迫られた決断
「で、できたー!」
フウカは空間魔法で保護された部屋で一人出来上がったソレを掲げて声をあげた。
もちろん外に響くことはない。
空間魔法で作った作業台の上にはソレと同じものが幾つも置かれている。
フウカが用意した爆弾だ。
コレを使って内側から内蔵を破壊して殺そうって言うのが今回のフウカの策だ。
鉄球の中は二重構造となっていて壁と壁の間にはなんとか用意した金属片やガラス片、擂り潰した亜鉛、河豚の内蔵を擂り潰した物、魔水晶と言った、体内にぶちまけられたらマズそうな物が一通り入っている。
そして一番内にはちょっと前の貿易?で貰った火薬が入っている。で外に向かって導火線が延びている。
たとえ不発弾になってもきっと龍の体内は魔力で満ちてるから魔水晶が成長して、爆発ほど影響はでないが毒液を撒き散らしてくれると言うことで、導火線にはそこまで気を使っていない。
胃のなかに毒液と鉄屑を撒き散らし、中で結晶を精製して、何がなんでも胃に穴を穿つ。
そこから血管を通って微量とは言え毒が回る。
それで弱った所を仕留めると言うのがフウカが立てた策だ。
その際にどう殺すかも二三考えている。
どんな状況になっても殺せるように準備している。
「もしも討伐作戦が失敗したら、そのときは…」
餓死させる。
一番得る物が少ない殺し方だから極力やりたくはないが、それしかないなら仕方ない。
出来れば首チョンパで終わらせたいのが本音なんですけどね…
「あ、そっか!ちょっと手荒な手段だけどエルさんに頼んで見ようかな」
思い付いた、鱗が邪魔で斬れないなら無理やり引っ張って千切ってしまえばいいじゃないか、と
そうと決まれば、と言うことで壱なる門をくぐる。
すると驚いたことに、門の直ぐそばに白い塊があった。
「なんか、ありましたか?」
「どうもこうもない、あんな化け物が門をくぐってくるとは思っても見なかった」
「誰か通ったかな…あ、もしかしてグレイさん?」
「そうだ」
「で、なんで拗ねてるんですか?」
「拗ねてない!寝とるだけだ」
「おおかた、防衛本能から奇襲を仕掛けて競り負けたんでしょうが…」
「うっ…確かにヤツの強さは本物じゃった。しかしあのまま続けていればいずれ勝つのはワシだったはず」
「本題入っていいですか?」
「リンなら、向こうでグレイと家のリフォームをしとる」
「いえ、今日はあなたに会いに来たんです。ちょっと力を貸してくれませんか?」
「?珍しいな、お主がワシにリンのこと以外で頼み事とわ」
「まあ、二三事情があるんですよ。数日後にある海龍討伐の際に止めを刺すのをお願いします」
「それって限りなく目立つヤツじゃないか?」
「まあ、それなりにですよ。これやっとくと後で町に出やすくなりますよ?当然サイズ変更は必須ですが…」
「まあ、リンのためか…しかたあるまい。でワシは何をすればいい?」
「海龍の首をもいじゃって下さい。こちらで注意を惹き付けて体力を削いでおきますので」
「またエグい作戦立てたな」
「しょうがないじゃないですか、相手が魔法無効とか言う能力を持ってなければ私だってもっと簡単で綺麗な作戦立てますよ」
「まあ、いいぞ?魚の頭を落とすぐらい造作もないわ」
「なら、良かった。これなら心置きなく領主さんと交渉できます」
「領主と交渉?お主、止めといた方がいいとワシは思うぞ?」
「壱なる門を使う時点で領主を言いくるめるのは必須ですので」
「うーん、だがそれで立場が危うく成やも知れんぞ?」
「後ろ楯はあります。正攻法で来るならこっちも正攻法で相手をするまでです」
「まあ、お主がそこまでいうなら構わんが、気を付けろよ?」
「で、話変わりますが、リフォームってどういうことですか?」
「ああ、リンの家を一流のレディーに相応しい家にするとかとグレイのヤツが息巻いておった。暫く近づかん方が賢明じゃぞ?」
「そうですか?私が手伝えばもっと早く終わると思うんですけど」
「いや、たぶんグレイのヤツもなにか考えがあってやっているはずだ。ここは大人しく見守っておった方が正解だろう」
「そうですか?」
「それより主の杖の事じゃが」
「ああ、グレイさんの後続の契約獣でしたっけ?」
「うむ、早い内に手を打った方がいいかも知れんぞ?」
「なぜ?」
「その資格があるモノなら誰しも神具の事は知っておるし、そこから発せられるテレパシー的な気配で解るんじゃ。神具の契約はそれだけで能力を飛躍的に向上させると聞く。それに惹かれてよってくる人外が増えるだろう、余計な手間を増やしたくないなら早急に次を決めるか、杖を手放すべきだな」
「杖を手放したら別の誰かが契約してそれはそれで問題では?」
「契約とは双方向的な物だ。縛られるのは獣だけではない、神具の所持者たる人間も等しく縛られる。要するに人間の方にも相応の実力を要求されるのだ」
「なるほど、じゃあ他の人に渡ってもそれ相応の実力がないと扱えないと?」
「そういうことじゃ。まあ、手放せるかどうかもあのグリフォン次第だろうがな」
「となると次を決めちゃった方が簡単ですね」
「だが、それをするとお主は正当な神具の所持者になる。そうなればそれを欲す人間が出てくるだろうな、お前が身を寄せているアリシアの領主も信用できなくなるかもな」
「それはないですよ、お義父さんはそんな人ではないので」
「流石のお主と言っても所詮は年端もいかぬ娘だからそこまで思考が届かんでも仕方ないが、アリシア領主と言っても上には上がいるだろう?例えば王族とかな。そう言った者たちが権力に任せて得ようとした場合、もっとも手っ取り早い方法は」
「領主特権での献上…」
考えたくはないけどありうるから怖い
南ゼレゼスには圧倒的な力を欲する理由がある。
今も南と北はあくまで停戦中なのだ。
帝国が直ぐそこまで迫ってきて結果的に南北帝は停戦しているが、もしも帝国が力を増した場合はこの状況は崩壊する。
そして、北と南のバランスが崩れても崩壊する。
あらゆる意味で均衡であるからこその平和だ。
いつ崩れてもおかしくはない。
それを敢えて崩すなら圧倒的な力を南が手に入れて北を併合してしまって帝国との均衡を保つのが南にとってのベストな回答なのだ。
「解っているじゃないか、そうなればアリシア領主がどう動くのかは容易く想像できるだろ?」
「ええ、きっと杖を何とかして得ようと私と交渉するでしょうね。そのあとは正攻法で取りに来る。で私達もお義父さんも望まない結末を迎える」
「うむ、だからお主も手を打たなくてはならない。国王が下手に手を打てない状況を作る他ないな」
「力を示すですか?」
「いつでも出ていけると示せると効果的だが、それにはお主の伴侶が邪魔だな」
「邪魔ではありませんよ?私はケイトを残してどこかに行くつもりは
全くないので」
「だろうな、まあとりあえずエネシスの領主と仲良くなっておくのはいい一手だと思うぞ」
「そうですね、いっその事ギルドを後ろ楯にしようかな」
「それはやめた方がいいな、300年前の知識だが、やつらは狡猾で貪欲だ。その圧倒的な力でもって欲しいものは毟り取る。障害は確実に排除する、後にはなにも残らない」
「ギルドの影の面…」
「冒険者ギルドの上層部は300年前の時点で既に腐りきっていた。今は更にその悪臭を広めているだろうな」
「うーん、前門のゼレゼス国王、後門のギルドですか、大変です」
「うむ、一先ずは海龍だな。話はそれからだ」
「じゃあ、私はさっそくエネシス領主と会う為に準備してきますね」
「うむ、こっちは任せておいてくれ」
私はそのまま門を越えて戻ってきた。
「じゃあ、とりあえずノアさんに頼んでアポ取って貰いますか」
私は門をそのままにトランクを部屋においたまま、部屋を出た。
「あ、終わりましたか?」
「いつもありがとうございます」
「これでお金貰ってますから」
「じゃあカイさんついてきてください。今からギルドに行きます」
「え?いいですけど?なにしに行くんですか?」
「領主に会うアポを取ってもらいに行きます」
▲▽▲▽▲▽▲▽
でギルドマスターの執務室では
「どうせならスカートつけたらどうですか?」
「それしたら、子供っぽくならない?」
「大人っぽくつけたらいいんですよ」
アリアとノアは執務室で、水着に手を加えていた
その場で針と糸でチクチクやっている。
「でもノアさん縫うの上手ですよね」
「寿命が無駄に長いから身に付いただけだよ」
「ほんとにそうですか?」
「ぶっちゃけると、体格にあった可愛い服がないから手を加えたり自作したりしてたらできるようになっちゃった」
「やっぱりです」
「最近はさりげにアイアンワークの勉強してるかな」
「ギルマスのお仕事しながらよくできますね」
「だってギルマスのお仕事って言っても10年以上やってれば慣れるからね」
『コンコンコン、マスター、カイさんとフウカさんがお見えです。ちょっちょっと待ってください!』
「フウカさん流石にマズイですって!」
「失礼します、ノアさんを信用して私たち瞬撃の隼の秘密を一つ明かすことにしました。その対価として領主様への紹介状を書いてください」
「それはどんな秘密なんですか?」
「そうですね、私は先程とある種族に援助を求めました。ロック鳥といってわかりますでしょうか?」
「へー、フウカちゃんは援助の代わりにロック鳥の保護と不可侵を約束して欲しいんだね?」
「その通りです」
「飲めない場合は?」
「今回の討伐作戦から手を引きます。その場合は町からも去ります」
フウカは普段の外向きの声にドスを聞かせて喋っている。
「じゃあ、もしもその件で領主が手を出した場合は?」
「降りかかる火の粉は払い除けます」
「ふーん、本気なの?今ならさっきの発言は聞かなかった事にできるけど?」
「無理ですね、ノアさんが漏らさなくてもギルドにはバレました。聞く人が聞けば私たちが所持している事は解るでしょう、もう後には退けません。紹介状書いてくださいませんか?きっとそれが、私にとってもギルドにとってもゼレゼスにとってもいい筈ですよ」
「そうだね、僕の予想が正しければ君の持っている門の力は強大で交渉材料にすれば帝国すら動かせるだろね」
「あの、私たちにもわかるように説明してもらっても?」
どうやら姉弟とセレナにはわからなかったようだ。
「君たちはわからない方がいいよ。紹介状だけどちょっと待ってね?直ぐ書くからさ。腰かけて待ってて、アリアは物をしまっておいて」
「まあ、これで領主様が約束してくれれば討伐作戦は絶対成功しますよ。それに領主様とは仲良くしときたいので」
「なにかそこまでする理由があるんですか?」
「アリアさんとカイさんは知ってるじゃないですか」
「あー、杖の件ですか…」
「それに自由にお外で遊ばせてあげたいと思うのは親として普通ですよね?」
「え?」
「フウカさん、子持ちですか?だ誰と作ったんですか?まさか、ソウジ君!?」
「アリアさん、違いますよ。人の子なら普通に外に出せます。領主様との件が終わったらお二人には紹介しますよ」
「ふーん、フウカちゃん本音はそこだったんだね?」
「いつまでも門の向こうの荒野なんて精神衛生上というか発育上よくないので」
「へー門の向こうて荒野なんだー、はい紹介状できたよ?一応、僕もついてくから要らないけどね」
「じゃあなんで書いたんですか?」
「フウカちゃんが書けって言ったんじゃん!」
「別に代わりに同行するって言ってくれればそれで良かったんですけどね」
「もー、じゃあセレナ急いで馬車の準備して。アリアとカイも行くよ?」
「え?私も行くんですか?」
「討伐隊の指揮者だからね、カイはフウカちゃんの護衛ね」
「さっさと終わらせましょう、正直に言ってお義父さんの紹介とかがあるともっとやり易いんですがあまり欲張りはよくないですからね」
「でも、大丈夫でしょうか?ミゼリアさん、ちょっと気難しい人だけど…」
「何か策があるんだと思うけど…」
実際、全く策など考えていないフウカはかなり自信ありげな顔をしていた。