杖は復元、爆弾作製
舶来市から帰ってきたフウカはアリアにその他のことを全て押し付けて、先日改良した部屋に籠っている。
何をしているのかと言うと買ってきた榴弾を魔法でバラバラにしていた。
「ふむ、こういう構造なのか~」
非常に原始的な作りで、60cm程の球体に火薬を詰めただけだ。
こんなんで暴発しないのだろうか?
どう見ても発射時の衝撃に耐えられそうには見えない。
筒が吹き飛ぶのが落ちだろう。
「まあでも、今回は筒に詰めなくてもいいし、問題ないか」
あとは起爆装置をどうするかだ。
導火線にするか、時限装置…は無理か。
できても出費がえらいことになる。
うーん、そうなると導火線だけじゃダメだから雷管を作る必要がある、正確には起爆剤が必要。
殻を二重にして、一枚目と二枚目の間に色々詰め込んで二枚の殻を貫く形で雷管を設置して中心部まで…導爆薬、点火薬、起爆薬には火薬草を使えば良いから、後は中心部まで導爆薬を引っ張る金属製の管をどうやって用意するか…
うーん、ディーダラスさんにお願いしてみようかな。
▲▽▲▽▲▽▲▽
「あ、出てきた」
第一声をあげたのはカイだ。
今日も私の補助ということで帰ってきて私が部屋に籠った直後からずっと部屋の前で歩哨をしてくれている。
「今度の作業は終わりそうですか?」
「まだまだ掛かりそうです。とりあえずパーツの作成をディーダラスさんにお願いしようと思います」
「親父なら今日も地下ですよ。どうも杖のやつで行き詰まってるみたいだし」
「そっちの進展もついでに聞いてきましょう」
「いや、そっちが本題でしょうに」
「まあ、目下重要な方はパーツの製作の方が重要ですから」
「まあ、とりあえず工房行きますか」
という事で工房に下りてきた。
カイを伴って。
事情を聞いたディーダラスは開口一番
「うーん、そりゃ難しい相談だな…」
「やっぱりですか」
「ドルクスならできたと思うが、あいにく俺は錬金術師。魔法剣こそ打てど、そういう鍛冶は専門外でな」
「そうですか、因みに杖の方はどうですか?」
「いろいろ試しては見てるが、どうしても魔力に歪みが残っちまうもんで」
「歪みを正せばいいので?」
「そうだな、それで一歩前進って所だ」
「なら、私がやってみましょう」
「おいおい、こいつはそんな簡単な代物じゃないぞ?」
「どうしても歪むなら、圧倒的な量の魔力の流れで正せばいいんですよ」
「おいおい…すげー気だな」
今の私ならたぶん前より上手くこの杖を扱える。
魔力の扱いを心得た今なら。
私は台の上に置かれている杖を手に取る。
「久しぶりの感覚です」
杖の石突きからゆっくりと魔力を流し始める。
一筋の魔力の小川は次第に太くなり大河へと変貌する。
杖に魔力が滞留して結晶化するより早く魔力を押し流す。
可視状態になるまで圧縮された魔力は床すれすれに漂う。
私は無尽蔵に魔力を流す。
もちろん魔力は生命エネルギーに直結しているから、次第に疲れが出てくるし、息も上がってくる、更に進めば意識を失い、最悪命を落とす。
そして私は人より多くの魔力を体内に持っているだけで無尽蔵に魔力があるわけではない。
出しながら床に漂う魔力を吸い上げているのだ。
魔力を強制的に摂取することは、酷い苦痛を伴い、その操作には並外れた精神力を要する。
そうして、魔力の循環を続けていると次第に魔力の流れの滞りが減ってくる。
同時に私の体力もどんどん消耗していく。
「ふーっふーっくっ、またこんな無茶をすることになるとは思いませんでしたよ」
「顔が青いけど大丈夫ですか?」
「ふふ、ちょっと無茶してるだけなので気にしないでください」
「だが、限りなく歪みが減ってきている」
「ふー…そうですか、ならもうすぐですねっ…」
「俺、窓開けてきますね」
あと少し、感覚的にもあと一ヶ所歪みを正せば完成の気がする。
しかし感覚だけで真っ直ぐに整然と大量の魔力を流すのは非常に難しい。
私も、私の中の何かが手伝ってくれてるからなんとかできてる気がする。
「ふうっ一段落です…後はお願いします…」
「窓開けて来た、換気扇回して」
「なあ、なんか光ってないか?」
「魔力的な物ではないんですか?」
「そうなんだが、ちょっと変な反応だからな」
「あ、いい忘れる所でした。さっきの管とか半球とかのパーツのことですが、フウカさんの魔法でやったらいいのでは?」
「爆弾ですから、壊れないとダメなんです」
「そうではなく、インゴットとかから魔法で切り抜いたらいいのでは?」
「魔法で切り抜くですか?」
「管とかなら円柱状に切り出して、真ん中に穴を開ければいいのでは?」
「なるほど…それならどうにかなりそうです」
「これで、二つとも解決ですね」
「伏せろ!!」
ディーダラスの怒号が響いた直後、強烈な衝撃波が部屋を襲い、部屋の棚と言う棚が倒れて、物と言う物全てが床に落ちた。
落ちたものはインゴットや本などに限らず、ナイフ、矢、剣、試験管etc.
と落ちたらマズイ物も多数あった。
「ふー、無事か?」
「私は大丈夫です…」
「イッタ、本固っ!頭の形が変わるかと思った…」
「なっ…ゆっくり下がれ…」
杖は台の上に浮かんで居て、その上には鷲の頭に黒い獅子の体を持つ2mいや3mの大きさの魔物がいた。
「ぐっグリフォン…なんで」
天井に穴は空いて居らずどこから入り込んだのかは解らない。
「えーっと、はじめまして?」
「ちょ、フウカさん何してるんですか?」
「いや、もしかしたら言葉が通じるかもなって」
グリフォンは台の上に降り立つ。
「あーあーいー、こちらこそはじめまして。本当ならもっと早くご挨拶をするつもりだったんですが、少しアクシデントもあったようで挨拶が遅れましたね」
グリフォンが流暢に喋り始めた。
「この神具の守護神獣のグリフォンのグレイと申します。以後お見知りおきを、新たな所持者のフウカさん?」
「あ、因みに何時から見てたんですか?」
「そうですね、アトラスを消し飛ばした辺りですね。もっと早く認めて挨拶に出ていれば、ロック鳥の件の時に神具を壊すこともなかったのでしょうが…」
「うーん、これは杖が直ったと捉えていいですか?」
「そちらの錬金術師の方のお陰で元の性能は取り戻しました。むしろ私が覚醒したことでより性能は向上したでしょう」
「レンの差し金では無さそうですね」
「うふふ、当たり前でしょう?あんなのの言いなりになるわけがありません」
「気が合いそうですね」
「奇遇ですね、私もそんな気がしました」
「えーっとグレイさんはつまりどこから入ってきたんですか?」
「カイと言ったか?私は杖から出てきたんです、どこから入ったかを強いて言うならば裏口からですね」
「なるほど、グレイさんは暫くは居るのか?」
「うーん、まあフウカさんが居る限りはですね」
「なら、急いでお夕飯の買い出しに行かなきゃですね。カイさん、行きますよ?」
「はい、じゃあ行きましょうか」
「な、まさか俺だけここに残してくつもりか?」
「杖弄るなら、そこに住んでるグレイさんと話ながらやった方が捗ると思いますよ?」
「うむ、私が手伝おう。海竜狩りとやらに間に合わせようぞ」
「お願いしますね?」
「任せてください」
ディーダラスに代わってグレイが返事をしてくれた。
私はカイさんを引っ張って地上に出た。
で、夕暮れで慌ただしい町に食材調達に来た。
「今の時間帯だとどこで買うのが良いでしょうか?」
「今日は肉か魚かどっちにします?」
「グリフォンが居ますし、肉ですね」
「なら、行き付けの肉屋で買いましょう」
「じゃあ、急ぎましょう」
私たちは夕暮れの町を急ぎ歩いた。
で、あっという間に日は暮れて月が登る。
私たちは庭に食卓を持ち出し、カイさんは『できる独身冒険者の力を見せてやる!』と言って台所に入って行き腕を振るっている。
ディーダラスとグレイは地下に籠って杖を弄り回している。
で、ただ一人今回の事を知らないアリアは特に何を言うわけでもなく、フウカの手伝いをしてカイの手伝いをしてと忙しく動いていた。
「でもグリフォンですか…よく意思疏通がとれましたね」
「かなり流暢な話でしたよ」
「てことはフウカさんの杖はホントに神具だったんですか?」
「みたいですね。全然、実感湧きませんけどね」
「これってギルドには報告しない方がいいことですよね?」
「まあ、神具がどんな物なのか私にはハッキリとは解らないのであれが神具だったと断言はしませんよ?」
「まあ、それなら上には報告できませんね」
「そういうことです」
「次はなんでしたっけ?」
「えーっと、テーブルの準備ですね」
「じゃあ、ちゃちゃっとやってしまいましょう。でグリフォンさんとお話します」
「きっとアリアさんとも気が合いますよ」
「楽しみです」
アリアと私はテキパキと作業をこなしていく。
そしてあっという間に準備を終えて、地下の一人と一匹を呼び戻してきた。
「お疲れ様、杖の方はどうでしたか?」
「まあまあ、順調に進んでいるな。悔しいがグレイの指示は適切だった。お陰で俺一人だったら数週間かかる作業が数時間で終わった」
「グレイさんは?」
「ああ、あそこだな」
ディーダラスの指差す先には寄り添い、愛でて愛でられる一人と一匹が
『わー、モフモフです、サラサラです、グリフォンさんです』
『私はグリフォンの中でも超一流ですから毛並みにも気を使ってるんですよ』
『可愛いです!』
『もっと褒めて愛でても良いのですよ?』
『もっと褒めます、ナデナデします!』
「アリアさん、動物好きなんですね」
「まあ、アリシアのギルドに行ったのも内陸部の動物見たさもあったらしいからな」
「微笑ましい光景ですね」
「俺もそう思う。こんな親父だから心配したが、この容姿ならいい人も見つかるだろ」
「アリアさんなら大丈夫ですよ。一人でも十二分にやってけます」
『はいはい、夕飯が出来ましたよー』
カイさんが出てきた。
「むしろ心配すべきはあっちでは?」
「うむ、そうかもな」
なんかディーダラスさんがエルに似てる気がする…
「どうかしたんですか?」
「いや、母さんはお前らを上手く産んだんだなってさ」
「急にどうしたんだよ?」
「うん、やっぱり心配になってきた…」
「ですよね」
「フウカさんまで、俺なんかしましたか?」
「いえ何も?」
「というかむしろなんも無さすぎてな…」
「まあ、とりあえず並べるから」
「アリアさん、グレイさん、夕飯の準備が出来ましたよ」
『はい、今行きます。グレイさんも行きますよ』
『あ、私の分も有るんですか?』
「もちろんです、フウカさんとグレイさんはお客さんですからね」
「ならそれなりの格好をするべきですね」
グレイは立ち上がり、直立二足で立ち前足で砂埃を払う。
スゥっと骨格が変質、収縮して人型に変化する。
毛皮は衣服へと変化して、完全に人と違わぬ形になる。
栗毛を肩で切り揃えて、黒いワンピースを身に纏った女性がそこにいた。
「まあ、こんなところでしょうか」
「変身した…」
「グリフォンの稀少種か上位種か…」
「いや、もはや神に近いのかもしれないな…なにせ神具に入ってたし」
「モフモフグレイさんが…」
アリアさんだけなんか違うな…
「そう驚くことでも無いでしょう。擬態能力を持つ魔物は大勢居ますし、変身する魔法もありますし、人間の中にはころころ姿を変える者も居るではないですか?」
「まあ、確かに居ますけど…(ソウジ君とか…)」
「こうした方が都合が良いと思いませんか?」
「そうですね、じゃあ明日からの食事も人型で大丈夫ですね?」
「ええ、私はグリフォンの中でも超一流ですからね」
「因みに元には…」
アリアさんは不安げな声で尋ねる
「戻れますよ?戻れないと不便ですからね」
「良かった…」
そして安堵の息をついた。
「まあ、とりあえず夕飯にしませんか?刺客作った料理が冷めるので」
「そうですね、いただきます」
私は手を合わせる
「いただきます」
グレイは手を合わせない
「そう言えばそれって意味があるんですか?」
「食材と関わった人物全てに感謝するって言う意味があります」
「手を合わせるのは?」
「合掌と言いまして、死者への哀悼の意を表する時にしますね。この場合は食材でしょうか。なんか習慣なのか体が覚えててついやっちゃうんですよね」
「そう言えば、昔フウカさんは記憶がないと聞きましたね。違和感が無さすぎて忘れてましたよ」
グレイが言った。
グレイが?
「え?誰から聞いたんですか?」
「ソウジ殿からですよ」
「へ?いつ頃ですか?」
「もう何百年もそろそろ千年ぐらい経ったのかな…途方もなく昔ですね。少なくとも人の時よりは遠い昔です」
「わざわざそんな昔まで行って何してるんでしょうか」
「私の口からは言えません。それより今は食べましょう」
私達は改めて晩餐を始めた。