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龍を担いで凱旋です

私は龍を浮かべて、船と一緒に町まで戻ってきた。

そこでミゼリアさんの出迎えを受けて、その場で龍の亡骸を披露した。


で、その場で報酬の授与(形式的に書類を受けとるだけ)をして、私は手はず通りにギルドの方からボランティアの皆さんに心ばかりの報酬を贈呈して貰った。


で今は、町の住民に龍の討伐を広く知れ渡らせるために龍を地面スレスレに浮かせて町中を練り歩いている。


「あはは、一気にお祭りですね」


「まあ、危機が一つ過ぎ去った事には変わりませんからね。でも長くは続きませんよ。今回は収入が殆どありませんでしたからね」


カイさんは詰まらなそうに言った。


ノアさんとミゼリアさんは先頭で忙しく手を振っていて、アリアさんその二人の後ろを歩いているから、自ずと私の相手はカイさんがすることになって。

私と龍の近くを歩いている。


「まあ、偏ってますからね…」


「そうですよ。今回のは完全にフウカさんの掌で踊らされましたからね」


「まあ、いいじゃないですか。無事に海龍は討伐、死者はゼロ、重軽傷23、船が何ヵ所か損傷しましたが被害も小さく済みました。あれだけの獲物を得たと考えれば金星も金星、大金星では?」


「まあ、そうですけどね?」


「それにこのお金の大半はディーダラスさんに支払われるんですからね?」


「そう言えばそうでしたね…そうなると働かなくても良くなるな…」


「いや、そこは働きましょ?」


「とは言いますけど、何のために働くのかわかりません。フウカさんは何のために戦うんですか?一生遊んで暮らせるだけのお金を支払ってまで杖を直したのはなぜですか?」


「うーん、そこまで考えてなかったです…でも、私はたぶんこの仕事が好きなんだと思います。気の知れた担当さんが居て、依頼してくれる人が居て、張り合いのある同業者が居て、背中を預けられる仲間が居る。これってすごい贅沢な事だと思うんですよ」


「くく、フウカさんらしくないけど…らしいですね」


「それに今はリンの事もあるし、ケイトの事もあるので定職にはつけませんし…こうして色んな所で活動できるのも冒険者としてギルドが身分を証明してくれてるからですからね」


「良いですね、今度アリシアに遊びに行きますね?」


「はい、お土産期待しますね」


「あー、それは困るな~。色々ありすぎて迷うので」


「ふふっ」


自然と笑えてきてしまった。


「あっフウカさんも笑うんですね」


「私だって笑いますよ」


でも確かにエリアスに来てから心の底から笑うという事をあまりしてなかった気がする。


「これからも笑えたら良いな…」


「フウカさん、熱でもあるんじゃないですか?」


「ないですよ、ちょっと緊張が解れただけです」


「なら良いですけどね」


行進はまだまだ長い。

私は少し気楽に歩いてみる事にした。


▲▽▲▽▲▽▲▽


一方でお祭りの中を進むグレイとリンは、グレイがどこかで調達してきた金貨で買い食いしていた。


「この焼き菓子美味しいですね」


「うん、でもホントに変身しなくていいのかな?」


「いいんですよ、これはある種のお披露目です。この場を利用して非人型種族の権利向上に向けてアピールしましょう」


グレイは人の姿に変身しており、リンはいつも通りの姿で人混みを歩いている。


当然、身長2mいやもうじき3mになる巨鳥が歩いてたら少なからず騒ぎが起こる訳で


『イヤァァァ!魔物よーーー!!』


「先生、イヤーって耳ですよね?」


「そうよ、でも今のは多分恐怖の叫び的な感じですね。さっリン、あなたの愛くるしさをアピールするのよ」


「はい、頑張ります。非人型種族の権利向上です」


『おいグレイ!リンに変な言葉を教えるな!』


「これだから図体ばっかりデカイのは嫌いなんですよ」


「何が非人型種族の権利向上だ、ワシら人間なぞに媚びへつらうほど落ちぶれてはいない!」


「おまけに頭が固いと来ました、最悪です。こんななら寝首を掻かれて当然です」


「何を!貴様らグリフォンも似たようなモノではないか!」


「我々は数こそ減りましたが今でもこの世に生きています。どちらが優れていたのかは一目瞭然ですね」


「我らは貴様らと違って雄々しく優美な様子だからな貴様らより幾分見つかりやすかったのだ」


「それは無駄に大きな図体のせいではなくって?」


「無駄とは失礼な!」


「その図体でも負けて、その図体のせいで滅んでるんですから、立派なムダですよ。私たちをご覧なさい。ムダのないフォルム、洗練された容姿、極限まで鍛えられた攻撃性能、どれを取ってもただ大きいだけの鳥より優れている。そのグリフォンの中でもずば抜けた才能を持つ私が必要だと思った事に三下のあなたがケチをつけるのですか?ケチをつけたいのならせめて超一流と名乗れるようになる事ね」


グレイは勝ち誇った顔で言い切った。


「・・・リンは先生みたいになれないんですか?」


「リンはいい子だからなれるわよ。おじちゃんみたいな古臭い脳筋な考え方じゃなくて、ちゃんと頭を使った柔軟な考え方ができるようになれば超一流は近いわよ。それにリンには才能も環境もあるからね」


「良かった、先生みたいになれなかったらおじさんみたいになるところだった」


「うん、そうね、それは一大事ね…」


「のう、でなんで非人型種族の権利向上の話になったんだっけっかの?」


「魔物呼ばわりされたんでしたね」


悠長に話している内にガチガチに装備を固めた警備兵が走ってくる。


「先生あの人達、誰?」


「あれは警備兵です。町の治安維持を生業とする者達ですよ」


「なんか、女の人を捕まえてるよ?」


警備兵達はリンではなく女を取り押さえていた。


「それはおそらく…」


『皆さん、落ち着いてください。アレはロック鳥と言いまして、今回の海龍討伐の立役者です。言葉を話すことで意志の疎通が取れ、私達に危害は加えません』


「アレとはまた失礼な言い様だな」


「まあ、そのぐらいの度量もないなら貴方も器が知れると言うものですね」


「グレイ、お主はもう少し柔和な対応が出来んのか?」


「なぜ貴方に柔和な対応をしなくてはいけないのですか?」


「お主、ホントに良い性格してるな…」


エルはため息をついてそう言った。


▲▽▲▽▲▽▲▽


「良さそうですね」


フウカはため息をつく巨鳥を眺めて呟いた。


「何がですか?」


「ああ、エルさん達も上手くやってるみたいなので」


フウカ達はやっとのことで領主の館の近くまで移動してきていた。


「早速、ミゼリアさんとのお約束が働いたんですね?」


「まあそんな所ですね」


「このあとはどうするんですか?」


「そうですね…報酬を受け取って、龍をどうするのか話し合って、私は次の準備をします」


「次?」


「すいません…こればっかりは巻き込めないので他言無用でお願いしますね?」


「何かお金になるお仕事ですか?」


「いや、そういうのとはまた違った事案で…たぶん大丈夫だと思いますが、もしも…もしもの事があったら住民の避難をお願いしますね」


「え、それってマズイやつなんじゃ…」


「そうですね、なんとかなってくれる事を祈るばかりですね。それはそれとして、リン達の知名度を上げるために明日からは頻繁に町に出るのでそっちの方も忙しくなりますね」


「へ?なぜそれを俺に?」


「だってカイさん私の護衛兼監視役ですよね?」


「あ、それまだ続いてたんですか…」


「当たり前ですよ。海龍を討伐したのはただの成り行きですからね」


「じゃあとりあえずは報酬の受け取りですね」


「さっ行きましょう。ミゼリアさんとノアさんが待ってます」


私はカイさんを引っ張って領主の館に入った。


▲▽▲▽▲▽▲▽


で一方でソウジはというと…


「うぅ…さぶっ…階段どこだよ」


迷っていた。


今は四方の壁のすみの天井近くをフワフワしている。


天井付近で突発的に起こった突風で松明は消えてしまった。


辺りは真っ暗、ゲーマー生活のお陰で多少夜目が効くがそれでも数メートル先の棘を視認するのが精一杯だ。

こんなんでどうやって階段を探せばいいのだろうか…


「どうしたものか…別にダンジョンはもう死んでるからぶち抜いても良いのか?いや、それをやると上に被害が出るし…」


そして考えた結果


『氷よ汝、光を内包し、万物に根を張り葉を広げ、輝く花を咲き誇り、常闇を照らせ ブライトアイスローズ』


ソウジの手の上に氷で出来た光る種が形作られる。


「はてさてどうなるやら…そら根づけ!」


ソウジは氷の種を宙に放る


種は一気に根を伸ばして、棘も結晶も氷柱も無視して天井に根付いて行く。

そして、次に茎を伸ばし始めすぐに葉をつけて花を咲かせた。


「うん、多少見えるようになったな。これを多用しようかな」


ソウジは薔薇を駆使して階段の捜索を再開する。


「あー、ラジェルさんと一緒ならすぐ見つかっただろうな…」


あの人は調査の為に隅から隅まで調べてたし…


「はぁ…ホント、フウカさんと一緒なら」


今頃、こんなに苦労してないだろうな…


俺は二発目の種を詠唱して天井に穿つ


そうして徐々に見える範囲を広げて行く。


何度も何度も撃ち込んで、撃ち込んでは飛んで、を何度繰り返しただろうか…


いい加減疲れてきた頃になってやっとそれっぽい黒い影が見えた。

天地を貫くような真っ直ぐな塔。


あれ?こんな塔を攻略する話ってどっかで聞いた事あるな…


まあ、その件は放置して塔に氷の薔薇を大量に撃ち込む事にする。


『氷よ、汝は種、光輝く薔薇を成す種、我は無数の種を成さんとする、汝は我が力の下に我が願いを成せ 氷光薔薇の種』


ソウジの手の中で氷の粒が無数に精製されていく。


それは手から溢れて地面に向かって落ちていく


「こんなもんか」


ソウジはそれを塔の壁に蒔いていく。種を撒くと言うより、枯れ木に花を咲かせましょう的な感じだ。


だが、そんな雑な撒き方でも種は律儀に根を生やして花を咲かせていく。


ソウジはそれを塔を囲むように撒いて黒い影の塔を光輝く薔薇の塔に作り替えた。


「これでいいのかな?おっ、合図だ」


遠くに光の玉が打ち上がった。


ケイトさんの合図だろう。


さっさと合流しよう。


たぶん上の階も真っ暗だが、これで要領は掴んだ。

次はもっと上手くやれるはずだ。


ソウジは合図を目指して移動し始めた。


▲▽▲▽▲▽▲▽


一方でケイト達は…


「にしてもこうも光がなくなっちゃうと大変ね…」


「帰りに光がないのはいつもの事ですが、こうも広くて目印がないと迷っちゃいますね」


「へー、ダンジョンの帰りは光がないのか…」


「普通帰りは空間が縮んだり、迷路がなくなったりして楽になる筈なんだけどね」


ケイトは松明で周囲の確認をしながら呟く。


「いや、普通帰りは荷物が増えるから大変になるんですよ」


「でも、私達はそんなの関係でしょ?」


「まあ、そうですけどね」


(そうなんだ…)


冒険者をやってる間、全くと言って良い程に稼げなかったレリックは何を言うでもなく唖然としていた。


「ケイトさん合図を」


「塔に光が灯ったわね」


ケイトはウエストポーチから杖を引き抜く


『光よ、汝は空高く昇り、その光で照らせ ブライト』


光の玉は空へ打ち上がり、打ち上げ花火のように闇の中で煌々と輝いた。


ソウジが戻ってくるのももうすぐだろう。


ケイト達は暫しその場で待つことにした。

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