エネシスでの一日 海竜決戦前
作者:「日常回楽しいな~」
グレイ覚醒の翌朝
グレイの姿は人型で街にあった。
アリアではなくカイを連れて。
「だいたい解った。海竜討伐の準備と街の防衛結界の作動のためにこんなに騒がしいのね。因みにその海龍って今どの辺りか解る?」
「昨日の話では25kmの所らしいけど」
「ふーん停滞してる訳ね」
「何かを待ってるのか、単なる気まぐれなのか」
「さあね?でも神具に惹かれてる可能性は無くはない。海龍なら格としては充分だからね、そして自ら出向くよりも相手が再び来るのを待った方が確実なのも事実だからね」
「神具ですか…でも今はグレイさんがその守護者ですよね?」
「ええ、でも神具も世代交代の時期なんでしょ?千年も経ったんだから当然よね?」
「守護者の座を狙ってってことですか…」
「だから暫くは交代しない事にするわ。新しい神具の担い手が決まったら、ヤケ糞になって襲って来かねないからね」
「でも、やっぱり神具の力があった方がやり易いんじゃないですか?」
「要らないわよ、高々海龍でしょ?鳥は魚を食べるのよ?超一流のグリフォンの私が居て、神具の使い手が居て、門があるのに、負けるわけないじゃない」
「門?」
「あ、門は内緒だっけ…忘れて?でないと忘れさせちゃうぞ?」
グレイの右手が獅子の前足のグローブみたいに変化する。
「…忘れます」
「まあ、絶対勝てるから大丈夫。フウカさんならあの龍ぐらい瞬殺だと思うから」
「ど、どうなんでしょうね」
「まあ、気にせずとも絶対に勝てる策は用意してあるからいいの。で、えーとなんで出掛けたんでしたっけ?」
「食料の買い出しですよ」
「そうでした、そうでした」
「忘れないで下さいよ」
「無理です、私はグリフォンだから鳥頭なので」
「はぁ…グレイさんは肉と魚どっちが好きですか?」
「どっちも好きですよ?」
「グレイさんってグリフォンの割りに雑食ですよね?」
「超一流ですから偏食などありません」
「苦手は無いんですか?」
「う…ありませんよ?」
「今、呻きませんでしたか?」
「いえ、ちょっと腹痛がしただけですのでお気になさらず」
「本当に苦手は無いんですね?」
「無いですよ?苦手はありません」
「じゃあ適当に買って帰りましょう。今日の晩御飯は炊き込みご飯にしようか…ポトフにしようか…」
「確かまだカッツォが残ってたし、それで鉄火丼とかにしない?」
「テッカドン?聞いたこと無いですね。魔物の一種ですか?」
「いや、なぜ今の会話から魔物に飛ぶ?」
「自分、冒険者なので」
「そっかなら仕方ないな」
で二人は適当に買い物して家に戻る。
カイはなとやらがどうのと言ってどこかへ行ってしまったし、アリアは急遽ギルドに呼ばれて居ないし、フウカさんは例の爆弾作製で部屋に籠りっぱなしだし…
「うーん、どうせだしロック鳥にでも顔見せてくるとするか…」
グレイはすっとフウカが籠る部屋に入る。
「グレイさん、今忙しいのであとにしてください…」
フウカさんは空間魔法で作った作業台に向かったまま言う。
実際に受けるのは初めてだが今まで側で見てきたからこういう対応をすることはよく知っていた。
そして、だからこそすんなりと壱なる門に入れると踏んでいた。
グレイは何も言わずにトランクの中に潜っていく。
流石にグリフォンだからドスンと落ちたりはしない。
例え落ちるしかなかったっとしても余裕な顔してゆったりと降りるのが一流のグリフォン
超一流のグリフォンたる私は更に上を行く。
そう人型でもホバリングするぐらいはして然るべきなのだ。
ということでフワッと優雅に底面に降り立った。
「ふう、ここに来るのは数日ぶりですか」
グレイは特に探すこともなく壱なる門んを拾い上げて開く。
「ふう、緊張しますね」
そして、魔法陣に一歩踏み込んだ。
魔法陣を越えるとそこはいつも通りの荒野だった。
いやちょっとだけ雑草が増えている。
「ふーん、体感するのは初めてだけどこんな感じなんだ…この世界の本質が見えてくる仕組みよね」
この"区分けされた世界"の本質がね
「でと、お目当てのお嬢さんはどこかしらね」
直後、空から轟音と突風が落ちてきた。
魔力の膜に包まれて
それは正確に私を狙っていたのか直撃だった、私がなにもしなければ。
だがそれは私に触れるより早く霧散して消え去った。
「私は超一流のグリフォンですよ?魔術無効化術式ぐらい使えて当たり前ですよ、図体の大きいだけの鳥ちゃん?」
グレイは上を見て言った。
そこには血相を変えたエルがホバリングしている。
グレイは霧散した魔力を再び集束させて、無数の刃羽を作り出して空へと飛ばす。
「お返ししますわ!!」
「それは親切にどうも!!」
エルは乱気流を作り出して刃羽の軌道を逸らす。
「逸らすだけかしら?そんなでは神具の守り手は務まらなくってよ?」
「いきなり来て何を言うかと思えば、魔物風情が偉そうに!」
エルの周囲で渦巻いていた乱気流が刃へと姿を変えて地面に降り注ぐ
「そんな物がこの私に通用するとでも?」
グレイの背に翼が現れる。
そこから放たれたカマイタチは正確にエルの放った風の刃を穿ち相殺する。
「こんな木偶にフウカさんは任せられませんね」
「あとからしゃしゃり出てきた奴に小娘の何が解るというのだ」
「解りますよ?あなたより年上で、あなたより早くそう初めから彼女を見てきた私にはあらゆることが解る」
「ふん、それがどうした。所詮貴様はどうしようもないストーカー小娘がどちらを選ぶかなど明白だ」
「ええ、その通りです。少なくともあなたを選ぶことがないのは確かですね」
「なぜそう言い切れる?」
「なぜなら、私は常にフウカさんの側に在り、彼女がこの世界に生まれた瞬間からずっと見守ってきたから。そう神具、あの杖の守護神だからですよ。あなたも気づいていたでしょう?フウカさん、そしてソウジ殿が次代の神具の所持者だと言うことを」
「だからなんだ、やつらが知覚しない事には神具はその意味を成さないと祖父から聞いている。我らは成長を促す事しかできぬはずだ」
「そうですね、それは間違っていない。しかし情報が不足していますね。神具の覚醒は彼女たち所持者に影響されないんですよ?なぜなら神具の覚醒はそれ即ち先代の契約獣の承認に等しいんですからね」
「なるほど、それでワシらが釣り合うかを調べに来たわけだな?」
「さあ、どうでしょうね?事例は無いが、先代の契約獣との契約を継承することも不可能ではない。私はフウカさんが望まれるのであればこの命を差し上げてもいいと思っていますので」
「なるほど、ワシは釣り合っていないという訳か」
「ええ、当然です。自称空の王者の生き残りならもう少しできると思ったのですがこの程度だったとは、正直ガッカリしましたよ?」
『おじさんをいじめるなーー!!』
突如として突風が吹き、グレイは何かに殴り飛ばされた。
そこには何も居ない。
『解除』
そこにスルッとリンが現れる。
「そこのデカ物よりは素質がありそうですね。ふむ、人化の練習中ですか?」
「え?」
「解りますよ?今、私を殴った拳は明らかに人の手のソレでした。ふむ、モデルがいないから上手くいかないんですね?よければ私がレッスンしてあげましょう」
「えっと、誰?」
「私はグレイ、あなたのお母さんの持つ杖の守り手にして超一流のグリフォンです。短い間だと思うけどよろしくね?リン」
「(なんかすごいいい人っぽいかな?)はい!」
エルは頭を抱えたそうだが、飛行中だからその仕草はできない。
「でも人化以外の事もお勉強して貰うわよ?超一流のグリフォンの私が教えるんだから最低限一流のロック鳥になって貰わなきゃね」
「よくわかんないけど…頑張ります!」
「じゃあ、とりあえず人化を覚えちゃいましょ?人化と光学迷彩と魔術無効化術式は一流の基本だからね」
「はい!」
「じゃあ、ほら行くよ?殿方が見てる前じゃ人化の練習なんてできませんからね」
グレイはエルを無視してリンを小屋の方に引っ張っていった。
そして小屋に入るなり間もなく
「なにこれ?こんなところに住んでるの?ダメよ、どうせあの木偶がやったんでしょうけど。品がないわね、まずはここから直しましょう」
「えっと、グレイさん人化の練習は?」
「そんなの後よ、まだ幼いとは言えレディーの寝室がこんなボロ小屋だなんて、神とそのお付きが赦しても私が赦さないわ」
「ええー」
「うん、なんとなくイメージついたわ」
◇◆◇◆◇◆◇◆
<エリアスのはずれ門を越えた先にある荒れ地にある一件の問題を抱えたお宅がありました。そのお宅が抱える問題とは…品がない家>
ジン:「これ大丈夫なのか」
レン:「さあね、怒られるかな?」
<ドアがなく、中はただ流木を削っただけの物が組み上げられており、天井は低く、窓もありません。キッチンはなく、トイレもない、まるでただの物置のような家でこんなでは人はおろか両親さえ呼べない。そんな雛鳥の願いを叶える為に一人の匠が押し掛けた。品がない小屋を品性に溢れ快適な生活を遅れる家に大変身させるリフォームが今、始まります>
リン:「願ってないんだけど?」
作者:「そうだね…」
レン:「もっと立派なお家が欲しいなら僕に言ってくれれば良いのに、鳥臭いな~トリッ〇〇ー?」
リン:「トリッ〇〇ーじゃないんですけど…」
作者:「リフォームの匠誰だろう、空間の魔術師?」
レン:「その人たぶん違うよ」
◇◆◇◆◇◆◇◆
グレイは手始めに壁を剥がす。
「なんという事でしょう…断熱材が入ってないわ…」
「あの、グレイさんのお家には断熱材が入ってるんですか?」
「ええ、勿論よ。冬暖かく、夏熱いお家よ」
「それ、ただ熱が籠ってるだけなんじゃ…」
「そうとも言うわね」
「どっちかって言ったら夏涼しくて冬寒い方がいいんですけど」
「でもね、着ぶくれはレディーの敵なのよ?だから、夏は熱くても冬は暖かい方がいいのよ」
「でも毛皮脱ぐわけにはいきませんし…暑さで死んじゃうかもしれませんよ?」
「大丈夫よ、あとで業者さんに頼んで外気温に左右されなくなるコーティングをして貰うから」
「業者さん居るんですか?」
「そりゃ居るわよ?頼めば何でもやってくれる蒼髪さんがね」
「へースゴいです。グレイさんはお友だちがいっぱい居るんですね」
「そっそうよ、一流だもの顔は広くなきゃね」
「顔が広い?顔は小さい方がいいって本に書いてあったんですが?」
「これは言葉の綾よ?小顔とはまた違う意味でね、顔が広いって言うのは有名って意味よ」
「そうなんですか?じゃあ、私は顔が狭いです」
「大丈夫、そのうちあなたも絶対に有名になるわ。私もそうだったもの」
「じゃあ、お母さんのお胸も大きくなりますか?」
「それはどうだろう…ね?でもリンちゃんのはきっとソフィアさんみたいになると思うわよ?」
「そしたらお母さんに嫌われないかな?」
「大丈夫よ、だってリンちゃんかわいいもん」
こうしてグレイのボロ小屋リフォームは限りなくスローペースで進んでいった。
▲▽▲▽▲▽▲▽
「ホントにもう猶予は無さそうだね」
ノアは執務室で羽ペンを片手にアリアと話していた。
「そうですねこの調子でいけば明後日には町まで来ると思われますね」
「だからね、手はず通りに討伐隊を編成することにした、もちろん緊急依頼だよ?でアリアにそこでギルドの代表として全体の指揮をとって欲しいんだ」
「私がですか?」
「そうだよ、普段ならカイにお願いする所なんだけど今回はアリアとフウカちゃんがいる。で、たぶんカイじゃフウカちゃんを制止できないんだよね。で、現状フウカちゃんを制御できるのはアリアぐらいなんだ。アリシアの姫も一緒に来てくれてたらこんな事はしないで済んだんだけどね」
「極力頑張りますが、約束はできませんからね?」
「大丈夫だよ、フウカちゃんの保護に力を惜しまなかったって言う事実が必要なだけだからさ」
ノアが言っているのはエネシスとアリシアの領主間の関係維持の為だろう。
それ以上に竜の事を考えるべきはずなのにな…
「?なんで竜に必死にならないのかって?」
「いえ、そんなことは」
「別に畏まらなくてもいいよ、だって竜の件は正直もう決着はついているような物だからさ。僕は魔術無効化術式の無効化用の魔法を用意した。どれ程の効果があるかはやってみない事にはわからないけど、でもまあアトラスをも消し飛ばしたフウカちゃんがどうやら本気で準備をしてるみたいだからどっちにしても竜に未来はないよ。それよりさ…」
ノアはそう言って執務机の引き出しから布切れを取り出す。
「この水着どう思う?やっぱり布面積小さすぎかな?でももっときわどくした方がいいのかな?」
どうやら、それらのこと以上に悩むのは水着の事らしい。
すごく気が抜ける。
こういう所がギルマスの良いところなんだろうな。
「うーん、このままで大丈夫だと思いますよ?」
アリアは特に考えなしにそう言った。
「そんな、無責任な~これでカイに嫌われたらアリアのせいだからね?減給するからね!」
そうしてエネシスの日常は過ぎていった、来るべき決戦に向けて。