俺とあやつと二匹の竜
作者:「ギリギリ間に合ったー」
レン:「作者もいつも通りに戻ったね」
作者:「でも、今回ちょっと短いですが許して下さい」
レン:「その台詞久々だね」
橋を渡りきるとそこにはポツンと祭壇があるだけだった。
「特に何もないわね」
「じゃあ私達は予定通り祭壇を調べますね」
「お願いしますね、俺はアレの相手をする」
『そう、アヤツだ。アレが汝の相棒になるはずの者だ』
「ふーん、まあ先ずは話しかけてみるか。こんにちわ~」
『ふん?人間にも面白いヤツが居たもんだな、大概は我を見れば無差別に襲い来るのだが』
地底湖から声が響く
「俺はあんたの事情を知らないけど、未来は知っている。あんたは俺と組む、仲良くしよう」
『汝、そんなこと言って大丈夫か?』
「問題ない」
『ふむ、竜の気配を帯びた者ソウジよ。主の持つ刀は何だ?』
「ただの棒切れだ、どれだけ神具だの神器だのと呼ばれてもその性能も効果も使い手次第だ。きっとこれは昔使ってたヤツが凄かったんだろうな…」
『いや、神器ってそう言う意味じゃないって言った筈なんだが…だが、確かに私の主は完璧ではなかったが英雄だった』
地底湖の水面から竜の首が出てくる。
『ふむ、一理あるな…しかし、確りと事実を見据えると言う点ではどうだろうな?それは誰がなんと言おうと神具なのだ、誰が持ち振るったとしても神具だ。それは絶対的な事実だ』
「なあ、俺と契約して神具の守り手に、神にならないか?」
『ふむ、ならばお主が我に勝ることを証明して見せよ。我は弱い者の仕える気は毛頭ないのでな』
「なら、始めるか…天雨丸力を貸せ」
『良いだろう、きっとコレが最後の戦だ。私は惜しみなく汝に力を貸そう』
刀が再び蒼い光を灯し、背に緑色の翼が現れる。
水面から新たに八つの頭が出てくる。
頭は既に口の中に濃密な魔力を溜め込んでおり、どう見てもブレス攻撃三秒前だ。
「ふっ、楽し」
蒼次は龍改め九頭竜に向かって飛び出した。
下がれば殺られる、右も左もダメだ、なら相手の懐まで突っ走るしかない!
それは長い歳月をかけて積み重なってきたゲーマーとして経験からの判断だ。
案の定ついさっきまで俺が居たところを高水圧が抉り取っていた。
水流カッターの様な水のブレスは湖面を叩き、岩盤を切り裂く。
「それでこそだな!」
『抜かしよるな人間!』
今度は俺の番だ
「首の一本二本ぐらい許せよ?」
一閃、蒼い剣閃は九頭竜のヒレに防がれて掻き消える。
『魔法は効かぬ』
「ふん?なら力業で切り伏せるまで!!」
と言いながらも咄嗟に峰に反して叩いた。
硬質な音が響く
流石に神具だからこの程度では壊れないが、腕には十分響く。
弾くと腕が痺れるから今度は刃で切りつける。
サクッ
硬質な鱗に確りと刃が沈み込む。
しかしそこまでだった。
鱗を破ったもののしたの筋肉までは切り裂けなかったのだ。
察した俺は無理矢理刀を引き抜く。
「なるほど、バイコーンと一緒か」
『ふん、そんな下等生物と一緒にされたらたまらんな!』
俺は不可視の衝撃によって叩き落とされる。
池ポチャ寸前の所で翼が持ち直してくれた。
『それでこそだな、だがこれでどうだ!』
九頭竜を中心に水面が大きく波打ち、高波となって押し寄せる。
「水中戦だとなんだって言うんだ?」
『水の中が我のホームグラウンドなんでな』
「ふーん、そうなのか~(まあ水に浸かってる時点でお前に勝ちはあり得ないんだけどさ…)」
俺は波を乗り越えて再び九頭竜に迫る
今度の狙いは胴だ、内臓を引きずり出せば流石にコイツも死ぬだろ
『おいおい、殺してどうするよ…』
天雨丸の呆れた声が聞こえたが、ここまで加速した状態でいきなり止まれるほど俺は器用じゃない。
「終わらせてやる!」
『そうはいくか!』
九頭竜の胴に刀が触れるが、その鱗に傷をつけることすらできなかった。
『局部強化の術だ、主に破れるかの?』
「この、手数で削る!」
俺は少し加速しつつあらゆる方向から切りつける。
しかし、それも全て防がれて決定打にはならなかった。
『我を甘く見ない方がいい、お主如きに殺されるほど柔ではない』
「ふーん、じゃあ手加減はしなくて言い訳だ…なら本気でいかせてもらう!」
俺はズルをすることにした。
まあ、既に加速使ってるしもう良いだろ?
俺は水晶球にそっと触れて水面を撫でる。
体内からゴッソリ魔力が消滅して、水面は硬質な物に変化する。
『んなっ水が全て凍っただと…』
「ふ、違うな止まっただけだ。これでお前は檻の中の虎、いや袋の鼠だ。その首を切り落とすも、その首を残すも俺次第って訳だ」
九頭竜は水流カッターブレスで水面を攻撃するも、時間の停止した水面はその程度ではびくともしない。
『グヌヌ、なぜ割れん!』
「だから言っただろ?止まっただけだと。時が止まっているんだ、割れるという事象はまだ起こらない」
『お主現人神か?』
「いいや?タダのゲーマーだ」
刀は九頭竜の喉元の鱗の隙間に突き立てられている。
竜の逆鱗というやつだ。
『解った命は惜しい、敗けを認めよう』
俺は刀を下ろした。
「天雨丸、このあとどうすりゃいいんだ?」
『うむ、ここからは私の役目だな。では始めるとするか』
天雨丸は独りでに俺の手から逃れて、宙を漂う。
『この剣を統べる者よ、汝は生涯この剣を持ち、守護し、この世にその力を示し続ける事を誓うか?』
「誓います」
『この剣に新たに封ぜられ守護神たるモノよ、汝は永劫の時をこの剣と共に過ごす事となる。その覚悟はあるか?』
『ふん、覚悟などない。だがここで退けば命もない。我は命が惜しい、そして約束を違えない。故に"応"と答えよう』
『汝らの応えはしかと受け取った。私も汝らに応えよう』
その言葉の後に刀が青い光を発して二振りの光の刀に分裂した。
『では新たなる剣の所持者と守護神の間に血の契りを』
「は?血の契りってマフィア的なのの血判的なのか?」
『刀を胸に刺せ』
「それって死ねって事じゃ…」
『問題ない、運が悪くない限りわな』
「ちっ、仕方ねぇな!」
やれ、一思いに…どうせポーションで治せる。
でも、痛そうだな…
俺は光の刀を掴み取り自分の胸に突き立てる。
「天雨丸、死んだらお前のせいだからな?」
『そしたら責任取って汝をあやつの元まで連れていってやるさ』
「ふぅ、せいっ」
しかし俺の予想に反して光の刀はなんの痛みもないままに俺の胸に沈んだ。
しかしそれも束の間。
体の奥底が酷く痛む。
どこが痛いんだ?
その痛みは貫かれた内臓から来るものではなかった。
あぁ、この感覚は…この感覚を俺は…知っている?
それはまるで魂魄を裂かれるようだった。
光の刀の内を赤い液体が満たしていく。
そして赤い液体から黒い物だけが残される。
九頭竜もまた、首元に刀を突き刺している。
が血は一滴も流れていない。
代わりに刀が赤黒く染まっていっていた。
『これは我の魂に干渉しとるのか…』
『汝らが血は混じり合い、汝らが運命は絡み合う、汝らはこれより共に刃で繋がれた者なり。これにて神の創りし剣の力は解放される、汝らの赴くままに振るうがいい』
俺と九頭竜に突き刺さっていた刀はいつの間にか元の位置に戻っていた。
それらは空中で円を描いて重なり、質素な作りの支給品の刀はその様相を神具に相応しい物へと変えていく。
刀身には首が九つある竜の彫刻が施されて、鍔にも緻密な装飾が施される。
金色だった鍔と柄頭は銀色に変色し、深い青の鞘が充てがわれて元とは似ても似つかない様相となった。
そして間もなく、九頭竜から光の粒が溢れ出す。
『最後に汝の新たな相棒となった新しき竜に名を与えよ』
「名?」
『新たな従魔に名を与えるのは当然だろ?』
「それもそうか…これからよろしくな、涼」
『名には拘らん。好きに呼ぶがいい、我もお主を好きに呼ぶ』
「それでいい」
九頭竜もとい涼は光となって霧散して、全て刀に吸い込まれる。
『これで私の役目も終わった。千年はやはり長かったな…』
「役目を終えたのか、じゃあここでお別れだな」
『ああ、短い間だったが世話になった。汝の従魔となったあやつは幸せだろうな、私も幸せだった。だから汝も光栄に思うといい、短い間とはいえ私の主となれたことを』
「ああ、世話になったな。俺にとっては次に会うのは千年前だが、お前にとってはもうないだろうな。向こうでも達者でな」
『ああ、先に逝って待ってる。ゆっくり来るといい』
「そうだな、追い付くのは当分先になるだろうな」
『さて、そろそろ時間のようだな。さらばだ、私の二人目のマスターよ…』
刀から青い光の粒が漏れて、洞窟の闇に消えていった。
「涼、居るか?」
『ああ、結構快適だ』
「出れそうか?」
『…うむ、お主が許可するなら可能だ』
「ここに残ってもいいぞ?」
『うーむ、正直長いこと地底湖に押し込められててお天道様が恋しいからのこのままここで伸び伸びするつもりだ』
「じゃあ、サクッと祭壇から取るもの取って撤収だな」
一方、祭壇を調べていた人たちはというと
「にしても凄くシンプルな祭壇ですね。右が遺跡のダンジョンのコアで左が洞窟のダンジョンのコアです」
簡素な祭壇には透明な結晶で形作られた球体と古ぼけた本が祀られている。
「でも、珍しいわね。二つのダンジョンがくっついてるなんてさ」
「まあ、この辺はダンジョンの密集地域ですからね。これだけあれば2、3個くっつくぐらいならあるでしょう」
「でも、不思議じゃない?広がり続ける過程で衝突したならコアの位置は別れると思うのよね」
「確かにそうですね」
「まるで最初からくっついて出来上がる様に誰かが手を入れたかのようね」
「あっちも終わったみたいですよ!」
「じゃあ、コアを貰って帰りましょ?」
「そうですね」
エレナは球体状のコアとコアとなった古書をそれぞれ本の中に収納する。
直後にズーンという重く鈍い音が鳴り、照明の役割を果たしていた石から輝きが失われ、全体的に洞窟が小さくなったように感じられた。
ケイトは慣れた手つきで光魔法の灯りを用意して、その灯りでポーチから出したランタンに火をつける。
「その本便利よね」
「これも古代遺産ですので、かなり稀少ですし誰にでも使える物ではないので不便ですよ?」
「その技術、再現できないかしら?」
「難航してるって聞きますが、瞬撃の隼ならできるかもしれませんね」
「うーん、フウカに頼んでみようかな」
「ほらレリック、ソウジ君呼んできて?撤収しますよ」
「了解、火借ります」
レリックは松明に火をつけて、歩いて行った。
「さてと、ここからはホントにお日様とはお別れです」
「そうね、でもダンジョンは死んだから帰りは行きほど大変でもないでしょ?」
「そうですね、雪原も森も小さくなっているでしょうから行きよりも相当速く進めると思います」
「そうなら良いけどね」
『はい、ただいま戻りました、すぐ撤退しましょう!お天道様が恋しいです!すぐ行きましょう!』
ソウジ君は一人で竜を相手にした割りに元気そうだ。
レリックは呆れ顔で松明を持っている。
エレナは苦笑しながら、頷いている。
「ふふ、ダンジョンを攻略しても変わらないわね」
ケイトもまた荷物を持って三人に駆け寄るのだった。