白フード 再来 ケルビン
その夜、ソウジは継なる門を駆使して、全力で腕によりを掛けた料理を振る舞った。
スキル、魔法、実力
すべてを利用した料理は非常に手間の掛かったものが多く、普通に料金を取れるレベルだった。
「ふぅ、久々に頑張りました」
「そうね、そんなことよりさ。明日からどうするの?」
唐突に電話がなる。
俺はとりあえず出る。
『もしもし、僕だよ?』
「だろうな」
『明日、ケルビンのクレーターの上空に白フードを誘導するから迎撃して?言っとくけど、前回とは訳が違うよ?前回は覚醒した門を奪取しに来たけど今回は門すべてとその障害となる転生者とそれを守護する僕ら死神科所属神と僕の私兵全てを対象に掃討作戦を展開して、僕らを撃滅したあとで目標物を根刮ぎ持って帰るつもりみたいだから、相当量の戦力を覚悟してね?』
「は?お前、それ本気で言ってるのか?こないだのヤツ相手に俺は手も足も出なかったんだぞ?」
『それは出し惜しみをしたからでしょ?』
「は?俺はちゃんと時魔法を使ってた。その一撃をヤツは難なく避けて見せた」
『言ったよね?極々限定的に時間への干渉が出来るって、でそれは生命の危機を脱する為に限って利用できるのであって君を害する為には利用できないんだよ』
「解った、ならやってやる」
『それと、WSSにおける僕の権限を無理矢理上昇させるプログラムをインストールさせたから僕がそっちに着いたら相手の特権を全て無効にする空間を創るからコッチ側はすぐ終わるよ。君にやって欲しいのは僕が行くまでの五分間相手を足止めすることだよ』
「五分でいいんだな?」
『うん、五分お願い』
「了解」
「ソウジ君、また戦うの?」
ケイトさんが俺を不安そうに見ている。
そうだろうな、ケイトさんには相手の姿が見えないのだから不安になって当然だ。
「すみません、でも俺が戦わなきゃエレナにも被害が及ぶかもしれないし、町自体を焼き払われるかもしれない。取り逃がした敵が門を回収しに行くとも限らない。フウカさんの方に行くかもしれない。だから……すみませんが止めないで下さい」
「大丈夫だ、コイツには我がついている」
涼が方法は解らないが声を発した。
「お前、喋れたの!?」
「ん?これは刀身を震わせて擬似的に言語のような音を出しているだけだ」
「なら最初から普通に喋れよ」
「剣が…喋った…」
エレナが壁の隅の方に逃げた。
(剣はダメなのか)
「おー、流石は伝説の三神器だな」
レリックは興味深そうに近くで眺めている。
「おい、鬱陶しいから出てこい」
『無理だ』
「こっちも契約で繋がってるからなんとなく解るんだ。ミニ体で出られるんだろ?」
『何を言ってる、そんな機能はない!』
「いや、できるね。じゃあ試しに俺が自分でやってみようかな……」
俺は刀を抜き地面に突き立てる。
魂に記録された契約がその使い方を感覚的に教えてくれる。
『コール:制限開封ポイントゼロゼロ』
『なっ引っ張られる!』
青白い光が刀の柄の上で収束してちっさい九頭竜が現れる。
「なっ!?」
「だから言ったろ?契約で解るって」
例え中型犬並みの大きさになっても九つの首をくねらせる龍は正直不気味だった。
いや、むしろ小さいからこそ不気味だ。
「うぬ…まあ、そう言う契約だから仕方ないか」
「これ、俺の神具の守護神の涼です」
「ソウジ君、着々と色々使い魔を増やしてた訳ね」
「いや、成り行きで仕方なくですよ」
「成り行きね~」
ケイトさんが白い目で見てくるのも解る。
今回のそれで俺は重雪と涼の二匹を拾っている。
重雪は仮にもゴーレムで俺の魔力で動くから食事の必要はない。
銀次郎も同じく何かを摂取している所を見たことはない。強いて言えばミスリル銀鉱石か…
だが、涼はどうなのだろうか…
「我か?我は別に食べなくてもいい、生きているとは言っても守護神となったことで魔力の塊、我自体は思念体のような物になっている。喰らって魔力に変換することもできるが、こやつから直接魔力を吸った方が楽だ」
それを聞いたケイトさんは安堵の息を吐いた。
「おいおい、俺どんだけ魔力吸われるの?」
「相当量だな、安心しろ。正統な神具の所持者となったことで、お前の身体能力や保有魔力量や概念的影響力は軒並み向上した筈だ。しかも我と契約したのだ、もはや人外と呼べるレベルになっていてもおかしくないぞ?」
「そんなに変わったような実感はないけどな、でもラグい感じは消えたかな」
ラグいと言うのはゲームの方との間に生れた感覚の差、正確にはゲームの方の俺の能力とリアルの俺の身体能力の差から生じる物だ。
「そうだろう、そうだろう。前より魔力を感じ取れるようになったんじゃないか?」
「あー、確かに」
「あと持病の肩凝りが軽減されただろ?」
「ん?俺、肩凝りなんてなったことないぞ?」
「主、肩凝りがどんな症状か解っているか?」
「肩が痛くなるんだろ?」
「重苦しく、ずっと重い荷物を持っているような感じがするのも肩凝りだぞ」
「え、そうなのか?」
俺はとりあえずレリックの方を見てみる
「は?知らなかったのか!?」
「え?皆知ってた?」
エレナ、ラジェル、ケイトの順番に顔を見るが全てが田舎者を見るような目と言うか可哀想な人を見る目だった。
「えぇ…俺だけか…いや、まだ可能性はある」
俺は最後の一人に電話を掛ける。
『ソウジ君、電話なんて珍しいけどどうかしたの?』
「もしもし、フウカさん?肩が重苦しくなるのも肩凝りだって知ってましたか!?」
『え?そうなんですか?じゃあ、これ肩凝りなんですか…』
「らしいですよ」
『(アリアさん!肩凝りって肩が重苦しくなるのも入るって知ってましたか?)』
「ほら!やっぱり知らないの俺だけじゃなかった!」
『(はい、むしろ知らなかったんですか?)(はい、知りませんでした…でも私だけじゃない筈なので大丈夫)ソウジ君知ってましたか?』
「いや、さっき知りました」
『だよね!普通は気にしないもんね!あはは、じゃあ切るね?ブツッ』
「向こうの人って皆肩凝らないの?」
「いや、そんなこと微塵も気にしてないだけです。そんな余裕ないので…あっ」
ふと、忘れていた。
周りに部外者が三人も居ることを。
「?フウカさんと同郷なんですか?」
「まあ、そんなところです」
「フウカさん記憶喪失なんですよね?なんで解ったんですか?」
「顔ですね」
「顔?」
「ちょっと特徴のある顔立ちじゃないですか?鼻が低くて、顔全体が平たい感じの」
「言われてみれば確かに?」
「東方系の人種に見られる特徴ね」
「あー、言われてみれば確かに」
エレナは納得してくれたらしい、レリックはそもそも解るはずがない、問題はラジェルさんだ。
この人は鋭いからな…
ラジェルはなんか納得したような感じで頷いている。
どうやら何かを納得してくれたらしい。
そしてそのままに夜は更けていき、朝が来る。
俺は朝食のパンを片手に路地裏から飛び出した。
門前はかなり込み合っていて出るのに時間が掛かりそうだ。
それもこれもこんな時間に突入してくる白フードが悪い。俺はレンから連絡を受けて朝食を中断、食べかけのパンを持ったままエレナの家を飛び出して、裏路地から直接飛び上がった。
飛び出したと言うのは表通りに出たと言うわけではなく、上空に上がったと言う意味だ。
『主、まだ結界が張られているぞ!』
「そんなことは解ってる!だが、あんな所を強行突破するより幾らかマシだろ」
俺は混雑でまともに機能してない門を指差す。
『じゃあ、結界を突破しよう指示を出せ』
「第二頭解放 弐式三巛錦鯉!」
二刀により三度切りつけられ、鯉を切り抜かれた結界はその衝撃に耐えきれず砕けてそれなりの大きさの穴を空ける。
「次だ!」
そこに下から魔法が飛び来る。
『何をしている!そこから降りろ!!』
「うるさいんだよ、何も知らない癖に!」
特式:蒼刃飛翔
強化された魔力の乗った斬撃は正確無比に警備兵の足下の石畳を穿ち砂埃を上げる。
ソウジはそのまま結界から出る。
目指すは顕現した敵の門だアレを壊して、こっち側に入り込んだ奴らを殲滅する。
既に敵は数十人が入り込んでいる。
手加減はしない、できない。
こっちの方が圧倒的に不利だ。
「全力で相手をしないとな。第七頭解放」
『リクエストは?』
「思念操作の大砲、あの門を一撃で吹き飛ばせるかんじのヤツ」
『無理だ』
「なら一撃で吹き飛ばせればなんでもいい!」
『了解した。引用するぞ?』
「好きにしろ」
刀はその体積を膨らませ、それに連れて黒々と変化してロケットランチャーと呼ばれるそれになる。
『こんな感じかの?M202と言ったか?弾頭は主風に改良した、ぶっぱなせ』
「なら、接近して四発一気に叩き込む!」
俺は水晶球に触れてタイムフルブーストを発動する。
拡張された1秒は何倍、いや何百倍にも膨れ上がる。
ソウジは翼を加速させて門に急接近して至近距離でそれを打っ放す。
放たれた弾頭は門を穿ち
爆炎と白煙を上げるが、その次の瞬間には爆炎も白煙も凍り付いて門の大部分を塞ぐ。
「なるほど、なら固定しちまおう」
ソウジは手に持ったタイムコントロールの水晶球を発動させて凍り付いた爆炎の時間を止める
それを四回。
確り撃ち尽くして、門を塞いだ。
ソウジは一度タイムフルブーストを解除する。
『水よ、汝霧となりて我が敵を隠し、我が名の元に汝が内包する時の流れを遅らせよ タイムプール』
直ぐにその場に霧が立ち込め大勢の白フードの時間を遅らせるが、そこまで遅くできなかった。
俺はちゃっかり脱出している。
『概念的影響力の差が開きすぎてるんじゃな』
「だが、霧と空気の時間はガッツリ遅らせた。奴さんたち粘着性の強い水中に居るみたいな感じなんじゃないかな?」
完全に止める事はできなかったとは言え範囲内の気体を丸ごと遅くしたんだ、相応の移動制限になる。
「じゃあ時間稼がして貰おうかな?」
俺は周りを飛び回って出そうになった白フードを殴って中に戻す。
慣性にまかせてゆっくりと戻された白フードは他の白フードとぶつかったり縺れたりしながら霧の中を漂っているだろう。
「さぁ、レンが着き次第血祭りに上げてやる。今回は出し惜しみはなしだ」