機能をオートからマニュアルへ移行、回収対象をアカウント全般へ」
『コール承認、回収対象を変更します』
「さてと悪く思うなよ?」
ジンは溢れてきた白フードを凪ぎ払う。
鎌に触れた白フードがフリーズして消滅する。
「アカウントを締結、神聖会議に書類送検」
今まで意気揚々と迫ってきていた白フード達が急に蛇に睨まれた蛙の様に硬直する。
「さあ、全員纏めて書類送検してやる。悔いるならアホな上司を持った運命を悔いることだな」
ジンは吐き捨てるように言って、固まっていた白フード達を睨みその強靭を振るう。中には剣で撃ち合い、錠で防ごうとする物も居たが何の意味もなく。アッサリと剣は折れ、錠前は切り裂かれた。
鍵で鎌を封印しようとするものが居たが、ジンはさっさと鎌を手放し別の鎌をジェネレートする。
所詮は支給されたままなんの改良もされていない鎌だ。
ジンはそれを何本でも捨てられるし、何本でも呼び出せる。
そしてジンの手から離れた大鎌はジンのアカウントの権限が外れて霧散する。
そうして次々と白フードを再起不能にしていく、が次々と白フードが湧いてくる。
正直気味が悪い
そして次々と迫り来る近接白フードの気を取られて銃撃白フードの事を忘れていた。
『第四射撃班、撃ち方始め!』
その一言を聞いてジンははっとした。
「クソッ嵌められた!」
閃光が炸裂して爆音が断続的に響く。
ジンは周囲の白フードを凪ぎ払って、第四射撃班を襲撃する。
銃撃は収まったが、既に大量にフウカを穿った後のはずだ。
爆発の煙がまだ残っていて、フウカの安否はわからない。
「やはり俺ではダメなのか」
ジンは鎌を握り締める。
徐々に爆発の煙が晴れると中から黒い繭のような物が出てくる。
そしてそれが黒い繭ではなく、繭のような形の闇だと気づくのに少し時間がかかった。
バキッ
闇がひび割れて、砕けて、空気に霧散していく。
繭から出てきたフウカは杖と大鎌を手にしている。
白かったコートは真っ黒に染まり、目の色が薄緑に変化している。
その印象はフウカとは言い難く、まるで別人になったようそう一昨日のような状態だ。
「あ、アイーシャさん?アイーシャさんなんですか?」
ジンの左目から溢れた涙は海へと還る。
ゆらりと体を起こした彼女はジンを見ると微笑み、白フードとその門を見据えるのだった。