話は一気に進んで?
「コレ、美味しいですね♪ちょっと食べにくいけど…スープも美味だし、何よりこの喉ごしのいい麺、まさか生きてる内にラーメンが食べられるとは思ってませんでした」
エレナはスプーンとフォークを駆使してスープの中に浮かぶ麺を巻き取っている。
「なんでこないだの収穫祭でコレ出さなかったの?」
対してケイトさんはフォークだけで巻き取る。
「まだ、未完成だったんですよ…」
「なあ、コレ食堂とかで出したらバカ売れすると思うんだが…」
レリックは麺を食べ終えて、スプーンでスープを啜っている。
「まだ大量に生産できないんだよ。俺の魔法と技術とシステムアシストが組み合わさって初めて再現された奇跡の結晶だぞ?」
ソウジ達は最下層から二階上がった階段の前で休憩がてらラーメンを食べていた。
「ソウジさん、折り入ってお願いがあるのですが!かん水の正体を私に教えて下さい!」
「急にかしこまってどうしたのかと思えばそんなことか…まあ、解りにくいと言うか名前からは全く想像できないからな…」
「かん水って何?水?」
「アレですか?豪雨の時とかに起こる…」
「かん水は麺を打つときに混ぜる物で混ぜると麺の食感が変化します」
「で、その内容はなんなんですか?」
エレナは食いぎみに聞いてくる。
確かに名前を知っちゃうと気になるからな…
「俺の友達の紳士達はアルカリ性の物質が溶けた水溶液だって言ってた。内容は到底再現できなかったから、重曹で代用して…ってそもそもアルカリ性が解らないか…」
案の定エレナはハニワのような顔になってしまった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
レン:「え?案の定ハニワ顔って…」
ジン:「ソウジは良く想定できたな…」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「えーと、酸性中性塩基性って聞いたことありますか?レリック、お前学校行ったんだろ?聞いたことあるか?」
「んー、ないな」
「となると、そこから説明しなきゃいけないのか…えーと、何かいい例えは…酸は解るよな?」
「ああ、金属を溶かすな」
「それと似てるが微妙に違って、性質としては対極になるのが塩基性って言って…さっきのアルカリ性と同義です」
「で、その真ん中が中性なのね?」
「そう言うことです。で弱アルカリ性の物質が小麦粉に含まれる成分と反応してこの独特の食感を産み出してます。その弱アルカリ性の物質がかん水であり重曹です」
「はい、では重曹とはなんですか?」
エレナに表情が戻ってきた。
「炭酸水素ナトリウムですって言っても解りませね…なんて説明したらいいか…焼くと吐息と同じ物質を発生させる鉱石です」
再びエレナはハニワになってしまった。
「なるほどね、例の科学ってやつの産物ね。焼くと吐息を発する鉱石については聞いたことがあるわ、何だったかしら…結構な量取れるからって採掘予算の抗議をしに来た人が前に居た気がする。貴族のお抱えシェフなんかが作るケーキに膨らまし粉として入ることがあるわね」
「ケイトさん、その人、紹介して下さい」
「え?なんで?」
「実は重曹、炭酸水素ナトリウムの生産には別で二種類の物質を用意して調合するか鉱石を取ってきて精製するしかないんです。俺はこの世界の理からちょっと外れた手段で用意したんですが、それも限界がありまして大量生産には漕ぎなそ着けられないのが現状でして」
「なるほどね、因みにラーメンは向こうでは普通に売られてたり?」
「しますよ?ただ、向こうではこんな手順を踏まずとも作れてしまいますし、材料もかなり簡略化されてるのでこうしてシステム外で作ろうとするとかなり不都合が生じるんですね。俺が狭い範囲で振る舞う分には問題ないんですけど、大々的に売り出そうと思ったら色々足りないんですね…」
向こうの世界でも中華麺と麺が存在する。
しかし、どちらも麺と言う区分けだからなのかバグなのかラーメンにすると寸分変わりなくなるのだ。
そして向こうでもかん水はある。
しかし、レアドロップアイテムか特殊なクエストの報酬なのだ。
確かに相当量が手に入るが、店を開くには圧倒的に足りないし、数百食分の麺を用意するにはラーメンの相場価格に対して手間も時間もコストも掛かりすぎてしまう。
殆どの場合はかん水を使った中華麺ではなく塩を使ったうどん用の麺を素材に作ってしまう。
かく言うソウジはソレが面倒だったから、雲竜寺 霞の時に使える生産系スキルのアルケミストを用いて合成しようとしたのだ。
しかし、かん水がどの物質を指すのかがわからず、よき友人の紳士達の教え通りに重曹もとい炭酸水素ナトリウムで代用することにしたのだ。
アルケミストの能力のお陰で物質の調合、精製、合成、分解と言った作業の成功確立に補正がかかり、スキルの効果でレシピも見ることができた為に用意に重曹を生産できた。
しかし、ソウジ一人で生産できる量は高が知れており、時間あたり十人前がいいところだった。
「まあ、いいけど。代わりに私に何をくれるのかしら?半端な物じゃ紹介する気でないなー」
「えーっと…そうですね…じゃあ、今度お茶に合う向こうのお菓子作りますね」
「うーん、まあソレで手を打ってあげるわ」
「はあ、何を作ろうか…」
「ソウジさん!私、ちょこれいと食べてみたいです」
ガクッ
ソウジは項垂れる。
「チョコですか…あったかな~」
ソウジは難題に挑まされる
それを見てケイトは笑うのだった。
「うわー、大変だな…」
レリックがボソッと呟いたのは女性陣二人には聞こえていなかったがソウジにはバッチリ聞こえていたのであった。
▲▽▲▽▲▽▲▽
一方でフウカ達は領主の館を訪れていた。
アリシアの領主の館に負けず劣らずの気品を備えた屋敷に私は息を飲んだ。
「緊張してきましたね」
フウカはそう言いながら藤色の魔方陣に手を突っ込んで、中からトランクをズルッと引き出した。
「フウカさん、緊張してる感じが全くしません」
アリアは頭を抱える。
「そうですか?実際、心臓バクバクですよ?」
「いや、そんな淡々と言われたら全く伝わりませんよ」
カイは自分の胸に手を当てながら言う
「えー、ノアさんならわかってくれますよね?」
「ん?僕?フウカちゃんは誰の前でも物怖じしないよね?」
「いや、凄く緊張してるんですよ?」
フウカはノアを抱き上げる。
「わかった、緊張してるのはわかったよ。とりあえず僕を下ろしてくれるかな?」
「暫くこうしてて貰っても良いですか?こうしてるとちょっと落ち着くんです…」
「んー、仕方ないな…ちょっとだけだからね?」
「フウカさん、もしかして酔ってますか?」
「いや、フウカさんはアリシアでも随一の肝機能の持ち主だから違うと思うな。たぶん、ホントに緊張してるんだと思う…いつも隣に居るケイトさんがいないのが大きいんだろうね」
「なるほど」
そしてフウカ達は使用人に案内されて応接間に通される。
「ねえ、フウカちゃん?そろそろ放してくれないかな?」
ノアはフウカの膝の上に載せられている。
「ノアさーん…凄く凄く不安になってきました…」
「君、僕の所に来たときもっとルーズな感じだったよね!」
「だって…ノアさんは知り合いですけど、ここの領主様は面識ないので…」
「あー!憎きパイオツが僕の背中に押し付けられてる。これは嫌みなのかな?無駄に長寿な僕への嫌みなのかな!!」
「フウカさん、もうすぐ領主様来ますよ?」
「はわわわわ…どうしよう…セリフ飛んじゃった…」
カイは黙って両手で目を覆う。
扉が開かれて、荘厳な雰囲気を纏った女性が入ってくる。
「貴女がフウカさんね?ヴィンスから話は聞いてるわ。初めまして、私はミゼリア=エネシス。肩書き上は貿易都市エネシスの領主を務めているわ」
フウカは膝の上からノアを下ろして立ち上がる。
「フウカです。今日は一つお約束頂きたい事があり参上しました」
「この面々から考えれば例の海龍に関する事なのでしょうが…私に約束とはどう言うことかしら?」
「今回の一件をより被害を小さく抑える為に最善の手段を用意しました。その手段を紹介する為にも私の友人に妙なちょっかいを出す輩が出ないように計らって欲しいのです」
「先ずはその友人について詳しく教えては頂けませんか?」
「そうですね、それが筋ですね。ですが彼らを呼ぶにここは少々狭すぎるのでご足労願っても?」
「それは遠いですか?」
「いえ、直ぐそこですよ」
フウカはトランクを開いて目的の物、一枚の魔方陣を引っ張り出す。
「この向こうに居るロック鳥が計らって貰いたい私の友人です」
「ミゼリア様、いけません。危険すぎます」
「うーん、僕は心配しなくても大丈夫だと思うな。なんなら僕が一番最初に入ってもいい」
「よい、ノアがここまで言うのだ私は何も言うまい。フウカさん、案内してちょうだい」
「じゃあ行きましょうか」
「俺も行きますよ?俺はフウカさんの監視役ですからね」
「あ、ズルい。じゃあ私はノアさんの護衛~」
「君達はただ入りたいだけだね?」
「いや、フウカさんの娘さんと会ってみたいだけですよ」
「いや、私はグレイさんいないかなって…」
「はあ…いいですか?」
「私は構わんよ、白黒師弟には色々お世話になったしね」
「じゃあ、行きますよ」
フウカは一歩早く魔方陣を越えていった。
それにカイとアリアが続く
「じゃあ僕も」
そして最後にミゼリアが魔方陣を越える
「だから、エルさんもグレイも大人しくしててください」
「で、デカイ…これ、町滅ぶんじゃ…」
「ロック鳥、初めてみました…」
「うん、僕も初めて見たね。初めまして、ロック鳥のエルさん?」
「おい、小娘!領主だけではなかったのか!?」
「私そんなこと言いましたっけ?」
エルはちょっとお怒り、と言うか戸惑ってわめき散らしている。
「先に詳細を確認しなかったあなたの落ち度ですよ?エル。リンはあんな風になってはいけませんよ?」
グレイはとても落ち着き払っている。
「うん、リンは一流のロック鳥になるんだもん」
リンはいつも通りフワフワしたフォルムでグレイの横にいる。
「リン、久しぶりー二週間ぶりぐらいかな?」
「フウカさん、幾らなんでも二週間ぶりは酷くないですか?」
カイはジト目でフウカに言う
「これでも会いに行く努力はしたんですよ?ねえ、エル?」
「うん…リンもお母さんに会いたかった…けどまだダメなの」
「フウカさん、これには事情があるんです。私はあなたの相棒として、何より超一流のグリフォンとしてリンの想いを成就させる義務があります。ここは黙って受け入れて貰えますか?」
「あ、はい。グレイさんなら安心なので私が黙ってるのは良いですが…そろそろ紹介させて貰っても良いですか?」
「あ、どうぞ」
「ミゼリアさん、こちらの一番大きいのがエルさん、今回の作戦の要です。でこの子が私の愛娘のリンです。ちょっと特殊な事情の子です。でこちらはロック鳥ではなく私の杖の契約獣のグレイさんです。曰く超一流のグリフォンだそうです。ミゼリアさん、計らって頂けますか?」
「これは…計らうにしてもかなり難しい気がします…出来うる限りはしますが完全には無理ですね」
「別に町としてロック鳥の来訪を公認してくれればそれで充分ですよ。それでも変なのが出てきたらまとめて相手をします」
「それならなんとかなるけど…町を壊さないでね?」
ミゼリアはエルを睨む
「は、はい。それは勿論です」
エルが萎縮してしまった。
「あ、サイズに関しては私の方で自在なので気にしなくても大丈夫ですよ」
フウカは例の巨大魔方陣にエルを押し込む。
エルは反対側からかなり小さくなって出てくる。
身長50mから50cmまで縮小していた。
「お主!縮めすぎじゃ!」
「でもこのぐらいの方が都合が良かったりしますよ?」
「わー、かわいい!」
「姉さん、ストップ。今はそういう雰囲気じゃないから」
「か、かわいいのか?ワシが?」
「ふふふ、似合ってますよ?エル」
「再三確認しますけど、もしも変な事を考える輩が出たときは冒険者の流儀に乗っ取って処分していいんですね?」
「処分に対して基本的に私達エネシスの統治機構は一切関与しない事をお約束しましょう。それで海龍討伐に協力して下さるんですよね?」
「はい、全力でやらせてもらいます。エル、作戦の説明しますので一回こっちまで来てください」
「お、ワシか?」
「話は応接室に戻ってからと言うことで」
討伐に向けての話し合いは急速に進み始めた。
討伐作戦まであと二日
レン:「進んでないけど?」
作者:「進んだじゃん」
ジン:「話ってそっちか…肝心のシナリオは牛歩だな」
作者:「そうだね」