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さらに先へ

レリックは一人で荷車を引いて門前に来ていた。


秋も深まり直に寒くなる。

と言う事で雪が降る前に故郷に帰る者が増え、それに伴い連結馬車のチケットの販売、転売、横流しが盛んになっている。


門前はさながらその会場のような状態だ。


「うーん、報酬全部使えばゴルーゾまで戻れるのか。アリシアまでは倍額か」


迷いが有るわけじゃないが、やはり気になりはする。


「いや、これを見に来た訳じゃくて問題は食材だよな」


そう、今日は仕事終わった祝いとかでご馳走を作るとかって事で俺はその買い出しに行ってこいと言われて金貨2000枚(約30kg)を持たされて町を歩いている。


門前には行商人が集まるから各地の食材が集まる、ソウジからは「なんでもいい感じに料理してやるから、なんでもかんでもとにかく2000枚ギリギリまで買ってこい」と言われている。


ソウジの金の出所がどこなのか凄く気になる所だが、本人に喋られてもたぶん理解できないから聞かない。


「そうだな~ギルドカード再発行しなきゃな」


ギルドカードには映像記憶機能がついているから、それを見ればレリックの罪は明らかになる。

それをギルドがどう処理するかはわからないが、行政が見れば処罰は確実だ。


となればギルドカードは処分してしまって新しく再発行した方がいいだろう。


「どう処分しようか…」


ギルドカードは本人の生命が絶たれると連動して消滅すると聞くが、それ以外の条件で消滅したと言う話は聞かない。


ダンジョンに取り込まれても残っている事が多いと聞くし、火山に放り込むか、海に放り込むか…ソウジに頼んで時間を止めて貰うのが一番確実だろう。


レリックはそんな事を考えながら買い物を始めた。


それは資金が資金なので案の定かなり時間がかかりいつの間にか太陽は真上を通り過ぎて少し傾いていた。

そして一畳半程の荷台がいっぱいになった。


仕事終わった祝いって言ってたからおそらく夜だろうし、問題はないだろう。

強いて言えばどのぐらい仕込みに時間を掛けるかだ。


「まあいいか」


考えてみればソウジが料理するのだ、仕込みに掛ける時間も、仕込み始める時間も関係なかった。


「はー、冒険者の平均日収7日分はかなりだな」


レリックはズッシリなんて言葉では形容しきれないぐらい思い荷車をなんとか引っ張って裏に入る。


「ここが問題だよな…」


かなり治安が悪いからこんな物を押してたら目をつけられるのは必須事項。


案の定…


「おい、この先道がせめぇから荷車は通れねぇよ?」


なんか普通にヒョロっとした目付きの悪いヤツ(以後ヒョロ目)が絡んできた。


「そうですか、ご親切にどうも」


ヒョロ目はニヤニヤしながら値踏みするように荷物を見る、と言うか実際に値踏みしてるんだろう。


「親切にしてやったんだ、それ寄越せよ」


「俺はくれてやってもいいが、こいつの持ち主は怖いぞ?気づいたら首がなくなってるかもしんねぇからな!」


レリックは咄嗟に霧を出して、視界を遮る。


「こんな目眩まし意味ねぇぞ?俺らみたいなのは気配で解るからな!」


ヒョロ目の刃物が突き出されるが、霧を展開してそんなものに当たるレリックではもうなかった。


ダンジョンで盗賊として霧の使い方を学んだ、ソウジたちとダンジョンを攻略して戦い方を学んだ。


それらの経験をレリックは余すことなく取り込み、ダンジョンに入る前より一回りも二回りも成長していた。


ナイフの柄を正確に掴み、ヒョロ目の後頭部を余った金貨200枚(約4kg)の入った袋で殴る。


ボクッ!


レリックは霧の中に液体が散るのを手に取る様に感じ取って、その飛沫がかからないように回避するが、避けきれずに服に赤い染みが幾つかできる。


「まだまだか…」


「うぅっ…」


呻くヒョロ目を無視して、レリックはエレナの自宅へ急いだ。


▲▽▲▽▲▽▲▽


一方でエネシスでは


普段、食卓として使われているテーブルでリンはグレイのテキストを広げていた。


「1日でコレ全部だもんな…凄いな」


また杖が変化してやることがなくなったディーダラスと報告書と決済から解放されたアリア、そもそもやることがないフウカがその場に居る。


カイは買い出しだ。


フウカはグレイのテキストの術の項目を読み終えると本を閉じる。


「だいたい解りました、基本は魔力による身体強化でそこに魔法的制御を施す事で特定の能力に傾けた強化を施すんですね」


フウカは目を閉じて、瞼に触れる。


『遠見の眼』


開かれた瞳は淡く青い光を帯びていた。


「おー、壁が近くに見えます。あ、酔いそう…」


青い光は二三度のまばたきの後に消滅する。


「読むだけで理解できちゃうんですね…」


「グレイさんがリン用に書いた物ですからね」


「私でも使えますか?」


「どうでしょうね、やってみては?」


フウカは本を差し出し、アリアはそれをパラパラと読んでいく。


流石は受付嬢と言ったところか、その速度は普通に速い。


「うーん、これ普通の人には無理なヤツじゃないですか?」


「そもそも術は人が使う物では無いですからね」


「だが、所詮は魔力だろ?魔法とか魔具とか錬金術とかで代用できるだろ」


ディーダラスの意見は尤もだ。


「やってみましょうか?ディーダラスさん手伝ってください」


「おう、面白そうだ」


ディーダラスは二つ返事で応える。


「いや、大丈夫だから。ちょっと興味があっただけだからそんな本気にしないで」


アリアは本を閉じて卓上に戻す。


「いや、疑問は突き詰めてこそ探求者、技術は物にしてこそ技術屋だ」


フウカさんの目が青く光る


「そうですよ、コレ物にしたら売れますよ。うっ、気持ち悪…」


「大丈夫か?」


「ちょっと酔っただけです」


「そんな一瞬で酔うような魔法売れませんよ!」


「そこをどうにかするのが私の仕事です」


フウカは座ったまま考え始める。


「遠見の術はベタ踏みすると酔うから加減しなさいって先生言ってたよ?」


リンはあっさりと答えを出した。


「出力調整したらいいか」


フウカの瞳の青色が薄くなる。


「ほんと才能の塊ですよね」


「そういえば、リンは何の項目を読んでるの?」


「えーっとねぇ…お料理の事書いてある所」


「リンちゃんはお料理覚えたいんだ~」


「うん、できる女性は料理が上手なんだって。料理で胃袋をつかめば男なんてイチコロだって書いてある」


「うん、グレイさんのテキストなんか変な事書いてあるね?」


「そうかなぁ?胃袋つかめば、ぜったい勝てると思うの」


「へ?誰に?」


「カイさん。だからとりあえずまじっくはんど?って言う魔物を調べたいんだけど…本だけじゃわからなくて」


ん?


「本物が見たいなって!」


それは見せていい魔物だろうか…


「マジックハンドでしたら海沿いの洞窟とかに生息してますよ」


アリアさん…休みの日ぐらい休みましょうよ。


かくしてリン率いる保護者ズ(ディーダラスは留守番)は魔物を探して、海辺の洞穴に来た。


「ここはそこまで大きく無いですが、魔力溜まりなのでエレメント系の魔物がよく湧きます」


「魔力だまり?」


「未変換の魔力が気流や潮流、時に雨水等で長い時間を掛けて一ヶ所に溜まった場所の事です。総じて魔物の温床になりやすいのでギルドの方で定期的に冒険者を派遣して魔物を掃討しています」


「へー、そうなんですね」


「以前ケイトさんにも依頼しましたよ。鬼人の森も魔力溜りの一つですから」


「あー、大失敗だったやつですか…」


あのときに優秀だったと聞く冒険者が二人死んでいる。


「まあ、そのぐらいは皆覚悟の上ですよ。そろそろ魔力溜りです、警戒してください」


アリアはクロヅカを腰のストラップから外して構える。

深紅の刀身に滴が滴り、湯気が上がる


「わっ、熱そ…」


リンは目を丸くして刀身を見つめる。


「魔力的な物だから柄までは熱くないよ」


「当たんないように注意しないと」


「じゃあ、私もコレを試させて貰おうかな」


フウカは背負っていた杖を握る


「うん、でもリンは観察するから制御はおじさんにお願いしてね?」


「大丈夫、大丈夫。ただ杖として使うだけだから」


「フウカさん、くれぐれも洞窟を潰さないで下さいよ?」


「はい、そんな威力の魔法は使いませんよ」


「えーっと、リンちゃんはここで待っててね?」


「大丈夫ですよ?闘い方はおじさんに教えてもらいました」


「大丈夫だと思いますよ、リン強いもんね」


「えへへ、強いかもしれない」


リンの周囲に白い透明な羽が現れる。


「コレをこうして、こう!」


白い透明な羽が収束して連なって、羽で織り成された剣のようになる。


「グレイさんが使ってたの真似しちゃった」


「じゃあ行きますよ」


アリアが先に開けた場所に踏み込む。


そこはそれなりの広さがあり、真ん中に水の溜まった穴があり、天井にも小さい穴がある。


「ここは潮吹き穴なんです。高潮で満潮の時にはこの部屋が水で満たされて、穴から海水が吹き出します」


「何もいない?」


「いいえ、ここの魔物はそこの穴の中や壁に擬態しているんです」


アリアさんは真ん中の穴に近づくとおもむろに深紅の刀身を水中に突っ込む。


蒸気がもうもうと上がり、穴全体が沸騰し始める。


「ここは魔力溜りなのでクロヅカの火力が青天井なんです」


そして水蒸気の中から薄水色のぷよぷよした何かが無数に飛び出してきた。


「スライムです、残らず掃討してください。斬撃は効果が薄いので注意してください」


アリアはそのまま真ん中の水を蒸発させ続ける。


フウカはポケットの中の水晶球を発動させて風の弓を作る。


それで持ってスライムを一匹ずつ射抜く。


その矢は、今までと同じようにスライムき突き刺さり、圧縮された空気が元に戻る事による爆発を起こしてスライムをバラバラに吹き飛ばす。


破片が飛び散り、壁に、床に、天井に貼り付く。


「こんなものですか」


「まだです、魔力が散ってません」


「リン、魔力が見えるの?」


「グレイさんが魔法とか術とかを操作するには魔力が見えた方がやりやすいかもって言ってました」


飛び散った無数のスライムの欠片は一つに集まって元より大きくなろうとしている。


「集結するね、来るよ?」


「リンは見えてるから大丈夫です」


「じゃあ、魔力を使えない状態にしちゃいましょうか」


フウカの杖の先端に魔法陣が現れる。


『お主の欲しい魔法陣はコレじゃろ?』


「そうです、ありがとうございます」


フウカは杖で地面を叩く。

地面にその魔法陣が移り、瞬く間に魔法陣の上が薄紫の結晶で覆われる。それは次々と刺々しい魔水晶を作り、スライムの表面を覆い始める。


次の瞬間にはスライムのあった場所には巨大な魔水晶の塊ができる。

結合力を失った水が流れ出し、再び穴に戻っていった。


「これで暫くは大丈夫の筈ですよ」


「ハンドいたぁ!」


壁の窪みにそれっぽい岩の手がくっついている。


「これがそうですか?」


「はい、そうですね」


「うーん、なかどうなってるんだろう…」


リンは躊躇なくそれを捕まえて、真っ先に親指を切り落とした。


「本に親指冴えなければただの石の塊だって書いてあった。えっと、ボロボロ取れる石はこれでいいのかな?」


リンは次々とハンドを構成する石の欠片を剥がして、穴に捨てていく。


「へー、中は砂なのかな?」


リンは剣で削った砂を穴に捨てる。


そうして削っていくと砂はなくなり、全てが海水で満たされた潮吹き穴に葬られた。


「あー、どうやって動いてたのかわかんなかった…」


「色々生態の不明な魔物の一つですからね…特に手がなんで動くのかに関しては、死者の霊魂が憑いているからとかとも言われていますが、実際の所の根拠はなし。砂が本体とも石が本体ともつかづ、さっぱりわからない、まさしく魔物ですね」


「──ボルボックスですか…」


「へ?ぼるぼなに?」


「ボルボックスって言う生物がいるんです、この場合正しくは細胞群体と言うのが正しいんでしょうね。この粒の一つ一つがそれぞれ生きてて、それが無数にくっついてできる一個の集団で、バラバラにしても一つ一つは生きてるのでまた元に戻れたり、戻れなかったりするんですよ」


「へー、じゃあ一つ一つを潰すように殴ったり、焼いたりすれば殺せるんですね?」


「おそらくですよ?」


「じゃあ、胃袋掴む料理はむりかな?」


「そうですね~、魔法でどうにかするのはどうかな?スライム見たいに魔力で操ったらどうかな?」


フウカは一通り喋ってから口に手を当てる。


「どうなんだろ、わかんない。けどなんとかなりそう!」


「うん、良かったね。じゃあ帰ろっか」


フウカはカイへの謝罪を心の中で叫び、リンの手を引いて洞穴を後にした。

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