ミリタリーな日常?
あの後アリアさんは先日のグレイの時と同様の反応を示し、ディーダラスさんは「大所帯になってきたな」と笑ってましたが、顔が引き攣ってました。
で、エルとリンは壱なる門に戻し、グレイは杖へと戻りその日は終わりを告げた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
作者:「が、しかしぃ?」
レン:「こっちの方は問題が起こって?」
ソウ:「ないわ!!」
作者:「ないんかい…」
◇◆◇◆◇◆◇◆
ソウジ達はボチボチ森を進んでいる
途中で川の跡らしきものを見つけた事でだいたいの位置を把握して、今はレリックの案内で階段に向かって進んでいる。
エレナはレリックの後で灯りを持ち、ケイトさんは真ん中で中衛的役職で、俺が一番後でサポートに徹している。
幸いな事に暗視スコープとエレナの灯りのお陰でそれなりに周りが見えているから、普通に射撃出来ている。
そして、俺はなるだけ高い所で偵察もしている。と託つけて重雪に肩車してもらって楽している。
「ソウジ君、それはズルいよ…」
時折、ケイトさんが振り返ってこう言ってくるがこれは俺に許された権利だ。
みすみす手放す俺じゃない。
「あのー、そう言えば例のちよこれいとの件はどうなりましたか?」
エレナが振り返って聞いてくる。
前回のログインでカカオは集まった、がしかし時間が足らないせいで出来てない!
「まだです、と言うか作る時間がありません。地上に出たら作るので待ってて下さい。おっ、なんか居た」
フシュッ
サイレンサーで抑えられた発砲音と共に透明な氷の弾丸が吐き出される。
涼と話した結果、鉛玉っぽいのを精製するよりも氷の弾丸にした方が魔力効率が良いとの事でこんな感じになっている。
とわ言っても、透明になった事で不都合が起こることはなく。むしろ隠密性能が上がってその凶悪さは青天井なのだ。
考えればわかるだろう暗闇の中を僅かな光が灯る場所で透明な弾丸が秒速300m、時速換算して1,080kmに近い速度で飛んできたら回避できるだろうか?平時でも難しいだろう。
それを視覚外の暗闇の向こうから無音で一方的に撃ち込むのだ。弾丸が脆くなった事を考慮に入れても貫通力にそこまでの低減はない。
そして射手は言うまでもなくVRゲームで散々鉛玉をばら蒔き、硝煙を燻らせ、相手を葬ってきた、実戦経験こそ皆無だが感覚と技術が知識として頭に入っているソウジだ。
そして涼によって造られた最高の銃と装備がある。
その結果、スコープの内に映るその影は無言のままで地面に倒れた。
「なんだろう、豚みたいな顔面の何か…オークかな?おっ、ゴブリンだ~血色悪~い…死ね」
フシュッ
「ソウジ君、最後だけなんか怖いよ?どうかしたの?」
「なんですかね、こう…あんな弱い虫ケラが自分のスコープの内に入るとついぶち殺したくなっちゃうんですよ」
ソウジはゲームのし過ぎで限りになく性格を歪めていた。
「あ…これは問題児のパターンですね」
「うーん、まあ、常識的な倫理観はあるからいいわ」
「あはは、俺は居ると便利ですよ~」
「それ自分で言っちゃうのか」
「ああ勿論!自己PRは大事だから」
ソウジはそのまま警戒を続けるのだった。
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で、話は翌日エネシスへ
私は現状唯一暇なカイさんと朝食を楽しんでいた。
「アリアさんも大変ですよね?昨日の今日で報告書仕上げて提出。それが終わってもノアさんの船を借していただいた商人の皆さんへの対応。尊敬しますよ、私だったらお断りですが」
「でしょうね。あ、ジャルジャム取ってください」
「はい、でも私もその内呼び出されますね」
「報酬の受け取りに関してですか?」
「恐らく、国か、研究機関かから私を買収したい人が来ると思われます」
「え?」
「今回の一件で消えたと言われていたロック鳥の存在が公になり、非常に珍しいと聞く空間魔法の存在も公になって、新作の魔法が幾つも出ました。そのなかでも魔水晶精製の魔法は国にとって驚異の筈ですからね」
「そうなんですか?あれって、前日から準備してたヤツですよね?」
「即席だと範囲は狭まりますが使えますよ?それに知っての通り、度を過ぎた高濃度の魔力は人には猛毒ですのでやり方次第では大量殺戮兵器にもなりかねませんからね。いまごろ魔法学者の皆さんは震撼している事でしょうね」
「そんなに早く来ますか?」
「ここは貿易都市エネシスですよね?物も人も情報も集まれば、出ていきます。国内外に限らずに」
「それで、ロック鳥の保護と不可侵をミゼリアさんに要求したんですか…」
「はい、この件についてはもうギルドも信用できませんので。はぁ、ここ数日で一気にややこしい立場になっちゃいました…」
ギルドも国も商人も信用できない。
それに神の件もある。
普通に忙しい。
「はあ、あっちは不味いことになってなければいいんですが」
「向こうって言うとアリシアですか?」
「ケルビンです。仲間がダンジョン攻略に向かってまして」
「あ、そうだったんですか?てっきりお仲間はアリシアでお留守番かと思ってました」
「二人も来れるようなら一緒に来たんですけど、ちょっと事情がありまして…まあ、次に来る時は皆さんで入らしてください」
「あ、ちょっと失礼します」
そう言えば電話してなかったから今から電話をかけてみる事にした。
私はコートの内ポケットに埋もれているスマホを手に取り、登録数の少ないアドレス帳からソウジ君に掛ける。
「もしもし?私です」
『あ、フウカさん。お久しぶりです、どうかしましたか?』
「いや、そっちが大丈夫か気になって」
『はい、依頼も一通り達成です。今帰り道で、真っ暗な迷路を歩いてます。そっちはどうですか?』
「こっちは、そうですね。とりあえず杖が直りました、それと同時に覚醒しましたよ。ソウジ君の方も覚醒したとか契約したとかって駄神が言ってましたね」
『あ、そっちもですか?おめでとうございます、フウカさんの契約相手はやっぱりロック鳥なんでしょうね』
「これがまたややこしい事態になってまして、やむ無くロック鳥の存在と空間魔法の事を明かしました」
『へ?それ不味く無いですか?』
「ちょっと障害の排除に必要でした。十日間にあったことを軽く纏めると、杖を直して、ギルマスと知り合って、領主を言いくるめて、迫ってきた海龍をギルドと町の協力の下で始末しました。で、修理費分ぐらいは稼げましたよ、もしかしたらローンにあてても少し手元に残るかもしれませんよ」
『波瀾万丈って感じですね』
「ほんとに怒濤の十日間でしたよ」
『こっちは、ダンジョン攻略してます。ムカデ、バイコーン、スプリガン、サイクロプス、スノーゴーレム、エンシェントゴーレム、九頭竜…色々倒しました』
「流石ですね」
『あはは、そんなご謙遜を…フウカさんならどれも瞬殺ですよ。バイコーンで苦戦しちゃいました』
「いや、二人だから攻略なんてのが成り立ってるんですよ。私だったら丸ごと消し飛ばしたくなりますもん。まあ、それやると今度こそケルビン出禁になりますが…」
『あ、例のアトラスの一件で地面を消し飛ばしたんでしたね』
「でまあ、暫くこっちは事後処理に追われそうなので戻るのはもう少し先になります」
「フウカさん、誰と話してるんですか?」
「あ、忘れてました。これは電話と言いまして、遠隔に居る人と会話ができる道具です」
「へー、凄いですね親父の発明に遠隔音叉って言うのがあるんですが、あれは片方が鳴ると共鳴してもう片方が鳴るだけだけどさ」
『もしもし?大丈夫ですか?』
「あっはい、ちょっとアリアさんの弟さんと朝食の途中で…」
『あっそうなんですか?じゃあ、切った方が良いですか?』
「あ、もう一つ。レンが不吉な事を言ってました。近い内に白フードが来るそうですので気を付けて」
『そうですか…フウカさんもお気を付けて。おっと敵襲です、切りますね』
言い終えるとソウジはさっさと電話を切った。
「シロフード、って言うのが来るんですね」
「あはは、聞かれちゃいましたか…」
「それはケルビンにも現れるんですね?」
「正確には事情を知る者の前に現れるんですが、まあ正解です」
「情報が不足しています。情報から推測するに魔物ではなくどこかの組織で、フウカさんとお仲間にも驚異となるぐらいの力がある」
「まあ、その通りですね。ただ、カイさんの手に負える組織じゃないと思いますよ?前回の時は私でも危なかったので…」
「フウカさんでも危ういとなると現状のエネシスの戦力を全て投入しても危ういのでは?」
「そうですね、そもそも人間が相手をしていい相手じゃないのかもしれませんね」
「うーん、なんとかなりませんかね…」
『ほら、集中!それ溢したら大変ですよ!』
『はい!』
「ん?今日も講座なのはわかるんだけど二人は何をしてるんでしょうか」
「さあ、娘さんの様子を見てこなくて大丈夫ですか?」
「まあ、ここ数日はいつもみたいなのでいいんじゃないですか?」
グレイについて人化したリンが頭に本と林檎、手にお盆にスープの入ったカップを乗せて入ってくる。
いい姿勢で歩く練習でもしてるのかな?
「カルガモみたいですね」
カイさんはニコニコしながらそう言う。
何て言うか、この姉弟はほんわか系が好きですね。
「フウカさん、今日の講座にご協力頂けますか?保護者のご協力が欲しいんです。今日は試験ですので」
「試験?試験って言うと人化の?」
「はい、昨日はリハーサルでした。今日はお母さんと一緒に町で遊んで人化が綻ばないかのテストです」
「はあ…それで私は何をすれば?」
「リンと遊んでくれれば大丈夫ですよ。計画はリンが立てました、私もチェックしたので大方大丈夫ですよ」
「それでいいなら別にいいけど、じゃあリンお願いね」
「わわわわっ!?」
急にどうしたのかリンはバランスを崩した。
林檎は後ろにスープは前に飛んでいき、林檎は床に転がり、スープはカイさんの頭に落ちた。
「アッチっ!?熱っ熱い熱い、リンちゃんこんなアツアツのスープ運んでたの!?」
カイさんは自前の水魔法で自分を冷やし、ついでに床に溢れた分を集める。
「ごめんなさい、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ。リンちゃんも怪我はない?」
「うん、リンは大丈夫だけど…」
「リン、貴女がまともに人化できるようになってまだ数日です。まだまだ修行が足らないと言うことですよ」
グレイは林檎を拾ってそう言った。
「はい、先生」
「じゃあ、今のお詫びも兼ねてカイさんにもついてきて貰いましょう」
「え…俺?」
「カイさん、私の護衛の仕事もまだ続いてますよ?」
「あ、そうでしたね…じゃあお邪魔して…」
「そうですね、とりあえず今日の計画を再確認、練り直しなさい?」
「はい、やってみます。カイさんにも楽しんで頂けるように…う~ん、カイさんはアリアお姉ちゃんと一緒に居るとき楽しそうだけど…ギルドに様子見に行くのは無しだもんね?」
「ギルドは今日は行かない方がいいと思うよ?」
「そうですね、人でごった返してるでしょうね」
リンは突然閃いたような顔をする
「う~ん、あっそうだ!カイさん、カイさんの好きなところ連れてって?」
なんとも言えない空気が生まれてしまった。
本人は無自覚に言ってるからよりたちが悪い
「まっまあ、殿方のエスコートを受けるのもいずれは必要になる技術ですから?私は構いませんよ?保護者の方はその辺りどうお考えですか?」
「私ですか?う~ん、ちょっと早いかもとは思ったけど鳥の成長は早いって聞くし、いいんじゃないですか?カイさんがエスコートしてくださるって言うなら良いですよ」
「えっと、これは俺がエスコートした方が…良いですね」
「じゃあ、決まりですね。リン」
「はい、先生。相応しい格好に着替えて来ます!」
リンはパタパタと走っていった。
『… and Papa were laying in bed.…♪』
「先生、なんて歌を教えたんですか!」
「訓練歌ですよ?リンは飲み込みが早いので英語の発音もバッチリですよ」
「はぁ…」
私は悪怯れることなく言うグレイを前にため息をつくことしか出来なかった。
作者:「これ大丈夫かな?」